メソポタミアの創造神話 [創造神話と古代神智学]

世界で最初に大規模な都市文明を築いたのは、メソポタミアに東方からやってきたシュメール人です。
その後、アッカド人、アッカド系のアモリ(バビロニア)人、アッシリア人、アラム(カルデア)人といったセム語系の諸民族が次々とメソポタミアの支配民族となりました。
ですが、セム語系の民族はシュメールの神話や神殿、文字など様々な文化を受け継ぎました。

エジプトではナイルは定期的におだやかに真水で増水するのに対して、メソポタミアではチグリス・ユーフラテスは不定期に激しく塩水で洪水化しました。
ですから、自然の恵みの大きいエジプトでは、王が神とされ人間の死後生も豊かなものと考えられたのに対して、自然が厳しいメソポタミアでは、人間の地位は低く、王は司祭で、人間は死後生も地下冥界でみじめに暮らすものと考えられました。

冥界は西方の海の彼方にある島の河を渡った先の天を支える山の麓から降ります。
神々は恐れ多い存在で、人間は神々の世話をするために生み出されたのです。
そして、悪魔や悪神は存在しませんでした。そして、メソポタミアではエジプトでのように、神々は本来的には動物の姿をしていませんでした。

メソポタミアでは神像が重視され、その魔術的な扱いはメソポタミアで発展したものです。
神像は神が宿るものであると同時に、神そのもので、盗まれても作り直すことはできず、神そのものが不在となり、社会の秩序は失われると考えられました。

神像は木製で、金属で覆われ、服も着せられました。新像を神々そのもののように扱われました。
例えば、入浴させ、香をふりかけ、身繕いさせ、散策させ、神々を互いに訪問させ、聖婚させたのです。
祭儀は神像の芝居だったのです。

神殿には神像のための生活必需品があり、神の生活する家でした。
メソポタミアでは神像の口を洗うことが重要で、これが開眼や入魂に当たる儀式でした。
また、メソポタミアでは、男神には女性司祭が、女神には男性司祭が、聖婚の相手という性質を持って仕えました。

シュメールの創造神話は残されていません。
ですが、シュメール神話を受け継いだセム語系の民族の神話からある程度は推測できます。

まず最初に、おそらく原初の海の「母神ナンム」がいました。
しかし、エジプトのアトゥム=ラーに相当するような他の原初神は見当たりません。

その後、ウルク市の主神「天神アン」と「地神キ」が生まれます。
次にニップール市の主神「大気・風・嵐神エンリル」、エリドゥ市の主神「地・水・知恵神エンキ」などが生まれます。
多分、主権は原初の神々からアン、そしてエンリルへと移動しました。

ラガシュ市の主神でエンリルと息子の「戦争神ニンギルス」は悪神的存在の「巨鳥アンズー」と戦います。
エンリルの息子には他に「太陽神ウトゥ」、ウル市の主神「月神ナンナル」がいます。
ナンナルの娘の「金星女神イナンナ」は、羊飼神「ドゥムジ」とカップルの存在です。


アッカド系のバビロニアの創造神話は、「エマヌ・エリシュ」に語られます。
この物語の成立は-20C以前にまでさかのぼれます。

まず最初に、「原初の海(塩水)女神ティアマト」がいました。
ここに「地下水(真水)男神アプスー」が生れ、次に「霧状生命ムンム」が生まれます。
この原初神の3神が混じり合うことによってさらに次々と新世代の神々の創造が行われます。

まず、洪水神の「男神ラフム/女神ラハム」が、次に「天の素材神アンシャル/地の素材神キシャル」が、次に「天神アヌ」と多分「地神キ」が、次に「水・知恵神エア」と多分獅子頭鷹身でも現わされる「山地母神ニンフルサグ」が、最後にバビロン市の主神「嵐神マルドゥク」が生まれます。

神々の主権は次々と新しい世代に移っていきながら、秩序が生み出されます。
特に原初の3神は新しい神々を良く思わず、アヌ以下の神々と戦います。

マルドゥクは竜の姿のティアマトと彼女がが生んだ「悪神キング」を退治して、ティアマトの死体から世界を、キングの血から人間を作ります。
また、戦争神は「ニヌルタ」、太陽神は「シュマシュ」、月神は「シン」、金星女神は「イシュタル」、羊飼神は「タンムズ」と呼ばれるようになりました。

バビロニアの創造神話はシュメール神話を受け継いてさらに複雑化させながら、神々の系譜と世代間の覇権抗争による主権の移動をはっきりと語ります。
原初の3神に光神の性質がなく、はっきりと否定的な役割を果たしていることが特徴です。

バビロニアの守護神マルドゥクはシュメールのエンリルに代わって主権の位置を奪ったワケですが、当時すでにマルドゥクは息子の「書記神ナブー(ネボ)」に主権を脅かされるようになっていました。
マルドゥクにはバビロニアで「ベール(主)」と呼ばれた大気・嵐神エンリルの性質と、エンキの息子の「呪術神アサルルヒ」の性質が重ねられています。

また、同じアッカド系でも、南方のバビロニアに対する北方のアッシリアでは、マルドゥクの位置に主都アッシュールの守護神「アッシュール」が置かれていました。
メソポタミアでは太陽神の地位は低いのですが、このアッシュールには光神・太陽神という性質があります。

また、地界の豊穣神としては、生命の樹と関係して「地・蛇女神キ」と「牡牛神ハル」のカップルが(シュメールのウルクを中心に)広く信仰されました。

シュメール/アッカド(バビロニア)の神学の特徴は、神々の多くに数/星/動物が対応づけられたことです。
数による神々の体系化は、何らかの形で後世の数秘術に影響を与えたかもしれません。

シュメールは60進数の発明者なので、最高神としての天神アン(アヌ)が60を与えられました。
以下その妻アントゥが55、大気神エンリルが50、その妻ニンリルが45、水神エンキが40、その妻ニンキが35、月神ナンナル(シン)が30、その妻ニンガルが25、太陽神ウトゥ(シュマシュ)が20、その妻で金星女神のイナンナ(イシュタル)が15、嵐神イシュクルが10、その妻山の女神ニンフルサグが5です。
以上が原初の12柱神です。

また、ハルが4、その妻キが3です。後にマルドゥクには10が与えられました。
また、星ではアンは北極星に、マルドゥクは木星に、ナブーは水星に対応します。
動物では、マルドゥクは竜(蛇頭獣身鳥後足)に対応します。

シュメールに由来する宗教の影響力は絶大で、全ユーラシア大陸を横断して日本にまで伝わっています。
例えば、日本には「五十鈴」など50のつく言葉がたくさんありますし、崇神天皇以下の数人の天皇の名前にも「五十」がついていますが、これらはエンリルに由来します。
「五十嵐」はまさに嵐神エンリルです。
また、九州天草島に多数ある「十五柱神社」の15はイナンナに由来します。他にも多くの言葉がシュメール語に由来します。

*下写真は、象徴図形で描かれたバビロニアの神々。上段左から月神シン、金星女神イシュタル、太陽神シュマシュ、中段左から角冠の姿の天神アヌと嵐神エンリル、山羊と魚の姿の水神エア、子宮の姿の母神ニンフルサグ、下段左が鋤と竜の姿のマルドゥク

babironiagods.jpg

 
シュメール神話
バンビロニア神話
至高神の静的次元
原初の海ナンム
海水女竜神ティアマト
地下水男神アプスー
至高神の核的次元
 
霧神ムンム
至高神の創造的次元
 
細工男神ラフム
細工女神ハフム
悪神・原母
 
海水女竜神ティアマト
至高神の副次的次元
 
 
天の素材神/地の素材神
 
アンシャル/キシャル
天神/地神
アン/キ(ニントゥ)
アヌ
旧主神
水・知恵神エンキ
水・知恵神エア
主神
風神エンリル
嵐神マルドゥク
悪神・悪獣
 
悪獣キング

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