クロウリーの魔術思想、セレマ [近代魔術]

前ページでは、アレイスター・クロウリーの生涯と「東方聖堂騎士団(以下OTO)」の歴史を書きましたが、このページでは、彼の魔術思想、「セレマ」についてまとめます。

テーマ、キーワードは、「真の意志」、「ホルスのアイオーン」、「セト=ホール・パアル・クラアト」、「ババロン」、「獣」、「性魔術」、「ヨガ」、「薬物」などです。


<クロウリーの魔術思想>

クロウリーの魔術思想、その教義は、「セレマ(テレマ、意志)」と表現されます。
彼の思想の根本は、「法の書」の次の言葉で表現されています。

「汝の意志することを行え、それが法のすべてとなろう」
「愛は法なり、意志の下の愛こそが」
「すべての男女は星である」

最初の文は、フランソワ・ ラブレーの小説の影響が指摘されています。
また、クロウリーは、「法の書」の解題の中で、次のように述べています。

「「普遍的意志」は「愛」と同じ性質のものである」
「私の「愛への意志」という杖の動きに従い、諸君の「光を求める生」を燃え立たせるのだ」
「生の「本質」が純粋な「光」であり、何の束縛も印もない無形の恍惚である…」

つまり、「セレマ」の思想は、「意志」の肯定であり、それは「愛」であり、「生」であり、「光」であり、個人の「自由」です。

ちなみに、「テレマ(意志)」と「アガペー(愛)」、「エイワズ(「法の書」を伝えた存在)」は、ゲマトリアの数値が93で同じです。


また、クロウリーは、「魔術―理論と実践」の中で、次のように魔術を定義しています。
「「魔術」とは、「意志」に従って「変化」を起こす「科学」であり「業」である」
「すべての意図的な行為は「魔術的行為」である」

この定義は、通常の意味での魔術だけでなく、「意志」に従った行為がすべて魔術であるとするものです。

ですが、これらの「意志」とは、個人の日常的自我の意志ではありません。

魔術の定義のすぐ後に、
「意識的な意志と「真の意志」とか心中で葛藤している人は、自分の能力を浪費している」
「自らの「真の意志」を行っている人には「宇宙」の惰力という味方がいる」
と書いています。

つまり、「意志」とは「真の意志」であって、宇宙と合致するものであり、それは、「聖守護天使」がもたらすものなのです。

この構造は、「黄金の夜明け団(以下GD)」の教義と同じです。
ですが、「聖守護天使」の意味付けの点で、異なります。
この点は後述します。


また、「魔術―理論と実践」の中で、いわゆる「悪魔」について、
「「悪魔」は存在しない。…悪魔が統一を持てば「神」となるであろう。」
と書いています。
いわゆる「悪魔」に関しても、これが不均衡なエネルギーであるというGDの考えと同じです。

クロウリーは、よく黒魔術師であると言われます。
彼は、日刊新聞の記事で、「私は黒魔術を行うほどに下劣で馬鹿な人間が存在するとはほとんど信じられないくらいまでにその黒魔術とやらを軽蔑している」と書いていて、これを真っ向から否定しています。

そして、「魔術―理論と実践」の中では、黒魔術についても次のように定義しています。

「「唯一の至高の儀礼」は、「聖守護天使の知識と交渉」の達成である。それはまったき人間を垂直線上に上昇させることである。この垂直線から少しでも逸脱すれば、黒魔術となる傾向がある。これ以外のいかなる操作も黒魔術である。」

ですが、伝えられるクロウリーの人生を見ると、この定義から外れていることを行っていたのではないかと疑います。


<セレマの書>

クロウリーは、性魔術のパートナーや自分が、憑依の状態、あるいは、自動書記のような状態で、数々の書や魔術的な知識を得ました。

A∴A∴では、文書をA級からE級まで等級分けして分類しています。

「聖なる書物」とされるA級の文書は、「V.V.V.V.V.」や「エイワス(エイワズ)」によって与えられた文書です。

A級は13の文書がありますが、クロウリーが詳細な解説を書いているのは、「第220の書(法の書)」(1904年)と「第65の書(蛇に巻かれし心臓の書)」(1907年)だけです。

AB級の文書には、「パリ作業」と「霊視と幻聴」の二冊があり、B級には、「アレフの書』、「トートの書」、「777の書」などがあります。


<ホルスのアイオーン>

「法の書」は、キリスト教などの奴隷的な時代だった「オシリスのアイオーン」が終わり、人間が神性に目覚める「ホルスのアイオーン」が訪れたことを告げました。

「魔術―その理論と実践」では、「イシスのアイオーン」が女族長の時代であり、次の「オシリスのアイオーン」が父長の時代であり、「ホルスのアイオーン」は両性具有の時代であると説明されます。


「法の書」は、「ヌイト」、「ハディト」、「ホルス(ラー・ホール・クイト)」の言葉を、「ホール・パアル・クラアト」の使いである「エイワス」が代弁したものを、クロウリーが記したものとされます。
クロウリーのセレマの教義では、「ヌイト」、「ハディト」、「ホルス」の3神が至高の根源神です。

「法の書」、「魔術―理論と実践」などによると、女神「ヌイト」は、「無限の空間」であり、「円」、「0」です。
一方、「ハディト」は、「偏在する点」であり、「中心」、「顕現」、そして、「蛇」です。
「ホルス(ラー・ホール・クイト)」は、両者の統一、結合であり、「1」、そして、戦争と復讐の神です。

そして、OTOの文書(「神々の本性について」)によれば、「ハディト」は「男根」を身にまとっていて、子である「ラー・ホール・クイト」は、地上の「太陽―男根」です。

「魔術―理論と実践」では、「ホルス」を「ケテル」に対応させていますが、「777の書」の万物照応表では、「ハディト」を「ケテル」、「ヌイト」を「アイン」に対応させています。

ちなみに、一般に、エジプト神話では、「ヌイト(ヌート)」は夜空の女神であり、その配偶神は大地の神「ゲブ」です。
「法の書」では、「ヌイト」が「夜空」で、「ハディト」が「地球」と読み取れる部分もあります。
ところが、「ハディト」は「セト」のカルデア語らしいのです。
ですが、「セレマ」では、「ハディト」と「セト」とは別の神のように思えます。

一般に、「ラー・ホール・クイト(王冠を戴く制服する幼児のホルス)」は、鷹神「ホルス」の一つの姿であり、「ホルアハティ(東の地平線から昇る太陽神ホルス)」と一体とも考えられます。

また、「ホルス」は、「ホール・パアル・クラアト(ハルポクラテス、蓮の花の上に座る幼児のホルス)」という姿を取ることもあり、前者の姿と対照すると、こちらは「西の地平線に沈む太陽神ホルス」とも考えることができます。

・ラー・ホール・クイト(ホルアハティ)   :東の地平線から昇る太陽神ホルス
・ホール・パアル・クラアト(ハルポクラテス):西の地平線から沈む太陽神ホルス

「法の書」や「魔術―理論と実践」では、両者を統合した存在を、「ヘル・ラー・ハ」と呼んでいます。

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*中央にラー=ホール=クイト、薄くホール=パアル=クラアト、上部にヌイト
(クロウリー版トート・タロット)

ちなみに、GDでは、ラー・ホール・クイト(ホルス)は、入場と攻撃の合図、ホール・パアル・クラアトは、沈黙と防御の合図とされます。

また、一般に、「ホルス」は、その敵であり、悪神とされることもある「セト」と一体と考えられることもありました。

クロウリーの弟子のケネス・グランドによれば、「ホール・パアル・クラアト」は「セト」と同じ神であり、「セト」と「ホルス」は一対の神です。

「セト」は、決して悪神ではなかったのですが、「オシリスのアイオーン」において悪神とされてしまったのだと言います。
また、「セト」はシュメールにもたらされて「シャイタン」になり、ユダヤ・キリスト教では悪魔化されて「サタン」になったのだと。

そして、「セト」と「ホルス」の2神は次のように対象的な性質を持ちます。

・セト (ラー・ホール・クイト)  :受動的:吸収:回帰:南
・ホルス(ホール・パアル・クラアト):能動的:放射:顕現:北

ですから、「ホルスのアイオーン」においては、「セト」=「ホール・パアル・クラアト」は、「ホルス」と一対で一体の神として復権されるべき神であり、「ホルスのアイオーン」を代表する神なのです。
だからこそ、「法の書」を伝えた「エイワス」は、その使いなのです。


<V.V.V.V.V.>

クロウリー自身は、ほとんど説明をしませんでしたが、「ホルスのアイオーン」の救世主は、「V.V.V.V.V.」と呼ばれる存在でした。
これは、「Via Vita Veritas Victoria Virtus(径、生命、真実、勝利、美徳)」とか、「Vir Vis Virus Virtus Viridis(人、力、毒、大胆、緑)」と呼ばれることもあります。

これは、クロウリーの「聖守護天使」であり、魔法名の一つでもあり、「銀の星(以下「A∴A∴」)」を指導する存在なのです。
「V.V.V.V.V.」は、当然、ホルス=セトと直結する存在なのでしょう。
つまり、2元論が転倒されて一元化された、一元化する存在であり、それを強調する点が、GDの「聖守護天使」とは少し異なります。

「聖守護天使」は、GDでは、「真の自己」、あるいは「高次の自己」として、内なる存在としても考えることもありましたが、クロウリーにあっては、外なる客観的で個的な、進化した霊的存在です。

ちなみに、クロウリーは、8番目のアイテールで「聖守護天使」と出会っています。


<ババロン、獣、パン、バフォメット>

「ホルスのアイオーン」では、悪神化されていた「セト」が肯定的存在に転倒されます。
同様に、キリスト教「ヨハネ黙示録」に登場する大淫婦バビロンが、「ババロン(緋色の女)」として、転倒されます。
また、彼女が乗る666の数字を持つ竜、悪魔である「獣」も、肯定的存在として転倒されます。

つまり、「ババロン」は聖母マリアやイシスに代わる存在であり、「獣」はイエスやオシリスに代わる存在です。
そして、これは、性や欲望を肯定する思想の表現です。

クロウリーは自分を「獣」と見なしており、彼の多数いた性魔術のパートナーは「ババロン」の化身なのです。

また、クロウリーは、「魔術―理論と実践」で、「ババロン」を「生命の樹」のビナーに対応づけています。
ビナーは、「深淵」を渡って到達する「ババロン」の宮殿なのです。

ちなみに、クロウリーは、9番目のアイテールで、「ババロン」と出会っています。

この「深淵」を渡ることは、「ババロンの杯へすべての血を注ぐ」行為とも表現されます。
これは、日常的な自我のすべての個性、知識を捨て去り、「無」へと回帰することを意味します。

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キリスト教によって悪魔とされてきた「バフォメット」もまた、転倒されます。
「バフォメット」は、テンプル騎士団が信仰した神であり、ミトラ系イスラムの秘教では筆頭天使のアザゼルとされ、エリファス・レヴィも評価した神でもあります。

「セレマ」においては、クロウリーのOTOの魔法名でもありますが、OTOの第10位階の首領でもあります。
クロウリーは、「バフォメット」を、「獣」と「ババロン」の統合であり、「パン」でもあると考えました。
また、その語が、「父ミトラ」を意味すると解釈しました。

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一般には、「パン」は、牧神であり、下級の半獣神とされます。
ですが、「パン」は古い神であり、オルフェウス教では、原初の両性具有神エロス=ファーネスと同体の神です。

クロウリーは、ギリシャ語の「全(パン)」と解釈し、「777の書」の万物照応表では、「パン」は「0(アイン)」とされています。
そして、男根と女陰の結合とも解釈します。

また、「深淵」を越えることは、「パンの夜」とも呼ばれます。


「セレマ」は「ヨハネ黙示録」の「獣」を転倒しましたが、GDでは、この「獣」は、マルクトの下にある「殻(クリフォト)の王国」の「赤い竜」、ないしは「赤い竜」に食いつかれたアダムカドモンです。
これは、「赤い竜」は不均衡、非統一のエネルギーの象徴です。

つまり、キリスト教が二元論的に実体化した「悪魔」、「獣」を、GDはすでに「赤い竜」として転倒しています。

「セレマ」の「獣」は、GDでは「赤い竜」を眠らせた「啓発された達人」であり、「セレマ」とGDの思想には、根本的な違いはないのではないでしょうか。

「セレマ」の「獣」や「ババロン」という表現は、2元論の転倒を強調してそれを意識化する表現ですが、それゆえに、その表現自身が2元論を逃れ切っていません。


一般に、GD系魔術では霊的存在の召喚に際しては、五芒星を上向きで描きますが、黒魔術で悪魔(クリフォト)の召喚の場合は、下向きで描くとされます。

「セレマ」の場合、悪魔を肯定的な存在として捉え直すため、それを召喚しても、黒魔術とはなりません。
まず、「オシリスのアイオーン」で持っていた道徳観、罪の意識が取り除かれていることが、前提となります。
その上で、心の中で上向きの五芒星を観想した後で、下向きの五芒星を描きます。


<マアトのアイオーン>

クロウリーによれば、「ホルスのアイオーン」は、父権的なアイオーンを克服する「両性具有の時代」のはずです。

ところが、クロウリーは、女司祭が司祭のために儀式を行うのを禁じていたことからも分かるように、男性優位の考え方を持っていました。
ケネス・グラントも、「少なくとも彼自身はシヴァ派、つまり、父権的立場の方に大きく傾いていたのである」と書いています。

そのためか、弟子のフラクター・エイカドは、「マアト(娘、正義の女神)のアイオーン」が、「ホルス(息子)のアイオーン」と平行して、1948年に始まったことを宣言しました。
また、ほぼ同時に、「水瓶座の時代」も始まったと。

彼の主張は、フェミニズム的な女性の霊性の運動とも結びついていきました。

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<ガンサーによるA∴A∴の解釈>

J・ダニエル・ガンサー(ギュンター、フラターK.N.)は、マルセロ・モッタのA∴A∴における高弟であり、SOTOの代表的な魔術師でした。
彼は、2009年に、「子供のアイオーンへの秘儀参入(Initiation in the Aeon of the Child)」を出版し、この中で、A∴A∴の内部で口伝でのみ伝えられていた多くの概念を公開し、「セレマ」の教義の解釈を深化させました。

彼は、現在のアイオーンにおいては、「黄金の夜明け団(以下GD)」の「L.V.X.の術式」が時代遅れになっていて、「N.O.X.の術式」へと移行したことを強調します。

「L」は嘆きのイシスの合図、「V」はテュフォンとアポフィスの合図、「X」は蘇りしオシリスの合図です。
「L.V.X.」は、死と復活のオシリスを意味し、意識の光を意味します。

ガンサーによれば、「L.V.X.の術式」は、「オシリスのアイオーン」のGDの魔術では、内陣に入る5=6アデプタス・マイナー(ティファレト)の術式でしたが、「ホルスのアイオーン」では、単なるマルクトの術式に変化したのです。

つまり、「L.V.X.」の術式は、ティファレットではなくマルクトにまで、「聖守護天使」を降臨させるための光による召喚の術式であり、A∴A∴では、0=0ニオファイト儀式となります。
「聖守護天使」は、落下する災いの星として、人間の魂の最下層に宿る存在なのです。
これは「セレマ」が性も含めた肉体を肯定、聖化することと関係するのでしょうか。

いずれにせよ、GD魔術を根本的に変えることになります。

一方、「N.O.X.の術式」は「ホルスのアイオーン」の術式であり、これは「深淵」を超えて「無」へと回帰する、そして、3rdオーダーに入るための術式です。
つまり、「N.O.X.」の三文字は、「パンの夜」を示し、「ババロンの杯へすべての血を注ぐ」ことを意味します。

また、ガンサーは、ホルスが両性具有の総合の神であることを強調しました。
ホルスは、その座を西と東の二つの地平線上に占める存在「ホルス=フルマキス」であり、これは両極を「統合」する存在です。

そして、ガンサーによれば、A∴A∴の道(大いなる作業のプロセス)は、「回帰の径」であり、「死→生→誕生→妊娠→受胎→統一化→無化」と進みます。
一方のOTOの道は、「永久の径」であり、「彷徨える自我の拘束→誕生→生→死→死後の世界への参入→消滅」と進みます。
この2つの道は、生と死の順番が反対になっています。

A∴A∴の道は、オシリスの死の祝祭から始まり、地下世界を旅し、やがて地平線から上昇する太陽と同一化します。
そして、深淵に至った志願者は自己を放棄した純粋無垢な新生児と見なされ、その誕生から更に回帰の道を辿って、やがてヌイトの子宮たるビナーにおいて受胎します。
そして、再生して「父」と合一し、虚無へと回帰し、消滅します。

A∴A∴の3つのオーダーは、次のような意味と課題があります。

1 G∴D∴:殻の中の均衡   :聖守護天使のヴィジョン
2 R∴C∴:小径における均衡 :聖守護天使の知識と会話
3 S∴S∴:立法石における均衡:深淵横断

1の「聖守護天使のヴィジョン」は、実際にはヴィジョンではなく、「聖守護天使」が破壊力を伴って、0=0ニオファイトのネフェシュ(動物魂)に降下して、未制御な魂を根底から変成する作業を開始するのです。
そして、「聖守護天使の知識と会話」のための強固な基盤 (イェソド) を形成していきます。

ちなみに、『H.H.H.の書』には、G∴D∴での三つの瞑想、「MMM」、「AAA」、「SSS」が記されています。

「MMM」の瞑想は、A∴A∴の1=10ニオファイトの課題である「聖守護天使の幻視」です。
ヨガの坐法で、次のような瞑想を行います。

夜の海が稲妻に引き裂かれる、毒蛇に22回噛まれる、自分を卵として観想する、赤と緑と銀と黄金の十字架に取り囲まれる。
そして、聖守護天使に一心に祈り、 L.V.X.の光で恍惚になる。

「AAA」の瞑想は、2=9ジェレイターの参入儀式「死体の書」のストーリーの瞑想です。
黄金の夜明け団の5=6 ジェレイター・アデプタス・マイナーの参入儀式に対応します。
次のような瞑想です。

死んで、ミイラとして防腐処理を施されます。
そして、長い眠りからの目覚め、生命である息と光、声と口づけが(聖守護天使からの接吻)到来します。
その後、地下世界を旅し、卵へと変成し、東の地平線から太陽として上昇します。

「SSS」の瞑想は、3=8プラクティカスに課された課題です。
この瞑想は、クンダリニーの覚醒を目指すものです。

まず、自分の脳が大いなるイシスの子宮、星々の女神ヌイトの身体そのものであると観想します。
そして、基底部をオシリスの男根、ハディートであると観想します。

2の「聖守護天使の知識と会話」は、5=6アデプタス・マイナーで始まりますが、本当に達成するのは、「深淵」を越えた後です。


<ヨガ>

クロウリーは、ベネットの影響を受けて以来、東洋の神秘思想を魔術に取り入れています。

早期の文献としては、1910年発行の『春秋分点』第一巻四号では、東洋の体系について、ヴェーダンタ哲学、各種ヨガの紹介と彼の実践記録、チャクラやムドラーの解説、仏教教義(八正道、マハサティパッターナなど)、易経などを紹介しています。

また、A∴A∴の位階にも、ヨガの八支則と仏教の「観(ヴィパッサナー)」の訓練を下記のように配当しています。

・2=9       :第3支アーサナ、4第支プラーナヤーマ
・4=7       :マハー・サティ・パッターナ(大念所) 
・ドミナス・リミニス:第5支プラティヤハーラ、第6支ダラーナ
・5=6       :第7支ディヤーナ
・8=3       :第8支サマディ

また、クロウリーは、諸界上昇の技法についても、ヨガの技法と関連付けて書いています。
見者は諸界への上昇の最中、常に安定したアーサナを保ち、ダラーナ(集中力)が必要であると。

クロウリーは、クンダリニーがスシュムナー管上のチャクラを上昇する過程と、見者が「生命の樹」の「中央の柱」のセフィラを上昇する過程が類似しているとして、その比較をしています。
そして、OTOの最初の「大地の男の三組」の6位階を、7つのチャクラ(第0は2つ)と対応させています。

また、現代のA∴A∴では、ヴィヴェー・カーナンダによる「ラージャ・ヨガ」や、ハタ・ヨガ系聖典の「シヴァ・サンヒター」、「ハタ・ヨガ・プラディピカ」、「道徳経(老子)」などを、読書カリキュラムに入れています。


<性魔術>

クロウリーは、1914年に、OTOの第7位階以上のための性魔術に関わる指南書を書きました。

第7位階のための「神々の本性について」では、大宇宙の中に存在する唯一の神は「太陽」であり、小宇宙には「太陽の副官」として男根を持つ人間がいる。
そして、様々な地上の神々を、男根や精子と関係づけて解釈しています。

第8位階のための「神々と人間との秘密の婚姻について」では、マスターベイションによる性魔術の3種類の方法について解説しています。
まず、「大いなる婚姻」では、女神を観想し、召喚し、強姦します。
「下等なる婚姻」では、エノク魔術で四大元素の霊を召喚し、ピラミッド型の護符に精液をつけます。
そして、「神聖王国」では、四大元素の男女の霊の魔除けを作って、2霊に多くの子供を産ませます。

第9位階のための「愛の書」では、異性間、及び同性愛の性魔術について解説しています。
ここでは、神への愛を高揚させて男女で性行為を行い、その男女の混合液を飲み干します。

また、「愛の書」の解説文「魔術の技法について」では、あらゆる性技、薬物を使用して性的興奮を与え続け、寝落ちと刺激による覚醒を繰り返し、覚醒とも睡眠とも言えない状態になって神と交信すること、究極的には、そのまま亡くなることを説いています。

第10位階のための「ホムンクルス」では、懐胎3ヶ月の女性を魔法円に入れて、霊を召喚して胎児に宿らせることで、ホムンクルス(人間の魂を持たない人間的存在)を作る方法を説きます。


西洋魔術における性魔術には、様々なものがあります。

一般に、魔術の実践では、変性意識状態を引き起こし、潜在意識に象徴などを伝える必要があります。
性魔術は、この変性意識を、性的なオルガズムによって引き起こします。
これが、性魔術の一つの意味です。

ですから、性的なオルガズムの状態で、象徴的なイメージや印形を観想して、霊的存在を召喚、一体化したり、護符を聖別します。

また、人間がイメージを思い描くと、それがアストラル・ライトの中に創造されますが、魔術は、そこに力を注ぎ込んで、長く存在させます。
オルガズムの時に思い描いていたものは、大きな力が注がれるわけです。
また、自分にとっての何らかの性的なタブーを初めて破ると、その時にエネルギーが開放され、それが利用できます。

もう一つの意味は、精液や女性の性液、その混合物、あるいは、そこに含まれるものの利用です。
たとえば、護符を作る時に、精液や混合液を護符につける、液で護符に図形を描くなどです。

さらに次の意味は、子供を作ることです。
例えば、四大の精霊を召喚して、射精を伴う性魔術によって霊的な子供を生み、使い魔にしたり、他の霊的存在との間のメッセンジャーにします。

精液や男女の混合液などについて、クロウリーは、
「神はある種の分泌液を食べている」(「エネルギーとなった熱狂」)
「「男根」は唯一の「光」の与え主なのである」(「神々の本性について」)
「霊薬は…全「宇宙」に存在する中で最も強力で…「太陽」そのものである」(「神々と人間との秘密の婚姻について」)
と書いています。

OTOやクロウリーは、タントリズムを取り入れていると言われます。
ですが、密教やヒンドゥー系のタントリズムでは性ヨガを行うことがありますが、魔術は、密教用語で言えば雑密という低い段階に固有なものです。
房中術を行う仙道でも同じです。

性ヨガは、直接的には中央管にプラーナを入れる、あるいはクンダリニーを上昇させる、あるいは心滴(ビンドゥ)を溶解して、心身を変容させるために行います。
仙道の房中術は、男女が互いに先天の陰陽の気を補って「胎」を形成するために行います。

後期密教の赤白の心滴(ビンドゥ)を融解して金剛身を作ることや、仙道で命門の先天の精・気から仙胎を作ることは、霊的生理学と霊的修行道を一体化させて理論化されています。
ですが、西洋の性魔術には、それに対応するものはありません。
クロウリーは、東洋の秘教が内に向かう道であるのに対して、西洋の魔術は外に働きかける道であると考えていたようなので、その志向性の違いによるものかもしれません。


<薬物>

クロウリーは、性魔術を行う時に、多くの場合、意識や感覚に刺激を与える他の方法を伴わせていました。
音楽、ダンス、酒、薬物などです。

クロウリーは、あらゆる薬物を摂取して、魔術に役だつかどうか実験しました。
ちなみに、当時、それらは違法ではありませんでした。

もともとは、師匠だったベネットが喘息で、その治療のために、アヘン、モルヒネ、コカイン、クロロフィルムを使っていたので、クロウリーは、彼の影響を受けたのが始まりでしょう。

クロウリーは、「ヘロインとコカインの場合は、あまりありがたいとは思えない。…それでも、私が求めているものは、それらであり、それらだけなのである。」と書いています。
また、ジ・エチル・エーテルにも好感を持って評価しています。

もちろん、クロウリーの後継者の中には、後に、LSDなどの他の薬物を実験した者もいます。


クロウリー関係の日本で出版されている書籍の他に、下記サイトも参照しました。
HierosPhoenixの日記 


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