初期イスマーイール派の神話 [イスラム教]

イスマーイール派の思想が哲学化される以前の、イスマーイール派の神話を2つ紹介します。 
最初はファーティマ朝以前、次がファーティマ朝期です。

<カルマト派>

初期のイスマーイール派の主流の神話は、はっきりとは分からないのですが、初期の分派であるカルマト派の神話とほぼ同じであると想像されます。

人類の歴史は「7つの周期」で進化します。
それぞれの周期は、預言者に当たる「告知者」が聖典とシャリーア(律法)をもたらして始めます。
「告知者」は聖典の外面的な意味「ザーヒル」を伝えます。
7人の「告知者」はアダム、ノア、アブラハム、モーゼ、イエス、ムハンマド、そしてイスマーイールです。

「告知者」の後には「沈黙者」が続き、内面的な意味「バーティン」を明らかにします。
ムハンマドの第6周期ではアリーが「沈黙者」に当たります。

「沈黙者」の後には「完成者」と呼ばれる7人の「イマーム」が続きます。
7人目のイマームは「カーイム」となり、新しい周期とシャリーアをもたらします。
ムハンマドの第6周期(イスラムの周期)では、イスマーイールの息子、ムハンマド・イブン・イスマーイールが最後のイマームに当たります。

1つの周期が終了するごとに、世界を構成する「7文字(アラビア文字のK、W、N、Y、Q、D、R)」の一つが地上にもたらされます。
つまり、霊的な智慧が順次もたらさせるということでしょう。

地上にはイマームを頂点にして聖職者のヒエラルキーが存在します。
イマーム下には「フッジャ(証)」がいます。
イマームが隠れている時期には、フッジャが聖職者組織を統括します。
さらにその下にも7つ(あるいはその他の数)の位階が存在します。

フッジャは12名おり、聖職者の組織は12のエリアごとに活動します。

ムハンマド・イブン・イスマーイールは救世主「マフディ」であり、人類史を完成させる告知者となり、イスラムの周期とシャリーアを終わらせます。
彼は新しいシャリーアをもたらさず、外面的な意味なしに究極的真理(ハキーカ)を明かします。


<アブー・イーサー>

ファーティマ朝期になりますが、アブー・イーサーによって、宇宙創造論的神話が付け加えられました。
その特徴は、「7文字」を主体としていることと、堕落論的性質を持っていることです。
文字(種子マントラ)を宇宙の根源として考えるのは、密教と同じ発想です。
堕落論は、グノーシス主義やミトラ教からの影響でしょう。

神は不可知の次元の存在です。
神が意図した時、「光」を創造し、それを通して創造しました。
しかし、「光」は自分が創造者なのか被造物なのか分からず、一瞬たたずんでしまいました。
神は「光」に霊を吹き込んで、「あれ!(kun)」と声を投げかけ、「光」に「カーフ文字(K)」、「ヌーン文字(N)」、「ワー文字(W)」、「ヤー文字(Y)」を与えました。
これらの文字は、光=造物主デミウルゴスであり、「クーニー」と名づけられました。
これらは「コーラン」の「あれ!(kun)」に由来する4文字です。

神は「クーニー」に、自分の援助者、神の命令の伝達者を作れと命じ、「Q」、「D」、「R」からなる「カダル」を創造しました。
これは「コーラン」の「行く末定める(qaddara)」に由来する3文字です。

「クーニー」と「カダル」を通した文字の結合によって、「7ケルビム(7大天使)」、「12の精神的なもの」、「6位階」が順次、創造されました。
神はこれらの存在に対して、「カダル」への服従を命じましたが、低い位階の「イブリース」が拒否しました。

「クーニー」の躊躇と、「イブリース」の拒否の意味とその結果については明言されませんが、一種の「堕落」という性質を持ったものであると想像されます。
この点は、これ以降のイスマーイール派の神話の中ではっきりと現れてきます。


カルマト派やアブー・イーサーの神話に登場する「7文字」は、バビロニア神学(占星学)的には「7光線」、宗教的には「天使」、哲学的には「知性」に相当するものでしょう。


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