黄金の夜明け団のエノク魔術 [近代魔術]

イスラエル・リガルディーが「エノク魔術こそは、黄金の夜明け魔術体系全体の徹底的かつ包括的な総合物を提供する」(「黄金の夜明け」)と書いているように、黄金の夜明け団(以下「GD」)の魔術実践においては、カバラ魔術ではなく、エノク魔術が最上位に位置します。

エノク魔術は、イギリス・ルネサンスを代表するジョン・デイーが、霊媒のエドワード・ケリーを通して、天使から伝えられたエノク語の複数のタブレットと祈祷文に由来します。

*詳細はジョン・ディーとエノキアン・タブレットをご参照ください。

エノク文字は21文字で、魔術の印形の性質を持っているように見えます。
そして、祈祷文のエノク語には文法が認められます。

ですが、エノク語もエノク魔術も、ディー以前には、歴史にまったく痕跡がありません。

また、ディーらは、これらが何を意味し、どう使うべきか、まったく理解できませんでした。
ところが、GDにおいて、エノク魔術は、明快に体系化され、実践的に使用されるものへと、変化しています。

しかし、ディーからGDの間に、誰かがエノク魔術を発展させた痕跡は、見つかっていません。
ひょっとしたら、英国薔薇十字協会の会員で、ディーのエノク魔術の研究家でもあったケネス・マッケンジーが何らかの寄与をしていたのかもしれませんが。
ですから、現時点では、マグレガー・マサースが独力で(あるいは、自分の無意識や霊的存在と交流して)これを行ったと推測するしかありません。

GDでは、カバラの「生命の樹」の象徴体系には、ヘブライ文字、聖四文字などのユダヤの伝統だけでなく、四元素、7惑星、12宮、錬金術などのヘルメス主義の象徴、そして、タロット・カードの象徴などが統合されました。

「エノキアン・タブレット」には、エノク文字の他に、それらすべての象徴、そしてセフィロートが統合されています。
「エノキアン・タブレット」は、「生命の樹」に比較するとはるかに複雑な体系(644の区画に4重の象徴とエノク文字が割り当てられているなど)であり、そこから、目的によって複数の階層の天使名を自在に読み出して、魔術に使用できる点で優れています。

エノク魔術は、5種のタブレット、それから呼び出される4種(4階層)の天使(神格)の名前、4種18個の天使の召喚文、30のアイテールの召喚文から構成されています。

ちょっと複雑になりますが、以下に、簡単にその基礎構造を紹介します。


<タブレットの構成>

エノキアン・タブレットは、4大元素に対応する4つの大きな「天使のタブレット(物見の塔)」と、「霊」に対応する小さな「統一のタブレット」から構成されます。

「物見の塔」という表現は、地上の四方に天使と四大元素の力によって守られる塔が立っている、という考えからきています。

・統一のタブレット:霊   :縦13×横12区画
・天使のタブレット:四大元素:縦 4×横 5区画

「統一のタブレット」の縦は四大元素とタロットの4スートに対応します。
そして、横は「霊」を含む五大元素とタロット・カードのコート&エース・カードに対応します。

統一タブレット.jpg
*統一のタブレット、左から英語版、エノク語版、ピラミッド版
写真は以下すべて、goldendawnshop.comより

4つの「天使のタブレット」は、四大元素と共に、聖四文字やケルビム、12宮、コードカード、召喚や投射の方角などとも対応します。

元素  色 聖四文字(ケルビム) コート札  宮  召喚 投射
・火 :赤:ヨッド(獅子)   :王   :活動宮:南 :東
・水 :青:へー1 (鷲)    :女王  :不動宮:西 :北
・空気:黄:ヴァヴ(人間)   :王子  :柔軟宮:東 :西
・地 :黒:へー2 (牛)    :王女  :   :北 :南

火のタブレット2.jpg
*「火」の天使のタブレット、左は英語版、右はエノク語版

「天使のタブレット」にはいくつかの種類の区画があり、それぞれが、階層の違う神格(天使)の支配領域になっています。

enothtablet.jpg

まず、中央の「大十字」の区画と、四隅の「小角」の区画から構成されます。

・大十字:縦2本、横1本の36区画:12宮・聖四文字 →3大秘密神格・大王・6長老
・小角 :縦6横5の30区画が4つ:四大元素 →天使・大天使・ケルビム天使

「大十」字は、「父」の縦区画、「子」の縦区画、「聖霊」の横区画から構成されます。
また、全36区画が3区画ずつに区分され、それぞれが12宮と聖四文字に対応します。

「聖霊」の区画からは、3文字、4文字、5文字の3種類の神格の名「神の3つの大いなる秘密の神聖名」が読み出されます。
また、「父」と「子」と「聖霊」が交わる中心部の8区画からは、螺旋上に8文字の神格の「大王の名」が読み出されます。
また、「父」と「子」と「聖霊」の各区画から2つずつ、7文字の神格(6惑星に対応)の「六長老の名」が読み出されます。

「小角」は、四元素に対応し、右下が火、右上が水、左上が空気、左下が地です。

さらに、「小角」の区画は、中央の「カルヴァリ十字」の区画と、上左右隅の「ケルビム」区画と、下左右隅の「従属」区画から構成されます。

・カルヴァリ十字:縦1本横1本の10区画:セフィロート・惑星・大アルカナ →天使
・ケルビム区画 :縦1横2が2つの4区画:聖四文字・4宮・4札 →ケルビム天使・大天使
・従属区画   :縦4横2が2つの16区画:聖四文字

「カルヴァリ十字」の10区画は、10のセフィロートに対応するので、「セフィロート十字」とも呼ばれます。
また、上部の6区画のみ、惑星と大アルカナに対応します。

この区画は、縦に読むことで、6文字の「天使の名」が読み出せ、横に読むことで、5文字の命令が読み出せます。

「ケルビム区画」は、聖四文字に対応します。
この区画から4つの4文字の「天使の名」が読み出せます。
また、この4つの名に、「統一タブレット」の文字を1つ足すことで、「大天使的性質を持つ名」が読み出せます。

「従属区画」は、まず、「ケルビム区画」同様に縦に聖四文字が対応し、それぞれのケルビム天使が、縦の区画を支配します。
さらに、この縦にも「聖四文字」が対応します。

読み取れる神格名(天使名)の文字数と、名の総数は、次のようになります。

       名の種類    文字数 総数
・第1の秘密の神格名:3文字:4
・第2の秘密の神格名:4文字:4
・第3の秘密の神格名:5文字:4
・大王の名     :8文字:4
・長老の名     :7文字:24
・カルヴァリ天使名 :6文字:16
・ケルビム天使名  :4文字:64
・大天使名     :5文字:64


<区画のピラミッド>

タブレットの各区画は、平面ではなく、台形ピラミッド形をしています。

ピラミッドの上面に、エノク文字が記されています。
多くは1文字ですが、複数文字の場合もあります。

fire-pyrjpg.jpg
   *火のタブレットのピラミッド版

そして、ピラミッドの4つの側面は、五元素、ケルビム、セフィロート、12宮、デカン、大アルカナ、惑星、地占記号などの象徴が対応し、その色が塗られています。

各区画が4側面を持つことは、エノキアン・タブレットの象徴が4重の構造になっていることの表現です。

つまり、最初のレベルとして、「統一のタブレット」と4種の「天使のタブレット」があります。
次のレベルとして、「大十字」と4つの「小角」があります。
3番目のレベルとして、「カルヴァリ十字」と横に聖四文字に対応する4区画が(2組)あります。
最後に、縦に、「ケルビム区画」と4区画の「従属区画」があります。

1A:統一タブレット(霊)
1B:4つの天使のタブレット(四大元素)
 2A:大十字
 2B:4つの小角(四大元素)
  3A:カルヴァリ十字
  3B:4つの横区画(聖四文字)
   4A:ケルビム区画
   4B:縦4区画の従属区画(聖四文字)

また、プラミッドの中には、それぞれに対応する「スフィンクス」がいます。
それぞれの「スフィンクス」は、4つのケルビムである獅子、鷲、人間、牛を組み合わせた姿をしています。

さらに、ピラミッドの上には、それぞれに対応するエジプトの神がいます。
オシリス、イシス、ネフシス、ホルス、アロウェリスなどなどの多数の神々です。


<鍵(召喚文)>

エノク魔術には、「48の天使の鍵」と呼ばれる召喚文があります。
ですが、最初の鍵には召喚文が必要なく、その後の18個の召喚文のみが知られています。

これらは、大きく分けると4種になります。

タイプAは、「統一のタブレット」全体の天使を召喚できるもので、第1番目の召喚文がこれに当たります。

タイプBは、「統一のタブレット」のE、H、M、Bの文字の天使を召喚できるもので、第2番目の召喚文がこれに当たります。

タイプCは、「統一のタブレット」の特定元素、及び、特定の「天使のタブレット」の天使を召喚できるもので、第3から第6番目の召喚文がこれに当たります。

ダイプDは、特定の「天使のタブレット」の、異なる3元素の小角の天使を召喚できるもので、第7から第18番目の召喚文がこれに当たります。

そして、実際の召喚には、召喚文を組み合わせて使います。

「統一のタブレット」の天使の場合、A→B→C→名 となります。
「天使のタブレット」の同じ元素の小角の天使の場合、C→名 となります。
「天使のタブレット」の異なる元素の小角の天使の場合、C→D→名 となります。

そして、「大王」と「長老」を召喚する場合は、六芒星儀式を使います。
カルヴァリ十字の天使名は、その小角を支配するものであり、予備的召喚において使います。


<アイテール>

エノク魔術には、「30のアイテールの鍵(召喚文)」と呼ばれる召喚文があります。

エノク魔術における「アイテール」は、30の階層を持つ霊的世界のことです。
各アイテールの名前は、「LIL」、「ARN」…「TEX」という具合に、3文字でできています。
30のアイテールは、セフィロートやカバラの4世界との対応はありません。

アレイスター・クロウリーは、各アイテールへのアストラル・プロジェクションによるヴィジョンを、「春秋分点」誌上で公開し、後に「霊視と幻聴」としても出版しています。

例えば、彼によれば、8番目のアイテール「ZID」には、聖守護天使がいます。
また、セフィロートで言えば3番目と4番目の間にあるような「深淵」が、10番目と11番目のアイテールの間にあります。

*クロウリーのヴィジョンについては、姉妹サイトのページも参照してください。


<他の利用法>

エノキアン・タブレットには、天使の召喚以外にも、使用法があります。

ひとつは、各区画に対して、「スクライング」や「アストラル・プロジェクション」の霊視を行なうことです。
簡単にその方法を書けば、各区画のピラミッドの中から上昇して、エジプト神を召喚し、スフィンクスを顕現してもらい、知識を得ます。

また、「エノキアン・チェス」があります。
これは、遊戯というより占いです。

その方法は、4人でプレイし、2人で同盟を組んで、サイコロを使ってその数だけ駒を動かします。
盤は、占う内容に対応する元素の「天使のタブレット」を選び、その4つの従属区画をつなげたものを使います。
駒はエジプト神で、キング(オシリス)は霊、クイーン(イシス女神)は水、ナイト(ホルス神)は火、ビショップ(アロウエリス神)は風、カースル(ネフシス女神)は地、ポーン(カノープス4神)を象徴します。
占いの内容を象徴する駒としてプター神を、その内容に象徴的に対応する区画に置き、キングはそこに向かい、留まる、というものです。

「薔薇十字チェス」というのもあって、これは4つのタブレットをつなげたものを盤とします。

これらのチェスは、初期には行われたかもしれませんが、ほとんど継承されなかったようです。


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