イアンブリコスと降神術 [ヘレニズム・ローマ]

イアンブリコスは『カルデア人の神託』などのズルワン主義=カルデア神学やヘルメス主義に大きく傾倒して、高等魔術としての降神術(テウルギア)を理論的に擁護し、新プラトン主義の潮流を大きく変えました。


<ポリピュリオス>

新プラトン主義は、プロティノスからポリピュリオスへ、そして、イアンブリコスへという師弟関係で継承されました。

ポリピュリオスは基本的にプロティノスの哲学をそのまま継承しました。
ですが、異なる部分もあります。

「ヌース」に関して、プロティノスは、「認識対象」、「認識主体」、「認識作用」という3つの側面を語り、あるいは、「存在」、「知性(ヌース)」、「生命」という3つの側面を語ることもありました。
ですが、ポリピュリオスは、「存在」、「知性(ヌース)」、「生命」の3つを、はっきりと原理的に区別しました。
これは、「カルデア人の神託」の「父/力/知性」の3存在の影響を受けたものかもしれません。

また、「魂」に関しては、プロティノスが神々、人間、動物の魂を同質なものと考え、人間が動物に転生することも認めたのに対して、ポリピュリオスはそれぞれの魂の違いを主張しました。
そして、全体魂と個別魂の区別も主張しました。

 
<イアンブリコスの哲学>

イアンブリコスは、「一者」と区別して、さらに上に「語りえざるもの」を想定していたようです。

また、彼は、「一者」の下に「限定」、「無限」の2原理を置きました。
この「無限」は、産出力を持つ存在であり、存在の各階層に受け継がれます。

イアンブリコスは、「ヌース」に関して、「存在」、「生命」、「知性」という順番に階層化して考えました。

また、彼は、「魂」と「ヌース」の階層の違いを厳密に考えました。
ですから、彼は、プロティノスが主張した、人間の「魂」の一部が叡智界にとどまっていることを否定しました。
そして、「魂」は「感性界」に下降することで、全体が本質的に変化したと考えました。

また、イアンブリコスは、プラトンの太陽の比喩を継承しながら、それを光の神学へと発展させました。
ここにはペルシャ、カルデアの神学の影響もあるでしょう。
神の光は「一」であり、神々は外からすべてのものを照らし包みます。

イアンブリコスの存在の階層は、「神々/大天使/天使/ダイモン/英雄達/惑星魂/魂」と続くものです。
神々の光はこの系列に沿って下降して人間の魂を照らします。


<降神術>

ポリピュリオスは降神術に否定的で、イアンブリコスとの間で降神術の是非に関する論争がありました。
ポリピュリオスが公開質問状を出し、イアンブリコスがこれに エジプト人の名で答えたのが俗に『エジプト人の秘儀について』と呼ばれる書です。
あえてエジプト人の名で答えたのは、新プラトン主義内の分裂を共通の論敵であったキリスト教徒に見せないためでした。

イアンブリコスは『カルデア人の神託』の論理を受けて、降神術は神々の方から自発的に人間の魂を光に照らし、上方に引き上げ、人間自身を超越させて神々と合一させるものだと主張しました。
人間の魂の中に「象徴」として先在している神々が、神名と祈りによって喚起され、秘密のエネルギーを働かせ、神々が固有の像を見い出し、光によって魂を照らすのです。
彼は現実的な力としての「象徴」を降神術のキーワードとして考えたのです。

また、『エジプト人の秘儀について』では、降神術では、神的なしるしによって上空に引き上げられ神々の姿をまとった者が術を行う場合には、人間より上位の存在に命令することもできると書いています。
その一方で、降神術では、「友愛」の関係によって、支配関係がなくされるとも書いています。

そして、イアンブリコスは、言葉は他の言語に翻訳されると、同じ力を持たなくなるとして、神名や呪文などの魔術的な言語の意味を強調しました。
エジプト人やアッシリア人は、神々を分有した最初の民族であり、その言葉は特別なものなのです。

また、彼は、音楽の力をも重視しました。
ピタゴラス以来、音楽は天体の調和を表現したものですが、イアンブリコスは、特定のハーモニーは特定の階層の特定の神々に結びついているとして、魔術的に解釈しました。

降神術による神との合一によって得られる知が「予言術」です。
これは知性による認識に先立つもので、神々の知に直接あずかるものなのです。
そして、神々の照明に反応し、「予言術」として神々の知識を得るのは、知性と感覚の中間に位置する人間の表象能力(創造的な想像力)なのです。

イアンブリコスが神的な想像力を重視したことは歴史的な意味があると思います。
これは後のイスラム哲学と類似する考えで、啓示や預言を理論づけることにもつながります。


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