気の身体論 [中国]

多くの中国思想では、「気」を重視して世界を見ます。
別項で、インドの「プラーナの生理学」を紹介しましが、本項では、それに類する中国の「気の身体論」を、時代、宗派に限らずに紹介します。


<気と万物照応>

道教では、ミクロコスモスである身体は、マクロコスモスである自然と照応関係があると考えます。
そして、身体、自然はともに、気が凝固した物質的部分と、そこを変化しながら流れる気の部分からできています。

気の照応関係は、例えば、身体においては、気の流路である「経絡」と、気の流れのスポットである「経穴(ツボ)」があり、それが、風水で言う大地における「龍脈」と「龍穴」に対応します。

風水では、山脈は天に突き出た大地(=風)で「陰」とされ、川などの窪地(=水)は大地に突き出た天で「陽」とされ、天地陰陽の気の交わりが十分に行われる場所を良い場所と考えます。

高い山から低い山に向けて流れる大地の陰気の流れ(龍脈)が、うまくよどみながら溢れ出るような平地(龍穴)があって、それを逃がさないように囲む小山(砂)があって、そして天の陽気の流れである川がそこに流れこむような場所が、理想的な場所なのです。

人間においても、男女陰陽の気の交わりによって身体が生まれ、身体には、様々な気の流れとスポットが存在します。
各スポットに存在する気は、神が体内に入った存在と考えて、「体内神」と呼びました。


<胎生学と結節・三関>

六朝期の「上清九丹上化胎精中記経」は、解結と養胎の存思を説く経典です。
これによると、天と地が交わり、陰と陽の「二気」(陽気は赤色で玄丹、陰気は黄色で黄精)が胎内に降りて結ばれ、「精」となり、やがて「神」に変化し、人身となる、とします。

そして、九天の「気」が一カ月ごとに子宮に降りてきて、「精」と融合し、人は十カ月目に誕生します。
存思法では、自分の身体を胎児の状態に戻す瞑想を10カ月かけて行います。

「二気」が交わって受胎すると、「結」が作られると考えます。
これは死の原因となるものなので、長寿や不老不死を目指すには、焼き解いて「解結」する必要があります。

「結」は、身体の奥に伸びる3本の赤い紐の結び目とイメージされます。
1本ごとに8結があり、それぞれは体内神の「八景神」に対応します。
また、3本の紐に対応して、「三元君」と呼ばれる3人の女神が、それぞれの「八景神」を統率します。

「結」の中には、病気の原因となる「節」があり、人体には、12の「結」と12の「節」があります。

また、「三関」と呼ばれる主要な気の流れの障害(結節に類するもの)があります。
頭部の「上関(玉沈関)」、胸部の「中関(夾脊関)」、腹部の「下関(尾閭関)」です。
場所に少し違いがありますが、これはインドの「グランディ」に相当するものでしょう。

「関」は、障害が取り除かれて開くと、「竅」と呼ばれるようになります。
内丹で集中するスポットは、「竅」となっています。


<体内神と三尸>

道教では、身体の各部には、宮殿があり、そこに神々が住んでいると考えます。
これらの神々を「体内神」と呼びますが、これらは、人体を作り、動かしている気の働きを神格化したものです。

神々は気に乗って自然から身体にやってきて、留まり、またいつかは去って行きます。
このように、人間は、様々な気=神々の集合体であり、流動体であると考えます。
例えば、眉間と両目に太極と陰陽に相当する神々、五臓には五臓の神々、三丹田には三天の神々、といった具体です。

体内にはこのような良い働きをする神々の他に、悪い働きをする悪鬼的存在もいます。
これらは人間の気の陰性の汚れを実体化して表現したもので、病死の原因となります。
最も重要なのは、三丹田に住む「三尸」です。

「三尸」は穀物に由来する穀物の精の一種と考えられているので、穀物の断食(辟穀)によって追い出すことができると考えられています。
このような悪鬼には、他にも五臓に住む「五尸」などがいます。


<先天と後天の精・気・神>

先に書いたように、「気」は姿形を持った「神」としても表現されますが、より直接的には、「神」は主宰的機能、意識性を伴った「気」の形態です。

「気」は、受胎後、「精」・「気」・「神」という3形態に分かれます。
「精」は、「気」のエネルギー物質的形態、生命力としての形態です。

また、人間の「精」・「気」・「神」には、先天性のものと後天性のものがあります。
先天性のものは、胎児の時から持っていて「元精」、「元気」、「元神」などと呼びます。
後天性の「精」・「気」・「神」は、出産後、呼吸や食物を通して生まれます。

先天の「精」・「気」・「神」は清浄なのに対して、後天の「精」・「気」・「神」は汚れたものもあり、老死の原因にもなります。

「先天の気」は、基本的に男性は陽、女性は陰です。
性的な成熟を迎える頃(16歳頃)には、それが極まり、
逆に、男性には陰、女性には陽の気が生れます。
また、基本的な陰陽の「先天の精・気」が失われていきます。
これは人間の根源的な生命力の源泉で、これが尽きると寿命も尽きます。

「先天の精・気」は主に腎臓(2つの腎臓の間の「命門」、女性の場合は子宮)にあります。
男性の場合、多くの「精」は、腎臓から降りて精液などに変わります。
一方、女性の場合は、「精」、「気」は、乳房、胸などに多くあって、ここから降りて経血などになります。

仙道の内丹法では、まず、後天の「精」・「気」・「神」を煉りながら、先天の「精・気・神」を目覚ませます。
そして、「精」を「気」に、「気」を「神」に変えて統合していきます。


<気の種類と経絡>

身体を流れる気には様々な種類があります。
まず、上述もしましたが、人が生まれながらに持っている「先天の気」と、生後に外部から取り入れる「後天の気」です。
「先天の気」は「元気」以外に、「真気」、「内気」、「炁」などとも呼ばれます。

「先天の気」は主に腎臓と口の間を流れ、全身にも流れていきます。
仙道の内丹法では、清浄な「先天の気」を重視するので、「後天の気」をなるだけ排除して、「先天の気」の漏れをなくし、蓄積しようとします。
「後天の気」は「外気」とも呼ばれます。
これには、呼吸によって取り入れる「天の気」と食物によって取り入れる「地の気(穀気)」があります。

「地の気」には、外部からの邪気の侵入を防衛するために身体の表面全体をめぐる「衛気」と、胸部を中心に巡って呼吸や飲食に関わる「宗気」、そして、身体の「経絡」に沿って流れる「営気」、があります。
「衛気」は濁った荒々しい気で、「宗気」と「営気」は澄んだ気です。
「営気」が流れる流路が「経絡」は、は川に譬えられ、その主流が「経」、これを結んでいる支流が「絡」です。
中でも主要な「経」は12本の「正経」、主要な「絡」は15本あります。
また、「経」には、主要な経を管理・調整するより根源的な流路が8本あって、これは「奇経」と呼ばれます。
「奇経」は胎児の時に働いていますが、誕生後は閉じます。

中でも特に、下唇から会陰までの体の前面の中心線を通る「任脈」、会陰から背中、そして頭頂から上唇までの主に脊髄に沿って体の後方を流れる「督脈」、両脈の間を通る「衝脈」の3本は、仙道の行法では重要です。
「督脈」は、ほぼインドのスシュムナー管(中央管)に当たるものでしょう。

・先天の気(=元気、真気、内気、炁)
・後天の気(=外気)
 >天の気(呼吸の気)
 >地の気=(穀気)
  >>衛気(身体の表面)
  >>宗気(胸、呼吸・飲食を司る)
  >>営気
   *経脈
    **8本の奇経(任脈・督脈・衝脈など)
    **12本の正経
    **その他の経
   *絡脈
    **主要な15絡 
    **その他の絡

「宗気」が司っている呼吸システムは、後天的な「外気」の気です。
一方、人間は胎児の時、「胎息」と呼ぶ先天的な「内気」の呼吸システムがあったと考えて、道教ではこれを重視します。


<丹田システム>

身体には気の中枢的なスポットが3つあって、これは「丹田」と呼びます。
頭部の「上丹田」、胸部の「中丹田」、腹部の「下丹田」です。

「丹田」は気が全身に流れていく源流の地帯で、海に例えられます。
また、「丹田」は気を蓄積して凝縮しやすい場所です。
丹田は「気海」、あるいは、「気街」とも呼ばれます。
3つの丹田は、後期密教のティクレ(心滴)のある位置に、ほぼ対応しています。

頭頂の「上丹田」は、「泥丸宮」、「内院」などとも呼ばれます。
胸部の「中丹田」は、「中宮」、「膻中」、「上気海」、「気府」、「絳宮」、「中元」などと呼ばれます。
臍下の「下丹田」は、「下元」、「正丹田」、「気穴」などと呼ばれます。
ただし、女性の場合は「中丹田」が「気穴」です。

各丹田は、臓器などの他の気のスポットと結びついて、丹田のシステムを形成しているとも考えられます。

頭部の上丹田は、口を含むシステムです。
口は「玉池」とも呼ばれ、五蔵の気を含んだ「津液(唾液)」が流れます。

胸部の中丹田は、心臓、肺を含むシステムです。

腹部の下丹田は、腎臓、会陰などを含むシステムです。
腎臓部は「命門」などと呼ばれます。
会陰は、「危虚穴」などと呼ばれます。
尾骨部は、「玉沈関」、「尾閭関」などと呼ばれます。

また、脾臓は「黄庭」と呼ばれ、中・下の丹田を中継します。

また、3本の主要な奇経は、この三丹田と密接に関係しています。
「衝脈」は三丹田を直接結びつけています。「任脈」は中・下の丹田を結びつけて「督脈」につながり、「督脈」がさらに上・下の丹田を結びつけています。

また、存思法や内丹法では、五臓を巡るルートを考える場合があります。
気の身体論では、五臓は肉体的な臓器そのものではなく、臓器と関係した「気の場」を指します。
五臓の気のルートは、肝(木気)→心臓(火気)→脾臓(土気)→肺(金気)→腎臓(水気)という五行の順番で考えるのが一般的です。

このルートは、中丹田と下丹田を結んでいます。
ちなみに、心臓は「神」、腎臓は「精」、肺は魂と「衛気」、肺は魄、脾臓は「営気」と関係づけられています。

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