本田親徳と鎮魂帰神法 [日本]


本田親徳の霊学と一霊四魂説」から続くページです。

本田親徳は、「霊学」という表現で、古神道の神智学(宇宙論、霊魂論、行法)を体系化し、独自の行法である「鎮魂法」、「帰神法」を創造し、その後の古神道や、大本教などの新興宗教にも大きな影響を与えました。

このページでは、本田の「鎮魂法」、「帰神法」と、その継承についてまとめます。


<鎮魂法>

本田が言う「鎮魂法」と「帰神法(術)」は、基本的には別の行法です。

ただ、「鎮魂法」は、「帰神法」にとっては準備的な行法となります。
また、憑依作用に関して、能動(する・させる)側から見れば「鎮魂法」、受動(される)側から見れば「帰神法」という側面もあります。

本田流の「鎮魂法」は、「魂振り」や「魂鎮め」という言葉で理解するより、大雑把ですが、霊魂を脱魂したり、憑依したり・させたりする業と理解する方が適切です。

本田は、「鎮魂法」に「幽」の方法と「顕」の方法があると言います。

「顕」の「鎮魂法」は、宮中祭儀としての行う鎮魂祭や、十種神宝を使ったり、「一二三四五六七八九十」を唱言したりするような、呪術的行法として行うものです。

それらに対して、「幽」の「鎮魂法」が、本田流の「鎮魂法」であり、「霊を以て霊に対する」ものです。


具体的な方法は、以下のような次第です。

まず、準備として、「鎮魂石(硬く、丸く、黒い石)」に天宇受売の御霊が鎮まるように、一週間ほど祈念し、そこに神気を鎮めた(魂降れ?)後、袋に入れ、箱に収めます。

実際に修法時には、まず、「鎮魂石」を白羽二重の袋に入れた状態で、天井から目の高さに吊り下げます。
そして、正座して、「鎮魂印(両手の中・薬・小指を左を下にして掌の中に組み、人差指を伸ばして合わせ、左親指を右親指の上に載せる)」を結び、二拝二拍手をします。

次に、「鎮魂石」を半眼で凝視し、「わが霊魂が鎮魂石に鎮まる」と強い思念を数回送ります。
雑念を排除していると、自分の心の奥底の「一霊(小精神)」が現れ、忘我の統一状態に至ります。

やがて、「鎮魂石」が輝いて見えるようになると、それは天宇受売の分霊と交流している状態(魂触れ)です。
そして、自分の体が消失し(祓い)、霊魂を「鎮魂石」の中に定めている状態(魂殖ゆ)になります。

さらに、上方から光が差して神界に入り(受霊)、喜びを感じるようになります。


<帰神法>

「帰神法(帰神術)」は、大雑把に言えば、神霊を降ろして神懸りを起こし、何らかの神意を得る方法です。

本田は、「帰神法」を「神界に感合するの道」と表現しています。
そして、本田が、神界より授かった神法によって、その途絶えていた「幽斎」の方法を復活させたと書いています。

記紀では、最初の神懸りは、天之石屋戸の条で、天宇受売が自力で神懸ったもので、この時の神の名は不明です。

また、古事記の仲哀天皇の条、日本書紀の神功皇后紀には、「審神者」、「神主」、「琴師」の3人による形式化した「鎮魂法」が記載されています。

古事記では武内宿禰が、日本書紀では中臣烏賊津使臣(中臣氏の祖)が、「審神者」を務めています。
古事記では、「沙庭にいて神の命を請う」と書かれ、書紀には「審神者」という言葉が使われています。

「審神者」の役割については、「釈日本記」では、「神を審らか(つまびらか)にする者」とシンプルに表現しています。
折口信夫は、「神語を人間の言葉に通訳する役」としますが、これは本質的ではありません。

本田流では、「帰神法」を「有形/無形(顕/幽)」、「自感法/他感/神感」、懸かる神の「正/邪」、「上/中/下」で分け、全部で36法に分けます。

「自感法」は、自力で神界に行く方法ですが、これは自分の意識をなくして他人に対して発話する「神憑り」ではなく、自分の意識を保ったまま神と会話する「脱魂」に当たるようです。
石笛は吹いて、天之御中主神に至るように黙念して行います。

「神感法」は、神の都合でいきなり神憑りが起こるもので、実質的には、行法ではありません。

「他感法」が一般的に言う「帰神法」であり、「神主」が依代となり、「審神者」が石笛を吹いて、記紀の琴師の役を兼任する形で、2人で行います。
「審神者」は、神界から降ろした神霊を「神主」に転霊し、憑霊した神の正邪を判断し、邪神なら祓い、正神なら神託を請います。


具体的な次第は、次の通りです。

まず、「神主」は、「帰神印(受霊の印、中指と親指で輪を作って左右の輪を交差させて親指を接触させる)」を組み、「我霊魂は天之御中主神の御許に至る」と3回黙念します。

一方、「審神者」は、室内を霊力で祓い清め、霊体離脱して神主の身体に入って健康状態や親族先祖の状態を調査します。
そして、「審神者」は、二拍手して、正神にお懸りいただくように祈願します。
特定の神を選ぶことはせず、正神に任せます。

次に、石笛を3回吹いて、心身を浄めます。
そして、「鎮魂印」を組み、霊体離脱して霊魂が神界に行き、神気を自分の身体の上半身にまで下ろします。
これを「霊を引く」と表現します。

次に、目をつむったまま、神気を「神主」に「転霊」します。
この時、神気は光の球に見えます。
そして、「神主」に直接、神が降りることを祈願します。

これを何度も繰り返します。
すると、「神主」の身体に神気が充満し、光が増し、霊動が現れます。

ですが、やがてそれが収まったかと思うと、体が30-50cmほど真上に飛び上がります。
これを、「体を切る」と表現します。
これは一柱の神が懸かった状態で、「審神者」はこの瞬間を直前に感じます。

神が懸かると、審神の問答をして、正邪判定を行います。
これを「口を切る」と表現します。

問答では、過去・現在・未来について聞いたり、その神の功業を聞いたりして、正邪を確かめます。

また、神の「品位(上中下)」や、眷属の「三等(普通・中等・高等)」を知り、確かめます。

懸かる神は、「神主」の知識や修行の程度に依存し、一般に、最初は低い眷属が懸ります。

そして、邪霊なら祓いますが、邪霊が暴れるようなら「霊縛法」を使います。
「霊縛法」には、鎮魂力による方法、「縛る」といった言霊を発する方法、独特の「九字霊縛」など、各種の方法があります。

正神なら神託を請います。

神託が終わると、神に帰っていただき、二拍手し、印を説きます。

以上は、「顕(顕の幽、顕から幽)」の方法ですが、「幽(幽から幽)」の方法では、祝詞、拍手、拝などを行わない方法です。

このように、「帰神法」で、「審神者」は、審神だけでなく、霊魂の操作に関しても、脱魂し、憑依され、憑依させ、憑依を解くという具体に、様々なことを行います。


<本田継承者の鎮魂帰神法>

本田親徳がその霊学、鎮魂帰神法を伝えた弟子の中で、最も重要な人物は、長沢雄楯(1859-1940)です。
長沢は、出口王仁三郎や友清歓真らにそれを伝えたことで知られています。

長沢は、27歳の時に本田の門下となりました。
そして、1991(明治24)年には、稲荷講社を設立し、弟子を育成して鎮魂帰神法を広めました。

長沢は、基本的には本田流の鎮魂帰神法をそのまま継承しましたが、欧米の心霊主義・降霊術を使った説明もした点で異なります。

先に書いたように、1898(明治31)年には、上田喜三郎(後に大本教の出口王仁三郎)に、1918(大正7)年には、友清歓真に、本田霊学、鎮魂帰神法を伝えました。


大本教の資料によれば、出口王仁三郎は、上田喜三郎時代の1888(明治21)年に、丹波で本田親徳と偶然出会い、本田が上田の資質を感じて、諭したそうです。
またその後、王仁三郎が1898(明治31)年に、高熊山の洞窟で修行中、神秘体験で異玉彦(本田の神名)から鎮魂帰神法などを伝授されたそうです。

同じ頃、長沢が行った帰神法の中で、丹波の上田喜三郎を呼ぶように神示があったとされます。
そして、王仁三郎は長沢のもとを訪れ、本田霊学、鎮魂帰神法を学びました。

王仁三郎は、大正9年に、大本教の機関誌「神霊界」で鎮魂帰神法について公表しました。
彼にとっては、「鎮魂法」と「帰神法」は、「鎮魂帰神法」という一体のものです。
また、多くの場合、病気治療や除霊を目的にしたものとして使われました。

ですが、王仁三郎自身は、特に「霊界物語」以降、彼のようなシャーマン的資質の人間以外の多くの人間が、鎮魂帰神法を使うことに対して否定的な姿勢を示しました。


大本教では、心霊学者の浅野和三郎を中心にして、鎮魂帰神法は万人を神人合一に導く方法であると、大いに宣伝しました。
ですが、実際には、低級な憑依霊、守護神が現れるので、それを顕在化して、改心させたり、払ったりすることが目的とされました。

また、浅野は、鎮魂帰神法を、大本教が言う立て替え立て直しを実現させるための方法としました。

浅野は、神智学の人間から、鎮魂帰神法は世界のどこにでもあると指摘されると、大本教の鎮魂帰神法は、正神界の指命のもとに行われているので、世界で唯一正しい方法だと反論しました。


友清は、大本教を訪れた時に、浅野から「鎮魂帰神法」を受けて、天狗が懸かったと審神され、大本教に入信しました。

ですが、翌年には脱退して、静岡の長沢から本田流の正当な「鎮魂帰神法」を学び、同年に「鎮魂帰神の原理及び応用」を、翌年には「鎮魂帰神の極意」を出版して、本田の法を初公開しました。

そして、大本教に対しては、批判、反駁を行いました。
また、友清は、本田亀次という霊媒を使って、大本教本部が所持していた本田親徳の秘文「夢感」を霊視したと主張しました。

*友清歓真に関しては、別ページで取り上げる予定です。


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