道家思想の成立 [中国]

大まかに言うと、儒家思想は、北方系遊牧民の、星座の動きの観察からくる合理主義と天の思想を背景にしていて、一方、道家思想は、南方系の水稲農業民の、「原初の水」を母体にした自然な創造の思想を背景にしているという説があります。

後に国教化されて中国思想の正当を形成する孔子(-5C)などの儒家思想は、「天」を合理的に解釈し、「天」が人に授ける「仁」や善なる「性」を重視しました。
そして、社会的な倫理道徳を「道」と呼び、また、言語的な秩序を重視して、主要な概念ではありませんでしたがこれを「理」と呼ぶこともありました。

これに対して、儒家的な「天」や、理性主義を退け、一種の流出論的な神秘主義思想によって儒家思想を批判したのが、-4C頃の「老子」、「荘子」などの道家思想です。

ただ、著者の老子は、その歴史的実在性を含め、ほとんどが不明です。
「老子道徳経」は、「孟子」以降、「荀子」以前の作と思われ、「荘子」の「内篇」、「外篇」との前後関係は不明です。
一方、荘子(荘周)は孟子や屈原を同時代人と思われます。

内容的比較をすれば、「老子」は形而上学的・存在論的であるのに対して、「荘子」は認識論的です。


道家思想は真の「道(タオ)」とは世界の根元である「混沌」であるとして、これを「無名」とも表現しました。
つまり、「道」は世界を流出して生み出すような世界を超越しかつ内在する至高存在であると同時に、どこかに秩序化される以前の世界の素材である神話的「混沌」という性質を残したものなのです。
そして、これを言葉で表せないものとして否定的に表現したのです。

た、オリエントやインドで至高存在を「至福」とか「歓喜」と表現するように、老子は「道」が「恍惚」であるとも表現しています。

老子の流出論では、無名の「道」から有名の「母」なる「天地」が生まれ、ここから「万物」が生まれます。
「道」は、「虚」とも「玄」とも表現されます。

また、「道」が「一(一気)」を生み、次に「二(陰陽2気)」を生み、次に「三(2気とこれが和した冲気)」を生み、これから万物が生まれるとも説きました。
そして、「道」は「徳」という働きをもって、万物を養います。

老子は人為的な行為や社会的・言語的秩序を否定して「道」を体得した生き方である「無為自然」を理想としました。
つまり、「道」が超越的かつ内在的存在であるように、人も心身の活動の消滅した超越的意識を獲得すると同時に、物質世界や心身の活動をそこに内在する「道」に従って肯定するのです。

老子は、「道」と一体であることを「抱一」と表現しました。
同様のことを、荘子は「守一」と表現しました。
そして、 「道」と合一した人間を、老子は「聖人」と呼び、荘子は「真人」などと呼びました。

老子も荘子も、究極的な認識を持った状態を「明」と呼び、その状態を「曇りのない鏡」と表現します。


荘子は「道」を体得するための方法論としてインドのヨガに相当する「坐忘」を主張しました。
そして、世界の一切を差別なくあるがままに認識する「万物斉同」の境地を目指しました。

荘子は、「真人」について、「知ることなく知り、為すことなく為す」と言います。
また、「何かを好んだり、嫌ったりしても一である。また、すべてを一であると見なそうとも、一でないとみなそうとも、その者は一である」と。
この思想は、禅にまでつながっています。

荘子には、縁起説に近い考え方もあります。
「あれはこれから生起し、これはあれに依拠すると言われる。この考え方は方生説、つまり相互依存説と言われる」

また、万物は気の「凝集」によって生まれ、「拡散」によって気に戻ると説きました。
つまり、気は世界の根源的な素材であり、凝集の程度によって世界の階層性が生まれるとして流出論的宇宙論を進めたのです。

そして、主要な概念ではありませんでしたが、荘子には「道」から生まれた万物に内在する法則を「天理」と表現しました。

荘子の「天理」に始まる道家の「理」の概念は、中期プラトンの「イデア」やストア派の「ロゴス」に近い概念で、理性的に捉えたり言葉で表現できるものではなく、直観的にみ捉えられる形而上学的な法則・本質です。
一方、儒家の「理」は、後期プラトンの「イデア」や一般的な「ロゴス」に近い概念で、理性的に捉えられる概念的存在で、社会的な法則です。

また、道家思想の自然観によれば、自然は「道」が内在するためにその名の通り自ら存在・運動するものです。
これは仏教が自然を互いに依存関係にある非実体的で本質を持たない存在とした無我説・縁起説による自然観とは異なります。

 


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