象徴体系のシステム比較 [通論]

 

MORFO HUB」で書いた記事ですが、当サイトにテーマに合っているので転載します。

 

「象徴」は非常に抽象的で未知の何ものか、言葉にできない力のようなものを指し示し、それを意識の中に働かせることができます。
それは自然の諸力と意識・無意識の諸作用の両方を同時に指し示し、動かします。

伝統文化や神秘主義思想は、宇宙の構造を「象徴体系」という形で捉えることが多くあります。
概念による論理的な記述ではなく、神話のような神格的存在の物語でもなく、象徴間の直接的な関係性のみで示すのです。

象徴体系は、宇宙の原型でもあり、パンテオンでもあり、暦や方位を現わすためにも使われます。
それは、古代の一種の自然科学であり、占術であり、修行においてはマップであり、ハシゴであり、魔術においては操作板であり、夢や神託においては解釈学です。

例えば、ある象徴体系が、春夏秋冬の季節循環と深く関係していて、それらから発生したとしても、各象徴が表現するものは、具体的な現象を越えて抽象的なものとなります。

その象徴体系は、季節以外のものにも重ねられるようになり、抽象度が増します。
そして、その象徴体系が示す原理から、様々な領域における具体的な現象が生み出されたと考えるようになります。

 

以下、東西の伝統文化、神秘主義思想の象徴体系のシステムを大きく分類して整理します。

水平型、循環型、垂直型、方形型、放射型、準放射型、垂直二極-統合型に分類しましたが、この類型はこの文章を書く際に、私が考えたものです。

 

水平型

 

象徴間の関係に、垂直的な価値観の違いがない体系が「水平型」です。

具体例は、例えば、空間的な方向に関わる体系です。

東西南北の「四方神」の体系は、世界中に存在しますが、中国の

・東=青龍
・南=朱雀
・西=白虎
・北=玄武

が有名です。

中国では、8方向の「八門」、12方向の「十二支」など多数の方向体系があります。

 

循環型

 

水平型と同様に垂直的な価値観の違いはないのですが、循環する時間と関係している体系が「循環型」です。

代表的なのは、例えば、季節循環の体系です。
季節は「季節神」と関係します。
季節の体系は4分割が代表的ですが、地域によって4とは限りません。

1年の循環の体系には、他にも、占星学のカルデアの「12宮(12星座、12ヶ月)」や、エジプトの「36デカン」、インド・中国の「二十八宿」、中国の「二十四節気」、サビアンの「365シンボル」などの体系があります。

中国の「十干」や「十二支」のように、複数年の循環の体系もあります。
ただ、どちらにも季節循環の植物の成長の意味がありますが。

時間循環と空間方向の体系は、重ねられることもあり、その場合は「水平循環」という性質を持ちます。

例えば、東南西北の象徴は、春夏秋冬の象徴とよく重ねられます。

・東=春
・南=夏
・西=秋
・北=冬

中国の「五行」も、季節や方向と重ねられて循環型の体系にもなっています。
また、「十干」や「十二支」も、方向に対応させられました。

「七曜」の体系は週を表現するものとしては循環的なものですが、本来は、惑星の体系として、垂直型の性質も持っています。

 

中国の占術は、主に、天や地、人を表現する循環型体系の組み合わせで行われます。

「断易(五行易)」は八卦、十二支、五行、「六壬神課」は十干、十二支、二十四節季、十二天将、十二月将、「奇門遁甲」は十干、八門、九星、八神、九宮、といった具合です。

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六壬栻盤(出典:WIKPEDIA

 

垂直型

 

象徴間の関係が、価値観の違いとなっているのが「垂直型」です。

多くの場合、価値観の高低は、空間的な上下や、光の明暗などと結びついています。

最も古く、かつ、世界的に普遍的な体系の一つは、天上、地上、地下という「3世界」の体系でしょう。

また、バビロニア発の「7惑星(天)」の天球の体系も垂直型です。

7天の体系は、「10天」の体系に拡張されがちです。
「10天」の場合、「7惑星天」の上につけ足されるのは、宇宙が生まれる元になる宇宙卵や、宇宙の外郭や、北極星、沈まない星座、恒星天などです。

また、元素も垂直的な体系となりました。
「5元素」の場合、アイテール(霊、虚空)・火・空気・水・土という順になります。

「惑星天」と「元素」の体系を結びつける場合は、「惑星天」を「元素」の上に置き、「元素」は月下世界の中の階層とされます。

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ルネサンス時代のロバート・フラッドによる宇宙の階層(出典:WIKIPEDIA)

 

「10天」の体系が生まれたのは、自然数の「10」の体系と重ねられたからでしょう。

ピタゴラス派が1-から10までの数の象徴的意味を基にした数秘術を行っていたという伝説があります。
ですが、少なくとも、ピタゴラスや初期のピタゴラス派にはそれはなかったハズです。

数の体系としては、12進数や60進数を生み出したシュメールに、非常に古く、かつ独自的な、数=神々の体系があります。
これは60=天神アンを最高として、50=嵐神エンリル、40=水神エンキ…と下り、4=牡牛神ハル、3=その妻神、といった垂直体系です。

その後、バビロニアでは、天球を含む宇宙像とパンテオンの対応づけもさなれました。

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身体上のスポットの体系である「チャクラ」の体系も垂直型です。
チャクラの数は様々だったのですが、近代になって欧米で7チャクラ説が有名になったのは、バビロニア系の聖数である7の体系に合わせたためです。

 

また、文字(アルファベット)も垂直型の性質を持つ象徴体系の場合があります。
ユダヤのカバラの22文字の体系が有名ですが、多くの民族に文字の象徴体系があります。

多くの場合、文字は宇宙創造と結びつけられ、すべての文字が平等ではなく、最初の文字や、いくつかの特権的な文字が考えられました。
また、すべての文字に順番がある場合もあります。

文字が数字を表すこともあるので、その場合は数の体系とも結び付けられます。

 

方形型

 

垂直と水平を掛け合わせた形の体系が「方形型」です。

例えば、日本語の文字や音韻は、言霊学として、50音、あるいは75音がこのように体系化されています。
子音には水平的性質、母音には垂直的性質が付与されます。

ですから、全体としては、水平*垂直(10*5、あるいは、15*5)の積算による方形型の体系です。

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15*5の言霊体系(大石凝真素美全集より)

 

放射型

 

垂直性と水平性が組み合わされていて、下方に至るほど分岐してべき算で多数化する体系が「放射型」です。

もっとも代表的なのは、「易経」でしょう。

「易経」の体系は、「陰/陽」の爻をいくつも組み合わされることで、放射的に多数化していきます。
ただ、「周易」の段階での爻の意味は「柔/剛」でした。

3つ組み合わせて(三爻)できたものが八卦で、八卦を2つ組み合わせたものが六十四卦です。

つまり、64の体系は(2*2*2)*(2*2*2)のべき乗放射で表現され、1(太極)-2(両儀)-4(四象)-8(八卦)-64(六十四卦)の垂直体系となります。

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ですが、八卦だけを見ると、水平型の体系となります。

易経の体系は、方向や五行など多くの体系とも重ねられました。

 

「エノキアン・タブレット(エノク魔術)」の体系も放射形です。

全体としては、5元素を4重にかけ合わせたシステムです。

ただし、5元素の内、アイテールだけが、他の四大元素より上位の別扱いになっています。

つまり、(1+4)*(1+4)*(1+4)*(1+4)のべき乗放射体系です。

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エノキアン・タブレット(goldendawnshop.comより)

そして、この中に、ケルビム、セフィロート、12宮、36デカン、22大アルカナ、7惑星、地占記号などの象徴体系が含有されています。

 

準放射型

 

密教のマンダラやヒンドゥー・タントラのヤントラの体系は、「準放射型」と言えます。
下降するほど数が増えますが、放射形のようにべき乗では増えません。
つまり、放射型と方形型の中間のような体系です。

例えば、1-4-16-64…なら放射形で、1-4-4-4…なら方形型ですが、1-4-8-16-16…といった形です。

後期密教の場合、マンダラのもととなる尊格の垂直階層は、

1 本初仏-本初仏母(守護尊-守護女尊)
2 仏-仏母
3 菩薩-女菩薩、忿怒尊-忿怒女尊、女尊、祖師
4 天部(護法尊)
5 葉女神

などとなります。

ちなみに、「時輪経」の場合、1は智恵-大楽、2は五蘊-四大、3は五根-五境、行動器官-行動、プラーナ、4は12ヶ月、5は28日と重ねられます。

また、仏の部族の水平体系は、最初に体系化された五部の体系を持つ「金剛頂経」の場合、

  部  位置 色  仏名     智恵  手印   象徴
・如来部:中央:白:大日如来  :法界性智:智拳印 :仏塔
・金剛部:東 :青:阿閦如来  :大円鏡智:触地印 :金剛杵
・宝部 :南 :黄:宝生如来  :平等性智:与願印 :宝珠
・蓮華部:西 :赤:阿弥陀如来 :妙観察智:禅定印 :蓮華
・羯磨部:北 :緑:不空成就如来:成所作智:施無畏印:羯磨金剛

となります。
ちなみに、「時輪経」ではこれが六部の体系になります。

さて、マンダラは、「金剛頂経」の場合は、

・5(1+4)仏
・16菩薩+4波羅蜜菩薩
・8(4+4)供養菩薩
・4摂菩薩

というシステムです。

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金剛界曼荼羅37尊「曼荼羅イコノロジー」田中公明より

5、あるいは、4のべき乗的部分が1度ありますが、それ以下は増加しません。

その後の経典も、システムは類似しています。

ですが、後期のマンダラの特徴は、尊格が父母仏、つまり、合体孫として、対で表現されるようになることです。

ヒンドゥー・タントラのシュリー・ヤントラの場合も同種のシステムです。

シュリー・クラ派の場合、下記のような尊格が中心から周辺に向かって配置されます。

9 最高女神トリプラスンダリー
8 3聖地女神
7 8守護女神
6 10女神
5 10女神
4 14女神
3 8女神
2 16女神
1 8母神+10シディ女神

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シュリーヤントラ(「インド密教」(春秋社)より)

 

ちなみに、マンダヤやヤントラは地面に描かれて儀礼が行われますが、その原初的な形態は、インディアンの砂絵に見られるような四方の精霊の体系でしょう。

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インディアンの砂絵の儀礼を紹介した本の表紙

 

垂直二極-統合型

 

カバラのセフィロートの体系は独特です。
ここでは便宜的に「垂直二極-統合型」と名付けます。

セフィロートは、もともと1-10の数字の垂直型体系でしたが、それに6方向+4元素の性質が重ねられて立体的体系にもなりました。

その後中世に、「生命の樹」として知られる体系になりました。
これは、垂直型でありつつも、左右の二極(峻厳/慈悲)と中央の均衡・統合という性質を持つ樹状の体系です。

上から見ると稲妻型とも、下から見ると蛇行型とも表現できます。

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「ゾーハル」の写本の生命の樹

10のセフィロートは、以下のような象徴的意味を持ちます。

1 ケテル(王冠)
2 ホクマー(知恵)
3 ビナー(知性)
( ダート(理性))
4 ヘセド(慈愛・恩寵)、ケデュラー(偉大)
5 ゲブラー(権力)、ディン(判断・厳格)
6 ティフェレト(美)、ラハミーム(慈悲)
7 ネツァハ(持続・永遠・勝利・忍耐)
8 ホド(威厳・栄光)
9 イエソド(基礎)
10 マルクト(王国)、シェキナー(光輝・住居・臨在)

セフィロートの体系には、10天、10身体部位や、4世界、3霊魂などが配当されました。

また、「生命の樹」の体系には、セフィロート間をつなぐ22の径には、22のユダヤ文字が重ねられ、さらにこれに7惑星+12宮+3元素が重ねられるなどしました。


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