プロクロスの三性と帰還 [ヘレニズム・ローマ]

プロクロスの階層と系列」に続いて、プロクロスの哲学について、「三性」と「帰還」をテーマにまとめます。
そして最後に、プロクロスの後を継いてアカデメイアの最後の学長となったダマキオスについて紹介します。


<三性>

プロクロスはプロティノスの流出の思想を3つの原理「三性(トリアス)」として理論化しました。

まず、一者が生み出したものには一者が内在するので同じ(あるいは類似した)性質を持っていることが「止留」です。
次に、生み出されたものが、一者に劣って相違することが「流出(発出)」です。
最後に、一者から生み出されたものが、一者を振り向き、形成され完成されることが「帰還」です。

「止留」は「有」、「流出」は「生命」、「帰還」は「知性」に対応します。

この「三性」はキリスト教の「三位一体」に相当する新プラトン主義の大原理とされました。
また、この「三性」はヘーゲルの弁証法にも影響を与えました。 
 

<帰還>

プロクロスはプロティノスとは違って、人間の個別的霊魂は全体として物質世界に下降していて、ヌースの世界に残っている部分はないと考えていました。
これは、イアンブリコスを継承するものです。

プロクロスにとって一者へと至る道は、プロティノスのそれと似ていますが少し異なるところもあります。
彼はその過程を3つに分けました。

まず、肉体的、社会的な欲望を捨てて魂の美を求める「エロース」。
次に、数学的思考や弁証法、ヌースによる純粋思考などによって真理を求めて有にまで至る「哲学的生活」。
最後が、一者との合一に至る「信仰」です。プロクロスはキリスト教と同じく一者からの照明を強調します。
 
また、プロクロスは哲学的な観照の道だけでなく、神の力を地上に降ろす魔術的方法である「降神術」をも重視していました。
霊魂よりも低い動植物が、高い存在と関係しているという構造は、動植物を使う魔術を正当化するを論理をも提供したのです。
 

<ダマキオス>

ダマキオスは、462年頃にシリアで生まれ、アレキサンドリアを経て、アテナイに移りました。
彼は、プロクロスの後を継いでアカデメイアの学長になったのですが、プロクロスよりも、イアンブリコスを評価しました。

ダマキオスは、イアンブリコスを継承して、「第一原理」を「一者」とは別に、それより上に置きます。
「第一原理」は、属性を持たない最も単純なものとされ、「ヌース」には認識可能とも不可能とも言ず、予感することしかできまえせん。

そして、「一者」の下に、下のような3原理を置きますが、これらは、同じ存在の3側面です。

・一にして全体 :「限定」に当たるもの
・全体にして一 :「無限」に当たるもの
・一になったもの:「混合」、「帰還」に当たるもの

また、ダマキオスには、不可知論的なところがあり、彼が行う哲学的な説明も、仮のものでしかないと考えました。

また、ダマキオスには、「第一原理」と世界との関係について、「展開」、「包み込み」という概念があります。
これらは、中世・ルネサンスのキリスト教神学や、スピノザ、そして、現代のジル・ドゥルーズにも影響を与えました。

ドゥルーズによれば、これらの概念は、流出論的というより、汎神論的、内在論的な思想を表現しています。
つまり、彼によれば、これらの概念は、階層的な垂直的な関係を表現するものではなく、ベルグソン的な強度の深さ・奥行きの関係を表現するものなのです。
同様に、プロクロスの系列の関係も、垂直的な関係ではなく、深さ・奥行きの関係の表現であると解釈することができるのではないでしょうか。


<アカデメイアの閉鎖>

529年に、ユスティニアヌス帝によってキリスト教以外の宗教や哲学が禁止され、それをきっかけにして、プラトンの創設以来のアカデメイアも閉鎖に追い込まれていきました。
こうして、ヨーロッパ世界(ローマ世界)では純粋な哲学的探究と神秘主義的な古代思想が一旦、終わりを告げたのです。

哲学的探究はイスラム世界に受け継がれましたが、ヨーロッパ世界ではキリスト教神学という形でしか生き残りませんでした。
ヨーロッパ世界で哲学的探究と古代思想が本格的に復活するには、ルネサンス時代を待たないといけません。


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