シャクティ教シュリー・クラ派の儀礼と行法 [中世インド]

シュリー・クラ派(シュリー・ヴィディヤー派)の宇宙論に続いて、このページでは同派の儀礼と行法を紹介します。

シュリー・クラ派は、シャクティ教(ヒンドゥー教シャクティ派)の中でもタントラ色の濃さで代表的な宗派です。
カシミールのシヴァ派文献は、「シャイヴァ・シッダーンタ」と呼ばれるものが顕教、「バイラヴァーガマ」と呼ばれるものが密教という側面があり、シュリー・クラ派は後者に属します。

タントラ派はどの派でも、外的儀礼を内的儀礼化します。
つまり、神を招いて供養する儀礼は、神に一体化する成就法とします。

神を招くことは、観想として行なわれます。
飲食物の供養は、マントラとムドラーを捧げることとなります。
こうして三密によって一体化します。
具体的には、多くの場合、「ニヤーサ」と呼ばれる、マントラをヤントラや神像などに布置していく作業が中心となります。

同時に、プラーナをコントロールするヨガをそこに付け加えます。
儀式において使われる「火」は下部のチャクラから上昇する「クンダリニー」、「水」は頭部のチャクラから下降する「アムリタ」に対応させて実践します。


以下、シュリー・クラ派の内的儀礼=成就法について紹介します。

<アルグヤ儀礼の内的儀礼化>

甘露を象徴する女神(アムリテーシー)とその忿怒の配偶神(アーナンダヴァイラヴァ)に、水を献供する儀礼を、内面化した成就法です。

器に入った水は、ヤントラ(この派ではマンダラという言葉も使われます)の中心に置かれます。
ヤントラは、上向き、下向きの三角形の組み合わせで作られ、その回りが円、その回りが四角形で囲まれています。
ヤントラの外側から内側に向かって、四角→三角→中心の器→水、とマントラ(ヴィディヤー)を順にニヤーサ(配置)します。

この外から内に向か4段階は、内面化されて、体の中で中央管を上昇する4段階に対応させます。
具体的には、中央管の外の6肢→ムーラダーラ・チャクラ→アナハタ・チャクラ→アジニャー(ヴィシュダ)・チャクラ、です。
3つのチャクラは、火(クンダリニー)、太陽、月(アムリタ)という3つの輝きに対応します。

1 外の四角:6肢(頭、髭、心臓、眼、鎧、武器)
2 三角  :ムーラダーラ:火 :クンダリニー
3 中心の器:アナハタ  :太陽
4 中心の水:アジニャー :月 :アムリタ

各チャクラにマントラを置くだけなら、中期密教の五字厳身観に近い行法ですが、プラーナのコントロールを行なって、クンダリニー・ヨガを伴わせることも行えば、後期密教の行法に近いものになります。


<プラーナーヤーマの内的儀礼化>

呼吸法にビンドゥ・ヨガを組み合わせた行法です。

次のようにプラーナをコントロールして、呼吸を行います。

1 マントラ念誦を行いならが、左鼻から息を吸い、イダー管にプラーナを入れる。
2 プラーナを中央管に入れて保持する。
3 プラーナをピンガラ管に出して、右鼻から息を吐く。

同時に、3つのチャクラに、下記3根本マントラを、赤く光らせながら観想します。

・ブラフマランドラ   :月 :サウフ
・フリダヤ・チャクラ  :太陽:クリム
・ムーラダーラ・チャクラ:火 :アイム


<クンダリニー・ヨガ>

クンダリニー・ヨガでは、ムーラダーラからクンダリニーを上昇させ、眉間でアムリタを垂らします。 
ですが、シュリー・ヴィディヤー派では、下記のように3つのチャクラに3種類のクンダリニーが眠ると考えます。
ムーラダーラ・チャクラに眠るクンダリニーは「クラクンダリニー」と呼ばれ、アジニャー・チャクラにあるものは「アクラクンダリニー」と呼ばれます。
「クンダリニー」という概念が、プラーナの凝縮したエネルギー、あるいは、溶解液として、広義に使われているのでしょう。

・アジニャー・チャクラ :月のアクラクンダリニー:シヴァ、アムリタ
・フリダヤ・チャクラ  :太陽のクンダリニー
・ムーラダーラ・チャクラ:火のクラクンダリニー :シャクティ


<プラーナーヤーマ的クンダリニー・ヨガ>

シュリー・ヴィディヤー派では、マントラとクンダリニーが、同一視できる存在と考えられています。
シュリー・ヴィディヤーのマントラの念誦を、中央管内のエネルギーの集中に対応させます。

具体的には、上記の3つのチャクラにある3つのクンダリニー・エネルギーと、3部分に分けられたマントラを対応させます。
そして、下から順に、3部分のマントラを唱えながら、音とエネルギーを、中央管の3チャクラに集中して満たします。
この時、クンダリニーを上昇させるのではないようですが、上昇のベクトルを持って、3部分へ順に集中させるようです。


<チャクラ・プージャーの内的儀礼化>

ヤントラを使った「チャクラ・プージャー」という瞑想法を紹介します。
12Cの聖典『ヨーギニーダヤ』を元に、その概要を説明します。

この瞑想法は、女神を招き・供養する日常的な儀礼を、内面的に解釈して解脱を目的とする修行的な瞑想法にしたものです。

「チャクラ・プージャー」で使われるのは「シュリー・チャクラ(シュリー・ヤントラ)」というヤントラです。
「シュリー・チャクラ」は、同心円状に9の部分(=チャクラ)から成ります。
これは宇宙論的な階層でもあり、そこに勧請する(それぞれに対応する)神格も階層的です。
上向きの三角はシヴァ、帰滅を、下向きの三角はシャクティ、創造を象徴します。

瞑想では、最高女神「トリプラスンダリー」とその他の女神たちなどを、外から順に観想します。
階層の低い女神から、根源である最高女神(シャクティ、プラクリティ)へと帰滅することが解脱となります。

9のチャクラは、外から、3重線、16弁の蓮華、8弁の蓮華、14個の三角形、10個の三角形、10個の三角形、8個の三角形、中央の三角形、中央の点から成ります。
花弁や三角形には、それぞれに女神たちなどが勧請(観想)されます。

観想される神などは、1人の「主宰女神」と、複数の「従属女神」と、その他の3つに分けられます。

1 3重線   :主宰女神、8母神(従属女神)、10のシッディ女神
2 16弁の蓮華 :主宰女神、16人の従属女神
3 8弁の蓮華 :主宰女神、8人の従属女神
4 14個の三角形:主宰女神、14人の従属女神
5 10個の三角形:主宰女神、10人の従属女神
6 10個の三角形:主宰女神、10人の従属女神
7 8個の三角形 :主宰女神、8人の守護女神(従属女神)、9人の師
8 中央の三角形:主宰女神、3人の聖地の女神(従属女神)、4つの武器
9 中央の点  :最高女神

「主宰女神」はマントラとムドラーで供養し、「従属女神」はマントラだけで供養します。
マントラとムドラーは各女神に固有のものです。
9つのチャクラで観想・供養される「主宰女神」は、それぞれ別の女神ですが、すべて「トリプラ」で始まる名前なので、実際は最高女神「トリプラスンダリー」の化身です。


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