アリストテレス神学 [古代ギリシャ]

アリストテレスはギリシャ北部出身のイオニア人でした。
彼はプラトンの弟子であると同時に、プラトンの哲学を批判した哲学者です。
一般に、彼は厳密な学問的方法や論理学を生み出し、神秘主義を否定した現実主義的な人物だと考えられています。
ですが、その論理主義的な性質の下に、神秘主義的な性格が隠れているのを見つけることができます。

アリストテレスは個物に内在する普遍、つまり形や性質などの個物の本質を実在的なものとして重視しましたが、個物を離れた普遍、つまり抽象的な存在としてのイデアの実在性を否定しました。
これは、プラトン哲学の否定です。
アリストテレスはプラトンとは反対に、個物に内在する最低種概念のみが実在的で、それ以上に抽象性の高い普遍は実在的ではないのです。

ですが、神秘主義を否定したわけではありません。個に対する普遍という形で世界の階層性を考えて、最終的に至高存在を求めることを否定しただけです。
彼はまったく別の側面から、至高存在を解釈しようとしました。

アリストテレスは至高存在を「素材のない純粋な形・性質(純粋形相)」、「形・性質が完全に実現された存在(完全現実態)」として捉えました。
彼にとって世界の階層性は、形・性質がどれだけ実現されているか、それとも素材のままで形・性質が可能性のままにとどまっているか、という度合なのです。
至高存在は、あらゆる形・性質がすべて実現されて同時に含んでいる状態です。

プラトンにとっては抽象性の高い普遍概念が、意味の点では内容が少ないのにもかかわらず階層性が高いのと逆に、アリストテレスにとっては形・性質が実現されて内容が豊富なものが、階層性が高いのです。
そして、至高存在はあらゆる存在が目指す目標なのです。

すると、具体的な存在には、形・性質の実現性の度合に応じた階層性があることになります。
最も低い存在は、「第一質料」と呼ばれる形・性質を一切持たない無限定な素材です。
次に、4大元素、無生物(鉱物)、「栄養魂」を持つ植物、「感覚魂」を持つ動物、そして「理性霊魂」を持つ人間、完全な調和を持つ天体、そして最後に至高存在に至るのです。

天にも階層性があって、それぞれに知性的存在(霊的・直観存在)が存在します。
そして、至高存在である純粋形相は、一切の素材性を持っていないのです。
ただ、アリストテレスは生物や魂をもっと細かくも分類しています。
彼の自然学的かつ霊的な階層性は、ゾロアスター教の神話やズルワン主義の階層性と似たものですが、後世に大きな影響を与えました。

また、天体は「アイテール」と呼ばれる微細な第5の元素を素材としています。
(ちなみにプラトンはアイテールを「空気」の一種と考えていました。)
この「アイテール」は月下の世界にも低いレベルでは存在して、様々な生命的な活動に関係していると考えました。

アリストテレスは至高存在を「動かず動かすもの(不可動の動者)」としても捉えました。
プラトンのイデアは不変なものなので、世界が運動することをうまく説明できなかったのに対して、アリステレスの至高存在は自らは動かずに他のあらゆる存在を動かす原因なのです。

このように、アリストテレスは自然全体を問題としました。
彼はプラトンの弟子でありながら、ミレトス、エレアの自然形而上学的発想を持ってたのです。
アリストテレスはプラトンの矛盾を解決したように見えますが、彼が至高存在を定義した「素材性を持たず、あらゆる形・性質が実現された存在」や、第一質料を定義した「形・性質を一切持たない無限定な素材」をほんとうに考えることは難しいと思います。

アリストテレスが至高存在を上に書いたように表現したことは、論理的、哲学的な問題ですが、実践の問題として、彼は究極的な認識のあり方として「観照(直観、テオリア)」を考えました。
これは、「一切をなす知性(能動的知性)」とも表現されました。
これは至高存在の直観的な霊的知性で、あらゆる形・性質が実現状態こにある知性です。

これに対して通常の人間的な知性は「一切になる知性(受動的知性)」と呼ばれました。
これは意識に何もない状態から様々な形・性質が一時的に現われるような形の知性です。

「一切をなす知性」は、光のように人間を照らして「一切になる知性」を働かせます。
そして、「一切をなす知性」は、パルメニデスの言う「思考=存在」と同じく、主体と対象が一体の「自分自身を思考する」ような知性です。
アリストテレスはこれを「思考の思考」とも表現しました。
つまり、アリストテレスは、人間が「一切をなす知性」の時には至高存在である神に等しいと考えたのです。

そして、彼は霊魂の全体を不死なるものとは考えませんでしたが、霊魂の中のこの働きの部分だけが不死だと考えました。
つまり、人間は死後、霊魂のこの不死の部分が至高存在である「一切をなす知性」に帰一するのです。

この「一切をなす知性」は中世のイスラム・キリスト教神学に大きな影響を与え、大きな論争を生み出しました。
そして、多くの場合「智天使」と同一視されました。

(アリストテレスの存在の階層)
純粋形相(完全現実態)
=不可動の動者
=一切をなす知性(思考の思考)
天体
人間
動物
植物
無生物
4大元素
第一質料
 
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