象徴と象徴体系 [序:神智学とは]

神秘主義思想は「象徴」による表現を重視すると同時に、「実践的」に使用します。

それは、神秘主義思想が表現しようとするものが象徴的にしか表現できないからです。
そして、神秘主義が重視する深層の意識は「象徴」によって表現するからです。

「象徴」は普通、「連想によって他の何かを暗示する代理物」と考えられています。
単に記号や比喩ではなく「象徴」と呼ばれるのは、それが言葉で示しやすい特定の概念やイメージ、外界の事物などを指し示すのでないからです。
「象徴」は非常に抽象的で未知の何ものか、あるいは言葉にできない力のようなものを指し示します。

特に神秘主義においては、「象徴」は直感的な体験、つまり、一定の形を持たない「運動性」として感じるような感性的な「直接体験」を起こさせることで、「象徴されるもの」を指し示します。

「象徴」によって引き起こされたこの直接体験は、「働き」始めます。

「象徴」は抽象的な「類似性」を元に、異なる領域の要素を結びつけます。
その直接体験は、同じ類似性をもった様々な概念、イメージなどを次々連想的に関連づけます。
そして、象徴のネットワークを作り変えつつ、個々の「象徴するもの」を変容させます。

また、「象徴」は人間の特定の能力と結びついていて、「象徴されるもの」の直接体験は、その能力を伸ばします。
それによって、人格そのものを変容させます。
特に、重要な「象徴」は、人格や意識の構造や構造の変化と結びついていて、「象徴されるもの」の直接体験は、人格の変化を直接的に促します。

神秘主義では、「象徴されるもの」は抽象的にしか表現されない「神的な本質」です。
例えば、神の固有の持ち物は神を象徴しますが、その神自体(神格・神像)は「神的な本質」を象徴します。
 

神秘主義思想自身の考え方では、「象徴」は単に人間の心の連想の問題ではなくて、宇宙論的な根拠を持つものです。
つまり、宇宙創造の過程で、「象徴されるもの」が「象徴するもの」を、自分を限定する形で生み出したと考えるのです。
ですから、高きもの(深層のもの)と低きもの(表層のもの)は、「象徴」を通して作用し合います。
そして、ミクロコスモスとしての意識と、マクロコスモスとしての宇宙も、「象徴」を通して作用し合います。

ですから、「象徴」は恣意的にではなく、正しく認識されないといけないのです。
「象徴」を足掛かりにして象徴される運動性を直接体験することは、宇宙創造の過程をさかのぼることになります。

神秘主義思想は宇宙の構造を「象徴体系」という形で示すことが多くあります。
「神話」のように象徴を神格化して時系列的に表現したりするのではなく、象徴間の直接的な関係性のみで示すのです。
宇宙と意識の根源を抽象的な力の相互作用と捉えているので、様々な象徴の関係としてしか表せないからです。

「象徴体系」の各「象徴」は抽象的な言葉や記号で表現されます。
各「象徴」は「神的な本質」であり、「象徴されるもの」です。
神々を含めて、各「象徴」に配当される様々なものは、「象徴するもの」です。

「象徴体系」は普遍性の高いので、何にでも応用できるものになりました。 
パンテオン、マンダラ、易経などの占いの体系も「象徴体系」です。
神の系図に親子関係と兄弟関係があるように、「象徴体系」には通常、上下の階層と水平の関係があります。
「象徴体系」は概念でなく「象徴」を使って、宇宙と心身を一元的に理解する自然科学だとも言えます。

ですから、「象徴体系」は時間や空間の構造、つまり暦や方位を現わすためにも使われます。
西洋の7惑星や12宮、中国の12支などはよく知られています。 

また、「象徴されるもの」と「象徴するもの」が作用し合うと考えるので、占いにも使われます。
教義を分類・対応付けして記憶術として利用することもできます。

修行においても、「象徴体系」は重要な意味を持ちます。
「象徴」を順に体系的に心の深層で体験していくことで、人格の全体性を実現し、順に高い世界に導かれていくのです。

神秘主義思想では「象徴」は体系性のもとで機能させられているので、複数のイメージの連鎖や直接体験が互いに関連づけられて、複雑で統合された心の回路を形作ります。
この訓練づけによって「象徴」の形式化された「操作キー」としての機能が生まれます。

つまり、体系化された「象徴」を通して、心の深層の動的な運動性と心の表層的な言葉やイメージの関係を正確に操作する鍵となるのです。
深層のものを表層のものによって呼び起こしたり、表層のものに深層の力を導いて変容させたりすることができるのです。
あるいは、深層のメッセージを表層で読み取ったり、表層を変えることで深層も変えることができます。
「象徴」の魔術的使用です。

 


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