エレウシス秘儀 [古代ギリシャ]

エレウシスの秘儀はとくても古く、アテネ近くのエレウシスで、BC15C頃には始まったようです。

エレウシス秘儀では、人間の霊魂が死後に冥界に下ってから神のもとに至るまでの旅を、神話に重ねて体験します。
それによって、参入者に「死後の祝福」を約束しました。

ギリシャの伝統的な死後観では、普通の人は死後に地獄のような冥界に行きますが、一部の英雄達は海の彼方の至福者の島か冥界にあるエリュシオンの野に行きます。
エレウシス秘儀の目的は、死後にエリュシオンの楽園に行くことだったのでしょう。
後のオルフェウス教団やピタゴラス教団は、それを輪廻からの解脱と理解しますが、エレウシスの秘儀は輪廻思想を持っていなかったはずです。


エレウシス秘儀が主題とするのは、ペルセポネーの神話です。

中心になるテーマは、冥界王ハデスにさらわれた麦の少女神ペルセポネーを、地母神・麦の母神であるデルメル(デーメーテール)が取り戻そうとしましたが、1年のうちの1/3は冥界で暮らさざるをえなくなったという話です。
ペルセポネーの死と復活がテーマとして含まれます。

季節循環の穀物神話としては、ペルセポネーが冥界にさらわれるのは種が地の下に播かれることを、デルメルとの再会は発芽(あるいは穂の実り)に対応すると解釈できます。
そして、秘教的解釈では、死んだ魂であるペルセポネーは、大地の母神、あるいは麦の母神であるデルメルの再生させる力、生む力によって、純粋な魂として復活するのです。

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*デルメル

エレウシスの秘儀には、アテナイ近郊のアグライで毎年春に行われる「小祭」と、アテネとエレウシスで毎年秋の種蒔きの時期に8日間で行われる「大祭」がありました。
「小祭」ではペルセポネーに関する「小秘儀」が行われ、「大祭」では「大秘儀」と「奥義秘儀」が行われました。
また、他にも、「大祭」と同時期に女性だけで秋に行われる「テスモフォリア祭」など、いくつもの祭りがありました。

「大秘儀」の実体は不明ですが、以下のようなテーマの順に進んだと想像されています。
まず、「ペルセポネーの略奪」、そして、「ペルセポネーとハデスの聖婚」、「デルメルの悲嘆と探索」、「デルメルとゼウスとの聖婚」、「ペルセポネー発見と少年神の誕生」、「デルメル(=ペルセポネー=イアッコス)との合一」です。

参入者は、まず、断食をし、幻覚作用のあった麦ハッカ水のキュケオンを飲みます。
そして、衣服を抜いだり、目隠しをしたりして、ペルセポネーの探索のために冥界に降りていきます。
冥界の川を越えたり、審判と罪の浄化を受けたりしたかもしれません。

また、デルメルがゼウスによって暴力的に犯されるという聖婚が、女性司祭と男性司祭によって行われたとも言われます。
そして、少年神イアッコスの誕生、ペルセポネーの発見、光の部屋で最奥義を開陳が行われました。
これは、刈り取られた麦の穂が無言で示されたのだという説があります。
イアッコスとぺルセポネー、麦の穂はどれも同じく、復活する魂であり、霊魂の神性を象徴します。
秘儀参入者は自らをこれと同一視するのでしょう。

その後、新しい衣服に着替えて、地上へと戻ります。

このようにエレウシスの秘儀では、麦の霊の循環を表現する神話に重ねて、人間の霊魂が死んでから神のもとに至る旅を、あらかじめ体験させるものでした。


エレウシス秘儀では、神々の暗黒面が重視されることが特徴です。

ペルセポネーを失って悲しむデルメルは、「黒いデルメル」、「復讐のデルメル」とも呼ばれます。
発見されるペルセポネーは「その名を口にすべからざる少女」と表現され、彼女は2つの顔と4つの目を持っていたと考える者もいます。
2人の冥界の女神としての黒い女神は「ブリーモー(恐怖を呼び起こす女神)」と呼ばれます。
この冥界の地母神的な存在である「ブリーモー」が魂を復活させるのです。

聖婚の後、秘儀では「ブリーモーがブリーモス(恐怖を呼び起こす少年神)をお生みになった」と宣言されます。
少年神のイアッコスはデルメルとゼウスの息子と考えられていますが、角を持つディオニュソスであるとする者もいました。

エレウシス秘儀においては、霊魂の神性は、時には異形の姿をした豊饒の力を持つのは地下的存在なのです。

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