内丹の思想 [中国]

道教の思想は、生を肯定し、死を否定することが特徴であり、実践においては養生術が重視されます。
養生術は、健康・長寿だけでなく、不老不死・昇仙を目指すもので、外丹(煉丹術)、存思法(観想法)、房中術、導引・服気(気功)、吐納(呼吸法)、食餌・辟穀(食事法)などの方法があります。

内丹法は、仙道の養生術の一つであり、宗代以降は、内丹法が養生術で第一のものとされるようになりました。
その目的は、不死の霊体を作り、肉体をそれに溶けこませ、最終的には「道」に一体化することです。

内丹法を一言で表現すると、気をコントロールする瞑想によって、体内に気の「胎」を作り(結胎)、成長させる(養胎・出胎)方法です。
そのため、道教に関わらず、中国思想の気の身体論や、胎生学の影響を受けています。

また、内丹は、道家の「忘坐」などの瞑想法や、「道」に関する思想、儒教の陰陽五行説、仏教(禅)の瞑想法や思想などの影響を受けています。
そのため三教の一体や一致を主張する派が多くあります。

仙道の初期の養生術は、外丹(煉丹術)や存思法、房中術が主な養生法であったため、内丹には、それら用語を比喩的に使用することが多くあります。
「丹」という表現も、外丹から取った象徴表現です。


<性と命、天と人>

「内丹」は「外丹」に対比した呼び名ですが、外丹を「陽丹」、内丹を「陰丹」と表現することもあります。

内丹には大きく2種の方法があります。
精神・心をコントロールする「性功」と、気をコントロールする「命功」です。
多くの派は両方を必要とすると考えており、これを「性命双修」と呼びます。

どちらを重視するか、どちらから先に取り組むかによって、2派に分かれます。
先に心(性)に取り組み、それを重視するのが「先性後命」で、北宗などがこれに当たります。
先に気(命)に取り組み、それを重視するのが「先命後性」で、南宗などがこれに当たります。

「性功」は、心を集中し、静め、無心になることが中心です。
道家の言葉で「忘坐」、仏教の言葉で「定」などと表現することもあります。

無為、無心な心を「元神」、あるいは、禅宗の影響で「見性」と表現することもあります。

「性功」の目的には、最終的には心を「道(虚・無)」に一体化し、それに還ることです。
根源存在に還ることは、神秘主義思想に共通する目的です。

「命功」は、気を煉って凝縮し、その性質を変えたり、その塊を体の中で移動させていくことが中心です。
最初は、後天的な「気」を使い、その後、先天的な「精」を「気」にし、「気」を「神」にします。
「命功」の目的は、同じく、身体を「道」に還すことです。


「命功」には、2種類の方法があります。
一つは、異性を相手にした性的な方法を使って、男女の間で陰陽の気を交換する「房中術」、「陰陽栽接法」と呼ばれる方法です。
この方法を使う派を「陰陽双修派」と呼びます。
南宗とその系統の西派、東派、三丰派などがこれに当たります。

もう一つは、一人で、自分の体内で陰陽の気を結びつける方法で、「清修」と呼ばれます。
これのみを行う派を「清修派」と呼びます。
文始派、北宗とその系統の伍柳派などがこれに当たります。

清修を「天元丹法」、房中術を「人元丹法」を呼ぶこともあります。
この対比では、外丹を「地元丹法」と呼びます。 


<逆修返源>

中国の胎生学では、天と地が交わり、「陰陽二気」が胎内に降りて「胎」が結ばれ、「精」となり、やがて「神」に変化し、人身となる、と考えます。

胎児の間は、「先天の気」のみが働きますが、誕生後の嬰児は、呼吸や食物を通して「後天の気」が働くようになり、老死に向かいます。

その後も成長し、16歳になると、男性の場合は、先天の気の部分では、「純陽」の身体が完成します。
ですが、異性に性欲を感じるようになると、「純陽」の体が破れ、その中から「陰」が発生します。
これは、陽が極まると陰が生じる、という陰陽説の基本原理により説明されます。
そのため、ここで生じる陰気は、先天の気であるとします。

八卦で表現すると、「乾」から「離」への変化です。
―   ―
― → - -
―   ―

女性の場合は、陰陽が逆となり、「坤」から「坎」へと変化します。
- -   - -
- - → ―
- -   - -

こうして、男女ともに、先天の気・精が減少していきます。

内丹は、後天の気と、先天の気の減少によって死すべき存在となった身体を、逆行させます。

つまり、再度、身体の中で陰陽を結んで「胎」を作り、成長させて純陽の不死の身体とします。
ただし、子供を生める女性の場合、「胎」がすでに存在するので、「胎」を結ぶプロセスは不要です。

次に、成長した「胎」は体から出して(出産に相当する「出胎」、「出神」)、さらに成長させます。
最後には、それを根源存在の「道(無、虚)」に戻します。

この逆行を「逆修返源」と呼びます。

ただ、逆行とは言っても、純粋に時間を遡っていくわけではありません。
「胎」を結んで成長させるプロセスは、やり直し、再生と言うべきものです。

また、結胎以降、「気」は「精」、「気」、「神」という3形態に分離しますが、内丹法では、これを順次統合して戻していきます。
ちなみに、「精」と「気」を一つにしたものを「炁」と表現します。
また、「炁」と「神」を一つにしたものを「陽神」と表現します。

この点でも「逆修返源」となっていますが、やはり、純粋に時間を遡っていくわけではないようです。


<三関修煉>

上記の人間の成長プロセスは、次のように「三変(3段階)」を経ると考えます。

まず、陰陽二気が結ばれ、受胎して胎児になることが「第一変」です。
出産して嬰児になり、胎息ではない外呼吸が開始され、「後天の気」が生まれることが「第二変」です。成人して純陽の体が破れ、先天の気・精が減少していくことが「第三変」です。

内丹法のプロセスは、上述したように「逆修返源」です。
それは、「三変」を逆行させ、「精」、「気」、「神」を順に変化・統合するプロセスです。

この内丹法のプロセスは、宗代の金丹派南宗以降、多くの派では、次の4段階で考えられるようになりましたが、最初の段階は準備段階ですので、本質的には3段階になります。

0 煉己築基    :後天の気を煉る
1 煉精化気(初関):三を二に帰す(精・気・神→炁・神)
2 煉気化神(中関):二を一に帰す(炁・神→神)
3 煉神還虚(上関):一を○に帰す(神→虚)

この3段階の「初関」、「中関」、「上関」の3つを「三関修煉」と呼びます。

とは言っても、「三変」と「三関」は、直接的に逆対応するものではありません。

「築基」は、「第三変」で成人になって以降の先天の気の減少を、後天の気を煉ることで補うものです。
「初関(百日関)」は、「第一変」以降に分離した先天の精を気に戻すものでしょう。
「中関(十月関)」は、結胎して「第一変」後の胎児に還り、養胎という胎児としての成長をやり直すものでしょう。

「上関(九年関)」は、「煉神」と「還虚」に分けることができます。
「煉神」は、移胎・出胎して、「第二変」後の嬰児になってさらに成長するものでしょう。
「還虚」は、温養によって「第一変」以前に戻って逆行し、虚に還ることです。 


<元神と欲神>

「神」は意識性を持った「気」です。

内丹は「先天の精・気・神」を重視します。
「後天の神」が通常の作為的な意識、自我の意識であるのに対して、「先天の神」は、無意識的な、無為の意識です。

「先天の精・気」の動きに対応するのが、「先天の神」であり、「元神」とも呼ばれます。
「後天の精・気」の動きに対応するのが、「後天の神」であり、「欲神」とも呼ばれます。

また、内丹派は、禅宗の影響も受けています。
禅宗では、通常の意識・智恵を「分別智」と呼ぶのに対して、心の基盤としての仏性の知恵を「見性」と表現します。
なので、内丹派は「元神」を「見性」と同じと考えて、そう呼ぶこともあります。
あるいは、「真性」、「真心」などとも表現されます。

「神」の瞑想には、「性功」の側面と「命功」の側面があります。

「性功」においては、「元神」が現れた状態とは、概念もイメージもなく、作為性もない無心の状態です。
基礎の段階の「煉己築基」では、初歩的な「性功」を行います。
伍柳派はこの段階を「煉己還虚」と表現しますが、「煉己」の「己」は、「後天の神」であり、「還虚」に対応するのは「先天の神」です。
最後の「煉神還虚」の段階では本格的な「性功」を行いますが、いずれも、無為無心の状態になります。
「煉神」の「神」は、「先天の神」です。

一方、「命功」においては、「煉己築基」の段階では、「後天の精・気」をコントロールし、煉りますが、これを行うのは作為的・意識的な「後天の神」です。
しかし、「煉精化気」以降の段階では、「先天の精・気」を煉りますが、これを行うのは無為の「先天の神」です。
まったくの作為性、コントロールの意識なしに「命功」の瞑想はできませんが、作為性を最小限にしてこそ、「先天の精・気」が動きます。


<龍虎の交わり>

房中術を行う陰陽双修派の論理では、男女が互いに先天の気を補うために房中術が必要と考えます。

つまり、男性の場合は、先天の純陽の体が破れて先天の陰気が生まれ、女性の場合は先天の純陰の体が破れて先天の陽気が生まれます。
そのため、男性は女性から先天の陽気をもらい、女性は男性から先天の陰気をもらいます。
卦で言えば真ん中の爻に当たる部分です。

陰陽双修派は、房中術によってしか、この自分に欠けた先天の気を補えないと考えます。
ですが、清修は、自分の体の中で、先天の陰陽二気を結んで「胎」を生み出します。

陰の気は、腎臓の部分にあり、ここから陽の気が生まれますが、これを「竜」と表現します。
陽の気は、心蔵の部分にあり、ここから陰の気が生まれますが、これを「虎」と表現します。
この二気を結んで胎を作りますが、これを「竜虎の交わり」と言います。

「竜虎の交わり」を重視するのは、唐末から五代の鍾呂金丹派です。

また、陽から生まれる陰である「虎」は、「た女(「た」は女偏に宅)」とも表現され、一方、陰から生まれる陽である「竜」は「嬰児」とも表現されます。


<五行と黄庭>

陰陽五行説では、対極→陰陽→五行→万物と展開します。
内丹法では、五行は五臓に相当します。
そのため、気を五臓の巡回ルートで移動させることが、鍾呂金丹派などでは重視されました。

五臓の気のルートは、肝(木)→心臓(火)→脾臓(土)→肺(金)→腎臓(水)という五行の順番で考えるのが一般的です。

陰陽の「竜虎の交わり」の主役である心臓は「火」、腎臓は「水」に対応します。
ですから、これは火と水、「腎水」と「心火」の交わりでもあります。

また、五行で、方位が中央に位置するのは土で、色は黄です。
そのため、陰陽である竜虎が交わったものを育てる場所としては、五臓の中央である脾臓を重視し、それを「黄庭」と呼びます。
ここは、中丹田と下丹田を結ぶ場所でもあります。

また、五臓の神を上丹田で会合させることを、「五気朝元」と呼びます。


<外丹の比喩>

上述したように、内丹では、先に発達した養生法の外丹の用語を比喩で使います。

外丹(煉丹術)では、鉱物などの素材を「薬」、それを化学変化させて製造する生成物を「丹」と呼びます。
この外丹の比喩から、内丹における素材である先天の精・気・神を「薬」、それを変化させたもの、胎も含めて「丹」と表現します。

内丹の「薬」には、「外薬(小薬)」、「内薬」、「大薬」などがあります。
内丹の「丹」には、「金丹(玉丹)」、「金液(玉液)」などがあります。

また、性功を「内薬」、命功を「外薬」と表現することもあります。

外丹では、「水銀(汞)」が陰とされ「兎」とも表現され、「鉛」が陽とされ「烏」とも表現されます。
そのため、内丹の「竜虎の交わり」で生まれる「虎」は「水銀」、「兎」、「竜」は「鉛」や「烏」とも表現されます。

外丹では、化学反応をさせるためには加熱が欠かせません。
内丹でも、意識(神)をかけて気を煉ると、熱が発生します。
そのため、内丹は、熱のコントロールを「火候」と呼びます。 

外丹の化学反応では、加熱するための「炉」、そして「鼎(鍋)」を使います。
そのため、内丹法では、気を体内で移動・循環させますが、その主要なスポットの下端は「炉」、上端は「鼎」と表現されます。

「煉精化気」の段階の行法では、「炉」は下丹田、「鼎」は上丹田となり、その距離が長いのでこれを「大鼎炉」、または「大河車」と表現します。
「煉気化神」の段階の行法では、「炉」は下丹田、「鼎」は中丹田となり、その距離は短いのでこれを「小鼎炉」、または「小河車」と表現します。

また、房中術では、男性を「乾鼎」、女性を「坤炉」と表現します。

「煉精化気」の段階で、「外薬」を「大河車」で回すことを「小周天」と言い、これによって「精」を「炁」に変えます。
「煉気化神」の段階で、「大薬」、「聖胎」を「小河車」で回すことを「大周天」と言い、これによって「炁」を「神」に変えます。

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