大石凝真素美の言霊学と天津金木学 [日本]


大石凝真素美は、古神道霊学者で、「言霊学」の大成者として知られています。
中村孝道の「言霊学」を受け継ぎながら、それを古事記の宇宙生成論と一体のものとして発展させました。

孝道の説は、言霊を一種の原子論や立体図形とも結びつけるユニークなものであり、また、それを秘伝とされてきた「天津金木学」と結び付けて公開しました。

孝道の諸説は、大本教の出口王仁三郎にも影響を与えました。

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<歩み>

大石凝真素美(本名:望月大輔、1832-1913)は、近江国甲賀郡に生まれました。
祖父は言霊学の先駆者である中村孝道の高弟の望月幸智でした。

初め、伯父について医学を学ぶも、その後、国学に転向しました。
22歳の時に、黒船来航とそれに対する幕府の頼りない対応を見て、日本に対する危機感をいだき、日本は神国なので大神人が必要であると感じて、その人を探そうとしました。

真素美は、祖父から孝道の「言霊学」や「天津金木学」(詳細後述)を学んだものの、その奥義については、教わる前に祖父が亡くなったと伝えられています。

1868(慶応4)年に、美濃の修験者、山本秀道の噂を聞いて訪ね、その知識と霊威に感じ入って師事しました。
この山本家は、仏教化する以前の古い修験道を伝えていたようです。

また、山本家には、代々、「天津金木」が御神体として伝えられていて、真素美はそれを見て、孝道の秘伝として祖父が語っていたものであると直観しました。

二人は、秀道が審神者、真素美が神主となって、鎮魂帰神法を用いて、「天津金木」など様々な研究を行いました。
この時、様々な天つ神、国つ神や、武内宿祢が降臨したとされます。
また、真素美は、自分が稗田阿礼の再生であり、石凝姥神の系統であると確信しました。

1873(明治6)年、大石凝真素美を名乗るようになりました。

1878(明治11)年には、古事記の奥義の探求のため、秀道が武内宿禰の霊を真素美に付けて神意を得ました。

また、同じ頃(明治11-12年)、琵琶湖の湖面に、孝道が原文字(神代文字)とした「水茎文字(瑞組木文字)」が波紋として現れ、消えることを発見しました。
後の1899(明治32)年には、出口王仁三郎にこれを見せたとされます。

1890(明治23)年、「弥勒出現成就経」と「仏説観弥勒下生経」を脱稿しました。
この両書は、基本的に、弥勒下生の地は日本になると主張した書です。
ですが、「天津神算木」や七十五声(七十五音)の言霊についても言及しています。

この真素美の弥勒日本下生説は、大本教の出口王仁三郎に影響を与えたと思われます。
「仏説観弥勒下生経」は、後に大本教の機関誌の「神霊界」にも掲載されました。

真素美は、伊勢神宮には遷宮の際に「天津金木」によって形成された形象を再安置する「御見比の秘密神事」が継承されていたが、明治20年の遷宮の際に途絶えたと主張し、正殿の炎上を予言しました。
この予言は1898(明治31)年に的中して、放火を疑われて逮捕されました。

1900(明治33)年に脱稿した「天地茁廴貫きの極典」では、古事記の神代解釈としての宇宙生成論を、「す」を根源とする「言霊論」、「真須鏡」とその五柱、「天津神算木」、「六角切り子の玉」といった真素美の基礎概念を用いて展開しました。

この書は、1923(大正12)年に活字出版されましたが、それ以前に大本教では書き写されて読まれていて、出口王仁三郎が1918(大正7)年に機関誌「神霊界」で紹介しました。

1903(明治36)年、「大日本言霊」を脱稿しました。
この書では、七十五声のそれぞれの「六角切り子の玉」の14面に対応する十四義を説いています。

また、同年に、「天津神算木之極典」を脱稿(活字出版は1924(大正13)年)し、多数の図と共に、「天津神算木」の複雑多様な運用の秘法を公開しました。

1912(明治45)年には、「真訓古事記」を書きあげましたが、推敲を希望しながらも、それを果たすことなく、翌年に亡くなりました。
晩年には、「法華経」と「古事記」の密合も研究していました。

真素美の主な弟子には、水谷清、水野満年らがいて、彼の研究を継承しました。

また、真素美は、先にも触れたように、言霊学や弥勒日本下生説などで、大本教の出口王仁三郎にも直接、大きな影響を与えました。


<宇宙生成論>

真素美の宇宙生成論・神統譜は、言霊である七十五声の誕生と展開として語られます。
それは、七十五声が正列した「真須鏡」や、ひな形的な形態の「十八稜圑=六角切り子」、構成単位の「天津神算木(あまつかねぎ)」などを反映します。

以下、主に最後の著である「真訓古事記」に基づいて、真素美の宇宙生成論を紹介します。
ただ、これは「古事記」の神代部分を細かく言霊的に解釈した複雑なものですので、そのごく一部を取り上げます。

宇宙開闢以前の原初には、「す」という物(音)がありました。
「す」は呼吸の音であり、「皇(すめらぎ)」の「す」です。

「す」を宇宙の根源とするのは、「す」を「真洲鏡」の中央に置いた中村孝道の説を、宇宙生成論として拡大解釈したものです。
また、真素美は、「す」を「⦿」と表現しますが、これは山口志道のそれと似ています。

「す」は「此世の極元」と表現され、「十八稜圑(こんぺいとう)」の形でした。
「十八稜圑」は、別の箇所で「六角切り子の玉」と書いている十四面体と同じものを指しているものと思われますが、「こんぺいとう」と読み仮名をふっているので、これは凹凸がある立体です。
これは、真素美にとってのプラトン立体のような存在です。

また、この「極元」は、微細な「神霊元子(こえのこ)」が、「もろみ」の状で「もろもろ(多量)」に存在する状態でした。
「神霊元子」は、霊的原子であり、音原子であるような存在です。
この極微点が連珠糸となって組織化されることで、天地人が造られます。

次に、「十八稜圑」の瘤の麓のところに「対照力」が起こり、これが球の形になって「至大天球(たかまがはら)」となりました。

「対照力」は、「た・か・ま・が・は・ら」の6声で「至大天球」となりました。
「た・か」の2声が力、「ま」で張り詰めて球となり、「が」で生き生きとし、「は」で広々とし、「ら」で動き出しました。

次に、この天球の中心部に大気が結晶して「地球」となりました。

ここに成った神は、天之御中主神と名乗りました。
地球がその体であり、至大天球が心です。

次に、地球の中心から天球の底に向かって右旋して登った神が高御産巣日神です。
反対に、天球の底から左遷して地球の中心に下ったのが神産巣日神です。

これら造化三神は、「独神(す)」としてなり、「隠身(すみきり)」になりました。
これらは「成る」神であり「鳴る」神です。
つまり、生成=音声なのです。
また、「隠身(すみきり)」というのは、働き続けるという意味でしょう。

次の、宇摩志阿斯訶備比古遅神は、3つの線幕(球面上の円幕)であり、これによって、「至大天球」の球面が8区分に分かれて「八島国(大八島)」が生まれました。

ちなみに、「天地茁廴貫きの極典」では、中心にある地球にも「小八島国」ができたとしていました。

この8区分(曲面)は、前後から見ると中央に1区、周辺に6区で、前面と後面の6区を別面とすると14面の「六角切り子」になります。

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*大八島(茁廴貫きの極典より)と六角切り子(大日本言霊より)

「六角切り子の玉」は、本当は球であるけれど、方面で理解するために便宜的に14面体として捉えたものとされます。
それは、第一に、天球の御樋代(入れ物、ひな形)であり、それゆえに、天地人と照応(密合)するものです。

また、天球たる「六角切り子の玉」を基本単位まで細分したものが、「天津神算木(天造之神算木、あめのかねぎ)」です。
これは、天地人の組織原理として、それによって一切の真実を知ることができるものであり、地球の御樋代(入れ物、ひな形)でもあります。(詳細は後述)


次に、天球・地球間の東西南北に四神が顕れました。
北に天之常立神、南に天之底立神、東に国之常立神、西に国之底立神です。
天之底立神、国之底立神は、古事記が書き洩らした神だと書いています。

ちなみに、「天地茁廴貫きの極典」では、天球と地球の間に、「真須鏡」の「天・火・結・水・地」の五柱が縦に五重に生まれたとしています。
そして、上記四神は、それぞれが天か地の10柱に当たると、などとされます。

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*天球・地球の間に天津神算木を配列した図(天津神算木之極典より)

「至大天球」を含めて、天地人は、日本語の七十五声が正列した鏡である「真須鏡」を反映して、それぞれに照応します。
七十五声は、「名(地の真)」、「言(天の真)」、「結(天地結合の真)」となりました。

神世七代の神々は、国之常立神(=「お」)以下の大斗乃弁神までで、「あおうゑい」の五声が生まれ、次の淤母陀琉神は、五声が揃ったことを表現します。


次の伊邪那岐、伊邪那美の両神が地をかき混ぜてオノゴロ島を作った時に使った「天沼矛」は、「天地火水」の「神霊液」が凝縮したものです。
また、人間が声を発する口も「天沼矛」と言います。

そして、オノゴロ島にある「天之御柱」は、「真須鏡」の「水柱」に当たります。
その後、両神は「真須鏡」に沿って「八島」を造りました。

以下も、様々な神々と言霊を結びつけて解釈します。
例えば、国之水分神は、サ行活用する、押さ・押そ・押す・押せ・押し、越さ、越そ、越す、越せ、越し…などの言葉である、といった具合です。


人間の誕生は、天照大御神の「魂(みたま)」と須佐之男命の「魄(つるぎ)」を受けて、初めて人体を持った三姫と五彦が、近江の琵琶湖・蒲生郡に生まれたのが始まりです。


「天地茁廴貫きの極典」によれば、最初の人間達は、土の中で何年も過ごして、体が成熟すると土から出てきました。
また、出てきた後は爬虫類のような姿で何年も過ごし、その後で脱皮して人間の姿になりました。

人間は、眼・耳・鼻・舌・身・意識の「六識」を持ち、これは「と」に当たります。
さらに、欲である「七識」=「たし」、良心である「八識」=「し」、広げられた良心である「九識」=「さ」、仏智である「十識」=「さ(合わせて、ささ)」を持ちます。

出雲には、「天津神算木」の基本配列である「十六結」を反映して「十六島(うつふるひ)」が作られました。
これは、日本の国々、世界の国々の雛形でもあります。

次に、大国主神が顕れましたが、この神は、すべての人間を生み、その身体を保ち助ける神であり、また、日本語を主宰します。
一方、少名彦名神は、火・水を、そして、外国語を主宰します。
また、事代主神は、七十五声を保つ神です。
そして、久延毘古は、奥深くに隠れた知識を知らせる神です。

ちなみに、弥勒が日本に下生した時、世界の言語は統一されます。


<言霊学>

真素美は、三大皇学として、音に関する「天津祝詞学」、相に関する「天津金木学」、生に関する「天津菅曾学」をあげています。
「天津祝詞学」が「言霊学」であり、「天津金木学」は「太占(占い)」、「天津菅曾学」は神霊学です。

真素美は、中村孝道の「真洲鏡」の説を基にして、「言霊学」を発展させました。

真素美の独創と思われるのは、まず、上記したように、音声を微細な「神霊元子(こえのこ)」という元粒子の運動として考えていることです。

そして、七十五声の意味を、「六角切り子の玉」という立体をもとに表現したことです。
真素美によれば、七十五声のそれぞれが、「六角切り子の玉」の14面のそれぞれに対応する意味を持ちます。

ですが、14面のうちの6面には12支が1つ、上下面に当たる2面には12支が3つ割り当てられていて、残り6面には12支が割り当てられていません。
12支が3つ割り当てられている2面を合計6面分として数えると、合計18面分となります。
この18が「十八稜團」の18ではないかと思います。

そのため、一つの音声に対して18義と考えることができます。
ただ、それぞれの義に対しては、複数の言葉で説明されることもあります。

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*「あ」声の意味と12支の割り当て(大日本言霊より)


真素美は、孝道の「真洲鏡」を、「真須鏡」と表記します。
これは七十五声で構成され、上下左右の隅と中間の9声を九柱として重視します。

真素美は、この75という数に関して、神事を一年に75度行うことがある、人の噂も75日などと言われる例をあげて、それが日本における聖数であることが伝わっているとします。
また、9に関しては、出雲、伊勢の神殿や紫辰殿が九柱で建てられていることにも現れているとします。

「真須鏡」は「真洲鏡」と比べて、七十五声の配置は同じですが、縦横軸の説明を、以下のように少し変更を加えています。

まず、横軸です。

  (列の意味) (韻の場所)
・あ:地柱:幽内 :喉の韻
・お:水柱:幽内 :唇の韻
・う:結柱:中道 :口の韻
・え:火柱:顕外 :舌の韻
・い:天柱:顕外 :歯の韻

次に、縦軸です。
 
(宇宙の場所)(音の場所)
・か・が・だ :天之座  :歯之音
・た・ら・な :火之座  :舌之音
・は・さ・だ :結之座  :口之音
・ぱ・ば・ま :水之座  :唇之音
・や・わ・あ :地之座  :喉之音

宇宙の場所は、「天之座」は天球である高天原、「火之座」は太陽のある空域、「結之座」は天地の中間、「水之座」は川など、「地之座」は大地でしょう。

これは、天地の5領域を貫いて、言霊の5柱が立っていると考えることもできます。

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*真須鏡(大日本言霊より)


<天津神算木学>

「天津金木(あめのかねぎ)」は、「大祓祝詞」に出てくる謎の言葉です。

真素美は、これを「天津神算木」、あるいは「天造之神算木」と表記します。
そして、伊邪那岐、伊邪那美の両神が、国生みの際に行った占いの「太占(ふとまに)」が、「天津神算木」を使ったものだと考えました。

「天津神算木」は、宇宙論的には、伊邪那岐、伊邪那美が、天浮橋から大地をかき混ぜた時に使った「天沼矛」の表現でもあるのでしょう。
真素美は、これを、天・火・水・地による地球の誕生としています。

一柱の「天津神算木」は、檜で作られた四角の棒状(四分角二寸の四角柱)です。
四面の各面のそれぞれに「一二三四」の目がサイコロのように「●」の個数で記され、各面が「青赤緑黄」に着色されています。
また、上下面は白と黒に着色されています。

四面は、下記のように、「天・火・水・地」などを象徴します。

(目)(意味)(色)(国における意味)
・一 :天 :青 :君
・二 :火 :赤 :大臣
・三 :水 :緑 :小臣
・四 :地 :黄 :民

本来、「天津神算木」は私利に関わる事項を占うものではありません。
そのため、この四面は国家的な要素としては、君・大臣・小臣・民を意味します。

「天津神算木」の基本配列には、「八咫鏡」、「十六結」、「十六聴章」などがあります。
「八咫鏡」は、天球の中心に地球が結晶したことの象徴とされます。

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*八咫鏡、十六結、十六聴章(天地茁廴貫きの極典より)

「天津神算木」は、占い、真実の究明、予言などのために使いますが、その使用法には様々な方法があります。

真素美は、「天津神算木之極典」でその方法を公開しましたが、非常に難解なので、簡単な方法についての一般的な解説をします。

基本的に、「天津神算木」の各面の組み合わせ(相)に、答えを読み取り、吉凶判断を行います。
本数は二柱から三十二柱まであり、それらを基本配列に並べたり、自然に思いつくままに並べたりします。
基本配列には、螺旋状、段階状、雲状、円輪状、蛇状などがあります

解釈の基本となるのは、「天津神算木」の二柱の相(4×4の16相)の象意です。
具体的には、以下の通りです。

(相) (意味)
・一一(天天):動
・一二(天火):治
  :
・四四(地地):止

また、四柱で判断する場合は、4×4×4×4の各相の象意ではなく、「一二三四(天火水地)」と並ぶ「本位(大八州相)」を最も良しとして、それから近いか遠いかで判断します。


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