プラトンの宇宙論 [古代ギリシャ]

プラトンの著作の中でオリエント、西洋世界で最も影響力を持った書は、宇宙論・自然史をテーマにした「ティマイオス」です。
この書はプラトン晩年の作品で、ギリシャの古代史をテーマにした「クリティアス」、当時の現代史をテーマにした「ヘルモクラテス」と3部作として構想されました。
ですが、この構想は「クリティアス」の途中で未完に終わりました。

「ティマイオス」では「デミウルゴス」と呼ばれる創造神が、「原型」であるイデア界をモデルにその「模像」である宇宙を作ったと神話風に語られます。
これはゾロアスター教で、アフラ・マズダが世界をまず目に見えない世界で作ってから次に目に見える世界で作ったとする神話を思わせます。
また、ズルワン主義で宇宙を作ったのが至高神ズルワンでなくミスラであることを思わせます。
そして、「ティマイオス」では宇宙は一つの動物、あるいは神の一人子であって、知覚できる神であると形容されます。

イデア界は不変な「存在」するものであって、だからこそ「知性」によって認識できるもので、また知性そのものの世界でもあるのです。
一方、宇宙はイデア界を原因として「生成」し消滅するものと考えられます。
イデア界には時間はなく、「時間を越えた永遠」の世界です。
これに対して、宇宙には時間が存在し、宇宙自身は無限大の「永遠の時間」に渡って存続する存在です。
この「永遠の時間」は「時間を越えた永遠」の模像なのです。

また、興味深いことに、「ティマイオス」ではこのイデア=「存在」と宇宙=「生成」に対する第3の説明し難いものが語られます。
これは「場所(コーラ)」です。
イデア=「原型」=「父」、宇宙=「模像」=「子」であるのに対して、この「場所」はすべてを受け入れる「受容器」=「乳母」だとも表現されます。
つまり、「場所」は一切の形・性質を欠いているので、それ自体を知覚することはできないけれど、イデアを受け入れることで宇宙を生むような根源的な素材のような存在なのです。
デミウルゴスはこの素材を用いて宇宙を作ったのです。

ですが、「場所」という言葉が示すように、プラトンは根源的な素材性を空間性と結び付けて考えたのです。
プラトンは「場所」に対しては語りえないものとして、詳しく語りませんでした。
ですが、後にアリストテレスはこれから空間性を取り去って、「第一質料」としてすっきりと哲学化しました。

「場所」は素材的なものという点で、「不定の二」と似ています。
実際、アリストテレスはこの2つを同一視しています。
ですが、「不定の二」が「イデアの母」なのに対して、「場所」は「物質世界の母」なのでこの2つは別のものです。
「不定の二」はイデア界の素材、「場所」は物質界の素材と、「素材」に階層性があると考えることができるように思います。
また、「場所」には「空間性」があるのに対して、「不定の二」には「数量性・差異性」のみがあるのです。

宇宙の創造は次のように語られます。
デミウルゴスは、宇宙の「体」を4大元素(火、風、水、地)を数学的に組み合わせて作り、宇宙の「魂」を「存在」、「同一性」、「差異性」といった論理的な法則を数学的に組み合わせて作ります。
「魂」はイデア界と感覚界、霊的知性と体の間で両者を合わせ持つ媒介的存在なのです。
ですから、プラトンは宇宙を「イデア界(霊的知性)/魂/感覚界(自然・体)」と3層的に考えるわけです。

次に、デミウルゴスは「惑星」、「恒星」、「神々」といったデーモン達を作ります。
そして、人間の魂の不死の部分を星々と同じ数だけ星々に対応させて作ります。
ですが、人間の他の部分やや動物の創造は下位の神々にまかせてしまいました。
また、動物は悪しき人間が転生する存在として語られます。

天体は知性を反映した運動を行う完全な存在です。
これに対して、地上の生物は不完全な存在です。
ですが、知性の導きによって成長します。
ですから、人間は天体の調和を認識して向上を目指すべきなのです。

プラトンは人間の霊魂については、不死の神的(霊的知性的)な部分、気概的(魂的)な部分、情念的・欲求的(体的)な部分があるとして3層的に捉えました。
つまり、イデア界と感覚界の間の媒介的存在である魂には、イデア界と結びついた部分と魂自体の部分感覚界と結びついた部分があるのです。
そして、神的な部分は頭部に、気概的な部分は胸部に、情念的な部分はヘソの上にあると考えました。
そして、この神的な部分が守護霊ダイモンです。
これはゾロアスター教のフラワシを思わせます。

プラトンは人間を天に根を持つ植物に例え、このダイモンが人間を天上の同族のところに引き上げるとしました。
また、情念的な部分に神は特別な臓器である肝臓を作ったと語られます。
肝臓はプロメテウスが毎日、鷹に喰われ、夜に再生する臓器です。
プラトンはこの肝臓が予言の場所であるとしました。
肝臓は理性が弱る夜などに、神の世界の映像を映します。
ですが、それを正しく解釈するのは知性の仕事なのです。


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