現代物理・現代数学と神秘主義思想のアナロジー2 [現代]


量子論、量子重力理論、絶対数学などを扱った「現代物理・現代数学と神秘主義思想のアナロジー1」から続くページです。

このページでは、現代物理の宇宙論、現代数学の圏論、諸学の統一と、神秘主義思想の類似性について、思いつくままに書きます。


<宇宙論:始まりと終わり>

現代物理の宇宙論では、宇宙が膨張していることを前提として、宇宙の始まりと終わりに関して多数のモデルが提案されています。
それぞれは、伝統的な宗教・神秘主義の宇宙論と似たところがあります。

ホーキングらの量子宇宙論(無境界仮説)は、「虚時間」から宇宙が生まれたと考えます。
これは、「無」としか表現できないもの、あるいは、「無限時間神(ズルワン)」から宇宙が生まれたという神秘主義思想の宇宙論と似ています。

また、超弦理論の宇宙論では、その原初の虚時空間で、「弦」が回転しながら振動していたと考えますが、これは原初の深淵の海で泳ぐ蛇、という神話のイメージと似ています。

宇宙の終わりについては諸説がありますが、もとの状態にまで収縮する「ビッグクランチ説」は、神秘主義的な宇宙論が説く原初的存在への「帰還」に似ています。

収縮の後、再爆発(ビッグバウンス)を繰り返すとする「サイクリック宇宙論」は、量子重力理論でも提唱されていますが、これは、カルデア系の周期的宇宙論に似ています。

ただ、エントロピーの増大という一方向的な時間が貫いているので、同じことの繰り返しではありません。
超弦理論では、膨張が繰り返される度にその大きさが膨れていき、やがて収縮しなくなるというモデルも提案されています。
これは宇宙が周期ごとに物質次元へと下降する近代神智学の宇宙論と似ています。


<宇宙論:相転移>

ジョージ・ガモフらによって提唱された「ビッグバン説(火の玉宇宙論)」(1984)や、その前段階としてアラン・グース、佐藤勝彦、アンドレイ・リンデらによって提唱された「インフレーション宇宙論」(1980-82)などの膨張宇宙論は、何段階にもわたる物質の「相転移」の歴史を語ります。

「相転移」というのは、例えば、気体が温度(エネルギー)を失うことで、液体になり、固体になるように、物質の状態が変わることです。

これは、神秘主義思想、例えば、新プラトン主義的な「流出論(発出論)」などが語ってきた、多層的な宇宙が創造されるプロセスと似ています。


オリエント・ヨーロッパの宇宙論では、最も階層が低い地上(月下界)は「四大元素」で出来ていて、その上の天球世界は「アイテール」で出来ているとしました。

四大元素の「風」、「水」、「土」は、現代の物理・化学で言えば、気体、液体、固体に当たるでしょう。
そして、「火」は分子の組成が変わる化学変化の状態、「アイテール」は分子が陽イオンと電子に別れたプラズマの状態です。

神秘主義思想は、天球世界より上位の世界の階層についても語りますが、現代宇宙論でも、宇宙の始まりに遡るに従って、エネルギーの高い状態の物質の多数の段階の「相転移」を語ります。

まず、素粒子の状態が、「レプトン/反レプトン」状態と、その前の「ハドロン/反ハドロン」状態。
さらにその前の、クォークの状態である「クォーク・グルーオン・プラズマ」状態。
その前の、4つの基本的な力(電磁気力、弱い相互作用、強い相互作用、重力)が順次統一されていく状態が、「統一力(電弱力)」の状態、その前の「大統一力(電核力)」の状態、その前で最初の「超大統一力」の状態です。


宇宙が指数関数的に膨張する「インフレーション」は、「大統一力」の状態になった後に起こりました。
これが始まる時点では、通常の意味での物質はまだ存在せず、「インフレーション」は「真空エネルギー」によって起こりました(この時の温度は絶対零度です)。

「インフレーション」が終わった後に物質が生まれて、「真空エネルギー」が物質の熱のエネルギーに変換され、いわゆる「火の玉宇宙」の膨張が始まりました。

この宇宙創造が、物質以前の真空エネルギーから物質に至ることは、神秘主義の宇宙創造論で、霊的世界が創造されてから物質世界が創造されたとすることに似ています。
あるいは、無形の質料の創造の後で、それが形相を獲得することに似ています。

また、我々の宇宙の長い歴史の中で、真空の場のエネルギーは不変ですが、物質の熱エネルギーは減少し続けます。
現在の時間は、ちょうど物質エネルギー密度が真空エネルギー密度を下回った時期に当たります。
つまり、主要なエネルギーが、物質から真空へと反転したところなのです。

これは、近代神智学の宇宙論的時間論において、現在がちょうど下降から上昇への折り返しを越えた時点に当たると考えることと似ています。


<善と悪:光と重力>

このテーマでは、さらに強引なアナロジーで考えます。

人を地に貼りつかせる「重力」や、変化を拒む「慣性」は、「束縛」や「不自由」の象徴となりますが、伝統的な世界観では、これらは「悪」の原理です。
ただ、神秘主義思想では、「悪」を「絶対悪」ではなく、条件によってそういう側面を持つという「相対悪」として捉えることが多いのですが。

一方、「光」は、神的、天使的なもの、自由やエネルギーの象徴であり、「善」の原理です。
光は、物理的にも、質量を持たないので直接「重力」の影響を受けず、宇宙最高速で移動し、また、物質から放射されてそのエネルギーを示します。

現代物理の宇宙論では、「重力」は4つの力が未分化だった超大統一力から最初に分離した力です。
そして、その後すぐに、ヒッグズ場によって「慣性」や「質量」が生まれて、物質が「重力」の影響を受けるようになりました。
一方、「光」は「重力」と分かれた大統一力から生まれます。

この最初の力の分離は、原初神から善神(天使)と悪神(堕天使)が別れた神話を思い起こさせます。


また、エントロピック重力理論(エリック・ヴァーリンデ、2010)は、「重力」を「エントロピー」的な現象であると考えます。
物体の位置に関する情報量の変化によって生じるエントロピー的な力なのです。
この理論には批判もありますが、他の研究でも「重力」と「エントロピー」の関連が指示されています。

「エントロピー」とは「乱雑さ」であり、その増大が「熱死」と表現されるように、「死」の原理であり、伝統的価値観では一種の「悪」の原理です。

全体として「エントロピー」が増大することで、局所系の「エントロピー」が減少して構造や生命が生まれるので、「必要悪」のようなものかもしれませんが。

とは言え、同じ「悪」の原理である「重力」と「エントロピー」が、現代物理でも結びつけられるのは不思議です。


<ホログラフィック原理とアカシック・レコード>

フアン・マルダセナの「ホログラフィック原理(ゲージ重力対応、1997)」によれば、ある次元の時空の重力を含む理論が、その一次元低い時空の重力を含まない場の理論と等価(双対)であるとされます。
具体的には、ある3次元空間の物理は、それを取り囲む境界面の重力をふくまない物理と等価なのです。

宇宙の場合は、宇宙のはてである事象的地平面に宇宙内のすべての情報があるということです。

ミトラ教から神智学や人智学に継承された考え方よれば、宇宙の外殻(天球面)にその宇宙の歴史のすべてが記録されています。
これは「アカシック・レコード」と呼ばれる領域で、アストラルライトの形態の世界と形態を超えた世界の境界にあるとされます。

「アカシック・レコード」は過去の情報、ホログラフィー理論では現在の情報ですが、どちらも宇宙を取り囲む平面に全情報があるとする点で、不思議に共通します。


<現代数学とカバラの抽象性>

現代数学は、経験的世界や実証性から離れ、抽象的世界の中で、自由に創造されるものとなりました。
現代数学は、理論の抽象化、一般化を進めることで伝統的数学を包括しますが、この抽象化のはてに、数も量も図形もなくなる世界に至っています。

ほとんど経験世界と無関係に抽象的に創造された数学理論が、後に物理学で使われることがあります。

例えば、非ユークリッド幾何学は、一般相対性理論の定式化に使われました。
虚数はデカルトが実在性を否定して名付けた数ですが、シュレディンガー方程式に使われました。

フォン・ノイマンは、ヒルベルトの無限次元空間を拡張し、量子力学をこの無限次元複素ヒルベルト空間で定式化(1932)しました。
ノイマンは、抽象的な数学空間の中で、粒子性と波動性、ハイゼンベルグの無限行列方程式とシュレディンガーの2階微分方程式を統合したと言えます。


大まかに言って、近代合理主義、近代科学はギリシャ、ヨーロッパ的な思考の枠組みで作られています。
ですが、現代数学、現代物理の多くの創造はユダヤ人によって行われました。
そこには、おそらくユダヤ思想の特徴が反映されているでしょう。

現代数学の抽象性は、ユダヤ神秘主義のカバラの抽象性と似ています。

カバラでは、セフィロートや数、アルファベットを表象として高度に抽象化された意味を、組み合わせたり、入れ替えたり、数値化して計算したりします。
諸象徴を統合して作られたセフィロート体系の構造は、非常に抽象的なもので、経験世界にあるものではなく、経験世界からの一次的な抽象でも生まれません。
ですが、どのような経験世界の事項、事項の関係をも説明することもできますし、魔術を介して経験世界で実理化することもできます。

現代数学は、カントールの無限論(無限に階層があることも論証しました)以来の「無限」の可能性を展開する中で生まれました。
カバラも、「アイン」、「アイン・ソフ」、「アイン・ソフ・オール」という「無限」の階層を前提として展開されます。

これらの特徴の多くは、カバラに固有なものではなく、例えば、密教のマンダラ的体系にもありますが、西洋においてその特徴を最もよく持っていたのはカバラでしょう。


<圏論と諸学の統合>

神智学、哲学、自然科学、数学などの諸分野がそれぞれに分離したのは、ルネサンスより後の時代で、それ以前は、諸学の大統一が当たり前でした。

神智学の大統一は、様々な時代、場所で試みられてきました。
中世インドの「カーラチャクラ・タントラ」や、近代のブラヴァツキー夫人の神智学、ニュー・エイジ時代のケン・ウィルバーの「インテグラル理論」などがそうでしょう。
これらは、それなりに諸学の大統一理論を目指して言いました。

現代数学、現代物理からも、諸学の大統一の動きが生まれています。


量子力学は、古典力学を包括する一般理論であることから、ミクロを対象としていない領域でも、量子力学を取り入れた一般化が研究されています。

「量子認知科学」は、量子論的な数理モデルを用いて心理学などの実験結果を説明します。
人間には、古典的な合理性とは異なる種類の、量子論的な合理性があると考えられています。

他にも、確率変数の値があらかじめ確定していない「量子確率論」、主語と述語がエンタングルメントする(量子のように絡み合う)ことを表現する「量子言語学」などがあります。


また、物理学で理論の大統一が目指されているように、数学でも数学の諸分野の大統一を目指す「ラングランズ・プログラム」が研究されています。
これは物理学の大統一とも関連しています。

一方、数学の諸分野の統一を下から、つまり、数学基礎論として支えているのが「圏論」の発展です。
圏論は、集合論に変わって数学諸分野を基礎づけるだけではなく、科学や哲学などの諸学の基礎論として、諸学を大統一する理論になりつつあります。
上記した諸学の量子化でも圏論が利用されます。

圏論は、量子力学の公理化を行っていて「圏論的量子力学」と呼ばれます。
これは、情報物理学の一形態です。

統一理論の一つでもある「量子情報理論」は、量子情報が宇宙を構成する最も基本的な要素と考えます。
そして、宇宙の物理プロセスを量子コンピュータの量子計算と同じものとみなします。
これは、宇宙を知性と考える神秘主義哲学の考え方と似ています。


圏論は、異なる領域の数学ごと、異なる科学ごとに多元的な圏を扱います。
集合論と違って、圏論は最初から本質的に「マルチバース(多宇宙)」的です。

これは、物理学においては、超弦理論が、多数の異なる物理法則を持った宇宙が存在していると考えるマルチバース説と似ています。
宇宙のインフレーションで発生している無数の泡宇宙のそれぞれで、物理法則(方程式の解)が異なるのではないかと考えるのです(ランドスケープ理論)。

また、これは、チベット仏教の多体系主義とも似ています。
インド密教では、異なるマンダラ宇宙を説く様々な体系の経典が作られ、最後に「カーラチャクラ・タントラ」がすべての諸体系を統一した一つの体系を作りました。
ですが、チベット仏教の各宗派は、諸体系をそれぞれに認めて多体系的統合を行いました。
つまり、チベット仏教は、マルチバース的です。


<圏論の思想>

圏論は、集合論やブルバキ流構造主義とは異なり、実体を前提とせず、世界を出来事の連鎖として捉え、関係の構造のみを扱います。
ですから、哲学的には非実体主義、関係主義、プロセス(出来事)主義の思想です。

その意味では、仏教的な「空」と「縁起」の世界観、特に「空」と「有」と「仮」を対等に見てその関係を扱う天台教学の考え方と似ています。


抽象性の高い数学や論理学は、諸学で使われる共通の学です。
圏論は、「数学の数学」と表現されることもあり、諸学基礎論となるのは、圏論が思考の構造を抽象する、いわば「思考の思考」だからでしょう。

これは、シュタイナーが言う思考自身を対象とした「純粋思考」に似ています。


圏論の基本要素は、「点(対象)」とそれらをつなぐ「矢印(射)」です。
これは、物理学で、ループ量子重力理論が、宇宙の根源を「点(ノード)」と「線(リンク)」で考えることと似ています。
また、「表象(概念、イメージ)」と「連想」からなる思考の基本的な働きとも似ています。

圏論は、圏と圏との間の関係も扱います。
圏がアナロジーを扱うとしたら、これは「アナロジーのアナロジー」であるとも言われます。

圏論では、圏と圏の間の射を「関手」、関手と関手の間の射を「自然変換」と呼びます。
圏論では、圏や射を対象として「高次元圏」をいくらでも考えることができます。
高次元圏論は、より抽象的、一般的で、下位を基礎づけるものとなりえます。
また、高次の圏の概念は、意識の問題に関わるかもしれないと言う人もいます。

圏論の階層性は、神秘主義の万物が照応する象徴体系的宇宙論における階層性と似ています。
象徴体系的宇宙論は、諸領域の知識体系(圏)の事物(対象)の間の照応(射)を語ります。

諸体系(例えば、地上の金属の体系、人間の身体部位の体系、天球の惑星の体系、セフィロートのような観念の体系、神仏のパンテオン的体系など)の間には階層の違いがあって、下位の諸体系の関係は、上位の体系内、体系間の関係の結果とされます。
最上位の根源的な象徴体系は、諸体系間の「アナロジーのアナロジー」を働かせるものであり、それ自身は地上に存在しない、抽象的存在そのものです。

(試論)

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