イユーン、ゾーハル、テムナー(スペインのカバラ) [中世ユダヤ&キリスト教]

12Cにフランスのプロヴァンスやラングドックで生まれたカバラは、その後、13Cにはスペインに引き継がれ、カバラ最大の聖典「ゾーハル(光輝の書)」などが著され、カバラ思想が一つの総合された姿で確立されました。

その後、スペインからのユダヤ人の追放をへて、カバラはパレスチナなどでさらなる発展をします。

この稿では、13Cのペインのカタルーニャやカスティーリャで発展したカバラについて紹介します。


<イユーン(思索の書)とミドト>

13C初め頃、スペインで最初にカバラが研究されたのは、カタルーニャ地方です。
トレドのイユーン派が代表的存在で、「セフェル・ハ=イユーン(思索の書)」、「セフェル・ハ=イフード(結合の書)」などを著しました。

イユーン派で特徴的なのは、10の「セフィロート」ではなく、13の「ミドト(様態)」を中心としたことです。
「ミトド」は、隠れた栄光から生じる神の様態・力です。
まず、「原初のエーテル」が存在し、13の「ミトド」のカップルが生まれます。

13の「ミトド」と10のセフィロートの対応は、10のセフィロートの上に3つの「ミトド」に当たる「原初の内密な光」、「透明な光」、「明るい光」があると、しました。

また、カタルーニャでは、ジローナが現在のセフィロート名で、その関連を「生命の樹」として説きました。


<ゾーハル(光輝の書)とシモン・ベン・ヨハイ>

その後、カバラ研究の中心地は、カスティーリャ地方に移ります。

1280年から86年にかけて、カスティーリャのゲロナで「セフェル・ハ=ゾーハル(光輝の書)」が著されました。
「ゾーハル」は、「聖書」、「タルムード」に継ぐユダヤ教の聖典であり、カバラ最高の聖典となりました。
ただし、「ゾーハル」が初めて出版されたのは、北イタリアで、1558-60年にかけてです。

この書は、2C頃のミシュナー教師のシモン・ベン・ヨハイが洞窟で行った、旧約を注釈する講義と偽って、当時のアラム語を模して書かれました。
全体は20章ほどの断章からなり、決して体系的な書ではなく、説教的な形式のものです。
しかし、その内容は、当時までに発展した様々なカバラ思想が集約されています。

その内の18章の本当の著者は、モーセス・デ・レオン(1240-1305)であると考えられています。
レオンは、グノーシス派のトードロス・アブラフィアのサークルに近かった人物で、マイモニデスを学んだ後、プロティノスの影響を経て、カバラの研究に至ります。
 
「ゾーハル」では、セフィロートを光の流れとして描き、今日に近い形で「生命の樹」が語られます。
ちなみに、一般に「ティファレット(美)」とされる第6のセフィラを、ほとんどの場合、「ラハミーム(慈悲)」と呼んでいます。

「ゾーハル」に特徴的な思想としては、セフィロートの流出において、「生命の樹」の左右の柱に相当する、男性(能動)と女性(受動)の対立原理が、中央の柱に相当する均衡を繰り返しながら、創造が行われるとする点などがあります。

また、「ゾーハル」では、従来のユダヤ教が説いて来なかった「原罪」を説きます。
これは、カタリ派やグノーシス主義の影響でしょう。
「原罪」は、蛇がエヴァを誘惑して結合したことに由来し、これによって「マルクト」が汚されたとします。
「ゾーハル」における輪廻は、他のカバリストとは違って、人への輪廻に限られ、子を産まなかったゆえに再度、人間へと転生するということが説かれます。

また、アブラハム・アブラフィアの弟子でもあったヨセフ・ギカティラは、預言カバリストでしたが、シモン・ベン・ヨハイとも交流を持って神智学カバラに転向しました。
そして、「シャアレイ・オラー(光の門)」を著して、聖書のモチーフを元に、セフィロートの象徴を解説しつつ、それを発展させました。


<グノーシス主義系グループと悪の問題>

「ゾーハル」とほぼ同時期のカスティーリャでは、イサク・ハ=コーヘンや、ジャコブ・ハ=コーヘン、トドロス・アブラフィア(1220-1298)らの、2元論的・グノーシス主義的なカバリストのグループの活動があって、モーセス・デ・レオンとも交流がありました。
彼らは、悪の問題を中心テーマとしたカバラ思想を展開しました。

通常の聖なる10のセフィロートとは異なる、「左」からの10のセフィロートの流出の説を唱えました。

また、サマエルとリリトによる悪の王国と、神の側の戦いというテーマも語られます。


<テムナー(形象の書)と世界周期論>

14C初頭頃に、おそらくスペインでなくビザンツ帝国のどこかで、「セフェル・テムナー(形象の書)」が著されます。
この書には、世界周期論をセフィロートや律法(トーラー)と結びつけた興味深い思想が見られます。

13C頃には、カバラの一部で、世界の創造・終末は一回限りのことではなく、7回繰り返されるとする思想が生まれました。
1つの世界は誕生後6000年経つとメシアが現れ、7000年で終末を向かえ、それが7回繰り返して、最終的な終末を迎えると考えました。

「テムナー」では、最初の世界は、第4セフィラ「ヘセド」に対応し、それ以降の世界は第5から第10セフィラに対応します。
そして、最後の終末には、世界は第3セフィラ「ビナー」に戻ると考えました。

また、律法に関しては、それぞれの世界において、7度、異なる律法がもたらさせるとします。
「テムナー」以前に、カバラには、現在の律法は「知恵の樹」が支配する時代の「創造の律法」であるのに対して、終末には、「生命の樹」に対応する「流出の律法」がもたらされるという考えがありました。
「テムナー」では、現在の周期の律法は厳格な裁きに対応しますが、次の周期はユートピアの周期となり、律法の見えない文字が浮かび上がって、禁止命令のないものになるとします。

こういった世界周期論、循環宇宙論は、古くはバビロニアの宇宙像やゾロアスター教にありますが、ほぼ同時代のイスラム教イスマーイール派が、7周期という点でも、律法(シャリーア)が更新されるという点でも似ていて、その影響を受けたと思われます。


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