プロセス指向心理療法のワーク [現代]

アーノルド・ミンデルのプロセス指向心理学」に続くページです。

このページでは、プロセス指向心理療法の様々なワーク(プロセス・ワーク)について、簡単に紹介します。


<ワークと自覚>

ミンデルは、プロセス指向心理療法の手法には「自覚」だけしかないと書いています。
ですが、「自覚」にも様々な種類があります。

ミンデルが、「漂うようなリラックスした自覚」と表現する自覚は、仏教の「観(ヴィパッサナー)」に対応します。
そして、「焦点が合っていて正確な自覚」と表現する自覚は、「止(サマタ)」に対応します。

他にも、ミンデルは、「自覚していることの自覚」、相手(二次プロセス)の立場からの自覚も持つ「複眼的自覚」などをあげています。

ミンデルは、著作「24時間の明晰夢」で、夜の夢見の時にも覚醒時にも「センシェント」な自覚を保ち続けることを「24時間の明晰夢」と表現して、それを目指すことを主張しました。

ミンデルは、この「24時間の明晰夢」を、チベット仏教の「大いなる覚醒」、「仏心」とつながること、ヒンドゥー教の「サハジャ・サマディ」、タオイズムの「無為」であるとも書いています。

24hourluciddreaming.jpg

プロセス指向心理療法の手法には「自覚」だけしかないとは言っても、具体的には、様々な対象と方法があります。

ワークの基本的な方法は、特定の対象を選んで、それを十分に感じること、そして、それらになったり、それらの立場から考えたり、それらを擬人化してコミュニケーションをとって、その正体や希望などを尋ねたりすることです。
あるいは、それをイメージや動作などの様々なチャンネルで表現したり、物語として展開したりします。
もちろん、これらは、半覚醒・半夢見の意識の状態で行います。


また、日常生活の意識に戻って、以上の体験がどのように役立たせることができるかを考えます。

プロセス指向心理学のワークは「プロセス・ワーク」と総称されますが、その対象や方法によって、様々な名称が存在します。

以下、「ワーク」の種類をあげて、簡単に説明します。


<ドリームボディ・ワーク>

一人で内面を対象にして行うワークは、「インナー・ワーク」と総称されます。
これには、以下のような様々なワークがあります。

夢のイメージや身体症状を対象にしたものは、「ドリーム・ワーク(ドリームボディ・ワーク)」です。
夜見た夢の続きを見たり、登場人物や気になるものを対象にして展開したりします。
身体の症状、痛みや慢性症状も「ドリームボディ」の表現と考えて、それを対象とします。

「嗜癖」も同様です。
「嗜癖」には、自己のアイデンティティを支えるものと、アイデンティティと対立する部分を支えるものがあります。

「ドリーム・ワーク」を二人で行うことは、「共に作り出すドリーミング」と呼びます。
これは、解釈者と一緒に夢見し、解釈するワークです。


<センシェント・ワーク>

「ドリーミング」の次元にある漠然とした「センシェント(微細)」な感覚、意味の「エッセンス」(種)を対象にするワークは、「センシェント・ワーク」と呼ばれます。
これは、ユージン・ジェンドリングの「フォーカシング」とほぼ同じです。
この「センシェント・ワーク」は、一種の変性意識的状態が求められます。

「センシェント・ワーク」では、直接「エッセンス」を見つけてそれを感じることもあれば、夢のイメージなどからその「エッセンス」へ遡ることもあります。
そして、次には、それを「展開」させます。
つまり、イメージや言葉にしたり、擬人化して会話したりするのです。


<フラート・ワーク>

プロセス指向心理学では、「ドリーミング」、「ドリームランド」、「合意的現実」の3つのリアリティ間に存在するものがあって、これらを対象とするワークも行います。

「ドリーミング」と「ドリームランド」の間にあるとされるのは、「フラート(フラッシュ・フラート)」で、これを対象とするのは「フラート・ワーク」です。

「フラート(魅惑するもの)」は、ふっと瞬間的に魅力を感じるもの、一瞬、心をよぎるものです。
あるいは、視覚で言えば、周りを見渡して、目を引くもの、なぜが気になって魅力を感じるものです。
ミンデルは、「フラート」がはっきりしない願い事に対する返答だとも書いています。

「フラート・ワーク」でも、まず、「フラート」の「エッセンス」を感じて、その後、展開します。


<秘密のドリーム・ワーク>

一方、「合意的現実」と「ドリームランド」の間に存在するものは、「ドリームドア」です。
これは「ドリームランド」への入口です。
これを対象とするのは「ドリームドア・ワーク」、あるいは、「秘密のドリーム・ワーク」です。

「ドリームドア」は、視覚的には、周りを見渡して、継続的に注意を引いて離さないものです。
会話の中では、今、ここ、私でない誰かとして語られるもの、繰り返し力説する話題だったりします。
他にも、不完全な文章、混ざる外国語、繰り返される言葉、思い出せない言葉、誇張されるもの、良く浮かぶメロディなども、「ドリームドア」かもしれません。

「ドリームドア」を対象にすると、夜に夢を見ない人でも、あるいは、夜に見た夢を対象としないでも、「ドリームランド」に入っていくことができます。

「ドリームドア」のワークもそうですが、日常生活を夢と捉えて、そのどこかに焦点を当てていくワークを、「秘密のドリーム・ワーク」と呼びます。
人間関係を夢と捉えたり、過去の記憶を夢と捉えたりして、それらとワークすることができます。


<人間関係のワーク>

一人で内面に向かう「インナー・ワーク」に対して、人間関係を対象とするワークは「人間関係のワーク」と総称されます。

「人間関係のワーク」で重視され、対象とされるのは、転移、投影、逆投影、「ランク(権力)」、「ドリーミング・アップ」、「シグナル」、「エッジ」、「ビッグ・ドリーム」、「センシェントなもつれ」、など数多くあります。

「ドリーミング・アップ」は、ある人の夢や無意識的な行為が、相手を刺激して感情を作るという作用です。

「シグナル」は、人が会話でコミュニケーションしている時に、本人が意図せずに、会話の内容と違うメッセージを、言い方や表情、動作などを通して送っていることがあります。
これを「ダブル・シグナル」と表現します。
こういった「身体シグナル」も、人間関係の中で表現される「夢」と言えます。
シグナルを対象としたワークは、「シグナル・ワーク」と呼びます。

また、「ドリームボディ・ワーク」の対象だった「嗜癖」も、コミュニティと結びついていることが多いため、コミュニティを対象とした「コミュニティ・ワーク」が必要になることがあります。

人間関係にも「エッジ」があって、特定の人間に対して、何らかの感情から自分を制限している壁です。
「エッジ」を対象とするワークは「エッジ・ワーク」と呼ばれます。

ある人との長期的な関係を、最初の大きな体験の記憶や夢が規定する場合、その体験や夢を「ビッグ・ドリーム」と呼びます。
ミンデルは、それを一種の神話であると言います。

「センシェントなもつれ」とは、人間関係の中で、特定の誰かに属するような形のはっきりしたものではなく、関係の中に微細な雰囲気として存在するものです。
これを対象にするワークは、相手の体に触れていき、ある場所に何か感じたら、それに集中する方法で行います。


<コーマ・ワーク>

「コーマ・ワーク」は、昏睡状態の人とコミュニケーションを行うワークです。
おそらく、これはミンデルによる人類史上初の画期的な発見ではないでしょうか。

昏睡状態の人にも、思考やコミュニケーション能力があって、皮膚感覚による合図、眼球の動き、うなり声、呼吸のリズムなどを通して、長時間をかけてコミュニケーションを行うのです。

ミンデルは、昏睡状態を、選択された必要な一つの「プロセス」として受け止め、「コーマ・ワーク」によって「プロセス」を進展させることをサポートします。

ミンデルは、たくさんの実証を行いました。
そして、そのコミュニケーションを通して、昏睡状態の人が、自分が夢見の状態にあることを自覚し、その夢見を進行させることで、人格を統合・成長させました。
その結果、患者は、奇跡的に覚醒したり、あるいは、人生を完成させて死ぬことを決意したりしました。


<ワールド・ワーク>

「ワールド・ワーク」は、世界的に普遍的なテーマ(人種や男女の差別など)を取り上げて行う一種のグループをセラピーです。
グループをセラピー対象の個人と同様に捉えるのが特徴です。

個人のセラピーでは、「一次プロセス」、「二次プロセス」、「エッジ」を意識して、最終的に「ドリーミング」の観点に立ちます。
同様に、グループ対話では、主流派と非主流派、あるいは、発言されない意見(ゴースト・ロール)、話が進まなくなる「エッジ」などを意識しながら、「場」としての癒しのプロセスを進行させます。

この時、主流派と非主流派を同等に扱うことを「ディープ・デモクラシー」と呼びます。


<道の自覚・ジグザグ歩きのワーク>

ミンデルは、著作「大地の心理学」で、プロセス指向心理学の思想を、あらためて量子力学やシャーマニズム、タオイズムと重ねて解説しながら、「道の自覚(パス・アウェアネス)」や「大地の導き」、「ジグザグ歩き」といった新しい考え方、新しいワークを提唱しました。

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ミンデルは、次のように書いています。

「「大きな自己」は、平行世界の多様性を通して自らを知ろうとする重ね合わせの知性と言える。私はこの知性に参加する活動を「ジグザグ歩き」あるいは「プロセスの知恵」と呼ぶ」

つまり、簡単に言えば、多様性(平行世界)を重ね合わせることで、「大きな自己」が進もうとする方向が分かる、ということです。

以下、ミンデルが量子力学をどのように比喩的に扱いながら、「道の自覚」を説いているかについてまとめます。

まず、量子力学のおける「場(量子場)」と「粒子(量子)」の関係を、「センシェント」な領域の「大きな自己」と、それが展開した「ドリームランド」、「合意的現実」の領域の様々な人格などに喩えます。

ミンデルは、「大きな自己」が波動関数であると書きます。
そして、「粒子」を自己(一次プロセス)、「反粒子」を夢の登場人物(二次プロセス)に喩えます。

そして、「センシェント」な領域は、非時間的かつ非局所的で、観念と出来事がもつれている、つまり、「量子もつれ(エンタングルメント)」の状態にあると喩えます。
「量子もつれ(エンタングルメント)」の状態は、人間が「一次プロセス」では分離しているように見えても、「二次プロセス」ではつながっていることにも喩えます。

また、ミンデルは、一つの「大きな自己」が、多様に展開したそれぞれを、量子力学の多世界解釈の「平行世界」で喩えます。
そして、「大きな自己」が最終的に進む方向を、それらの「重ね合わせ」、「最小作用」と喩えます。

つまり、「プロセス」の進展する方向は、多様性の「重ね合わせ」として存在するのです。
そして、この方向は、量子力学でファインマンが言う「最小作用」の方向であると喩えられます。

この方向性を理解することは、「道の自覚(パス・アウェアネス)」とも表現され、私たちに本来備わっている「方向性を感じ取る能力」によって可能なのです。
ミンデルは、「センシェント」な領域での方向性の感覚を「クオンタム・コンパス」と表現します。
そして、この方向に進むことは、「タオ」に従う「無為」であり、ドン・ファンがいう「心ある道」でもあり、「大地の導き」に従うことなのです。

確かに、量子力学では、観測以前の量子の相互作用の状態は、収束しない波動関数を「重ね合わせ」て計算しますし、量子の最も確率の高い進路は、ファインマンの経路積分の「最小作用」の方向となります。

ですが、多世界解釈での「平行世界」というのは、観測されて波動関数が収束した場合に、観測以前にあった可能性の世界(歴史)が分離したと解釈するのであって、それらを「重ね合わせ」ることはありません。
ですから、ミンデルの喩えには問題があるのではないでしょうか。

また、ミンデルは、現実の人間における多様性を現わす進展は、同時ではなく順番に起こるため、これをファインマン・ダイアグラムに喩えて「ジグザグ歩き」と表現します。

以上の理論を背景にした「道の自覚」、「ジグザグ歩き」のワークの方法は、まず、複数の要素の「重ね合わせ」を考えることです。
そして、それぞれの方向性を、実際に地面(床)に直観的に見定めて、実際にその「ジグザクを歩き」、また、それらを足し合わせた方向を理解して、それに「大きな自己」を感じます。

複数の要素とは、例えば、日常の自己/非日常の自己/現在の問題症状/薬、などです。
あるいは、特定の人間との関係性/その人間との最初の体験/これから生起すると思い浮かんだいくつかの出来事、などです。

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