セフィール・イエツラーとセフィロート [古代ユダヤ&キリスト教]

メルカーバー神秘主義がヴィジョンと聖書と終末論を重視したのに対して、理論と神智学と宇宙創成論を重視したユダヤの神秘主義思想が「セフィロート神秘主義」です。
この思想はヘレニズム、アレキサンドリアの神智学に大きな影響を受けて生まれたもので、3世紀頃に書かれた「形成の書(セフィール・イエツラー、「創造の書」とも訳される)」という書に集約されています。

「形成の書」は1から10までの「セフィロート(数)」と、ユダヤ語の22の「アルファベット」、そして「境界」を宇宙を構成する基本的な要素と考えました。
メルカーバー神秘主義が天使を問題にしたのに対して、これらを数と文字に置き換えたのです。
そして、これを「智恵の32の秘密の径(パス)」と呼びました。

数の神秘思想にはピタゴラス主義や新プラトン主義の影響があり、文字の神秘思想にはバビロニア(ズルワン主義?)やエジプト(ヘルメス主義?)の影響があるようです。
ただ、バビロニアやエジプトの文字の神秘主義は現在まで伝わっていません。

「形成の書」による宇宙生成論では、宇宙はまず神の世界のレベルで行なわれ、次に物質のレベルで行なわれます。
セフィロートなどの基本的な要素は、神の世界のレベルで生まれます。

まず、空間が3つの次元とその鏡像反射された6つの方向によって封印、構成されます。
また、10のセフィロートの中心には、「発声器官のような、裸体のような統合の契約」があります。
これについてはほとんど謎ですが、セフィロートなどを生み出す、あるいは働かせる根源的な存在でしょう。

「形成の書」が最も重視した10のセフィロートは、順番は語られますが、後世に考えられたような階層的な性質は希薄です。
「4大元素(霊、空気、水、火)」と「6方向(上下と東西南北)」を表わしていました。
「4大元素」は、「善」、「悪」、「始まり」、「終わり」とも表現されました。
また、グノーシス主義のアイオーンが男女対になっているように、5つずつが対になっていました。

1 :神の生ける聖霊(最初・統合の契約)
2 :空気(最終)
3 :水(善・無形にして虚しきもの)
4 :火(悪・栄光の座)
5 :上(高さ)
6 :下(深淵)
7 :東(前)
8 :西(後)
9 :南(右)
10:北(左)

セフィロートの空間的な関係としては、後世に考えられたような、「生命の樹」は、まだありません。
「6方向」ということからも、それらが立体であることが分かります。
「4大元素」は、中央に、層状になっているという考え方もあったようです。 


14160CBB-62A7-4770-A8BB-32D0DE13B5BA.jpeg
IMG_3812.JPG
*箱崎総一「カバラ」(青土社)より


22のアルファベットは、3つの「母字」、7つの「重複文字」、12の「単純文字」に分類されました。
これらは階層的な構造をなします。

3つの母字は3大元素(火・水・空気)に対応します。

7つの重複文字は抽象的な7つの言葉(生命・平和・知恵・富・優雅・種子・王権)に対応し、また、6方向と中央、7惑星にも対応します。

12の単純文字は12の人間の行動や能力(言葉・思考・運動・視覚・聴覚・動作・性交・臭覚・睡眠・怒り・味覚・笑い)に対応し、また、6方向の頂点で作られる正8面体の辺、12宮、12の臓器に対応します。
単純文字の中のY、H、Wは上に書いた3つの方向に対応します。

・アレフ :空気・大気
・ベート :生命・土星 ・上
・ギメル :平和・木星 ・下
・ダレット:知恵・火星 ・東
・へー  :言葉・白羊宮・東上
・ヴァヴ :思考・金牛宮・東北
・ザイン :運動・双子宮・東下
・ヘット :視覚・巨蟹宮・南上
・テット :聴覚・獅子宮・南東
・ユッド :動作・処女宮・南下
・ハフ  :富 ・太陽 ・西
・ラメド :性交・天秤宮・西上
・メム  :水 ・地
・ヌン  :臭覚・天蝎宮・西南
・サメフ :睡眠・人馬宮・西下
・アイン :怒り・磨羯宮・北上
・べヘイ :優雅・金星 ・北
・ツァディ:味覚・宝瓶宮・北西
・コフ  :笑い・双魚宮・北下
・レーシュ:種子・水星 ・南
・シン  :火 ・天
・タヴ  :王権・月  ・中央(神殿)

また、この3つの単純文字は神の名前YHWHを構成します。
ただし、この神の名前の本当の発音は、ソロモンの神殿の年に1度の祭儀の際に最高位の神官一人が発音していたのですが、やがて忘れ去られました。

また、アルファベットはそれぞれが特定の数値を持ち、その数値の合計が同じ単語は象徴的に同じ意味を持つものとして入れ替えが可能とされました。
また、アルファベットは10のフィロートの間をつなぐものとも考えました。

そして、10のセフィロートと22のアルファベットを足した32の存在が、「知恵の道」とされました。

神の世界
10のセフィロート
1-10の数、4大元素+6方向
22のアルファベット
3母音
3元素
7重複文字
7言葉、7惑星、6方向と中心
12単純文字
12能力、12宮、12辺
境界
 
物質世界
 

nice!(0)  コメント(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。