プロクロスの階層と系列 [ヘレニズム・ローマ]

プロティノス以降の新プラトン主義者の中でも特に重要なのは、ビザンチンで生まれ、アレキサンドリアからアテナイに行き、プラトンの学園アカデメイアの学頭になった5世紀の哲学者プロクロス(412-485)です。
彼はプロティノスの哲学や他の新プラトン主義者の哲学を、精密かつ総合的に体系化して、後世に大きな影響を与えました。
プロクロスの階層の考え方で興味深いのは、上下対象の関係があることです。


<階層>

プロクロスは、イアンブリコスが「一者」のさらに上に存在を置いたことを否定しました。

ですが、イアンブリコスの、「有(存在)」、「生命」、「知性(ヌース)」という順の階層を継承しました。
これは、プロティノスでは、「ヌース」の3側面、「認識対象」、「認識作用(活動)」、「認識主体」に当たるものです。
これらが、プロクロスにおいては、「可知的なもの」、「知性的なもの」、「可知的で知性的なもの」と表現され、「ヌース」の3階層となります。
 
また、「魂」に関しては、大きく「神的霊魂」、「鬼神的霊魂」、「人間霊魂」の3つに分けます。

そして、さらに「神的霊魂」を「宇宙霊(純粋霊魂)」、「世界霊魂」、「天体霊魂」、「月下の神々の霊魂」の4つに分けます。
「鬼神的霊魂」は「天使霊魂」、「鬼神霊魂」、「半神霊魂」の3つに分けます。

動植物は「魂」を持たず、「魂」の似像しか持たないとしました。
つまり、プロクロスにとっては「魂」と言えるのは「理性的」段階以上だったのです。

また、プロクロスは、霊魂が地上に降りるには、順次に2つの霊体を身につけると考えました。
1つ目は「輝く霊体」、2つめは「暗い霊体」です。
後世に、前者は「アストラル体」、後者は「エーテル」体と呼ばれるようになりました。


<階層の上下対称性>

最初に書いたように、プロクロスの階層で興味深いのは、上下が対象の関係にあることです。

霊的知性界では上の存在ほど単純で、物質界では下の存在ほど単純なのです。
そして、ある階層の存在はその1つ上の存在から影響を受けるだけではなくて、上下対象の関係にある下の存在は上の存在からも影響を受けるのです。

「一者」は形・性質を持たない点で「純粋素材」と同じで、「純粋素材」は「一者」からも直接生み出されます。
「無生物」は「有」と同様に単に存在して認識される対象となるという性質のみを持っています。
「植物」と「生命」はこれに加えて成長するという性質を持っています。
「動物」と「霊的知性」はこれに加えて非理性的(直観的あるいは直感的)な思考を行うという性質を持っています。
「魂」は中間にあって、物質的世界と霊的世界の両方に向き合うことができて、理性的な思考を行う存在です。

この上下の対象性は、ルドルフ・シュタイナーの思想に影響を与えました。

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<系列と神々の体系>

また、プロクロスは同じ階層内でも「一」から「多」へと展開する系列構造を考えました。
この系列構造は、「一者」の階層にも存在します。

プロクロスは、各階層内の構造に関して、「分有」という概念を独自な形で用いて考えます。
「分有」の観点から、次のように、存在を4つに分けます。

1 分有されないもの
2 分離した形で分有されるもの
3 分離せずに分有されるもの
4 分有するもの

1は、その階層の存在すべてに共通する部分であり、各階層の筆頭的存在であり、「第一のもの(単位的なもの、ヘー・モナス)」と呼びます。
「第一のもの」は特別な存在で、その階層では、最も上位の階層の性質を反映します。

2は、1から発する「多なるもの」であり、「系列」と呼びます。
「多なるもの」は、「限定」と「無限」から合成された「混合されたもの」で、それぞれで「限定」と「無限」の優勢具合が異なります。
「一者」の階層では「単一者(複数形のヘナデス)」と呼ばれ、最高次元の神々に相当します。

3は、下位の階層に内在して力として発現されるものです。

4は、内在させる下位の階層の存在です。

また、「多なるもの(混合されたもの)」には、「限(形・性質)」の優勢なものと、「無限(素材性)」の優勢なものがあります。
「第一のもの」だけでなく、先頭に近いもの(限の優勢なもの、より深層なもの)ほど、上位の階層の性質を反映します。

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プロクロスはヘルメス主義的な傾向、つまり、多神教的で魔術的な伝統にも親しんでいました。
当時支配的になったキリスト教に対しては、哲学も秘儀宗教もギリシャ神話もヘルメス主義も同じ伝統的な思想に属していたのです。

ですからプロクロスは、伝統的な神々の存在を認め、神々を哲学的に体系化しました。
彼は、神々を、様々な階層に渡る14の序列に分類しました。

「一者」の階層の「単一者(ヘナデス)」は、神々が最高の次元においてとる姿と解釈したのですが、神々が様々な性質を持っているように、「単一者」も「父/生産/完全/守護/生命/高めるもの/浄化/制作/帰還」などの性質を持っています。

このプロクロスの神々の階層的な体系は、3×3の構造を含んでおり、偽ディオニシオスのキリスト教天使論にも影響を与えました。


プロクロスの三性と帰還」に続きます。


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