プトレマイオス派グノーシス主義 [ヘレニズム・ローマ]

プトレマイオス派グノーシス主義


グノーシス主義の中でも、最も完成され、体系化された神話・思想を持つプトレマイオス派を紹介します。

プトレマイオスは、ヴァレンティノス派のイタリア派に属していた人物です。
ヴァレンティノス派はプラトン主義の影響を取り込んでいましたが、プトレマイオスはそれをさらに発展させました。

*グノーシス主義の特徴と思想については「グノーシス主義の思想」をご参照ください。
*ヴァレンティノス派については「グノーシス主義の潮流と諸派」をご参照ください。


<プロレーマの流出>

プトレマイオス派の神話によれば、原初に名づけることができない高みに、根源的な男性的原理の「プロパテール(原父)」、あるいは「ビュトス(深淵)」がありました。
これは、完全で、把握できない存在でした。

彼と共に女性的原理の「エンノイア(思考)」、あるいは「シゲー(沈黙)」が存在しました。

「原父」は流出(創造)をしようと思い、これが種子のように「思考」の中に置かれ、「叡智(ヌース)」が生まれました。
これは「プロパテール」に似た「モノゲネース(独り子)」であり、彼だけが「原父」を把握できました。

「ヌース」と共に「アレーテイア(真理)」が生まれました。

さらに「ヌース」らによって「ロゴス(言葉)/ゾーエー(生命)」、「アントロポス(原人間)/エクレーシア(教会)」が生まれ、合計で8つのアイオーン(オグドアス)となりました。
それらは、両性具有でありますが、同時にカップルの状態になりました。

至高存在を「把握できない」とし、また、2神を「深淵/沈黙」と否定的な表現をすることには、至高存在を「語り得ぬもの」としたプラトン主義のアルビノスの影響があるのでしょう。
また、「独り子」は、「ヌース」とするのもアルビノスと同じです。


さらに、「ロゴス」らから10のアイオーンが、「アントロポス」らから12のアイオーンが生まれ、合計で30のアイオーンが、カップルになって充足(プレローマ)していました。

プトレマイオス派の30アイオーンは、次の通りです。

・8アイオーン:原父/思考、知性/真理、言葉/生命、原人間/教会
・10アイオーン:深み/交合、不壊/配慮・反省、成長/喜び、不動/混合、独り子/幸福
・12アイオーン:仲介者/信仰、誠実/父性、希望/母性、愛/理法、結合/伝道、幸福/意欲、欲求/知恵


<ソフィアの過失とデミウルゴスの宇宙創造>

「原父」を認識できるのは「ヌース」だけでしたので、「ヌース」は他の存在にも「原父」の偉大さと見えざることを伝えようとしました。
ですが、「エンノイア」が「プロパテール」の望みも組んでこれを制し、皆に「原父」を探求させようと欲しました。
それで、皆は「原父」を見たいと憧れました。

最後に生まれた「ソフィア(知恵)」は、伴侶の「欲求」と交わることなしに、「原父」を知ろうと「エンテュメーシス(意図)」し、その「パトス(情念)」にとりつかれて、苦難に陥り、形を失い(質料の中に消え)かけました。

そのため、プレローマの外にあった「力」である「境界(ホロス)」が彼女を守って固くし、浄化しました。
「境界」は、「十字架」とも「贖い主」とも呼ばれます。

それで、彼女は、自分の「意図」と「情念」をプレローマの外に捨てて、プレローマでカップルの状態に戻りました。

「ヌース」は「キリスト/聖霊」を生み、「キリスト」は「原父」は把握しえないという認識を皆に伝えてプレローマの秩序を強化しました。
こうして「形」と「認識(グノーシス)」を持つことで、充足した秩序が得られたのです。


「ソフィア」の分身である「意図」と「情念」は、「アカモート」、「下なるソフィア」とも呼ばれます。
「キリスト」は、彼女のもと下って彼女を形づくりましたが、「認識」は与えられませんでした。

それで、「キリスト」は、「救い主(ソーテール)」と天使達を生み出して、彼女の元に送りました。

彼女は天使達を眺めて、その像に似せて「霊(霊的な胎児)」を生みました。
また、彼女の「帰ろうとする性質」から「デミウルゴス」と「魂」が生まれました。
一方、彼女から切り離された「情念」は「物質」になり、4つの感情は4大元素になりました。

こうして、「霊」、「魂」、「物質」という3つのものと「デミウルゴス」が生まれました。


また、「デミウルゴス」は7つの惑星天と地上を創造しました。
「アカモート」は、この世界とプレローマの間、第8天の「中間の世界」にいます。

ですが、「デミウルゴス」は母「ソフィア」の存在も、創造に至るいきさつも知らず、自分がすべてだと思っていました。


<人間の創造と救済>

また、「デミウルゴス」は、人間の「肉体」を作ってそこに「魂」を吹き込みました。
「肉体」は「アントロポス」の「像」を基に、「魂」は「類似性」に基づいて作りました。

ですが、「アカモート」は、秘かに「デミウルゴス」の中に「霊的な胎児」を入れていたので、彼を通して人間の中にも「霊的な胎児」が蒔かれていました。
これは、「霊の胎児」が、人間の中で成長して「ロゴス」を受け取る必要があるからです。

このように、人間の中に「霊」が入ることの積極的な意味を語ることは、反宇宙論のグノーシス主義では珍しいことです。

人間には霊・魂・体の3つの要素がありますが、カイン、アベル、セツは、肉体的人間、心魂的人間、霊的人間を象徴します。

・霊:アカモートが天使達を眺めて :セツ
・魂:アカモートの帰ろうとする性質:アベル
・体:アカモートの情念      :カイン


「ソーテール」は人間を救うために、「魂」と「物質の体」をまとって「イエス(下のキリスト)」として現われました。
「キリスト」が「アカモート」を形づくった行為を模範として人間に示すためです。

「イエス」の教えによって人間は教育されて、「霊的な胎児」を見つけ、成長させることで、形づくります。

そして、これが成熟して「認識(グノーシス)」を得ると、その母である「アカモート」は「ソーテール」を新郎として向かえてプレローマに復帰します。
そして、人間の「霊」は、「魂」を脱ぎ捨ててプレローマに復帰して「天使達」にゆだねられます。
さらに、「デミウルゴス」と良き「魂」は中間界に上昇して、悪しき「魂」と物質界は火によって焼き滅びます。


<堕落と救済の構造>

プトレマイオス派では、この「原父」が「ヌース」以外には「認識できないという認識」が「グノーシス」とされ重視されます。

ヴァレンティノス派の神話は詳細が不明なのですが、「ソフィア」の堕落の原因は、「認識できない原父を認識しようとした」ことです。
ですが、このプトレマイオス派の神話では、これは「原父」と「エンノイア」が皆に促したことです。
そして、「ソフィア」としての過失は、カップルを無視したことと語られています。
これは「ヨハネのアポクリュフォン」と同じです。

結果として、「ソフィア」は「形」を失います。
そして、個々の存在は、「存在としての形」と「認識(グノーシス)としての形」の2つで成り立っています。
これは、プトレマイオスのオリジナルな考えでしょう。

「存在における形成」とは違って、「認識における形成」は自力という側面があるのではないでしょうか。

そのため、救済は、「存在において形成される」、次に「認識において形成される」、その結果、「カップルになる」で完了します。


プラトン主義には3階層論(イデア・ヌース界/魂/物質界)があります。
ヴァレンティノス派も、宇宙論では「プレローマ/中間世界/物質世界」で、人間の構成要素では「霊/魂/肉体」で考えました。
また、堕落者についても、「ソフィア/アカモート/パトス」として区別しました。

プトレマイオスは、これに救済者にも当てはめて、「キリスト/ソーテール/イエス(下なるキリスト)」の3階層化を明確化しました。

そのため、救済も、まず、プレローマで起こり、次に中間世界で起こり、最後に物質世界で起こり、最終的に上の世界にも及んで終わります。

その結果、「ソフィア」は「テレートス」と、「アカモート」は「ソーテール」と、人間は天使とカップルになります。

・プレローマ:キリスト :ソフィア=テレートス
・中間世界 :ソーテール:アカモート=ソーテール
・物質世界 :イエス  :人間=天使

 


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