バーヒルと盲人イサク(フランスのカバラ) [中世ユダヤ&キリスト教]

917年頃に、バビロニアからフランスのプロヴァンスやラングドックに、ユダヤ教の秘教が伝わりました。
カバラは、これらの影響を受けて、12Cに、プロヴァンスやラングドックで、「バーヒル(光明の書)」や、盲人イサクらによって生まれました。

その後、13Cには、スペインに引き継がれ、カバラ最大の聖典「ゾーハル(光輝の書)」などが著され、カバラ思想が一つの総合された姿で確立されました。

この稿では、プロヴァンスとラングドッグで誕生したカバラについて紹介します。


<流出に関する論説>

12C初頭、プロヴァンスでは、ヤコブ・ハ・ナジールが「流出に関する論説(マセヘト・アツィルート)」を著しました。

ここには、階層的な4つの世界の理論があります。
これは、後に、「アツィルト(流出界)」、「ベリアー(創造界)」、「イェッツラー(形成界)」、そして、「アッシャー(活動界)」と呼ばれる4世界です。

4世界説は、カバラ思想の1つの基盤です。
直接的な対応はありませんが、プトレマイオス派ぐのーシス主義の4世界(アイオーン、中間界=恒星天、7惑星天、地上)とも似ています。


<バーヒル(光明の書)>

バビロニアから伝わった「大いなる秘密」(失われた書です)などの秘教を、1180年頃に、プロヴァンスで新しくまとめられたのが「セフェル・ハ=バーヒル(光明の書)」です。

この書は、聖書注釈を対話形式にしたもので、決して体系的に記述された書ではありません。
また、用語やテーマから、グノーシス主義の影響を感じさせます。

輪廻についての触れる最初のカバラの書でもあります。
そして、すべての魂が登場した後に、メシアが登場すると語ります。

この書では、「形成の書」ではピタゴラス的な概念に近かった「セフィロート」を、動的な神の諸力として扱っているのが特徴です。
この宇宙的諸力を「コホト」と表現します。

「セフィロート」という言葉は、「サファイア」と結び付けられています。
また、「セフィロート」は、「マアマロト(言葉)」であるとされますが、これは「ロゴス」という意味です。
さらに、「ミドト(様態)」でもあるとされますが、この概念は、後にスペインのイユーン派において、「セフィロート」に変わる概念とされます。

「セフィロート」の数の10は、十戒に結びつけられています。
そして、その有機的関連が、「生命の樹」の比喩で、第2セフィラから逆向きで第10セフィラまで成長すると語られます。
ですが、「生命の樹」の図像はまだ生まれていません。

各セフィロートの名称・意味は、後世に定式化されるものと、異なっている部分もかなりあります。

第2セフィラの「ホクマー(知恵)」は、樹を潤す水とされます。
また、第10セフィラが「ホクマト・エロイム(神の知恵)」であり、この2つが対となっています。
ここには、「二重のソフィア」というグノーシス主義の影響が見て取れます。

第3セフィラの「ビナー(知性)」は、諸世界の母とされます。
第4セフィラ「ヘセド(恩寵)」、第5セフィラ「パハド(厳格)」は、ハヨート、セラフィムの両天使とされます。
第6セフィラは「ラハミーム(慈悲)」、あるいは「エメト(真理)」は、栄光の玉座であるとも表現されます。
第7セフィラは「イエソド(基礎)」に相当するもので、これは後世に第9セフィラになります。
第10セフィラは「シェキナー」でもあり、これは神の「妻」であり、「娘」であり、「イスラエルの教会」であり、そして、人間の「ネシャマー(魂)」でもあるとされます。


<盲人イサク>

ラングドックのナルボンヌでは、ラビのアブラハム・ベン・イツハクの学塾が大きな役割を果たしました。
彼の義理の息子アブラハム・ベン・ダヴィッドが二代目の塾長で、三代目が盲目イサクです。

盲人イサクは、「セフィール・イエッツラー(形成の書)」の注釈を口述で行いました。

彼は、新プラトン主義を取り入れて、神の「無」としての側面の「エン・ソフ(無限)」、そして、そこからの世界の流出について理論化しました。
「エン・ソフ」の概念は、彼に起因すると考えられます。

また、瞑想と懺悔を通した神への上昇に関しても語りました。
「バーヒル」と同様、「シェキナー」についても語りました。

盲人イサクは、神性の3つの次元、「エン・ソフ(無限)」、「思惟(マーシャバ)」、「言葉」を区別しました。

第1セフィラの「ケテル(王冠)」は「アイン(無)」とも表現され、「エン・ソフ」のもう一つの姿です。
「思惟(マーシャバ)」は、第1セフィラと第2セフィラの間に当たり、「ハスケル」と表現され、ギリシャ哲学の「ヌース」に相当します。
「言葉」は「ホクマー」以下のセフィロートで、各セフィロートはそれぞれにアルファベットが対応します。

人間の思惟と、神の純粋な思惟とは次元の異なるものですが、断絶があるわけではありません。
盲人イサクは、「イェニカ」という瞑想法と説きました。
これは、瞑想の対象を、「形をとった本質」→「形をとらない本質」→「本質に関する思惟(マーシャバ)」→「思考の原因(エン・オフ)」と、順に上昇していくものです。

彼は、セフィロートの名称を、第4は「ケデュラー(偉大)」、第5「ゲブラー(権力)」、第6「ティフェレト(美)」、第8「ホド(威厳・栄光)」としました。

彼の弟子には、「10種のセフィロートに関する注釈」を著し、イサクの「エン・ソフ」の思想を深めたアズリエル・ベン・メナヘムなどがいます。
彼はセフィロートを3つの世界(思想、魂、有形)に対応する区分で考えました。

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