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ピート・キャロルの混沌魔術 [近代魔術]

ピート・キャロルに代表される「混沌魔術(カオス・マジック)」は、オースティン・スペアやアレイスター・クロウリーの魔術思想を受けて、現代的な魔術を追求する一つの運動です。

「混沌魔術」は、伝統的な象徴体系やその階層秩序、一神教的な善悪観念を持つ魔術を、「ドグマ魔術」として批判します。
そして、魔術師が自身の魔術体系を自作するのが特徴です。
とは言っても、自分の潜在意識が信じる限りは効果があるとして、何でも使うという実践的な姿勢も持っています。

キャロルの「混沌魔術」は、ドグマを拒否し、確かに体系性は少ないですが、彼は形而上学的な志向も持っていて、新しい時代にふさわしい魔術思想の体系的な構築を行っています。

また、キャロルが作った魔術結社の「タナトエロス光明結社魔術同盟(IOT)」には、ウィリアム・バローズ、ティモシー・リアリー、ロバート・アントン・ウィルソンらも参加していたと言われ、「混沌魔術」は魔術シーンだけでなく、カウンター・カルチャーにも広く影響を与えました。


<ピート・キャロルと混沌魔術の歴史>

ピートことピーター・ジェイムス・キャロル(1953-)は、アイルランド系の家系に、心霊能力を持つ女性を母として生まれました。
そして、ロンドン大学で科学を学び、教師になりました。

ピートは、大学時代に幻覚剤を実験している時に、魂の核には「意志」と「知覚」の力しかなく、物質の背景には「混沌」があること理解し始めたそうです。

1976年、キャロルとレイ・シャーウィンが出会ったことが、混沌魔術が生まれるきっかけになりました。
二人は、ロンドンのイーストエンドのフェニックスという書店のまわりで発展していたオカルト・シーンに関わっていました。
そして、二人は「The New Equinox(新しい分点)」という雑誌を出版し、キャロルはそこで混沌魔術に関する文章を発表しました。

キャロルは、1978年に「無の書」を、1982年に「心霊飛行士」を発表して、混沌魔術の概要を公開しました。
前者は、一人で魔術作業をするための、後者は、グループで魔術を行い、社会奉仕するための参考書です。

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*「無の書」、「心霊飛行士」の併載版

また、1978年に、キャロルとシャーウィンは、従来の魔術結社のような階層構造を持たない、混沌魔術の組織の考えを公表しました。
ですが、これはすぐには、現実化しませんでした。

1980年、キャロルは、Frater Vegtanと、オーストラリアで「カオス教会」を設立しましたが、その活動は長続きしませんでした。

次に、1986年に、キャロルは、「無の書」のドイツ語訳の出版を行ったフラターU∴D∴(Ralph Tegtmeier)と、公開セミナーを行いました。
そして翌年、二人はそこで言及した結社を、「タナトエロス光明結社魔術同盟(以下IOT、正式名称は、The Magical Pact of the Illuminates of Thanateros、略してThe Pact)」として設立しました。
ですが、シャーウィンは、この組織の階層性のあり方に同意できずに、離脱しました。

1990年代に、ドイツIOTのHelmut Barthelが、ゲルマン神話をもとにした、氷から力を引き出「アイス・マジック」の教義を作成し、これを巡ってIOTは分裂しました。
そして、「アイス・マジック」を支持したフラターU∴D∴も、反対したキャロルも、IOTから離れました。

2005年、キャロルは、オカルト大学のArcanorium Occult Collegeを設立しました。


<カオス主義のアイオーンとIOT>

ピート・キャロルは、魔術革命を完成させたと主張しています。
「無の書」では、「一世紀以上もの間続けられてきた魔術の理論と実践における革命を、ついに完成させることになった」と書いています。

アレイスター・クロウリーは、「ホルスのアイオーン(時代)」を宣言しましたが、キャロルは、「カオス主義のアイオーン」を宣言しました。
彼によると、これは、「シャーマニズムと魔術のアイオーン」、「異教のアイオーン」、「一神論のアイオーン」、「無神論のアイオーン」に続く、5番目のアイオーンです。

このアイオーンは、ドクマや個人のアイデンティティから開放されることが特徴です。
そして、混沌魔術の達人は、カオスに住み、象徴体系を超越します。

キャロルは、「IOTはゾス・キア崇拝とA∴A∴の魔術的後継者である」(「無の書」)と書いているように、この2つ、特に前者から大きな影響を受けています。
また、タオイズム(道家思想)やタントリズム(密教)からも影響を受けています。

キャロルが設立したIOTの目的は、新しいアイオーンを先導することです。
先に書いたように、混沌魔術は、個人主義でもあり、結社の組織構造の改革も重視しています。

彼は、これについて、「IOTには形式的な階層構造はない、能力に発達に応じた活動区分があるだけである」(「無の書」日本語訳の前書き)と書いています。


<グノーシスとトランスフォース>

クロウリーはヨガのサマディを重視し、スペアはシジルを潜在位意識に送って内面化する際の変性意識状態を重視しました。
これを受けて、キャロルも言葉のない状態、集中した状態を重視し、これを「グノーシス」と呼びます。
キャロルは「グノーシス」を「サマディ」であるとも表現します。

「グノーシス」の状態では、意識の検閲に遮られることなく、生命力、つまり、魔術的な力が顕現するのです。

キャロルは、これに、「抑制モード」と「刺激モード」の2つがあると書いています。
前者は、心を鎮めるものであり、感覚が欠如したものであり、スペアの「死の姿勢」がこれに当たります。
一方、後者は、心を興奮させるものであり、感覚が過剰な状態であり、性的オルガズムがこれに当たります。

また、「恍惚」の4頭戦車の性的記号として、4種の身体的なトランスを述べています。
超越に関わる「死の姿勢」、霊感に関わる「通常の性交」、具現化に関わる「自慰」、そして、疲労に関わる「後背位・肛門性交」です。

もちろん、性と死の重視には、クロウリーとスペアの影響があります。

ちなみに、現代の混沌魔術の魔術師は、「グノーシス」状態を得るために、ほとんどが性的オルガズムを利用していて、一部がスーフィーのような旋回運動を利用しているようです。


「無の書」の最初の部分である「MMMの書」は、クロウリーのヨガの瞑想書を継承したものですが、「魔術的トランス状態」と「トランスフォース(変容)」の訓練をテーマにしています。

「魔術的トランス状態」は、上記のサマディの状態です。

「トランスフォース」は、心を自分の意志によって再構成することで、伝統的には、「真の意志」を見出すための「大いなる業」と呼ばれてきたものです。
混沌魔術これには、3つの方法があると言います。

第1は「哄笑」で、魔術的トランス状態で起こる不均衡を防ぎます。
「哄笑」は、混沌魔術では、宇宙が宇宙自身をからかうという、宇宙論的な行為に当たります。
第2は「非執着・無関心」で、憑依に対抗することができます。
第3は「習慣を取り除く」で、これは個性を超えて、「カオス」に向けて自分を開放するものです。

ここにも、仏教や道家の思想、特にその風狂精神の影響を感じます。


<カオス>

キャロルの世界観、形而上学においては、「カオス」、「キア」、「バフォメット」などが重要な概念です。

「カオス」は、宇宙の根源であり、キャロルはそれを「タオあるいは神と呼んでも構わない」(「心霊飛行士」)と書いていて、また、「空(ヴォイド)」とも表現します。

「カオス」は無限の可能性であり、宇宙はそこから、自然発生的に、偶然に、生まれます。
「カオス」の創造は、作為のない自然的現象であって、「霊的な意識の力」などではなく、善悪とも無関係です。

そして、我々にとっては、「カオス」は、「心理的な無秩序状態」であって、「我々の信念体系を混乱させることによって、インスピレーションと啓発の機会を与えてくれる」のです。

以下、「心霊飛行士」からいくつか、引用しましょう。

「広大な宇宙全体に生命を与える力をカオスと呼ぶ。それは表現し難い、可能性に満ちた空(ヴォイド)であり、そこから存在、法則、形が発生する」
「すべてのものの本質は…自然発生的で、魔術的で、そして混沌とした現象である」
「宇宙を形成している作因はランダムでカオス的なものである」
「宇宙は絶え間なく自らを楽しませ、我々に同じことをするように誘いかける」

キャロルは、「タオ(道)」、「混沌」、「無名」、「恍惚」を根源とする道家思想や、「空」、「無常」をテーゼとする仏教思想・密教思想から影響を受けているようです。

キャロルは、魔術の目的は、2つの道を利用することだと言います。
それは、「光」の道と「闇」の道です。
「光」は溶解し、拡大する力であり、「闇」は凝固し、収縮する力です。

これは、「カオス」からの宇宙顕現と、宇宙の「カオス」への帰還に対応するのでしょう。

セレマで言えば、ホルス/セト、ラー・ホール・クイト/ホール・パアル・クラアトに対応するように思います。


<キア>

「カオス」が客体的概念であるのに対して、「キア」は主体的概念です。
「キア」は、スペアの用語であり、「空気のような私」という意味です。
つまり、無形で無境界で、言語的に表現できない真の主体のことです。

キャロルは、「キア」について、「無の書」で、「意志と知覚の統一体」、「自己意識を与える」、「二元性を持つ心の奥底に隠れている」などと形容しています。

重要なのは、「カオスとキアには精神的または倫理的なものなどまったくない」、「善性、憐れみ、霊性のような犠牲もなければその反対の特性もない」(「心霊飛行士」)ということです。
つまり、通常の意味での善悪の観念とは無関係な、生命的現象であるということです。

また、キャロルは、「魔術」と「キア」の関係について、「魔術とはキアに自由や柔軟さを与えること」、「(魔術は)キアがオカルト的な力を現すことができるような手段を提供する」(「無の書」)と書いています。

キャロルは、「キア」と聖守護天使との関係について、「二元的世界におけるキアの最も完全な媒介物」(「無の書」)、「人間という存在の中心にあるこの空(ヴォイド)こそ、本当の守護天使である」(「心霊飛行士」)と書いています。
彼によれば、それを「高次の自己」と考えるのは、「一神教の宗教から誤って流用された」誤解なのです。

また、キャロルは、人間の死後、「キア」は、「バフォメット」に再吸収されると言います。
彼によれば、「バフォメット」とは、「生命力の海」であり、「地球上の生命の流転そのもの」(「心霊飛行士」)です。


<カオスのミサ>

混沌魔術は、スペアのシジル魔術の影響を強く受けていますが、それ限定されるものではありません。
召喚魔術も集団による儀式的な魔術も行います。

混沌魔術には、「カオス」や「バフォメット」を召喚する「カオスのミサ」があります。

「カオス」の召喚では、円の上の空中にカオスの印形を描き視覚化し、性的霊液の供犠を行います。
その後の「バフォメット」の召喚では、逆五芒星を視覚化し、「汚れの接吻(尻への)」、クンダリニーの喚起や、聖餐などを行います。

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*カオスのシジル


<キャロルの欲望のアルファベット>

スペアに「欲望のアルファベット」があったように、そのキャロル版の「欲望のアルファベット」があります。
これは、スペアや混沌魔術における、例外的な一種の象徴体系です。

スペアのそれが性的な性質のものであったのに対して、キャロルのそれは、様々な感情や、抽象的な観念なども含まれます。

アルファベット(記号)は、自作が21種の他に、錬金術、四大元素、惑星の計35種から構成されます。
また、これら35種は、「生命の樹」に対応しています。

まず、錬金術記号は、「水銀(グノーシス)」、「硫黄(通常の感情)」、「塩(抑制)」の3種で、これらは上位3セフィロートと対応し、それぞれは「キア」、「意志」、「知覚」という属性を持ちます。

次に、二項対立的な二元的感情が、「性/死」、「愛/憎しみ」、「欲望/恐れ」の3組であり、さらにそれぞれの中に3組があって、合計9組18記号です。
これらは、ダートを含むティファレットの回りの6つのセフィロート対応します。

そして、二元性がない感情である「哄笑」と、その中の3つ「脱概念化」、「概念化」、「統合」が、ティファレットに対応します。

最後に、身体的感情の「苦痛/快楽」、「抑圧/高揚」の4種が、マルクトの4大元素に対応します。

このように、混沌魔術は象徴体系を超越すると言いながらも、キャロルには、まるで普遍的だと主張しているかのような、一つの象徴体系を持っているのです。
これは、「生命の樹」と対応を持ち、彼自身が考えた独自のものであり、シジル魔術などで利用します。


<参照としてのチベット密教>

混沌魔術の問題意識は、魔術に必要とされてきた象徴体系、あるいは記号体系からの開放と、魔術と現代的、ないしは東洋的な非実体主義的の生成哲学との融合の問題でしょう。
また、体系を個人の潜在意識から構成することや、組織の階層性を否定する問題です。

これらの問題は、かつて、インドの後期密教やチベット密教でも問題とされたことです。
ですから、現代的な魔術の問題を考えるに当たっては、これらを参照することが役に立でしょう。
以下はこのテーマで簡潔に述べます。

密教では、経典(タントラ)ごとに異なるマンダラが説かれます。
これは、それぞれの教義が異なる体系で説かれているということであり、魔術を行使しないとしても、修行実践においては、異なる象徴体系を観想して潜在意識に植え付けるということです。

ですが、仏教は非実体主義なので、それぞれの象徴・教義体系は、実践においても、それが「空」であること、つまり、方便であることを前提としています。

各宗旨・宗派では、中心となる経典を定めてはいますが、同時に多数の経典を学びます。
つまり、多数の体系を学んで、特定のものにこだわらず、また、個々の体系を幻のようなものとして受け取ります。

さらには、象徴体系としての教義を超えたところに、マハームドラーやゾクチェンのような上位の教えが置かれます。
マハームドラーは体系なき象徴を意味し、ゾクチェンにおいてはそれが常に生成・変化・解脱し続けるものとなります。
つまり、修行のゴールは、象徴や体系性を超えた地点とされ、その教義においても、象徴はほとんどなくなります。

また、伝統的な経典の教義だけでなく、ヴィジョンの中で霊的存在から潜在意識を通して受け取った教えを重視します。

寺院組織については、かつてのインド後期密教やチベット古派では、出家してもしなくても、寺院組織の外に学ぶことが重視されました。
また、特定のグルにいつまでも従事することを避け、宗派を越えて多数のグルを求めて各地を転々としました。



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オースティン・スペアのキアイズム [近代魔術]

オースティン・スペアは、「キアイズム」、「ゾス・キア(・カルタス)」などと呼ばれる、魔術を作った人物です。
その思想も、その技法も、まったく他に類を見ないものです。

技法においては、伝統的な象徴体系も、霊的存在の名前や召喚も、対応する印形も必要としません。
これは魔術における革命であり、ピート・キャロルらの「混沌魔術」の誕生の原点となりました。

スペアの魔術技法の中心であるシジル(印形)魔術は、願望実現魔術であり、その原理は潜在意識を働かせる心理的技術でしかないとも言えます。

ですが、彼の思想には、あらゆるドグマを否定し、魔術の源泉となる本来的な自分である「キア」を、言語が不在で、無形、言説不可能とするなど、仏教や老荘思想の主体論にも似たところを感じることができます。
また、「キア」を、原初的な性的原理とし、「自己-愛」的で快楽的なものとする点では、フロイトを越えてドゥルーズ=ガタリ的な機械状無意識論を感じることもできます。


<スペアの人生>

オースティン・オスマン・スペア(スパー、1886-1956)は、警察官を父としてロンドンで生まれました。

スペアは、セーラムの魔女の生き残りだというパターソン夫人から、様々な魔女術系の魔術の教えを受け、また、アストラル・ライトでのサバトにイニシエートを受けたといいます。
ですが、パターソン夫人は、スペアが創造した架空の存在かもしれません。
もし、そうだとすると、他に類を見ないスペアの魔術の思想と技法の由来は、まったく不明となります。

また、スペアは、若い頃には王立美術アカデミーに席を置いた画家であり、生涯に渡って作画し、時折、展示会を開きました。
また、彼の作品はヒットラーの目に止まり、ナチスの肖像画を依頼されましたが、最終的に断ったといいます。

スペアは、若い頃から、画家としての生活の一方で、ブラヴァツキー夫人、アグリッパ、エリファス・レヴィなどの書を読みながら、自身の独自の魔術思想を追求しました。

アリウスター・クロウリーはスペアの画家としての才能に惹かれ、1907年頃から数年の間、スペアと交流を持ち、A∴A∴にも招待しました。
また、スペアは、その機関誌「春秋分点」に線画を4点寄稿しました。

ですが、スペアは伝統的な儀式魔術には興味を持てなかったようです。
彼は、「なぜ儀式用の服と仮面を身に着け、神々の態度を真似なければならないのか」と書いています。

スペアは、自身の魔術思想を表現した書として、1913年の「快楽(喜び)の書」、1921年の「生の焦点」などを出版しました。
これらはとても難解な表現で書かれています。

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*左「喜びの書」、右「生の焦点」

1949年、スペアはクロウリーの弟子だったケネス・グラントと知り合いになり、交流を持ちました。
そして、グラントの結社「ニュー・イシス・ロッジ」の祭壇画を描きました。
グラントは、スペアが、蛇の女神を崇拝する中国系のオカルト一派の一員だったと主張していますが、真実は不明です。


<シジル魔術>

シジル魔術とは、特定の図形である「印形」を使った魔術です。
スペアのシジル魔術は、基本的に願望実現魔術です。

重要なのは、伝統的な魔術では願望に対応する霊的存在に固有の決まったシジルを使うのに対して、スペアのシジル魔術では、その都度に自作します。

次のようなプロセスで行います。

1 願望を文にする(アルファベット大文字)
2 複数出てきた文字は消して一つだけにする
3 すべての文字を組み合わせて簡素化しながら図形化する
4 出来上がったシジルを変性意識状態で凝視して潜在意識に送る
5 願望とシジルを忘れて意識から消し去る

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*スペアによるシジル

1は日本語なら漢字でもカタカナでも可能です。
文章は、原則的に、潜在意識が理解しやすい文にします。
「THIS IS MY WISH…」といった定型文を使います。
潜在意識は否定文を理解できないので肯定文にします。
ただ、日本人・日本語の場合は否定文でも問題ないという意見もあります。
曖昧過ぎず、具体的過ぎない、適当な具体性を持った文章にします(例えば、時間の指定など)。

2は、シジルを単純化するために行います。

3は、場合によって、文章を部分に分けて一つずつシジルにして後から組み合わせるとか、大きな一つのシジルを単純化すると良い場合があります。
最後に、シジル全体を円や四角で囲みます。

4は、願望を思い浮かべずに、シジルだけを凝視して、内面化します。
変性意識状態は、言語がなく、意識と潜在意識の壁がなくなった状態で、シジルをしっかりと潜在意識に届けることができます。

瞑想や観想が得意でない人でも簡単に変性意識状態になる方法には、マスターベーションによるオルガズムや、短時間に過激な運動を行う、呼吸を限界まで止める…などによって一種の放心状態になる方法があります。

最後の方法は、「死の姿勢」と呼ばれる方法で、スペアは重視しました。
深呼吸の後、両手を使って目、耳、内をふさぎ、体の緊張を高め、ギリギリ限界まで呼吸を止め、その後、目を見開いて、呼吸をして、シジルを凝視します。

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*上部のスペアの自画像部分は「死の姿勢」(「快楽の書」より)

5は、4の内面化の後、笑って、シジルを心の中からなくし、すぐに他のことを考えます。
そして、シジルを書いた紙を捨てるとか、あるいは、逆に目に付きやすいところに貼ります(いつも見えると、意識しなくなるため)。


<魔術が働く理由>

伝統的な魔術では、願望によって、それに対応する象徴(霊的存在)のシジルが決まっていましたが、スペアの方法では、都度、自作しても効果があるのです。
ということは、重要なのは、シジルの形ではなく、作業プロセスであるということになります。

そして、この製作方法は、作業が複雑すぎないので、潜在意識がシジルと願望を理解していて、また、作業が単純すぎないので、意識がそれを忘れてしまいます。
ということは、意識が介入せずに、無意識を自動的に働かせることで魔術が働く、ということです。

また、伝統的な魔術のように、特定の霊的存在をその名前を使って召喚しなくても、効果があるのです。
霊的存在を召喚してもしなくても、働いている仕組みは同じであり、名前や姿を持たせるかどうかという違いだけなのです。
つまり、魔術を働かせるためには、潜在意識が働けば良くて、象徴は不要であり、外的な霊的存在の要不要に関わらず、それに直接語る必要がない、ということです。

以上の点で、スペアのシジル魔術は、まったく革命的です。
そして、伝統魔術がなぜ効果があるのか、その本当の本質がどこにあったのか、を理解する根拠になります。

スペアの方法は、無意識を重視してそのメカニズムを利用するものですが、彼はフロイトやユングに対しては、「詐欺とジャンク」であると批判しています。


<シジル魔術の応用>

シジルを作る時に、文字だけではなく、イメージ(象形文字的記号)を一つの素材として使うこともできます。
例えば、特定の人間を表現する場合に、人の形にイニシャルを入れるとか。

また、文字ではなく、旧来の記号を一つの素材として使うこともできます。
例えば、「愛」を表現するために占星術の金星の記号を使うとか。
これは、既存の象徴を使うことになります。

シジル魔術と同様な方法によって、シジルではなく、呪文を作ることもできます。
つまり、願望文の文字を図形化するのではなく、願望文を適当に組み合わせて、呪文を構成するのです。

また、シジルにせよ、呪文にせよ、良く使う言葉を、定型化しておいて、それらを組み合わせて文章を作ることもできます。


<願望のアルファベット>

スペアのシジル魔術には、「願望のアルファベット」という方法があります。
これには、次の2種類があって、それぞれ、まったく異なるものです。

1 構造原理としての「願望のアルファベット」
2 精神の鏡としての「願望のアルファベット」

まず、「構造原理」としての「願望のアルファベット」は、一種の象徴体系です。
これは、潜在意識の性的な性質を持つ元型的な力の類型で、22の絵文字として表現されます。
この詳細は不明ですが、22字ということは、カバラの影響があるのかもしれません。

スペアは、原初的な段階の精神を性的なものと考えていて、それが魔術の大きな力になると考えています。
「構造原理」としての「願望のアルファベット」を使うことで、その原初的な精神の一部を活性化して、利用するのです。

一方、「精神の鏡」としての「願望のアルファベット」は、文字を使わず、自動書記で潜在意識から受け取った図形です。

具体的には、特定の願望に関わる概念を思い浮かべながら、無心で手を動かして、線を落書きします。
その中から、その概念を意味すると思える特定の部分を図形として抜き出して、使うのです。

つまり、既存の言葉や記号を一切使わず、すべてを潜在意識から受け取って、それをシジルとして魔術に利用するのです。


<先祖返り的復活>

スペアの魔術には、「隔世遺伝的復活」、あるいは、「先祖返り的復活」、「隔世遺伝的ノスタルジア」と呼ばれる方法があります。

スペアは、進化論のダーウィンを高く評価していて、ダーウィンが執筆を行ったゆかりの地を訪れたほどでした。

スペアは、我々の潜在意識の中には、進化上の過去の精神の状態が残っていると考えました。
つまり、様々な動物の意識であったり、究極的には単細胞生物の意識があるのです。
彼は、潜在意識の構造を、「進化の順序における地層」と表現しています。

そして、スペアは、進化論的に古い段階の心は、強い魔術の力を持っていると考えました。
そのため、このような前人間的な心を、シジルを使って、活性化して引き出すことによって、願望実現のエネルギーに利用します。
シャーマンがスピリット・アニマルに変身するのと似ているのかもしれません。

願望文としては、例えば、「爬虫類を経験したい」といった文章でシジルを作ることで、その心を体験することができます。
いきなり、日常でこれを体験するのは危険なので、まずは、「夢で…」と指定するのが適当です。

「直ちに…」とすれば、儀式や、願望実現のシジル魔術で利用できます。
シジルを潜在意識に届ける時に、その願望に関係する動物の意識になって行うと効果的があります。


<ゾス・キア>

スペアの魔術思想は、「ゾス・キア」、「キアイズム」と呼ばれます。
「ゾス」も「キア」も、スペアの造語のようです。

「ゾス」は、「統一された体」を意味します。
語源は不明ですが、スペアのイニシャルが「AOS」で、この最初を意味する「A」を、最後を意味する「Z」に変えたのが「ゾス」だという説があります。

「キア」は、「空気のような私」という意味で、「中間性」という属性を持っています。
「快楽の書」では、「どちらにも非ず-どちらにも非ず」とか、「理解不可能」、「形態なし」、「属性なし」などとも表現しています。
つまり、「私」の本質は、形も境界もなく、二元論的な言語で規定できない存在であるということです。

「ゾス・キア」と合わせると、形も境界もなく、多様で分裂なき統一された体、ということになります。

このスペアの思想は、仏教や道家に似ていて東洋的でもあり、また、現代的でもあります。

自我の側から見れば、自分の信念や欲望を開放し、自分を無限に広げたのが「キア」です。

スペアは、上記した「死の姿勢」という言葉に関しても、単なる肉体的な姿勢のことではなく、それが導く精神状態、「キア」の状態を含意しています。
彼は「快楽の書」で、「死の姿勢」について、「我々が信じるすべてのものの死体」、「死の姿勢」に到達すると「満足させられた全能な愛の意味を把握することができる」と書いています。

また、スペアは、「キア」について、「原始の性的原理」とも書いていますが、それは「自己-愛」的な「知覚不可能なエクスタシー」なのです。
おそらく「キア」は何か外部のものを欲望の対象とするのではなく、本来的にそれ自身で充足する欲望であり、エクスタシーであり、その意味で「自己-愛」的存在なのでしょう。
我々が「キア」を受容し、普通の意味のナルシズムではない「自己-愛」的になることで、「キア」は顕現するのでしょう。

「死の姿勢」や「先祖返り的復活」による変性意識状態は、この「キア」の状態を理解するきっかけになります。
「キア」は、自由であり、創造の源であり、魔術的な力を持つ状態なのです。
伝統的な魔術の目的としての自己超越、大いなる作業という側面は、スペアにあっては、この「キア」に向けて自我を開放していくことなのでしょう。



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クロウリーの魔術思想、セレマ [近代魔術]

前ページでは、アレイスター・クロウリーの生涯と「東方聖堂騎士団(以下OTO)」の歴史を書きましたが、このページでは、彼の魔術思想、「セレマ」についてまとめます。

テーマ、キーワードは、「真の意志」、「ホルスのアイオーン」、「セト=ホール・パアル・クラアト」、「ババロン」、「獣」、「性魔術」、「ヨガ」、「薬物」などです。


<クロウリーの魔術思想>

クロウリーの魔術思想、その教義は、「セレマ(テレマ、意志)」と表現されます。
彼の思想の根本は、「法の書」の次の言葉で表現されています。

「汝の意志することを行え、それが法のすべてとなろう」
「愛は法なり、意志の下の愛こそが」
「すべての男女は星である」

最初の文は、フランソワ・ ラブレーの小説の影響が指摘されています。
また、クロウリーは、「法の書」の解題の中で、次のように述べています。

「「普遍的意志」は「愛」と同じ性質のものである」
「私の「愛への意志」という杖の動きに従い、諸君の「光を求める生」を燃え立たせるのだ」
「生の「本質」が純粋な「光」であり、何の束縛も印もない無形の恍惚である…」

つまり、「セレマ」の思想は、「意志」の肯定であり、それは「愛」であり、「生」であり、「光」であり、個人の「自由」です。

ちなみに、「テレマ(意志)」と「アガペー(愛)」、「エイワズ(「法の書」を伝えた存在)」は、ゲマトリアの数値が93で同じです。


また、クロウリーは、「魔術―理論と実践」の中で、次のように魔術を定義しています。
「「魔術」とは、「意志」に従って「変化」を起こす「科学」であり「業」である」
「すべての意図的な行為は「魔術的行為」である」

この定義は、通常の意味での魔術だけでなく、「意志」に従った行為がすべて魔術であるとするものです。

ですが、これらの「意志」とは、個人の日常的自我の意志ではありません。

魔術の定義のすぐ後に、
「意識的な意志と「真の意志」とか心中で葛藤している人は、自分の能力を浪費している」
「自らの「真の意志」を行っている人には「宇宙」の惰力という味方がいる」
と書いています。

つまり、「意志」とは「真の意志」であって、宇宙と合致するものであり、それは、「聖守護天使」がもたらすものなのです。

この構造は、「黄金の夜明け団(以下GD)」の教義と同じです。
ですが、「聖守護天使」の意味付けの点で、異なります。
この点は後述します。


また、「魔術―理論と実践」の中で、いわゆる「悪魔」について、
「「悪魔」は存在しない。…悪魔が統一を持てば「神」となるであろう。」
と書いています。
いわゆる「悪魔」に関しても、これが不均衡なエネルギーであるというGDの考えと同じです。

クロウリーは、よく黒魔術師であると言われます。
彼は、日刊新聞の記事で、「私は黒魔術を行うほどに下劣で馬鹿な人間が存在するとはほとんど信じられないくらいまでにその黒魔術とやらを軽蔑している」と書いていて、これを真っ向から否定しています。

そして、「魔術―理論と実践」の中では、黒魔術についても次のように定義しています。

「「唯一の至高の儀礼」は、「聖守護天使の知識と交渉」の達成である。それはまったき人間を垂直線上に上昇させることである。この垂直線から少しでも逸脱すれば、黒魔術となる傾向がある。これ以外のいかなる操作も黒魔術である。」

ですが、伝えられるクロウリーの人生を見ると、この定義から外れていることを行っていたのではないかと言わざるを得ません。


<セレマの書>

クロウリーは、性魔術のパートナーや自分が、憑依の状態、あるいは、自動書記のような状態で、数々の書や魔術的な知識を得ました。

A∴A∴では、文書をA級からE級まで等級分けして分類しています。

「聖なる書物」とされるA級の文書は、「V.V.V.V.V.」や「エイワス(エイワズ)」によって与えられた文書です。

A級は13の文書がありますが、クロウリーが詳細な解説を書いているのは、「第220の書(法の書)」(1904年)と「第65の書(蛇に巻かれし心臓の書)」(1907年)だけです。

AB級の文書には、「パリ作業」と「霊視と幻聴」の二冊があり、B級には、「アレフの書』、「トートの書」、「777の書」などがあります。


<ホルスのアイオーン>

「法の書」は、キリスト教などの奴隷的な時代だった「オシリスのアイオーン」が終わり、人間が神性に目覚める「ホルスのアイオーン」が訪れたことを告げました。

「魔術―その理論と実践」では、「イシスのアイオーン」が女族長の時代であり、次の「オシリスのアイオーン」が父長の時代であり、「ホルスのアイオーン」は両性具有の時代であると説明されます。


「法の書」は、「ヌイト」、「ハディト」、「ホルス(ラー・ホール・クイト)」の言葉を、「ホール・パアル・クラアト」の使いである「エイワス」が代弁したものを、クロウリーが記したものとされます。
クロウリーのセレマの教義では、「ヌイト」、「ハディト」、「ホルス」の3神が至高の根源神です。

「法の書」、「魔術―理論と実践」などによると、女神「ヌイト」は、「無限の空間」であり、「円」、「0」です。
一方、「ハディト」は、「偏在する点」であり、「中心」、「顕現」、そして、「蛇」です。
「ホルス(ラー・ホール・クイト)」は、両者の統一、結合であり、「1」、そして、戦争と復讐の神です。

そして、OTOの文書(「神々の本性について」)によれば、「ハディト」は「男根」を身にまとっていて、子である「ラー・ホール・クイト」は、地上の「太陽―男根」です。

「魔術―理論と実践」では、「ホルス」を「ケテル」に対応させていますが、「777の書」の万物照応表では、「ハディト」を「ケテル」、「ヌイト」を「アイン」に対応させています。

ちなみに、一般に、エジプト神話では、「ヌイト(ヌート)」は夜空の女神であり、その配偶神は大地の神「ゲブ」です。
「法の書」では、「ヌイト」が「夜空」で、「ハディト」が「地球」と読み取れる部分もあります。
ところが、「ハディト」は「セト」のカルデア語らしいのです。
ですが、「セルマ」では、「ハディト」と「セト」とは別の神のように思えます。

一般に、「ラー・ホール・クイト(王冠を戴く制服する幼児のホルス)」は、鷹神「ホルス」の一つの姿であり、「ホルアハティ(東の地平線から昇る太陽神ホルス)」と一体とも考えられます。

また、「ホルス」は、「ホール・パアル・クラアト(ハルポクラテス、蓮の花の上に座る幼児のホルス)」という姿を取ることもあり、前者の姿と対照すると、こちらは「西の地平線に沈む太陽神ホルス」とも考えることができます。

・ラー・ホール・クイト(ホルアハティ)   :東の地平線から昇る太陽神ホルス
・ホール・パアル・クラアト(ハルポクラテス):西の地平線から沈む太陽神ホルス

「法の書」や「魔術―理論と実践」では、両者を統合した存在を、「ヘル・ラー・ハ」と呼んでいます。

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*中央にラー=ホール=クイト、薄くホール=パアル=クラアト、上部にヌイト
(クロウリー版トート・タロット)

ちなみに、GDでは、ラー・ホール・クイト(ホルス)は、入場と攻撃の合図、ホール・パアル・クラアトは、沈黙と防御の合図とされます。

また、一般に、「ホルス」は、その敵であり、悪神とされることもある「セト」と一体と考えられることもありました。

クロウリーの弟子のケネス・グランドによれば、「ホール・パアル・クラアト」は「セト」と同じ神であり、「セト」と「ホルス」は一対の神です。

「セト」は、決して悪神ではなかったのですが、「オシリスのアイオーン」において悪神とされてしまったのだと言います。
また、「セト」はシュメールにもたらされて「シャイタン」になり、ユダヤ・キリスト教では悪魔化されて「サタン」になったのだと。

そして、「セト」と「ホルス」の2神は次のように対象的な性質を持ちます。

・セト (ラー・ホール・クイト)  :受動的:吸収:回帰:南
・ホルス(ホール・パアル・クラアト):能動的:放射:顕現:北

ですから、「ホルスのアイオーン」においては、「セト」=「ホール・パアル・クラアト」は、「ホルス」と一対で一体の神として復権されるべき神であり、「ホルスのアイオーン」を代表する神なのです。
だからこそ、「法の書」を伝えた「エイワス」は、その使いなのです。


<V.V.V.V.V.>

クロウリー自身は、ほとんど説明をしませんでしたが、「ホルスのアイオーン」の救世主は、「V.V.V.V.V.」と呼ばれる存在でした。
これは、「Via Vita Veritas Victoria Virtus(径、生命、真実、勝利、美徳)」とか、「Vir Vis Virus Virtus Viridis(人、力、毒、大胆、緑)」と呼ばれることもあります。

これは、クロウリーの「聖守護天使」であり、魔法名の一つでもあり、「銀の星(以下「A∴A∴」)」を指導する存在なのです。
「V.V.V.V.V.」は、当然、ホルス=セトと直結する存在なのでしょう。
つまり、2元論が転倒されて一元化された、一元化する存在であり、それを強調する点が、GDの「聖守護天使」とは少し異なります。

「聖守護天使」は、GDでは、「真の自己」、あるいは「高次の自己」として、内なる存在としても考えることもありましたが、クロウリーにあっては、外なる客観的で個的な、進化した霊的存在です。

ちなみに、クロウリーは、8番目のアイテールで「聖守護天使」と出会っています。


<ババロン、獣、パン、バフォメット>

「ホルスのアイオーン」では、悪神化されていた「セト」が肯定的存在に転倒されます。
同様に、キリスト教「ヨハネ黙示録」に登場する大淫婦バビロンが、「ババロン(緋色の女)」として、転倒されます。
また、彼女が乗る666の数字を持つ竜、悪魔である「獣」も、肯定的存在として転倒されます。

つまり、「ババロン」は聖母マリアやイシスに代わる存在であり、「獣」はイエスやオシリスに代わる存在です。
そして、これは、性や欲望を肯定する思想の表現です。

クロウリーは自分を「獣」と見なしており、彼の多数いた性魔術のパートナーは「ババロン」の化身なのです。

また、クロウリーは、「魔術―理論と実践」で、「ババロン」を「生命の樹」のビナーに対応づけています。
ビナーは、「深淵」を渡って到達する「ババロン」の宮殿なのです。

ちなみに、クロウリーは、9番目のアイテールで、「ババロン」と出会っています。

この「深淵」を渡ることは、「ババロンの杯へすべての血を注ぐ」行為とも表現されます。
これは、日常的な自我のすべての個性、知識を捨て去り、「無」へと回帰することを意味します。

キリスト教によって悪魔とされてきた「バフォメット」もまた、転倒されます。
「バフォメット」は、テンプル騎士団が信仰した神であり、ミトラ系イスラムの秘教では筆頭天使のアザゼルとされ、エリファス・レヴィも評価した神でもあります。

「セレマ」においては、クロウリーのOTOの魔法名でもありますが、OTOの第10位階の首領でもあります。
クロウリーは、「バフォメット」を、「獣」と「ババロン」の統合であり、「パン」でもあると考えました。
また、その語が、「父ミトラ」を意味すると解釈しました。

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一般には、「パン」は、牧神であり、下級の半獣神とされます。
ですが、「パン」は古い神であり、オルフェウス教では、原初の両性具有神エロス=ファーネスと同体の神です。

クロウリーは、ギリシャ語の「全(パン)」と解釈し、「777の書」の万物照応表では、「パン」は「0(アイン)」とされています。
そして、男根と女陰の結合とも解釈します。

また、「深淵」を越えることは、「パンの夜」とも呼ばれます。


「セレマ」は「ヨハネ黙示録」の「獣」を転倒しましたが、GDでは、この「獣」は、マルクトの下にある「殻(クリフォト)の王国」の「赤い竜」、ないしは「赤い竜」に食いつかれたアダムカドモンです。
これは、「赤い竜」は不均衡、非統一のエネルギーの象徴です。

つまり、キリスト教が二元論的に実体化した「悪魔」、「獣」を、GDはすでに「赤い竜」として転倒しています。

「セレマ」の「獣」は、GDでは「赤い竜」を眠らせた「啓発された達人」であり、「セレマ」とGDの思想には、根本的な違いはないのではないでしょうか。

「セレマ」の「獣」や「ババロン」という表現は、2元論の転倒を強調してそれを意識化する表現ですが、それゆえに、その表現自身が2元論を逃れ切っていません。


一般に、GD系魔術では霊的存在の召喚に際しては、五芒星を上向きで描きますが、黒魔術で悪魔(クリフォト)の召喚の場合は、下向きで描くとされます。

「セレマ」の場合、悪魔を肯定的な存在として捉え直すため、それを召喚しても、黒魔術とはなりません。
まず、「オシリスのアイオーン」で持っていた道徳観、罪の意識が取り除かれていることが、前提となります。
その上で、心の中で上向きの五芒星を観想した後で、下向きの五芒星を描きます。


<マアトのアイオーン>

クロウリーによれば、「ホルスのアイオーン」は、父権的なアイオーンを克服する「両性具有の時代」のはずです。

ところが、クロウリーは、女司祭が司祭のために儀式を行うのを禁じていたことからも分かるように、男性優位の考え方を持っていました。
ケネス・グラントも、「少なくとも彼自身はシヴァ派、つまり、父権的立場の方に大きく傾いていたのである」と書いています。

そのためか、弟子のフラクター・エイカドは、「マアト(娘、正義の女神)のアイオーン」が、「ホルス(息子)のアイオーン」と平行して、1948年に始まったことを宣言しました。
また、ほぼ同時に、「水瓶座の時代」も始まったと。

彼の主張は、フェミニズム的な女性の霊性の運動とも結びついていきました。

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<ガンサーによるA∴A∴の解釈>

J・ダニエル・ガンサー(ギュンター、フラターK.N.)は、マルセロ・モッタのA∴A∴における高弟であり、SOTOの代表的な魔術師でした。
彼は、2009年に、「子供のアイオーンへの秘儀参入(Initiation in the Aeon of the Child)」を出版し、この中で、A∴A∴の内部で口伝でのみ伝えられていた多くの概念を公開し、「セレマ」の教義の解釈を深化させました。

彼は、現在のアイオーンにおいては、「黄金の夜明け団(以下GD)」の「L.V.X.の術式」が時代遅れになっていて、「N.O.X.の術式」へと移行したことを強調します。

「L」は嘆きのイシスの合図、「V」はテュフォンとアポフィスの合図、「X」は蘇りしオシリスの合図です。
「L.V.X.」は、死と復活のオシリスを意味し、意識の光を意味します。

ガンサーによれば、「L.V.X.の術式」は、「オシリスのアイオーン」のGDの魔術では、内陣に入る5=6アデプタス・マイナー(ティファレト)の術式でしたが、「ホルスのアイオーン」では、単なるマルクトの術式に変化したのです。

つまり、「L.V.X.」の術式は、ティファレットではなくマルクトにまで、「聖守護天使」を降臨させるための光による召喚の術式であり、A∴A∴では、0=0ニオファイト儀式となります。
「聖守護天使」は、落下する災いの星として、人間の魂の最下層に宿る存在なのです。
これは「セレマ」が性も含めた肉体を肯定、聖化することと関係するのでしょうか。

いずれにせよ、GD魔術を根本的に変えることになります。

一方、「N.O.X.の術式」は「ホルスのアイオーン」の術式であり、これは「深淵」を超えて「無」へと回帰する、そして、3rdオーダーに入るための術式です。
つまり、「N.O.X.」の三文字は、「パンの夜」を示し、「ババロンの杯へすべての血を注ぐ」ことを意味します。

また、ガンサーは、ホルスが両性具有の総合の神であることを強調しました。
ホルスは、その座を西と東の二つの地平線上に占める存在「ホルス=フルマキス」であり、これは両極を「統合」する存在です。

そして、ガンサーによれば、A∴A∴の道(大いなる作業のプロセス)は、「回帰の径」であり、「死→生→誕生→妊娠→受胎→統一化→無化」と進みます。
一方のOTOの道は、「永久の径」であり、「彷徨える自我の拘束→誕生→生→死→死後の世界への参入→消滅」と進みます。
この2つの道は、生と死の順番が反対になっています。

A∴A∴の道は、オシリスの死の祝祭から始まり、地下世界を旅し、やがて地平線から上昇する太陽と同一化します。
そして、深淵に至った志願者は自己を放棄した純粋無垢な新生児と見なされ、その誕生から更に回帰の道を辿って、やがてヌイトの子宮たるビナーにおいて受胎します。
そして、再生して「父」と合一し、虚無へと回帰し、消滅します。

A∴A∴の3つのオーダーは、次のような意味と課題があります。

1 G∴D∴:殻の中の均衡   :聖守護天使のヴィジョン
2 R∴C∴:小径における均衡 :聖守護天使の知識と会話
3 S∴S∴:立法石における均衡:深淵横断

1の「聖守護天使のヴィジョン」は、実際にはヴィジョンではなく、「聖守護天使」が破壊力を伴って、0=0ニオファイトのネフェシュ(動物魂)に降下して、未制御な魂を根底から変成する作業を開始するのです。
そして、「聖守護天使の知識と会話」のための強固な基盤 (イェソド) を形成していきます。

ちなみに、『H.H.H.の書』には、G∴D∴での三つの瞑想、「MMM」、「AAA」、「SSS」が記されています。

「MMM」の瞑想は、A∴A∴の1=10ニオファイトの課題である「聖守護天使の幻視」です。
ヨガの坐法で、次のような瞑想を行います。

夜の海が稲妻に引き裂かれる、毒蛇に22回噛まれる、自分を卵として観想する、赤と緑と銀と黄金の十字架に取り囲まれる。
そして、聖守護天使に一心に祈り、 L.V.X.の光で恍惚になる。

「AAA」の瞑想は、2=9ジェレイターの参入儀式「死体の書」のストーリーの瞑想です。
黄金の夜明け団の5=6 ジェレイター・アデプタス・マイナーの参入儀式に対応します。
次のような瞑想です。

死んで、ミイラとして防腐処理を施されます。
そして、長い眠りからの目覚め、生命である息と光、声と口づけが(聖守護天使からの接吻)到来します。
その後、地下世界を旅し、卵へと変成し、東の地平線から太陽として上昇します。

「SSS」の瞑想は、3=8プラクティカスに課された課題です。
この瞑想は、クンダリニーの覚醒を目指すものです。

まず、自分の脳が大いなるイシスの子宮、星々の女神ヌイトの身体そのものであると観想します。
そして、基底部をオシリスの男根、ハディートであると観想します。

2の「聖守護天使の知識と会話」は、5=6アデプタス・マイナーで始まりますが、本当に達成するのは、「深淵」を越えた後です。


<ヨガ>

クロウリーは、ベネットの影響を受けて以来、東洋の神秘思想を魔術に取り入れています。

早期の文献としては、1910年発行の『春秋分点』第一巻四号では、東洋の体系について、ヴェーダンタ哲学、各種ヨガの紹介と彼の実践記録、チャクラやムドラーの解説、仏教教義(八正道、マハサティパッターナなど)、易経などを紹介しています。

また、A∴A∴の位階にも、ヨガの八支則と仏教の「観(ヴィパッサナー)」の訓練を下記のように配当しています。

・2=9       :第3支アーサナ、4第支プラーナヤーマ
・4=7       :マハー・サティ・パッターナ(大念所) 
・ドミナス・リミニス:第5支プラティヤハーラ、第6支ダラーナ
・5=6       :第7支ディヤーナ
・8=3       :第8支サマディ

また、クロウリーは、諸界上昇の技法についても、ヨガの技法と関連付けて書いています。
見者は諸界への上昇の最中、常に安定したアーサナを保ち、ダラーナ(集中力)が必要であると。

クロウリーは、クンダリニーがスシュムナー管上のチャクラを上昇する過程と、見者が「生命の樹」の「中央の柱」のセフィラを上昇する過程が類似しているとして、その比較をしています。
そして、OTOの最初の「大地の男の三組」の6位階を、7つのチャクラ(第0は2つ)と対応させています。

また、現代のA∴A∴では、ヴィヴェー・カーナンダによる「ラージャ・ヨガ」や、ハタ・ヨガ系聖典の「シヴァ・サンヒター」、「ハタ・ヨガ・プラディピカ」、「道徳経(老子)」などを、読書カリキュラムに入れています。


<性魔術>

クロウリーは、1914年に、OTOの第7位階以上のための性魔術に関わる指南書を書きました。

第7位階のための「神々の本性について」では、大宇宙の中に存在する唯一の神は「太陽」であり、小宇宙には「太陽の副官」として男根を持つ人間がいる。
そして、様々な地上の神々を、男根や精子と関係づけて解釈しています。

第8位階のための「神々と人間との秘密の婚姻について」では、マスターベイションによる性魔術の3種類の方法について解説しています。
まず、「大いなる婚姻」では、女神を観想し、召喚し、強姦します。
「下等なる婚姻」では、エノク魔術で四大元素の霊を召喚し、ピラミッド型の護符に精液をつけます。
そして、「神聖王国」では、四大元素の男女の霊の魔除けを作って、2霊に多くの子供を産ませます。

第9位階のための「愛の書」では、異性間、及び同性愛の性魔術について解説しています。
ここでは、神への愛を高揚させて男女で性行為を行い、その男女の混合液を飲み干します。

また、「愛の書」の解説文「魔術の技法について」では、あらゆる性技、薬物を使用して性的興奮を与え続け、寝落ちと刺激による覚醒を繰り返し、覚醒とも睡眠とも言えない状態になって神と交信すること、究極的には、そのまま亡くなることを説いています。

第10位階のための「ホムンクルス」では、懐胎3ヶ月の女性を魔法円に入れて、霊を召喚して胎児に宿らせることで、ホムンクルス(人間の魂を持たない人間的存在)を作る方法を説きます。


西洋魔術における性魔術には、様々なものがあります。

一般に、魔術の実践では、変性意識状態を引き起こし、潜在意識に象徴などを伝える必要があります。
性魔術は、この変性意識を、性的なオルガズムによって引き起こします。
これが、性魔術の一つの意味です。

ですから、性的なオルガズムの状態で、象徴的なイメージや印形を観想して、霊的存在を召喚、一体化したり、護符を聖別します。

また、人間がイメージを思い描くと、それがアストラル・ライトの中に創造されますが、魔術は、そこに力を注ぎ込んで、長く存在させます。
オルガズムの時に思い描いていたものは、大きな力が注がれるわけです。
また、自分にとっての何らかの性的なタブーを初めて破ると、その時にエネルギーが開放され、それが利用できます。

もう一つの意味は、精液や女性の性液、その混合物、あるいは、そこに含まれるものの利用です。
たとえば、護符を作る時に、精液や混合液を護符につける、液で護符に図形を描くなどです。

さらに次の意味は、子供を作ることです。
例えば、四大の精霊を召喚して、射精を伴う性魔術によって霊的な子供を生み、使い魔にしたり、他の霊的存在との間のメッセンジャーにします。

精液や男女の混合液などについて、クロウリーは、
「神はある種の分泌液を食べている」(「エネルギーとなった熱狂」)
「「男根」は唯一の「光」の与え主なのである」(「神々の本性について」)
「霊薬は…全「宇宙」に存在する中で最も強力で…「太陽」そのものである」(「神々と人間との秘密の婚姻について」)
と書いています。

OTOやクロウリーは、タントリズムを取り入れていると言われます。
ですが、密教やヒンドゥー系のタントリズムでは性ヨガを行うことがありますが、魔術は、密教用語で言えば雑密という低い段階に固有なものです。
房中術を行う仙道でも同じです。

性ヨガは、直接的には中央管にプラーナを入れる、あるいはクンダリニーを上昇させる、あるいは心滴(ビンドゥ)を溶解して、心身を変容させるために行います。
仙道の房中術は、男女が互いに先天の陰陽の気を補って「胎」を形成するために行います。

後期密教の赤白の心滴(ビンドゥ)を融解して金剛身を作ることや、仙道で命門の先天の精・気から仙胎を作ることは、霊的生理学と霊的修行道を一体化させて理論化されています。
ですが、西洋の性魔術には、それに対応するものはありません。
クロウリーは、東洋の秘教が内に向かう道であるのに対して、西洋の魔術は外に働きかける道であると考えていたようなので、その志向性の違いによるものかもしれません。


<薬物>

クロウリーは、性魔術を行う時に、多くの場合、意識や感覚に刺激を与える他の方法を伴わせていました。
音楽、ダンス、酒、薬物などです。

クロウリーは、あらゆる楽物を摂取して、魔術に役だつかどうか実験しました。
ちなみに、当時、それらは違法ではありませんでした。

もともとは、師匠だったベネットが喘息で、その治療のために、アヘン、モルヒネ、コカイン、クロロフィルムを使っていたので、クロウリーは、彼の影響を受けたのが始まりでしょう。

クロウリーは、「ヘロインとコカインの場合は、あまりありがたいとは思えない。…それでも、私が求めているものは、それらであり、それらだけなのである。」と書いています。
また、ジ・エチル・エーテルにも好感を持って評価しています。

もちろん、クロウリーの後継者の中には、後に、LSDなどの他の薬物を実験した者もいます。


クロウリー関係の日本で出版されている書籍の他に、下記サイトも参照しました。
HierosPhoenixの日記 


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クロウリーとO∴T∴O∴の歴史 [近代魔術]

アレイスター・クロウリーは、魔術結社「黄金の夜明け団(以下GD)」を脱退した後、独自の魔術を追求した人物です。

彼はパートナーを霊媒として、あるいは、自身が変性意識状態となり、霊的存在から様々な書、魔術的知識を受け取りました。
そして、自身を、「ホルスのアイオーン」という父権的道徳から開放された新しい時代の預言者と見なしました。
彼が受け取り、形成した魔術的教義は、「セレマ(テレマ)」と呼ばれます。

また、クロウリーは、「東方聖堂騎士団(以下OTO)」と関係を持ち、その性魔術を取り入れて、発展させました。

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<GD>

クロウリーは有名人で、その生涯もよく知られていますが、当サイトの観点から、限定して紹介します。

アリウスター・クロウリーことエドワード・アレクサンダー・クロウリー(875-1947)は、ビール酒造業を営む裕福な家庭に生まれました。

両親は、ダービー派のアクスクルーシブ・プレスレンという、キリスト教の極端な原理主義的厳格派を信仰していて、クロウリーは、同派の寄宿学校に通いました。
この学校は告げ口を推奨し、嘘でも反駁できないようなところで、クロウリーは校長や母親からは、言われのない疑いと虐待を受けて、体を壊し、退学を余儀なくされました。

クロウリーは、この家庭と宗派への反発心からか、生涯、反キリスト的教な思想を持ち続けたようです。

A・E・ウェイトの書を読んで手紙を書いたことをきっかけに、魔術結社に関心を持ち、1998年に、GDに入団しました。

GDでは、団員達に落胆しましたが、実力者のアラン・ベネットの弟子となりました。
ですが、ベネットは喘息が悪化したため、療養のためにセイロンに移住しました。
ベネットは、神智学協会員で東洋にも関心のあったためですが、彼は後に、仏教の僧院に入りました。

1899年、クロウリーは、ロンドンの団員からその性格を問題視され、アデプタス・マイナーへの昇格を拒否されたため、パリのマサースを頼って、昇格を果たしました。
ですが、マサース派と反マサース派の対立抗争に巻き込まれ、マサースにも失望し、1900年、彼は世界旅行に出かけました。


<法の書とA∴A∴>

クロウリーは、旅行中のメキシコで、エノク魔術によるアイテールの上昇を企て、30番目、29番目の参入に成功しました。

また、セイロンに立ち寄り、ベネットからヨガを習い、「ディヤーナ(8支則の7番目で、集中力を維持する瞑想段階)」に成功しました。
以降、彼は自身の魔術において、ヨガを重視し続けました。

1903年、クロウリーはローズ・ケリーと出会い、結婚して新婚旅行に出ました。
エジプトでの魔術を行っている時、偶然、ローズに霊が降りました。
この霊は、「エイワス」という名で、ホルス神(ホール=パアル=クラアト)の使いであると名乗りました。
クロウリーは、エイワスの声を直接聞けるようになり、「法の書」を授けられました。

この書は、キリスト教などの、人間が奴隷となっていた時代「オシリスのアイオーン」が終わり、人間が神となる新しい時代「ホルスのアイオーン」が来ることを告げるものであり、クロウリーは、その預言者であると理解しました。

この書は、クロウリーの人生を決定づけるもので、彼はこの書の意味を解釈し続けましたが、晩年になっても、完全には理解出来ていないことを認めています。

また、同年の覚書で、「哲学にあっては頑固なまでの唯名論者となった。私は真正な仏教徒の一員と言えば言えるような位置にまで至っていた」と書いています。
道徳的な反キリスト思想が、仏教的な反実体主義の哲学へと拡大されたのでしょうか。

1907年、クロウリーは、ヨガの「サマディー(8支則の最後の、無概念の集中を持続する瞑想段階)」に成功し、これは大きな達成であると考えました。

それもあってか、クロウリーは、自身の結社、「銀の星(Argenteum Astrum、以下A∴A∴)」を設立しました。

この団は、GDのように首領に反対するグループが生まれないことを配慮してか、あるいは、個人主義の反映か、団員の教育は師が一対一形式で行い、団員同士の交流をほとんどさせませんでした。
その中核を為すのは「法の書」の教えであり、ヨガも取り入れました。
初期のメンバーには、後に魔術界で有名になったオースティン・スペアもいました。

1909年には、機関誌「The Equinox(春秋分点)」を始めました。
これは一般人にも魔術的知識が普及するようにと、破格の安値で頒布しました。

また、この年、アルジェリアで、エノク魔術によるアイテールの上昇の挑戦を再開しました。
そして、クロウリーは、15番目のアイテールの天使に秘儀参入を受けて、「8=3マジスター・テンプリ」に昇格したと判断しました。

14番目のアイテールにはなかなか到達できなかったのですが、同性愛関係にあったヴィクター・ノイバーグを相手に、マゾ的な同性愛の儀式を行うと、これを通過できました。

また、「深淵」を越えるために、10番目のアイテールの「コロンゾンの悪魔」を召喚する儀式を行ったのですが、この時、クロウリーが魔法の三角形の中で悪魔を憑依させて一体化し、魔法円の中にいたノイバーグがこれと戦いました。

アイテールの上昇のヴィジョンは、後に「霊視と幻聴」として公開されました。

1911年、パリでメアリー・デスティという女性と親しくなり、彼女を通して「アブ・ウル・ディズ」という霊から、「アバの書(第四の書)」をクロウリーが書くための準備を与えるとのメッセージを受け取りました。
そして、イタリアで、クロウリーが口述、デスティが筆記と言う形で書き始めました。

第一部はヨガを中心とした神秘主義がテーマの書、第二部は儀式魔術の道具の作り方を中心とした魔術の基礎をテーマにした書となりました。
ですが、二人が喧嘩別れをしてたため、この第二部で終わりました。

ちなみに、第三部は1929年に出版された「魔術-理論と実践」として、第四部は1936年に「春秋分点」第三巻三号「神々の春秋分点」として限定で出版された「セレマ-法」として書かれました。


<OTO>

1912年、「春秋分点」で公開した内容が、GDの秘密の公開に当たるとして、マサースがクロウリーを訴えるという事件が起こりました。
マサースはこの裁判で自分が薔薇十字団の真の首領であると主張したため、多くの薔薇十字系の団体からマサースは反発を受け、マサースの敵であるクロウリーに名誉位階が贈られるといった現象が起こりました。
OTOも、クロウリーに名誉位階を授与しました。

その後、クロウリーは、「虚言の書」の中の六芒星儀式「サファイアの星の儀式」に、性魔術を比喩的な表現で書きました。
ですが、これが、OTOの性魔術の秘密の公開に当たるとして、OTOの首領のセオドア・ロイスが、クロウリーの元を訪れて、糾弾しました。

でも、クロウリーはOTOからその教えを受けておらず、独自で、確信を持たずに書いたものでした。
クロウリーは、ロイスの指摘を受けて初めて、OTOの性魔術を理解し、その重要性に気づきました。

ロイスは、クロウリーの言い分を認めて、クロウリーにイギリス支部(「ミステリア・ミスティカ・マキシマ(M∴M∴M∴)」)設立許可を与えました。
また、クロウリーも、ベルリンに赴いて、OTOの高等秘密文書を学習しました。

1914年、クロウリーは、OTOの第7位階以上のための性魔術の指南書、「神々の本性について」、「神々と人間との秘密の婚姻について」、「愛の書」、「ホムンクルス」を書きました。
*詳細は次のページを参照

第一次大戦後の1915年、クロウリーは、「9=2メイガス」の位階に達したと宣言しました。

また、「法の書」に書かれていた、「彼の後より来る者こそ、一切の「鍵」を発見する者となる」の、「後より来る者」を自分の息子であると思い、二人の女性を相手に、性魔術の儀式を行いながら、自分の子供を作ることを企てました。
しかし、子供を得ることはできませんでした。

ところが、1916年、OTO団員でありクロウリーの弟子だったフラター・エイカドが、神秘体験をして、自分が8=3の位階の存在になったと、クロウリーに伝えたました。
エイカドは、この時点で、まだ、2=9の位階でした。

ですが、この連絡が、クロウリーが「息子」を作るための儀式を行ってから、ちょうど9ヵ月後でした。
また、エイカドが「法の書」の解釈の鍵(LA(無、ヌイト)=AL(神、ハディト)=31)を発見したことから、クロウリーはエイカドこそが自分の「魔術的息子」であると考えました。

でも、後に(1925年)、エイカドは全裸で街を歩いて逮捕され、クロウリーは彼を破門にしました。

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<セレマの僧院>

1920年、クロウリーは、シシリー島でコミュニティ的な「セレマの僧院」を設立し、二人の恋人と、その子供たちと生活を始めました。

翌年には、最高の位階「10=1イプシシマス」に昇格したと宣言しました。
この時、かなり薬物を使って、試練を越えたと判断したようです。

1923年、野良猫を生け贄として殺害し、その血を飲むという儀式を行い、それがもとでメンバーに死者が出て、クロウリーも病気になりました。
その後、イタリアから国外退去命令を受けます。

1925年、クロウリーは、テオドール・ルイス亡き後のOTOの3代目の首領になりました。

1929年、フランスからも国外退去命令を受け、ロンドンに戻り、「魔術―理論と実践」などを出版しました。
1944年には、「トートの書」と、クロウリー版のタロットカードを出版しました。
ですが、1947年、クロウリーは、心臓疾患、気管支炎で死亡しました。


<死後>

1951年、クロウリーの遺産管理人だったジョン・シモンズが、クロウリーを冷笑的に描いた伝記を出版しました。
ところが、逆にこれによって、ダーク・ヒーローとしてクロウリーに注目が集まることになっていきました。

一方、クロウリーの弟子達も、クロウリーの伝記やクロウリーの魔術解説書を出版するようになり、クロウリーに対する理解が進みました。

ケネス・グラントは、1960年に「アレイスター・クロウリー」、1972年に「魔術の復活」、1983年に「アレイスター・クロウリーと甦る秘神」などを出版し、彼自身しか知らないとされる独自資料を元に、独自の解釈を行いました。 
彼は、クロウリーのOTO系、左道系の魔術に関心を示しました。

また、イスラエル・リガルディーは、1970年に「三角形の目」を出版しました。
彼は、グラントと反対に、GD系の正統流の魔術に興味を持つ人物です。

クロウリーは生前にはさほど大きな影響力を持つことがありませんでしたが、1960年代以降のカウンター・カルチャーの潮流の中で人気が出て、ロック・スターのジミー・ページや、映画監督のケネス・アンガーらにも支持されました。

また、2009年には、J・ダニエル・ガンサーが、「子供のアイオーンへの秘儀参入」を出版し、A∴A∴の内部で口伝でのみ伝えられていた多くの概念を公開しました。
この書によって、クロウリー魔術の解釈は深化され、新しい段階に入りました。

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<A∴A∴とOTO>

クロウリーが首領を務めた「A∴A∴」と「O∴T∴O∴」の2つの結社は、どちらも「法の書」で示された教義「テルマ」に基づくものでしたが、この2つは、まったく性質が異なる結社でした。

A∴A∴は、GDを継承するものですが、個の啓発に焦点を絞り、師から弟子へ一対一で秘儀伝授を行なう組織であり、「ロッジ」や「テンプル」という概念を持ちません。
位階構成は次の通りです。

・団に属さない位階:「学徒」、0=0
・1stオーダー G∴D∴(黄金の夜明け団):1=10から4=7
・中継位階:「境界の主」
・2ndオーダー R∴C∴(薔薇十字団):5=6から7=4
・中継異界:「深淵の嬰児」
・3rdオーダー S. S.(銀の星団):8=3から10=1

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A∴A∴日本WEBサイト

一方、OTOは、イニシエーションの階梯と儀式魔術を通して集団を訓練する組織です。
下位の位階はフリー・メイソン的な儀式を持つ位階で、上位位階は性魔術が置かれています。
現在の位階構成は次の通りです。

・大地の男の三組:第0-4、「完全なる参入者またはエルサレムの王子」
・すべての三組に属さない位階:「東と西の騎士」
・恋人の三組:第5-7
・隠者の三組:第8-9
・三組に関与しない特別位階:第10-12

これらの位階は、基本的にはセフィロートと対応していませんが、「大地の男の三組」の6位階は、7つのチャクラ(第0は2つ)と対応しています。

また、OTOは、教会部門として、公の組織「グノーシス・カトリック教会」を持っています。

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<クロウリー以前のOTO>

OTOは、オーストリアの裕福な製紙化学者のカール・ケルナー(1851-1905)によって、1895年に結成されました。
世界を幅広く旅行して回ったケルナーは、旅先でスーフィーとヒンドゥーのタントリズムの達人らと出会ったそうです。
ですが、その性魔術には、アメリカの「光のヘルメス友愛団」のパスカル・ビバリー・ランドルフ(1825-1874)の影響が指摘されています。
ケルナーは、「メイソン大学」というコンセプトを持っていました。

1905年にケルナーが亡くなった後、OTOの2代目の首領は、セオドア・ロイス(1855-1923)が継承しました。
彼は歌手で、ジャーナリスト、そしてプロシア警察のスパイとしても活動していました。
彼は、1906年に、OTOの憲法を交付しました。
また、英国薔薇十字教会のウェストコットとも、儀式のやり取りや相互公認などのやり取りを行っていました。
また、彼は、バーバリアン・イルミナティの復活を画策していたこともあって、OTOの位階には、その影響も取り入れています。

このように、OTOは、非公認メイソンリー儀礼のコレクターが、「メイソン大学」のコンセプトをもとに結成した結社でした。
そして、下位位階には、「メンフィス・アンド・ミツライム」や「古代公認スコティッシュ儀礼」などのメイソン系の儀式を配し、上位位階には性魔術を配する、という独特な構成を持った結社でした。
また、ハタ・ヨガも取り入れていました。


<クロウリーのOTO>

先に書いたように、1912年に、クロウリーが第10位階に就任し、イギリス支部「M∴M∴M∴」を結成しました。

彼はその後、OTOに彼の教義「セレマ」のエッセンスを注ぎ込んで、第5位階以上の儀式を改変しました。
第5位階の儀式は、キリスト教を否定して、「ホルスのアイオーン」を受け入れることを象徴するものでした。

1925年、ロイスの亡くなった後、クロウリーがOTOの第3代の首領になりました。

また、1944年、近代魔女術の父となるジェラルド・ガードナーがOTOに参加しました。


<クロウリー後のOTO>

1947年にクロウリーが亡くなった後には、ドイツのクロウリーの代理人だったカール・ゲルマーが首領を継承しました。

クロウリーの弟子だったケネス・グラントは、1951年に、イギリスのOTOを運営する権限があると公言しましたが、ゲルマーは1955年にグラントをOTOから破門しました。
ですが、これに対して、グラントは、自分がOTOの首領であると宣言しました。
彼の団体は、「タイフォニアンOTO(TOTO)」と呼ばれています。

ゲルマーは1962年に亡くなりました。

クロウリーにOTOの第9位階授けられていたグラディー・ルイス・マクマートリーは、1970年代にOTOの首領を宣言して、その復興を手掛けました。
このOTOは、他のOTOを名乗るグループと区別して「カリフェイトOTO」と呼ばれることもあります。

1985年には、ゲルマーの弟子だったマルセロ・ラモス・モッタと、マクマートリーのカリフェイトOTOの間に法廷闘争が勃発しました。
そして、マクマートリーが、正統なOTO(クロウリーの著作権所有者)として認められました。

ですが、マクマートリーは、モッタがA∴A∴の首領であることは認めました。
モッタの組織は、「東方聖堂騎士団協会(SOTO)」と呼ばれています。
先に書いたダニエル・ガンサーは、この出身です。

同年に、マクマートリーは息をひきとり、フラター・ハイメナウス・ベータが6代目の首領となりました。
ハイメナエウス・ベータは、かつてモッタのA∴A∴のプロベイショナーだったこともあり、かつての両団の抗争は終結して、盟友関係が回復されました。


もちろん、上記以外に、勝手にクロウリーの影響を受けたと主張するグループ、勝手にOTOを名乗っているグループは多数あり、中には、スキャンダラスな話題をふりまいたものもあります。

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フォーチュンとリガルディーとその弟子たち [近代魔術]

「黄金の夜明け団(以下GD)」が分裂した後に入団した魔術師を、GD第二世代とすれば、その代表は、ダイアン・フォーチュンとイスラエル・リガルディーでしょう。

二人には、心理学を学んで取り入れたこと、通信教育や書物などを新しい教育手段として用いたこと、GDの秘密の公開を行ったこと(二人には差はありますが)、ブラヴァツキーの神智学に影響を受けたこと、などの共通点があります。

こうして、GD系の魔術は、第2世代、及び、その弟子たち(第3世代)によって継承され、通信や出版を通した教育というだけでなく、場合によっては、位階制度の廃止、あるいは、個人参入といった新しい形態が生まれました。


<フォーチュンと内光協会>

ダイアン・フォーチュン(ディオン・フォーチュン)ことヴァイオレット・メアリー・フォース(1891-1946)は、ヨークシャー出身の孤児で、クリスチィアン・サイエンスを信奉する家族に育てられました。
彼女の関心は、心霊主義から神智学へと進みました。

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フォーチュンは、二十歳の時、オカルト的知識を持つ職場の上司から、催眠術を使った攻撃を受けて、精神を壊しました。
それに気付いた彼女は、心理学とオカルティズムの勉強の必要性を感じました。

彼女はロンドン大学で心理学、心理分析を学び、フロイト、ユング、アドラーらの理論に夢中になり、1918年には、素人診療家になりました。

そして、フォーチュンは、心理学とオカルティズムの密接な関係を確信するようになりました。
彼女は「オカルティズムは心理学を、心理学はオカルティズムを再照合し、解き明かす」(「心霊的自己防御」)と書いています。

と言っても、この一方で、「心霊現象と主観的幻想を非常に注意深く区別しなければならない」とも書いて、彼女は、魔術を心理現象に還元しているわけではありません。

そして、フォーチュンは、1919年、ブロディ=イネスの「A∴O∴No.2」に加入し、1920年には、ロンドンのモイナ・マサースの「A∴O∴No.3」に移籍しました。

すぐに、フォーチュンは、「秘密の首領(マスター)」から文書を受け取ったと主張するようになりましたが、それが神智学的な内容だったこともあり、モイナはこれを否定しました。
その後、フォーチュンは、「オカルト・レビュー」誌などに記事を発表しましたが、これが「A∴O∴」の秘密を公開したとモイナから批判され、彼女と決別します。

そして、1922年、フォーチュンは、「内光の友愛(後に「内光協会」に改名)」を設立しました。

ですが、フォーチュンは、「A∴O∴」と決別していたため、団設立の認可状を持っていませんでした。
そのため、彼女は、1925年に、「暁の星」系の「ヘルメス・ロッジ」に加入して、正式に認可状を得ました。

その一方で、1925年には、彼女が「秘密の首領」から受け取ってきた文書を、「コズミック・ドクトリン」として発表しました。
そして、神智学協会キリスト教神秘主義ロッジの会長(1927年まで在任)になりました。

「内光協会」は、魔術結社として初めて通信教育制度を取り入れて、魔術の新しい時代を切り開きました。
これは、魔術の歴史において、大きな変革でした。

「内光協会」は3階級の位階を持ち、第2段階以上の弟子はロンドンの本部に集まり、儀式魔術を行いました。

ちなみに、開業医だった夫のエヴァンスも、団員であり、魔術のパートナーでした。
マサース夫妻から始まって、フォーチュン夫妻、その後も、ノーウィッキ夫妻、ザレウスキー夫妻、キケロ夫妻など、GD系には、一緒に魔術を行う夫妻が多くいます。

フォーチュンは、魔術、心理学などの多数の著作、小説を発表しています。
魔術関係では、1935年に発表した「神秘的カバラ」が名著として知られています。

フォーチュンの後期の魔法小説は、古代の異教と性をテーマにしたものです。
彼女は、アレイスター・クロウリーとも交流があり、その影響があるとも言われています。
彼女は、シャクティや「黒いイシス」に象徴される、女性的なエネルギーを、また、男女2原理の両極性を重視しました。

先に書いたように、フォーチュンは、魔術の心理側面に関して、心理学的に説明することがあります。
例えば、「「神」の霊を呼び出す手段として見れば、儀式はまったくの迷信である。しかし、人間の霊を呼び出す手段として見れば、それは純然たる心理学である」(「神秘のカバラ」)と、書いています。

GD(マサース)は、「自動的意識」という言葉を使いましたが、フォーチュンは、「潜在意識」という言葉を使います。
「この2つ(潜在意識と意識)が結び付けられて対極的機能を果たす時、超越意識を生む。これが秘伝家の目標なのである」とか、
「個々の魂と最も原初的な潜在意識の深層に隠されている「宇宙の魂」との間には、潜在意識的な結びつきがある」、とも書いています。


<フォーチュンの弟子たち>

1946年、フォーチュンが亡くなると、その後、「内光協会」は位階制度を廃止し、キリスト教神秘主義の団体と化していきました。
ですが、「内光協会」の魔術志向の弟子達は、通信教育制度を継承して活動を始め、GD系魔術を継承する、大きな潮流を形成しました。
ウィリアム・バトラー、ガレス・ナイト、ウィリアム・グレイ、ジェラルド・ガウ、ノーウィッキ夫妻などです。

ウィリアム・E・バトラー(1898-1978)は、インドで陸軍に勤務した時代に、神智学協会員となり、帰国後の1925年に「内光協会」に入団しました。

そして、彼はサウサンプトン大学のエンジニアとして働く一方、魔術師、そして、魔術の著作家として活動しました。 

バトラーは、1952年には「魔術―その儀式と効力と目的」、1959年には、「魔術師―その訓練と作業」を発表し、魔術の著作家として知られるようになります。

そして、1962年に、彼は、ガレス・ナイトと共に、通信教育の魔術講座「ヘリオス・コース」を始めました。
ナイトが離脱すると、1965年に、「光の侍従(SOL)」を設立しました。

「光の侍従」は、弟子の魔法日記を元に手紙で丁寧な指導を行なうことが特徵です。
また、「中央の柱」、「パス・ワーキング」の技法を発展させているようです。

「内光協会」から「ヘリオス・コース」、「光の侍従」と、常にバトラーと活動を共にし、バ彼が亡くなった後は、「光の侍従」を率いたのがドロレス・アッシュクロフト=ノーウィッキとマイケルの夫妻です。
ドロレスは、儀式魔術の入門書やパス・ワーキング関連の著作も発表しています。



<バトラーと心理学>

バトラーは、魔術の心理的側面に関して、心理学的な説明を良く行います。

「魔術師が現代思想と最も近いつながりを見出すのは現代心理学、特にC・G・ユングの名に結びついた心理学的発想である」
「C・G・ユングの著作はかなり魔術の伝統と同一線上にあり…」
(以上、「魔法―その儀式と効力と目的」)

バトラーは、このように、ユングが魔術と近いことを評価していました。
そして、彼は、「元型的イメージ」、「集合的無意識」といったユングの用語を使って説明します。

「魔法はその象徴や儀式の元型的イメージを通じて人類の潜在的意識的精神に語りかけ、それによって魔術師の求める「意識の中の変革」を生み出すのである」(同上)

「集合的無意識の深みの中にはある力やエネルギーが存在しており、それを我々は意識における変革という効果を引き起こすために、我々の意識的な自己の中に出現するように呼び起こそうと試みること、これが「魔術」であり…」(「魔法使い―その訓練と仕事」)

つまり、バトラーによれば、魔術とは、「元型的イメージ」を通して、「集合的無意識」のエネルギーを刺激して、意識を変革する技術なのです。

魔術の心理学的説明について、もう少し、バトラーの説明を聞きましょう。

彼によれば、魔術を行なうには、まず、意識の閾値を下げることが必要です。
そして、逆に、「潜在意識を持ち上げる」(魔法使い―その訓練と仕事)必要もあります。

魔術儀式では、多数の象徴によって、「累進的な暗示が精神的なギアの入れ換え」(魔法―その儀式と効力と目的)を行ないます。

その象徴は元型的イメージであり、潜在意識は集合的無意識です。

そして、「潜在意識層が意識の中へ昇ってきて、任意の目論見をひきおこす暗示的な力を利用できるのである」(魔法―その儀式と効力と目的)

バトラーが心理学的説明をすると言っても、フォーチュンと同様に、魔術を心理学に還元しているのではありません。
彼は、魔術によって、ある種の実在する力が召喚されると考えます。

「心理的方法は極めて大切なものではあるけれども、それが大切なのは、「中央の柱」のような訓練を通じて導入された魔術のエネルギーによって補充された時に限る」(魔法使い―その訓練と仕事)とも書いています。

ですが、彼は、その力の見える姿は、主観的に投影したものであると言います。
そして、召喚された力が、人の内面の力を喚起すると。

また、「元型的イメージ」=神は、アストラル・ライトの中に、人間が長年に渡って作り上げてきた「集団表象」であり、それは実在です。

そして、結社が打ち立てた「集合表象(思念像)」は、その民族の「集団表象」と介してエネルギーに満たされます。

そのため、魔術師がイメージを観想、もしくは、霊視すると、それが、「集合的に形成された「神」の形象との接触線として働き、これが次に、それが象徴する宇宙的エネルギーと結びつく」(魔法―その儀式と効力と目的)のです。


<リガルディー>

イスラエル・リガルディー(1907-1985)は、ロシア系ユダヤ人で、ロンドで生まれ、アメリカに移住しました。

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最初、ブラヴァツキー夫人の神智学に影響を受けましたが、その後、クロウリーに傾倒しました。
そして、リガルディーは、1928年にパリでクロウリーの秘書になり、彼のもとで魔術の勉強を行いました。

彼の言によれば、クロウリーに惹かれたのは、ブラヴァツキー夫人の道徳的厳しさに対する反抗だったそうです。
それでも、彼は、ブラヴァツキー夫人の著作を愛読し続けましたが。

リガルディーは、1932年に「柘榴の園」、続いて、魔術の技法の紹介を含む「生命の樹」を出版しましたが、この書の件でクロウリーと喧嘩別れすることになりました。

ですが、フォーチュンはリガルディーを擁護し、1934年、リガルディーは、彼女の紹介で「ヘルメス・ロッジ」に招待されて加入し、ここでGD流の魔術を学びました。

その後も、「我が薔薇十字団の冒険」(1936)を出版すると、秘密を漏らしたとしてクロウリーや「A∴O∴」から攻撃を受けました。

1937年、リガルディーは、アメリカに戻りました。
そして、1937-40年にかけて、「ヘルメス・ロッジ」で入手した文書などを元に、「黄金の夜明け」4巻本をシカゴ・アリーズ・プレスから出版し、GDの教義、儀礼体系のほとんどを公開してしまいました。
これによって、GD系の結社は壊滅的な打撃を受けました。

リガルディーは、公開に際して、「体系全体を世間一般に公表し、人類がこれを失うという事態を回避することが重要だった…またすでに団の教義は部分的かつ無責任な状態で公開されてきたという経緯もある」と書いています。

また、インタビューでは、「(大異変が起こっても)この本がほんの2-3冊でもいい、どこかで難を逃れて残っていれば、この知識は地上から消滅してしまうことはない…この本のお蔭で、こういう形でのオカルトの知識、「光への参入」の一つの方法が、あと何千年かは残ることになる」(「黄金の暁会 最後の覚書」掲載)と語っています。

その後も、リガルディーは、GDの文書の蒐集を続け、上記4巻本の増補改訂版を、69年、86年にルロウリン社から、84年にファルコンプレス社から出版し続けました。


リガルディーは、アメリカで心理学、心理療法、そしてカイロプラクティックの勉強をし、心理学の博士号も取得しています。
1947年には、ロサンゼルスに引っ越し、そこでカイロプラクターとして活動を始めました。

彼は、「一年間はユング派、二年間はフロイト派、そして四年間はライヒ派だった」と述べています。(「黄金の暁会 最後の覚書」)
そして、魔術を志す人には、サイコセラピーを受けるように勧めています。

リガルディーは、「分析心理学と魔術は同じ技術体系の半分同士」であるとも書いています。

「「魔術」というものが主に現代心理学とまったく同じ世界と関わっていると言える。…「魔術」とは我々のより深い部分を探ることが可能となるように考案された一連の心理学的手法なのである」(同上)とも。

また、リガルディーは、心理学のコンプレックスと魔術の「悪霊」が同じもので、魔術ではそれらを人格化し、視覚化し、目の前に召喚するのだと書いています。
このようにして、意志や意識でコントロールすることで、「コンプレックスは再び意識に併合される」(以上「魔術の技法」)のだと。

ですが、リガルディーは、晩年のインタビューで、「ユング派の研究をしていた一年間は、まったくの無駄だった。…いわば、精神的なマスターベーションだよ」(「黄金の暁会 最後の覚書」掲載)とも述べています。
彼は、ユングの能動的想像力とスクライングなどを比較して、前者は幻想的なマスターベーションだけれど、後者は客観的なものだと考えていました。
彼は、こういった点で、ユングの限界を感じていたようです。


リガルディーは、1950年代には、一旦、魔術界から引退しました。
また、彼は、科学的にLSDを使用する実験を行って、その精神に与える影響の研究を行いました。

また、ジョン・サイモンズが出版したクロウリーの初めての伝記「大いなる獣」が、あまりに無理解な内容だったため、リガルディーは、クロウリーと自身を擁護するために、「三角形野中の目」(1970)を出版しました。
彼はこの書の中で、クロウリーに法の書を与えたエイワズは、クロウリーの精神の一面であると書いています。


<リガルディーの弟子たち>

1969年に、リガルディーの「黄金の夜明け」4巻本の改訂版が出版されました。
いわゆるニュー・エイジの時代に入っていたので、この改訂版は、初版時よりも売れました。
そして、アメリカ各地でGDの影響を受けた結社が作られるようになりました。

リガルディーは、自身の結社を作りませんでしたが、弟子はいました。

その代表的人物である、チック・キケロ、サンドラ・タバサ・キケロ夫妻は、リガルディーの4巻本の影響を受けて、「自己参入」で魔術の研修をしました。

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そして、1977年に、ジョージア州で家を借りて神殿を作り、これを「イシス・ウラニア・テンプルNo.18」と称し、「黄金の夜明けヘルメス団(The Hermetic Order of the Golden Dawn、H.O.G.D.)」を結成しました。

1980年に、彼らはリガルディーに連絡を取って交流を計り、アリゾナ州セドナのリガルディー宅に通って教えを受けました。
1982年に、彼らがアデプトの地下納骨所を完成させた時、リガルディーがそこを聖別しました。

ですが、リガルディーは、1985年に亡くなります。

キケロ夫妻は、1988年に、団を非営利団体として公式に登録しました。
そして、1995年には、GDの伝統を不正な金儲けに使おうとする者から守るためとして、「The Hermetic Order of the Golden Dawn」の名前と、GDのマークを商標として登録しました。

また、彼らは、「黄金の夜明け伝統への自己参入」(1995)、「「黄金の夜明け団」入門」(2003)、などを出版しています。
特に前者は、魔術の「自己参入」の時代を象徴する著作でしょう。

もちろん、彼らは、通信教育を行なうだけでなく、インターネットを通した募集などの活動も行なう世代で、WEBサイトも運営しています。

また、キケロ夫妻と一緒に活動していた人物に、クリス・モナスター(パトリシア・バーマン)とデヴィッド・ジョン・グリフィンがいます。
モナスターは、リガルディーの200点に及ぶ魔術関係の遺品を保管しているそうです。

彼らは、1982年にリガルディーの指導の下にO∴K∴A∴(Osiris Khenti Amenti)を設立し、それが母胎になって、1994年に「黄金の夜明けヘルメス団(Hermetic Order of the Golden Dawn、サイトでは「Authentic」をつけていたので「A.H.O.G.D.」と略される)」を結成しました。

この団体は、1995年に、「H.O.G.D.」に対してその商標登録に関する公式の抗議と和解調停を行い、「The」抜きの名前で商標登録しました。

また、「永遠の黄金の夜明け団」という結社に対しては名称及び紋章の使用停止勧告を行い、この結社は、「国際黄金の夜明け団」と改名しました。

「A.H.O.G.D」は、「アルファ・オメガ薔薇十字団」に所属するパリのアハトゥール・テンプル、「薔薇十字の同朋連合」などとも連携をしています。
そして、「ルビーの薔薇と黄金の十字架団(Ordo Rosae Rubeae et Aureae Crucis)」も商標登録し、WEBサイトでは「Alpha Omega Rosicrucian Mystery School」とも名乗っています。

彼らは、通信教育を行わず、年会費も取らない形で運営を行っています。

このように、魔術界は、ネット上でも団員の取り合い競争を行う時代となりましたが、これは、信頼をアピールすると同時に、過剰なアピールのために怪しさを招くという現象も起こしているようにも思えます。

*「黄金の夜明け団」の法的闘争などに関しては、こちらを参照しました。


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黄金の夜明け団のエノク魔術 [近代魔術]

イスラエル・リガルディーが「エノク魔術こそは、黄金の夜明け魔術体系全体の徹底的かつ包括的な総合物を提供する」(「黄金の夜明け」)と書いているように、黄金の夜明け団(以下「GD」)の魔術実践においては、カバラ魔術ではなく、エノク魔術が最上位に位置します。

エノク魔術は、イギリス・ルネサンスを代表するジョン・デイーが、霊媒のエドワード・ケリーを通して、天使から伝えられたエノク語の複数のタブレットと祈祷文に由来します。

*詳細はジョン・ディーとエノキアン・タブレットをご参照ください。

エノク文字は21文字で、魔術の印形の性質を持っているように見えます。
そして、祈祷文のエノク語には文法が認められます。

ですが、エノク語もエノク魔術も、ディー以前には、歴史にまったく痕跡がありません。

また、ディーらは、これらが何を意味し、どう使うべきか、まったく理解できませんでした。
ところが、GDにおいて、エノク魔術は、明快に体系化され、実践的に使用されるものへと、変化しています。

しかし、ディーからGDの間に、誰かがエノク魔術を発展させた痕跡は、見つかっていません。
ですから、現時点では、マグレガー・マサースが独力で(あるいは、自分の無意識や霊的存在と交流して)これを行ったと推測するしかありません。

GDでは、カバラの「生命の樹」の象徴体系には、ヘブライ文字、聖四文字などのユダヤの伝統だけでなく、四元素、7惑星、12宮、錬金術などのヘルメス主義の象徴、そして、タロット・カードの象徴などが統合されました。

「エノキアン・タブレット」には、エノク文字の他に、それらすべての象徴、そしてセフィロートが統合されています。
「エノキアン・タブレット」は、「生命の樹」に比較するとはるかに複雑な体系(644の区画に4重の象徴とエノク文字が割り当てられているなど)であり、そこから、目的によって複数の階層の天使名を自在に読み出して、魔術に使用できる点で優れています。

エノク魔術は、5種のタブレット、それから呼び出される4種(4階層)の天使(神格)の名前、4種18個の天使の召喚文、30のアイテールの召喚文から構成されています。

ちょっと複雑になりますが、以下に、簡単にその基礎構造を紹介します。


<タブレットの構成>

エノキアン・タブレットは、4大元素に対応する4つの大きな「天使のタブレット(物見の塔)」と、「霊」に対応する小さな「統一のタブレット」から構成されます。

「物見の塔」という表現は、地上の四方に天使と四大元素の力によって守られる塔が立っている、という考えからきています。

・統一のタブレット:霊   :縦13×横12区画
・天使のタブレット:四大元素:縦 4×横 5区画

「統一のタブレット」の縦は四大元素とタロットの4スートに対応します。
そして、横は「霊」を含む五大元素とタロット・カードのコート&エース・カードに対応します。

統一タブレット.jpg
*統一のタブレット、左から英語版、エノク語版、ピラミッド版
写真は以下すべて、goldendawnshop.comより

4つの「天使のタブレット」は、四大元素と共に、聖四文字やケルビム、12宮、コードカード、召喚や投射の方角などとも対応します。

元素  色 聖四文字(ケルビム) コート札  宮  召喚 投射
・火 :赤:ヨッド(獅子)   :王   :活動宮:南 :東
・水 :青:へー1 (鷲)    :女王  :不動宮:西 :北
・空気:黄:ヴァヴ(人間)   :王子  :柔軟宮:東 :西
・地 :黒:へー2 (牛)    :王女  :   :北 :南

火のタブレット2.jpg
*「火」の天使のタブレット、左は英語版、右はエノク語版

「天使のタブレット」にはいくつかの種類の区画があり、それぞれが、階層の違う神格(天使)の支配領域になっています。

enothtablet.jpg

まず、中央の「大十字」の区画と、四隅の「小角」の区画から構成されます。

・大十字:縦2本、横1本の36区画:12宮・聖四文字 →3大秘密神格・大王・6長老
・小角 :縦6横5の30区画が4つ:四大元素 →天使・大天使・ケルビム天使

「大十」字は、「父」の縦区画、「子」の縦区画、「聖霊」の横区画から構成されます。
また、全36区画が3区画ずつに区分され、それぞれが12宮と聖四文字に対応します。

「聖霊」の区画からは、3文字、4文字、5文字の3種類の神格の名「神の3つの大いなる秘密の神聖名」が読み出されます。
また、「父」と「子」と「聖霊」が交わる中心部の8区画からは、螺旋上に8文字の神格の「大王の名」が読み出されます。
また、「父」と「子」と「聖霊」の各区画から2つずつ、7文字の神格(6惑星に対応)の「六長老の名」が読み出されます。

「小角」は、四元素に対応し、右下が火、右上が水、左上が空気、左下が地です。

さらに、「小角」の区画は、中央の「カルヴァリ十字」の区画と、上左右隅の「ケルビム」区画と、下左右隅の「従属」区画から構成されます。

・カルヴァリ十字:縦1本横1本の10区画:セフィロート・惑星・大アルカナ →天使
・ケルビム区画 :縦1横2が2つの4区画:聖四文字・4宮・4札 →ケルビム天使・大天使
・従属区画   :縦4横2が2つの16区画:聖四文字

「カルヴァリ十字」の10区画は、10のセフィロートに対応するので、「セフィロート十字」とも呼ばれます。
また、上部の6区画のみ、惑星と大アルカナに対応します。

この区画は、縦に読むことで、6文字の「天使の名」が読み出せ、横に読むことで、5文字の命令が読み出せます。

「ケルビム区画」は、聖四文字に対応します。
この区画から4つの4文字の「天使の名」が読み出せます。
また、この4つの名に、「統一タブレット」の文字を1つ足すことで、「大天使的性質を持つ名」が読み出せます。

「従属区画」は、まず、「ケルビム区画」同様に縦に聖四文字が対応し、それぞれのケルビム天使が、縦の区画を支配します。
さらに、この縦にも「聖四文字」が対応します。

読み取れる神格名(天使名)の文字数と、名の総数は、次のようになります。

名の種類    文字数 総数
・第1の秘密の神格名:3文字:4
・第2の秘密の神格名:4文字:4
・第3の秘密の神格名:5文字:4
・大王の名     :8文字:4
・長老の名     :7文字:24
・カルヴァリ天使名 :6文字:16
・ケルビム天使名  :4文字:64
・大天使名     :5文字:64


<区画のピラミッド>

タブレットの各区画は、平面ではなく、台形ピラミッド形をしています。

ピラミッドの上面に、エノク文字が記されています。
多くは1文字ですが、複数文字の場合もあります。

fire-pyrjpg.jpg
   *火のタブレットのピラミッド版

そして、ピラミッドの4つの側面は、五元素、ケルビム、セフィロート、12宮、デカン、大アルカナ、惑星、地占記号などの象徴が対応し、その色が塗られています。

各区画が4側面を持つことは、エノキアン・タブレットの象徴が4重の構造になっていることの表現です。

つまり、最初のレベルとして、「統一のタブレット」と4種の「天使のタブレット」があります。
次のレベルとして、「大十字」と4つの「小角」があります。
3番目のレベルとして、「カルヴァリ十字」と横に聖四文字に対応する4区画が(2組)あります。
最後に、縦に、「ケルビム区画」と4区画の「従属区画」があります。

1A:統一タブレット(霊)
1B:4つの天使のタブレット(四大元素)
 2A:大十字
 2B:4つの小角(四大元素)
  3A:カルヴァリ十字
  3B:4つの横区画(聖四文字)
   4A:ケルビム区画
   4B:縦4区画の従属区画(聖四文字)

また、プラミッドの中には、それぞれに対応する「スフィンクス」がいます。
それぞれの「スフィンクス」は、4つのケルビムである獅子、鷲、人間、牛を組み合わせた姿をしています。

さらに、ピラミッドの上には、それぞれに対応するエジプトの神がいます。
オシリス、イシス、ネフシス、ホルス、アロウェリスなどなどの多数の神々です。


<鍵(召喚文)>

エノク魔術には、「48の天使の鍵」と呼ばれる召喚文があります。
ですが、最初の鍵には召喚文が必要なく、その後の18個の召喚文のみが知られています。

これらは、大きく分けると4種になります。

タイプAは、「統一のタブレット」全体の天使を召喚できるもので、第1番目の召喚文がこれに当たります。

タイプBは、「統一のタブレット」のE、H、M、Bの文字の天使を召喚できるもので、第2番目の召喚文がこれに当たります。

タイプCは、「統一のタブレット」の特定元素、及び、特定の「天使のタブレット」の天使を召喚できるもので、第3から第6番目の召喚文がこれに当たります。

ダイプDは、特定の「天使のタブレット」の、異なる3元素の小角の天使を召喚できるもので、第7から第18番目の召喚文がこれに当たります。

そして、実際の召喚には、召喚文を組み合わせて使います。

「統一のタブレット」の天使の場合、A→B→C→名 となります。
「天使のタブレット」の同じ元素の小角の天使の場合、C→名 となります。
「天使のタブレット」の異なる元素の小角の天使の場合、C→D→名 となります。

そして、「大王」と「長老」を召喚する場合は、六芒星儀式を使います。
カルヴァリ十字の天使名は、その小角を支配するものであり、予備的召喚において使います。


<アイテール>

エノク魔術には、「30のアイテールの鍵(召喚文)」と呼ばれる召喚文があります。

エノク魔術における「アイテール」は、30の階層を持つ霊的世界のことです。
各アイテールの名前は、「LIL」、「ARN」…「TEX」という具合に、3文字でできています。
30のアイテールは、セフィロートやカバラの4世界との対応はありません。

アレイスター・クロウリーは、各アイテールへのアストラル・プロジェクションによるヴィジョンを、「春秋分点」誌上で公開し、後に「霊視と幻聴」としても出版しています。

例えば、彼によれば、8番目のアイテール「ZID」には、聖守護天使がいます。
また、セフィロートで言えば3番目と4番目の間にあるような「深淵」が、10番目と11番目のアイテールの間にあります。

*クロウリーのヴィジョンについては、姉妹サイトのページも参照してください。


<他の利用法>

エノキアン・タブレットには、天使の召喚以外にも、使用法があります。

ひとつは、各区画に対して、「スクライング」や「アストラル・プロジェクション」の霊視を行なうことです。
簡単にその方法を書けば、各区画のピラミッドの中から上昇して、エジプト神を召喚し、スフィンクスを顕現してもらい、知識を得ます。

また、「エノキアン・チェス」があります。
これは、遊戯というより占いです。

その方法は、4人でプレイし、2人で同盟を組んで、サイコロを使ってその数だけ駒を動かします。
盤は、占う内容に対応する元素の「天使のタブレット」を選び、その4つの従属区画をつなげたものを使います。
駒はエジプト神で、キング(オシリス)は霊、クイーン(イシス女神)は水、ナイト(ホルス神)は火、ビショップ(アロウエリス神)は風、カースル(ネフシス女神)は地、ポーン(カノープス4神)を象徴します。
占いの内容を象徴する駒としてプター神を、その内容に象徴的に対応する区画に置き、キングはそこに向かい、留まる、というものです。

「薔薇十字チェス」というのもあって、これは4つのタブレットをつなげたものを盤とします。

これらのチェスは、初期には行われたかもしれませんが、ほとんど継承されなかったようです。


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黄金の夜明け団の魔術と技法 [近代魔術]

このページでは、「黄金の夜明け団(以下GD)」が行った具体的な魔術、及び、その関連技法について、簡単にまとめます。

とは言っても、当サイトは思想史がテーマですから、概要を知るためのものであって、実践を想定した説明ではありません。


<魔術の種類>

GDの知識講義文書「Z2」では、ニオファイト儀式から引き出される魔術を5つに分類して、それを、御名を構成するユダヤ文字に対応させています。

ヨッド:喚起などの儀式魔術
へー :護符聖別
シン :霊的発達儀式、変身術、隠身術
ヴァウ:占術
へー :錬金術

最初の3つは、細かく見れば、多数の種類の魔術から構成されます。
占術は、占いだけでなく、直感や想像力を養成する目的で行われます。
錬金術は、物質レベルの実践的なものは、団としては行っていませんが、団員の中にはそのような錬金術師もいました。

「喚起」は、霊的存在を呼び出すことですが、元素霊などを呼び出す場合には「喚起(エヴォケイション)」を、天使・大天使などを呼び出す場合には、「召喚(インヴォケイション)」などと使い分けることもあります。

また、ここには含まれていませんが、内陣では、「霊視」も重視されます。


<基礎訓練>

魔術を可能とするための基礎訓練、基礎能力には下記のようなものがあります。

・リラックス法(ボディスキャンを行って肉体から弛緩させる等)
・呼吸法(四拍呼吸:吸4拍―止2拍―呼・4拍―止2拍)
・象徴の内面化(象徴を勉強して、瞑想し、無意識に植え付ける)
・イメージ喚起・視覚化(現実を見ているようにイメージを思い描く、観想法)
・能動的・創造的な想像力(夢見の技術、GDでは客観性が求められる)
・エーテル(気)の操作
など

象徴の内面化とイメージ喚起ができると、特定の象徴の「鍵」となる神名を唱え、イメージを喚起することで、その象徴の内実となる「力」を導き、変性意識状態に導くことができるようになります。
また、エーテルの操作能力によって、その「力」をエーテルに乗せることで、護符へのエネルギーを充填、聖別などができるようになります。

また、象徴の内面化と創造的想像力ができると、特定の象徴に対応する霊的世界の霊視を行なうことができるようになります。
また、アストラル・プロジェクションを組み合わせることによって、その世界にトリップすることができるようになります。

こういった基礎技術は、密教とも共通していますし、世界的に同じです。
GDが本格的な魔術の実践を行っていたと判断できるのは、上記の能力、訓練の重要性を理解し、カリキュラムに組み込んでいたらしいことが、直接、間接に知られているからです。


<儀式の基本次第>

GDの儀式魔術の基本的な式次第は、次のようなものです(シセロ夫妻の「黄金の夜明け団入門」による)。

・開式
開始宣言(神の姿をまとってから)
追儺儀式
最初の浄化と聖別:水と火による浄化、水の三角形と火の三角形の召喚
周行(光の渦動の導入):時計回りに3周、東で投射と沈黙の合図
礼拝:宇宙の主を称える

・中央点(本儀式)
召喚儀式(高次な霊を召喚し、その支配下の霊を喚起することが多い)
至高者の召喚
主要作業

・閉式
最終浄化と聖別
逆周行:反時計回りで
礼拝
退去許可:自覚的な退去を促す
追儺儀式
閉幕宣言

こういった次第は、特別なものではなく、世界の宗教儀式で共通するごく一般的なものです。
ですが、それを魔術的な力を持つものにするには、先に述べたような能力を行使することが必要です。

GDの魔術では、神霊的存在のヒエラルキーが重要で、上位の存在の権威・監視・命令のもとで、下位の存在を使役します。
そのため、原則的に、召喚や祈祷の順番は最上位からで、帰還は最下位からです。


<司官と神殿>

儀式魔術を行なう司官は、次のような構成になっていました。

まず、各神殿(支部)ごとに内陣の位階を持つ3人の首領(テンプル・チーフ)がいました。

   (名前)      (役割)    (エジプト神)(位階)
・インペレーター   :指揮官、法を授ける:ネフシス   6=5
・プレモンストレーター:案内役、教師   :イシス    7=4
・カンセラリウス   :高官、書記    :トート    5=6

そして、儀式の遂行を行なう史官が7人いて、春秋分点で半期ごとに交代になりました。

・ハイエロファント:秘儀を授ける司祭  :オシリス
・ハイエルース  :守護者、追儺    :ホルス
・へゲモン    :案内役、志願者を誘導:マアト
・ケリクス    :先触れ、看視者   :アヌビス
・ストリステス  :準備者       :ムト
・ダドゥコス   :松明を持つ者、浄化 :ネイス
・フィラクス   :歩哨、守衛     :オポウェスト

神殿の基本構造は、祭壇(立方体を2つ重ねる)、白黒の二柱、団旗(東西に2旗、もしくは、四大元素を象徴する4旗)です。
祭壇には、GDの象徴である三角十字や、四大元素を象徴する魔法具などが載せられます。

ですが、神殿の実体は、物理的な神殿ではなく、観想によって作られたアストラル・ライトの神殿です。
これは、例えば、密教の曼荼羅も同じです。

神殿は、「春秋分点儀礼」によって、年2回、聖別が行われました。
また、5=6アデプタス・マイナー儀礼で使われる地下納骨所は、「達人の地下納骨所聖別儀式」で、年1回、キリスト聖体節の頃に聖別が行われました。


<場の浄化・聖別儀式>

まず、最初に、場を浄化・聖別する(結界を張る)魔術の儀式から、簡単に紹介します。

場の聖別の方法は、世界の宗教で共通性があり、世界創造の原初の聖なる時空の秩序(コスモロジー)を再現することです。
最も典型的でシンプルな形は、GDでもそうですが、四方神の召喚です。

一方、浄化・追儺は、本格的に行なう場合は、強力な調伏力を持った神格で脅すことが、一般的です。
分かりやすく密教で例を出すと、不動明王のような忿怒尊、武器と同体であるような神格です。
GDでは、通常ではそこまでは行いません。

・五芒星儀式

GDで最も基本的な儀式として行われたのが、「五芒星儀式」です。
これは、ほとんどすべての儀式の最初と最後に行います。
また、元素霊などの召喚・追儺にも使います。

ただ、後述する「カバラ十字儀式」の後に行います。

「五芒星」は、四大元素と霊の象徴です。
「五芒星」には、四大元素、及び、霊の能動と受動、計6種の召喚と追儺、つまり、合計12種類があり、それぞれの描き方があります。

「五芒星」は、元素の召喚の場合は、対象とする元素に対応する角に向かって、追儺はその角から始めて描きます。
霊の場合は、能動と受動の五芒星があり、能動の場合は能動元素の火から風に向けて、受動の場合は受動元素の地から水に向けて始め、追儺はそれぞれ逆になります。

「五芒星儀式」は、四方で、各聖名を称えながら、五芒星を描き、四大元素の霊を召喚、追儺します。
また、四方に、燃える五芒星と四大天使を、背中に六芒星を観想します。

「五芒星儀式」には、外陣でも行われた「小儀式」と、「大(至高)儀式」があります。

「小儀式」は、四方で、地の五芒星を描きます。
「大儀式」は、元素霊や惑星霊などを召喚する時に、「小儀式」に続いて行います。
四方で、霊の能動五芒星と各元素の五芒星と、中央にその元素の印形を描きます。
また、エノク語や合図も使います。

*もう少し詳しい説明は、姉妹サイトの五芒星儀式のページも参照してください。

・六芒星儀式

「六芒星形」は、7惑星の象徴(中央が太陽)であり、大宇宙の象徴です。
「六芒星形儀式」も、場所の浄化・聖別や、惑星霊やセフィロートの諸力などの召喚、追儺で使います。

「六芒星形」は、対象となる惑星に対応する角から、召喚は時計回り、追儺は反統計回りに描きます。
太陽を対称とする場合は、すべての六芒星形を描きます。
また、中央に対象惑星の印形を描きます。

「六芒星形儀式」は、エジプト神の合図をして、四方で、神名を称えながら、六芒星を描きます。

「六芒星儀式」にも、「小儀式」と「大(至高)儀式」があります。

「小儀式」は、「小五芒星追儺儀式」に続いて召喚から行います。
四方で、土星の六芒星を描き、その前後に「INRIの解析」を行います。

「大儀式」は、「小五芒星追儺儀式」、「小六芒星追儺儀式」に続いて召喚から行います。
四方で、七惑星の六芒星を一筆書きで描きます。
この時、召喚には各惑星の角に向かって、追儺にはその角から描きます。

場を浄化・聖別する方法としては、他にも、「水と火(の三角形)による浄化・聖別」、「周行」があります。


<自身の浄化・聖別>

次に、魔術師自身を浄化、聖別する儀式です。
と言っても、GDで、場の浄化/自身の浄化といったカテゴリがあるわけではありませんが。

・カバラ十字儀式

すべての魔術の最初と最後に行なうのが、「カバラ十字儀式」です。
これは、4つのセフィロートと身体部位を対応させて、光の十字架を観想し、アストラル体(オーラ)の中に建てるものです。
この儀式は、外陣でも行われました。

額で「アテー(汝)」→胸から地面で「マルクト(王国と)」→右肩で「ヴェ・ゲブラー(力と)」→左肩で「ヴェ・ゲドラー(栄光あれ)」と十字を切り、最後に胸の前で「レ・オラーム・アーメン(永遠に)」と手を組みます。
この時、これに合わせて、光を垂直に降ろし、水平に移動させます。

*もう少し詳しい説明は、姉妹サイトのカバラ十字のページも参照してください。

・中央の柱

「中央の柱」は、体に合わせて「生命の樹」の「中央の柱」を観相して、それをアストラル体の中に立てるものです。
56267.JPG

まず、体の中心軸に沿って、神名とともに、光を上下させます。
具体的には、頭頂に白色光(テケル)、喉に藤色光(ダアト)、心臓に黄色光(ティファレット)、腰に紫色光(イェソド)、足に斑色光(マルクト)です。

次に、体の前後、左右で光を周回させます。
そして、頭から光を噴水のように卵状に下降させます。
次に、足から右回りに螺旋状に上昇させます。

*もう少し詳しい説明は、姉妹サイトの中央の柱のページを参照してください。

イスラエル・リガルディーが「中央の柱」(1938)を出版して、広く知られるようになりました。
また、ダイアン・フォーチュンの弟子だったW・E・バトラーの「光の侍徒」一派が、この技法を発展させているようです。


<霊的発達儀式、生まれなき者の儀式>

「霊的発達儀式」、「生まれなき者の儀式」は、直接、「光」として召喚された「聖守護天使」、つまり「高次の自己」と合一し、霊的発達を促すものです。

密教で言えば、ちょうど、光明から仏を勧請して、一体化、つまり、自己生起する本尊瑜伽、成就法に当たります。

・生まれなき者の儀式

「生まれなき者の儀式」では、「光」は「生まれなき者」と表現されます。
また、儀式中には、「我は彼なり、生まれなき霊なり…すべての霊を我に服従させよ。…我が心、高次なるものへ開かるべし」、などと語られます。

最初に行なう「五芒星至高儀式」では、エジプト神の姿を観想してまとって行いますが、「光」の召喚時には、自身を復活するオシリスと見なします。

GDでは、神の姿をまとう(変身術)は、自分に背後に大きな神の姿を観想し、それがかぶさるようにして自分と一体化します。

「生まれなき者の儀式」の中心になる召喚時の観想は、黒い卵の中心から蓮の花の棒を天に伸ばし、そこに光を降ろす、というものです。

*もう少し詳しい説明は、姉妹サイトの生まれなき者の儀式のページも参照してください。

・霊的発達儀式

「霊的発達儀式」では、「光」は、主に「高次の天才」と表現されます。
また、儀式中には、「我が中にある低次の自我より進みて、広大なる神のうちにある至高の自我に到達せん」、などと語られます。

四方の聖別やその後の召喚でも、エノク魔術の天使の召喚を行います。

また、儀式中に、3度、アストラル・プロジェクション(霊体離脱)を行って自分の肉体と対面も行うのも特徴です。


<霊視>

「霊視」は、「飛翔する巻物」第11巻で、次の3つに分けられています。

1 スクライング(霊的ヴィジョン)
2 アストラル・プロジェクション(霊的ヴィジョンの旅)
3 パス・ワーキング(様々な次元への上昇)

「スクライング」は、特定の世界を、現実世界の肉体の意識を保ったまま、距離をとって、絵画や映画を見るように霊視する方法です。
伝統的には、水晶の中に見ますが、白い壁、ブラック・ミラーなど、どこに見てもかまいません。

それに対して、「アストラル・プロジェクション」は、特定の霊的世界を、覚醒夢のように、アストラル体を投射して(その世界にもう一つのアストラル体を作って)、自分がその中に入り込んで体験する方法です。

「パス・ワーキング」は、「アストラル・プロジェクション」で、主に、「生命の樹」の小径を順に辿って、霊的世界を上昇していくことです。

「アストラル・プロジェクション」の場合は、例えば、何らかの象徴的な図を見ることから始めて、幕を上げるか、扉を開いて入るように、スイッチして目的の霊的世界に入っていきます。

霊的世界では、その世界を良く観察します。
そのために、まず、案内人を見つけます。
そして、その世界を支配する霊的存在、神や天使などを探し、その力を感じ、あるいは、質問して回答を得ます。
最後には、最初の扉を通って、現実世界に戻ります。

この体験のストーリーは、あらかじめかなりの部分を決めて行なう場合と、ほとんど決めずに行なう場合があります。
決めて行なう場合は、その誘導物語を、誰かが語るか、録音したものを流します。

GDでは、その霊視する象徴世界が正しいものであるかどうかという、客観性を重視します。

具体的には、まず、あらかじめ、徹底して象徴を勉強することが必要です。
特定の象徴と、それに照応するあらゆるものを無意識レベルでつなげておくのです。

霊視の段階では、出会った対象が、本物かどうかを、その姿が象徴に適合するかどうかで判断します。

また、霊視の中で出会う存在が、正しい存在であるかどうかを試験するための合図や呪文を、無意識レベルで覚えておく必要があります。
出会った時に、その合図や呪文によって確かめるのです。
正しい存在でない場合は、退けることができます。

逆に、呪文は、自分自身の意識を、その世界に適したものに変化させることにも使えます。
例えば、「門番」的な存在が道をはばんだ場合に、通してもらうために使います。
あるいは、霊視した世界がぼんやりしている場合に明瞭にするためにも使います。

*もう少し詳しい説明は、姉妹サイトのパスワーキングのページを参照してください。


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黄金の夜明け団の教義 [近代魔術]

このページでは、「黄金の夜明け団(以下GD)」の教義に関わるテーマをいくつか取り上げます。

GDの教義はハイブリッドなものですが、その中心になっているのは、ヘルメス主義、カバラ、薔薇十字主義、そして、エノク魔術です。
彼らは、それらが西洋の魔術、象徴体系の伝統であると考えました。

中でも教義と体系の核になっているのは、カバラの「生命の樹」の象徴と教義です。
団においては、魔術はもちろん、人間論、心理学、堕落論も「生命の樹」で解釈されました。
また、タロット・カードも、すべてのカードが「生命の樹」と結び付けられました。


<小宇宙としての人間>

GDでも、人間はミクロコスモスであり、「生命の樹」が投影されています。
これは、団の教義の基本であり、ここには団のカバラ解釈が現れています。

団の知識講義文書の、「GD」第1巻「小宇宙―人間」、「飛翔する巻物」第20巻を元にして、以下、まとめます。

GDでは、人間において、テケルが「神的意識」であり、ダアトが「霊的意識」、ティファレットが「人間的意識」、イェソドが「自動的意識」と表現されます。
これらは、「中央の柱上」のセフィロートです。

(中央の柱上のセフィロート)
1 テケル    :神的意識、高次の意志、高次の自己、聖守護天使
・ ダアト    :霊的意識
6 ティファレット:人間的意識、低次の意志
9 イェソド   :自動的意識
10 マルクト   :肉体

頭頂の上にあるテケルは、「高次の意志」、「高次の自己」でもあり、「低次の天才」、「人間の神」とも表現されます。
これは、GDの魔術で「光」として召喚される存在の正体である「聖守護天使」でもあります。
また、「テケル」は、「イェヒダー(本質・モナド)」とも呼ばれます。
これらの表現からも分かるように、GDでは、霊的存在は、客観的側面と主観的側面があります。

「テケル」は、「ホクマー」、「ビナー」と共に「ネシャマー(霊的な魂)」を形成し、感覚と印象把握を司ります。
「ホクマー」は、「ヒア(ハヤー、生命・乗り物)」とも呼ばれます。
「ビナー」は、単独で「ネシャマー」とされることもあります。

「ネシャマー」とそれ以下の存在との間の「深淵」でもある隠れたセフィラである「ダアト」は、「霊的意識」であり、「ネシャマー」の活動の焦点です。
「思念」はこの「霊的意識」が放射する光線です。

心臓の上を主な宿とする「ルアク(ルーアハ、理性的な魂)」は、「ホクマー」、「ビナー」から知性の作用を受けて理性的推論を行います。
「ティファレット」は、「人間的意識」であり、ここに「低次の意志」の中心があります。
「ティファレット」は、美と生命感の愛などを司ります。
「低次の意志」は、「霊的意識」を、「ルアク」へ、さらには、「ネフェシュ(感情的な魂)」へと降ろすことで、「感覚の天球」(下の「小宇宙の感覚の天球」の項目を参照)に映る映像を知覚できるようになります。

「ケセド」、「ゲプラー」は、両腕を形成し、操作機能を持ちます。
「ネツァク」と「ホド」は、両脚を形成し、支持と堅固と均衡の能力を持ちます。

GDでは、「無意識」という言葉は使われず、「自動的意識」と表現されます。
それが「イェソド」で、「ルアク」の最下部であり、「ルアク」を「ネフェシュ」に翻訳し、また、肉体的欲望を司ります。
「ネフェシュ」は、アストラル・ライトからなる精妙体であり、オーラである「感覚の天球」を形成します。


<小宇宙の感覚の天球>

GDでは、薔薇十字団の用語を継承して、ミクロコスモスとしての人間のオーラを、「小宇宙の感覚の天球」、あるいは「宇宙を映す魔法鏡」と表現します。
団においては、知覚がこの内側に留まる主観的なものであるか、外側に至る客観的なものであるかを、理論的に区別します。

GDでは、霊視的な技法を3種類に分けて考えます。

1 スクライング(霊的ヴィジョン)
2 アストラル・プロジェクション(霊的ヴィジョンの旅)
3 パス・ワーキング(様々な次元への上昇)

ですが、1と2、3には大きな違いがあります。
1は、「感覚の天球」内の知覚であり、2、3はその外にまで出た知覚なのです。

「スクライング」は、「アストラル体を「感覚の天球」内に保持したまま、象徴内に反映される宇宙の一場面を知覚する…つまり、…象徴が鏡の役割を果たし、視覚の範囲外の光景をあなたに反射している」(「GD」4巻「スクライング及び霊的ヴィジョンの旅について」)のです。
つまり、「霊的意識」から思念光線を、「感覚の天球」の象徴に共鳴する部分に向けて送り、大宇宙から反映される象徴の特質の鏡像を知覚するのです。(同書「アデプタス・マイナーに課される責務」参照)

一方、「アストラル・プロジェクション」は、「アストラル体を「感覚の天球」を越えて大宇宙に投射する」(「GD」4巻「スクライング及び霊的ヴィジョンの旅について」)のです。
つまり、「霊的意識」から「思念光線」が「感覚の天球」の象徴に共鳴する部分に送られ、そこを通過し、希望する場所にまで到着すると、「アストラル・ライトの天球」、つまり、アストラル体が形成され、「思念光線」とともにある霊的意識を通して活動するのです。(同書参照)


<魔術の目的と善悪>

「5=6アデプタス・マイナー儀式」の誓約文に、
「大いなる業、すなわち、神聖なる助力を得て、わが霊性を浄化し、高揚させ、ついには人間以上のものになり、徐々にわが身を高次の神聖なる天才と合一させるものなり」
とあります。
これは、GDの魔術の目的を、明確に示しています。

イスラエル・リガルディーは、GDの「全体系はその目的を「光」の引き降ろしに置いている」と「GD」の序文で書いています。

この「光」は、「聖守護天使」でもあり、「真の自己」でもあります。
この「真の自己」を肉体にまで引き降ろして、人間全体を統一、均衡させ、それに従わせるのが、団の目的です。

この「光」がセフィロートを降りる姿は「燃える剣」で象徴され、霊魂においては、順に、イェヒダー→ヒア→ネシャマー→ルアク→ネシャマーと降ります。

以下、もう少し確認しましょう。

「5=6アデプタス・マイナー儀式」の誓約文には、「神のために他人に善をなせ」ともあります。
では、GDにとって、何が善であり、悪なのでしょうか?

同誓約文には、「及ぶ限り、我は純粋にして無我の生活を率先するなり」とありますから、人間的な「我」による欲望は否定されるようです。

また、「GD」第1巻「一般指導及び魂の浄化に関して」に、「肉体は崇拝してもいけないし、無視してもいけない」とありますから、肉体性や物質性、欲望など、それ自体を否定してはいません。

同書には、「均衡の取れていない力は邪悪である」とあります。
悪とは、「不均衡」なのです。

同巻の「アデプタス・マイナーに課される責務」には、「高次の意志…が王の住居にまで下降すれば、高次の意志と低次の意志が一体となり…」、「低次の意志をして高次の意志を従わせ…」とあります。

また、同書には、「邪悪なるセフィロートがネフェシュから追放され、邪悪なるペルソナに入る時、ある意味で均衡が取れるのである。邪悪なるペルソナは強大にしてよく調教された動物となりえるし、その上に人が乗ることも可能である」、とあります。

先に書いた通り、引き下ろされた「真の自我」による統合が均衡をもたらし、悪が排除されるのです。


<エデン追放と復帰の象徴>

上に書いた目的は、GDの「堕落論」と関係します。

GDの「3=4プラクティカス儀式」の時に「追放前のエデンの図」を、「4=5フィロソファス儀式」の時に「追放後のエデンの図」が見せられます。
これらは、カバラの「生命の樹」に基づいた解釈であり、志願者が本来のあるべき姿から堕落した現状を示しています。

そして、「5=6アデプタス・マイナー儀式」の時には、目指すべき姿を示した2つの図(磔刑の図、達人の図)が見せられます。

「追放前のエデンの図」は、最上部には、「ヨハネ黙示録」に登場する、足元に月を置き、太陽を身にまとう十二星冠の女がいます。
これは、「至高の母」であり、「ネシャマー」です。

IMG_2898.JPG

その下には、枝を伸ばす「生命の樹」があります。
また、エデンから流れる川が隠れたセフィラ「ダート」で4つに別れて、十字になっています。

その下には、「ルアク」である「大いなるアダム」が、「ティファレット」の位置に頭として、両手を伸ばしています。
その下には、「ネフシュ」である「イヴ」がいて、左右の2柱を支えています。

その下には、上下に枝を伸ばす「知恵の樹」があります。
その下には、根である「殻(クリフォト)の王国」があり、「ヨハネ黙示録」に登場するサタンである、とぐろを巻いた「赤い竜」が眠っています。
この竜は、7頭、10角を持っています。

「赤い竜」の解釈は重要だと思われますが、これは不均衡な力を象徴し、それ自身が本来的な実在ではなく、潜在的可能性なのでしょう。


一方、「追放後のエデンの園」は、最上部に、至高の3者がいますが、母なる「ビナー」は、父なる「ホクマー」に背を向けています。

IMG_2896.JPG

一番下に眠っていた「赤い竜」は、目覚めて、上昇して「ダアト」に喰い付き、濁流を流しています。
「赤い竜」のさらなる上昇をくい止めるため、「ダアト」には、「燃える剣」と「聖四文字(ケルビム)」が置かれています。
そのため、下位の7セフィロートは切り離されています。

そして、「生命の樹」は枝を伸ばしておらず、左右の2柱もありません。

アダムは、少し下方に落ちて、倒れそうになっています。
イヴは、「マルクト」から落ちて「クリフォト」を抱き、倒れそうになっています。

「4=7フィロソファス儀式」では次のように語られます。
「「第二のアダム」がすべてを復旧すべく到来することが必要なり。…「ダアト」の地獄の川の上に十字架に架かる必要あり。されどこれをなさんとすれば…マルクトまで下り、(神の花嫁から)生まれることとなれり」

そして、「死と復活」をテーマにした「5=6アデプタス・マイナー儀式」では、その通りに、十字架に架った下の図と、その後に復活して完成された上の図が見せられます。

IMG_2899.JPG

上の図の人間は、「右手に7つの星を持ち、口から「炎の剣」が突き出ており、顔は強き輝きの太陽のごとき」姿であり、「義とされる者」、「啓発された達人」です。


以上の堕落に関するカバラ的解釈は、例えば、ユダヤ教のイサク・ルーリアの解釈と比較すると、似ている部分と異なる部分があります。

ビナーがホクマーに背を向けること、下位7セフィラが壊れて切り離されることは、ルーリアと同じです。
ですが、ルーリアにおいては、これは世界創造(以前)の段階で起こることであり、その結果が「第2のアダム」の誕生です。
そして、その後の追放は、マルクトと第4-9セフィロートの間に亀裂を生じさせるものです。

GDでは、「悪」は不均衡な力ですが、ルーリアにおいては、「悪」は原初のエン・ソフの段階から存在する「裁き」という「残光」の原理です。


<タロットと小径>

GDの教義と実践における特徴の一つは、「生命の樹」の「小径」とタロット・カードの大アルカナが対応づけられていることです。

そして、それが瞑想や霊視(パス・ワーキング)、入門儀式で利用されました。
つまり、大アルカナを後ろから辿ることが、「生命の樹」を登っていくことになるのです。

大アルカナ以外も含めて、タロット・カードの全体は、「Tの書」などで、次のように対応づけられました。

・スート  :四大元素(棒=火、杯=水、剣=空気、ペンタクル=地)
・数札   :セフィロート、エース以外は36デカン、宮
・コート札 :聖四文字、王=コクマー、女王=ビナー、王子=ティファレット、王女=マルクト
・大アルカナ:小径、ヘブライ文字、宮+惑星+元素

「小径」と大アルカナの対応は、次の通りです。

径  アルカナ    秘密の称号
11: 0 愚者   :エーテルの聖霊
12: 1 魔術師  :力の術士
13: 2 女教帝  :銀の星の女司祭
14: 3 女帝   :万能主の娘
15: 4 皇帝   :暁の子
16: 5 教帝   :永遠なる神々の博士
17: 6 恋人   :聖なる声の子等
18: 7 戦車   :水の勢力の子
19:11 剛毅   :燃え上がる剣の娘
20: 9 隠者   :光の声の魔術師
21:10 運命の輪 :生命の勢力の支配者
22: 8 正義   :真理の支配者の娘
23:12 吊られた男:強大なる水の精霊
24:13 死神   :偉大なる変換者の子
25:14 節制   :調停者の娘
26:15 悪魔   :物質の門の支配者
27:16 塔    :強大なる神の主の支配者
28:17 星    :大空の娘
29:18 月    :流動の反流動の統治者
30:19 太陽   :世界の炎の支配者
31 20 審判   :原初の炎の精霊
32 21 世界   :時の夜の偉大なる者

この対応づけは、「形成の書」と暗合文書に基づいて、メイザースが行ったとされます。

ですが、「形成の書」の時点では、まだ、「生命の樹」が生まれていません。
あるのは、22のヘブライ文字が10のセフィロート(数字)の間をつなぐ存在であり、これら32の存在が「智恵の径」である、という考えです。

その後、「生命の樹」が生まれ、その小径(11-32)とヘブライ文字とが対応付けられました。
基本的に、「生命の樹」の上の小径から順番に、つまり、セフィロート1-2間を最初のアルファベット「アレフ」に対応させて11番とし、次のセフィロート1-3間を2番目のアルファベットに…と順に対応させました。
ですが、すべてを順番通りに対応させず、15⇔16、17⇔18、25⇔26と3ヵ所で交換しました。
ヘブライ文字の象徴とセフィロートの象徴の対応を考えてのことでしょう。

ヘブライ文字と大アルカナの対応づけは、フランスのギョーム・ポステルやエリファス・レヴィが行いました。
レヴィは、1「魔術師」を1「アレフ」として、大アルカナの番号をそのまま順に対応させましたが、0「愚者」を最後ではなく21番目に置きました。
つまり、21⇔0交換をしています。
これは、「生命の樹」との関係を考えれば、大アルカナの物語を、神性の下降・創造の物語としたことになります。

それに対して、メイザースは、0「愚者」から1「アレフ」へと対応させました。
そして、8⇔11交換をしました。
それが上記の対応表です。

これは、「形成の書」以来、ヘブライ文字の12字は12宮と対応していますが、8、11で、その象徴と大アルカナの象徴が明らかに反したからです。
実は、この対応は、GD設立のきっかけになった暗合文書にも書かれていました。

本来、ヘブライ文字と大アルカナと「小径」は別のものですし、セフィロートは「生命の樹」の形ではなかったのですから、これらの対応にはさして根拠がないはずです。

その後も、GD系の魔術師によっては、それぞれの考えでこの対応を変えました。
例えば、アレイスター・クロウリーは4⇔17を交換し、ガレス・ナイトは4⇔18を交換しました。
それどころか、フラクター・エイカドは全体の順番を逆転させました。
つまり、大アルカナの物語を、神性への上昇・復帰の物語としたことになります。
また、ウィリアム・グレイは、大アルカナの番号を無視して対応を考えました。


<アストラル・ライトの神>

魔術が働く原理に関しては、GDも基本的には伝統的な説を継承していて、特別な理論があるわけではありません。
人間の意志と想像力によってアストラル・ライトにおいて形象が作られ、万物照応の原理に従って力が作用する、ということです。

儀式魔術を行なう組織が秘密主義を貫くことには、理由があります。

集団的な魔術の実践は、ある団体がリモートサーバー上にプログラムを組み、データを置いて利用することに喩えることができます。
結社は、儀式や瞑想を通して、アストラル・ライトの中に、神殿(神々のパンテオン、象徴体系)を構築し、そこにエネルギーを貯めます。

儀式次第を公開することは、サーバーのIDやパスワードを公開することと同じです。
自由にアクセスされて、プログラムが改変されたり、データが削除されるように、アストラル・ライトの構築物が破損し、エネルギーを喪失してしまうかもしれません。
そのため、秘密が厳守されるのです。

秘密が公開されると、アストラル・ライトの神が、秘教の神から公教の神になる、とも言えます。

もし、人々の信仰がなくなると、アストラル・ライトの公教の神は、エネルギーを亡くして、死んでしまいます。
マサースなど、GDの何人かの魔術師は、古代の死んだ神々を蘇らせようとしました。

この、古の神々の蘇生法では、まず、神々の伝説を蒐集し、分類し、生命の樹に属性配置します。
その後、アストラル界で神々の遺体を発見し、それをもとに、象徴体系の座標軸を再設定します。
最後に、瞑想や儀式によって、集団的思念像をアストラル界に建設し、神々の遺体にエネルギーを与えるのです。


<西洋魔術の霊統>

GDの教義はハイブリッドなものですが、その中心になっているのは、最初に書いたように、ヘルメス主義、カバラ、薔薇十字主義、そして、エノク魔術です。

西欧の魔術師には、カバラは、モーゼがエジプトから盗んだものであり、原初の智恵であると考える人もいます。
タロット・カードも、エノクの智恵も、その伝統に属しているのです。
そのため、カバラなどのユダヤ的伝統と、ヘルメス主義のエジプト的伝統は、源流が同じであり、統一されるべきものであり、薔薇十字主義は、その先駆と見なされたのでしょう。

このように、GD系の魔術師は、西洋魔術の伝統・霊統を、エジプト・ユダヤの流れで考えます。

ですが、実際には、カバラの起源にはイラン=カルデア系の影響が多く含まれます。
神智学のブラヴァツキー夫人は、カバラをカルデア神学であると、かなり正しく把握していました。
実際に、「マグス(魔術師)」の起源は、その言葉も含めて、メディアのイラン=カルデア思想、つまり、ミトラ教と星辰学です。

神智学は、原初の智恵をインド、イランに求め、神智学協会員の多くは、印欧語族の西洋人には、その伝統が受け継がれていると考えました。

カール・ユングも、ユダヤ、キリスト教的な伝統は、ゲルマン人に接ぎ木されたものでしかないと考え、ヘレニズムのグノーシス主義や錬金術に、アーリア的な伝統の要素を探しました。

ですが、GD系の魔術師は、インド、イランの伝統に関しては、一部を取り入れただけで、それらを深く掘り下げることは行いませんでした。
そのため、欠落したものも多かったのですが、アーリア主義にも陥ることもありませんでした。

西洋の伝統にこだわった点では、シュタイナーとも似ています。
ですがが、シュタイナーはヘブライ語のような外国語を使うことは意味がないと考えました。
また、魔術という方法を古いものとして退け、日常生活そのものの中で、思考と象徴を統合する方向が現代的であると考えました。
その点では、GDは、現代的でもなく、ハイブリッドな異国趣味を含み持つという意味で、伝統的です。


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黄金の夜明け団の位階システム [近代魔術]

「黄金の夜明け団(以下GD)」の位階システム、その入門儀式、そして、カリキュラムについてまとめます。
しっかりした運営は、一時的だったのかもしれませんが、これらの位階システム、及び、その試験がしっかり整えられていた点が、GDの優れていた特徴です。


<位階>

GDの位階は、18Cのドイツの「黄金薔薇十字団」、「英国薔薇十字団」などの薔薇十字団の伝統を継承したものです。

位階は、次のように、セフィロートに対応する10の位階と、2つの「見習い」から構成されています。

(位階名)           (セフィロート)(対応象徴)
0=0  ニオファイト     
1=10 ジェレーター        :マルクト   :地(四大元素)
2=9  セオリカス        :イェソド   :空気・月
3=8  プラクティカス      :ネツァク   :水 ・水星
4=7  フィロソファス      :ホド     :火 ・金星
====
予備門             :パロケスのヴェイル(境界)
5=6  アデプタス・マイナー   :ティファレット:太陽
6=5  アデプタス・メジャー   :ゲプラー   :火星
7=4  アデプタス・イグゼンプタス:ケセド    :木星
====
8=3  マジスター・テンプリ   :コクマー   :土星
9=2  メイガス         :ビナー
10=1 イプシシマス       :ケケル

52895.JPG
*マグレガー・マサースによる手書きの生命の樹

そして、団は、「4=7 フィロソファス」までの「ファースト・オーダー(外陣)」と、「7=4 アデプタス・イグゼンプタス」までの「セカンド・オーダー(内陣)」と、それ以上の「サード・オーダー」の3つから構成されます。

「ファースト・オーダー」が狭義の「黄金の夜明け」であり、そのロンドン本部が「イシス・ウラニア・テンプルNo.3」です。
それぞれの位階は、四大元素が対応しているため、「元素位階」とも呼ばれます。
ただ、本来的には、地球(月下)であるマルクトに4大元素が対応します。

「セカンド・オーダー」は「ルビーの薔薇と金の十字架」と呼ばれます。
「サード・オーダー」は、ドイツの「秘密の首領」が構成している、とされました。

ウッドマン、ウェストコット、マサースの創設者3人は、外陣を率いる「5=6アデプタス・マイナー」であり、同時に、内陣を率いる「7=4アデプタス・イグゼンプタス」でしたが、それぞれの位階の魔術師名を持っていました。
また、「6=5アデプタス・メジャー」には、モイナ・マサース一人が就いていました。
そのため、一般の団員の実質の最上位階は、「5=6アデプタス・マイナー」でした。

支部を率いることができる「5=6 アデプタス・マイナー」の授与には甘い点をあったようですが、このように、位階の上限が厳しく守られていたことは、この手の魔術結社では極めて稀なことです。


<入門儀礼>

各位階を得るには、決められた知識の習得と、入門儀式(通過儀式)を受けることが必要です。
入門儀式の一般的な構造、特徴には、下記などがあります。

・対応する物語設定がある
・知識の試験と、誓約(秘密厳守、兄弟愛、邪悪な魔術の非行使など)が行われる
・対応する元素の霊や「光」などが召喚される
・対応するセフィラにつながるすべての小径を旅して、神格に出会うなどし、各小径に対応する大アルカナのカードを見る
・その位階(対応するセフィラ)の領域・神殿に入り、その象徴と意味が開示される

最初の見習いになるための「ニオファイト儀式」では、「光」が召喚されて、志願者のオーラに埋め込まれます。

「全体系はその目的を「光」の引き降ろしに置いている…0=0から5=6の間にある位階は、いわば光と闇の間に振動する「光」の解析に従事しているのであり…」とイスラエル・リガルディーが「GD」で書いているように、GDでは、神性が白く輝く「光」として召喚されます。

外陣の4つの「元素儀式」では、順に、四大元素が召喚され、志願者の内なるその力を目覚せようとします。
そして、「予備門儀式」では、第五元素である「霊」が召喚され、四大元素の均衡が求められます。

また、内陣の「5=6 アデプタス・マイナー儀式」でも、再度、「光」が召喚されます。

リガルディーは同書で、「アデプタス・マイナー儀礼の目的は、人格の救済を達成し、竜の力を再生し、個人に潜在的神性の認識をもたらすことにある」と書いています。
 また、GDの知識講義文書「アデプタス・マイナーに課される責務」には、「高次の意志が下降して低次の意志を従わせる」と書かれています。


以下、個々の入門儀礼の特徴です。

「ニオファイト(見習い)儀式」の物語は、「死者の書」におけるの魂の計量です。
ホルス役のアデプトが志願者をオシリスに紹介し、オシリスと一体化します。
そして、聖別、四大元素の聖餐などが行われます。

「地」の位階の「ジェレーター(熱意ある者)儀式」の物語は、「出エジプト記」の荒野の幕屋です。
志願者は、まず、「悪の小径」をサマエルに追い返され、次に「善の小径」を追い返され、最後に、「直線(均衡)の小径」を進んで祭壇に導かれます。

「空気」の位階の「セオリカス(傍観者)儀式」の物語は、地下世界の旅です。
小径「タウ」を旅して、4柱のケルビム、四大元素の天使と出会い浄化を受けます。

「水」の位階の「プラクティカス(実践者)儀式」の物語は、サモトラケの密儀です。
2つの小径を旅しますが、「シン」では、火の神格である3人のカビリと出会います。
そして、「追放以前のエデンの園」の開示を受けます。
この位階では、3ヶ月以上の滞在が必要とされます。

「火」の位階の「フィロソファス(叡智を愛するもの)儀式」の物語は、秩序と混沌の戦いです。
3つの小径を旅しますが、「コフ」では、水の元素を担うオシリス、ホルス、イシスと出会い、霊的進化、恐怖と幻想の克服を体験します。
「ツァディ」では、星辰の水を担うイシス、ネフシス、ハトホルと出会い、直感的意識を得る体験をします。
そして、「追放後のエデンの園」の図と象徴の開示を受けます。
この位階では、感情が高まり混乱するので、7ヶ月(7惑星に対応)以上の滞在が必要とされます。
そして、偽りの自己を分解、火と水で混沌を秩序に変成することが求められます。

「予備門儀式」の物語は、闇を抜けて光入るであり、錬金術的変成です。
この儀式は、水銀、硫黄、塩を象徴する3人のアデプトが司ります。
志願者は、正式に「慈悲の白い柱」に紹介されます。
これまでの位階は、「峻厳の黒い柱」に当たり、「パロケスのヴェイル(境界)」を越えて、闇から光に入るのです。
アデプトが四大元素と霊(光)の召喚を行い、志願者自身も四大元素の召喚を行います。
この見習いには、9ヶ月(懐胎期間に対応)以上の滞在が必要とされます。


<アデプタス・マイナー儀式>

「アデプタス・マイナー儀式」の物語は、クリスチャン・ローゼンクロイツ(以下CRC)の死と復活です。
そのため、儀式場(神殿)には、CRCの墓所を象徴する地下納骨所が準備されます。

納骨所は、宇宙の模造であり、地の中心にあり、大洞窟の山、神秘なるアビエグヌス山とされます。
そして、この墓所への鍵は、薔薇と十字であり、クルクス・アンサータ(生命の象徴であるアンク十字)であり、10のセフィロートの力とされます。
CRCはオシリスであり、キリストでもあります。

納骨所の天井は白く、七芒星形(=下位7セフィロート)と、その中に上向き三角形(=上位3セフィロート)と、その中に22花弁の薔薇(=22の小径)が描かれています。
七側壁は、7面(=7惑星と下位セフィロート)で、4ケルビムと聖四文字(=四大元素)が描かれています。
入り口に当たるのは、金星(=10セフィロートすべてを包括)です。
納骨所の床は黒く、七芒星形と下向き三角形(=7頭の赤竜)、7×7弁の赤薔薇、黄金十字(=救済)が描かれています。

儀式の第1段では、志願者は、装身具(徽章類)を剥ぎ取られ、粗末な黒衣を着て、「剣と蛇の図」を持ち、受難の十字架に架けられて、誓約を述べます。

誓約文には、「我は純粋にして無我の生活を率先するなり」、「大いなる業、すなわち、神聖なる助力を得て、わが霊性を浄化し、高揚させ、ついには人間以上のものになり、徐々にわが身を高次の神聖なる天才と合一させるものなり」などがあります。

そして、アデプトにより、CRCの伝説が語られます。

第2段では、第1アデプトは納骨所の中にある棺に横たわります。
そして、志願者が納骨所に招き入れられます。
アデプトは、納骨所の象徴を説明します。
第1アデプトは、志願者に「汝が心の浄化器の内に…真なる賢者の石を見出すべし」などと語り、皆は納骨所を出ます。

第3段では、棺は納骨所の外に出されます。
アデプトが、「光」を召喚し、志願者に「アデプタス・マイナーとして蘇るべし」などと語り、志願者を聖別します。
そして、「小世界の図」、「剣と蛇の図」、「山の図」、地下納骨所の象徴とその意味が説明されます。


<外陣のカリキュラム>

各位階には、特定の知識の習得、瞑想や魔術の実践が求められます。
基本的には、外陣では基礎知識の習得と基礎的瞑想が中心で、魔術実践は内陣で行われます。

具体的には、次のようなカリキュラムがあります。
(すべてを網羅したものではありません。)

0=0 ニオファイト

・知識:四大元素と錬金術の記号、12宮の記号と元素対応、7惑星の記号、ヘブライ語アルファベット、セフィロートの意味
・瞑想:四拍呼吸、点の考察、自然に内在する神性なものの認識
・魔術:カバラ十字の儀式、小五芒星儀式

1=10 ジェレーター

・知識:錬金術の基礎象徴・記号・金属対応、四元素霊、4ケルビム、小径と知恵の蛇・燃える剣、カバラ四世界、アッシャー界の10天、生命の樹上のセフィロートの配置タロットカードの22大アルカナと4スート、など
・瞑想:直線、四角形、立方体、結晶の生成、地霊、地の三幅対、地の三宮

2=9 セオリカス

・知識:7惑星の性質・線形、セフィロートと神格名・大天使名の対応、タロットの4スーツと聖四文字・四世界との対応、アストラル霊・元素霊・惑星霊・天使・悪魔の意味、など
・瞑想:月の呼吸(左の鼻孔のみ)、満ち欠けする三日月、五芒星、植物の背後にある元素

3=8 プラクティカス

・知識:錬金術の基礎理論、天宮図作成法、ヘブライ語アルファベットと小径の対応、惑星の方陣・数値・名前、立方十字・ギリシャ十字、地占象徴・守護神、タロットのヘブライ・アルファベット等の対応、水星の象徴、「追放以前のエデンの園」と「追放後のエデンの園」の解説、「一般指導及び魂の浄化に関して」、など
・瞑想:水、水の3宮、感情の統制、菱形、水星、8

4=7 フィロソファス

・知識:地占護符、ゾロアスター、クリフォト、タットワ、多線形・多角形、など(以上は正規のものではなく副講義として)
・瞑想:火の三角形、金星、宇宙の愛、キリストを霊として感知、火、火の3宮

また、実践には、次のようなものもありました。
・タットワ・ヴィジョン
・地占
・タロット占術
占術の目的は、直感や想像力の養成とされます。


<内陣のカリキュラム>

内陣のカリキュラムは、次のようなものなどがあります。

予備門

・知識:儀式書を読解と記憶、生命の樹の完全なる図表作成、生命の樹と色彩、小宇宙としての人間
・瞑想:各位階の許可紋章の十字の瞑想、十字・犠牲(死と復活)
・魔術:中央の柱
・その他:オーラ統御(心理学の勉強、他人の意見に対する制御、深呼吸の訓練など)、タットワ占術、五芒星儀式を行って夢で与えられた教義を覚醒後に想起

5=6 アデプタス・マイナー

・知識:薔薇十字完全象徴、ニファイト儀式の象徴解説(Z文書)、護符と印形、テレズマ的似姿、タットワ
・魔術準備:自分用の魔術道具の作成・聖別、自分専用の儀式を書く
・魔術:五芒星儀礼、六芒星儀礼、薔薇十字儀式、薔薇十字聖別儀式、喚起儀礼、護符作成、隠身儀式、変身術儀式、霊的発達儀式、生まれなき者の儀式、エノク魔術、など
・霊視:スクライング、アストラル・プロジェクション、パスワーキング
・占術:地占、タロット占術

5=6 アデプタス・マイナーの課題は、数段階に分けて行われます。
また、この位階は、「ジェネレーター・アデプタス・マイナー」と「セオリカス・アデプタス・マイナー」の2段階があり、8種の試験によって昇格することになっていました。


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黄金の夜明け団の歴史2(分裂と公開) [近代魔術]

このページでは、「黄金の夜明け団の歴史1(設立と改革)」に続いて、「黄金の夜明け団(以下GD)」の歴史の後編を簡単にまとめます。


<衰退と分裂>

1894年、マグレガーとモイナのマサース夫妻は、パリに移住し、支部としてアハトゥール・テンプルNo.7を設立しました。
ここには、フランス・オカルト界の大物、パピュスが名誉会員として参加しています。
ですが、マサースが関係を持ったフランス・オカルト界の大物は、彼以外に確認されていません。

マサースは強権的な運営を行う一方、スコットランド独立闘争にも傾倒しました。
そのため、ホーニマンや他のロンドンのメンバーとの間に、衝突が生じました。

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*モイナ、ホーニマン

ロンドンのメンバーでは、アイルランドの詩人・作家でノーベル文学書作家のW・B・イェイツ、富豪家のアニー・ホーニマン、有名舞台女優のフロレンス・ファーらが反マサースとなり、ブロディ=イネス、アラン・ベネットら魔術の本格派は親マサースの立場を取りました。
ホーニマンはマサースへの資金援助を打ち切り、マサースはホーニマンを強制退団させました。

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*イェイツ、ファー

J・W・ブロディ=イネス(1848-1923)は、ケンブリッジで法学を学んだ弁護士です。
神智学協会のスコットランド支部の実質的な指導者でもありました。
また、彼は、タットワなどの東洋思想をGDに持ち込んだ人物でもありました。
実力派の魔術師と言われていて、魔術関係の研究書は残していませんが、何冊も小説を発表しています。

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*イネス

1897年には、「黄金の夜明け団(以下GD)」の文書が馬車の中に置き忘れられる事件が起きました。
これによって、検死官をしていたウェストコットとGDの関わりが警察当局にバレてしまい、ウェストコットは退団を余儀なくされました。
マサースがウェストコットを退団に追い込んだと推測する人もいます。

ウェストコットは、団の書記、会計、認定監督など、団の運営の事務的な要を一手に引き受けていたため、彼の退団によって、GDは弱体化していきました。
ウェストコットの後任はファーでしたが、昇進試験もいい加減に運営されるようになりました。

また、ファーはGD内に秘密グループ「スフィア」を結成し、アストラル・プロジェクションを用いて「秘密の首領」と接触しようと企てました。

一方、パリのマサースは金銭に困り、位階を金で売ることになったようです。
こうしてアメリカにも、次々と支部が設立されました。

そんな中の1898年、問題児のアレイスター・クロウリー(1875-1947)がロンドンの「イシス・ウラニア」に加入しました。
彼は、団の堕落した状態に失望しましたが、魔術の実力者だったアラン・ベネット(1872-1923)の生活を支援して、彼の弟子になりました。
そして、ベネットを通してマサースを信奉するようになりました。

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*クロウリー、ベネット

「イシス・ウラニア」のメンバーは、クロウリーの性格に難があるとして、内陣への昇格を拒否しました。
ですが、クロウリーはパリのマサースを頼って、昇格を承認されました。

1899年、マサースは、「秘密の首領」のシュプレンゲルを名乗る(シュプレンゲルのメッセージを霊媒として伝えた?)詐欺師のホロス夫妻を信用して、だまされてしまいます。
そして、1900年、ホロス夫妻の言葉を信じてか、マサースはウェストコットの書簡が捏造であると告発しました。

これは団を揺るがす問題であり、ロンドンのファーらは真相調査に乗り出しました。
ですが、マサースはホロス夫妻に騙されたことに気づき、証拠を出せず、強気でつっぱねるしかありませんでした。
一方のウェストコットも、黙秘を続けて、この件は、うやむやに終わります。

マサースは、クロウリーを使って、反マサースとなった「イシス・ウラニア」の神殿を奪回しようとしましたが、失敗します。
これによって、ファー、イェイツらはマサースを除名にしました。

マサース派のクロウリーはアメリカに旅立ち、ベネットは療養のためにセイロンに行って仏教に改宗、その後ビルマで僧院生活に入りました。

また、マサースと共に除名にされたエドワード・ベリッジが、「新イシス・ウラニア」を設立し、これが後にマサース派の「A∴O∴No.1」となります。
そして、ウェストコットもなぜか、このマサース派の「新イシス・ウラニア」に参加します。

一方、「イシス・ウラニア」のメンバー達は、方向性の違いから混乱に陥ります。

そんな中、1901年9月、ホロス夫妻が少女暴行、金銭詐欺で警察に逮捕されてしまいます。
そして、彼らは勝手にGDの首領であると名乗り、この事件が新聞を騒がせました。

この事件をきっかけに、ファーを含め、多数の退団者が出てしまいます。

ホーニマンは一時復帰するも、堕落した体制を批判して、それが受け入れられず、1903年に退団しました。

1902年、残ったメンバーのイネス、R・W・フェルキン(1858-1922)らは、「黄金の夜明け」の名称はもう使えないと判断して、「暁の星(ステラ・マテューティナ)」と改名しました。

フェルキンは、医学博士でもあり、神智学協会スコットランド支部のメンバーでもありました。
フェルキンは、「秘密の首領」に連絡を取ったと宣言しており、イネスもこれを認めて、フェルキンがトップになりました。

一方、オカルト著作家のA・E・ウェイト(1857-1942)が、1903年に、GDの神殿の用具などを所持するに至り、多くのメンバーと共に「聖黄金の夜明け(独立改定儀礼)」を独立させました。

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*フェルキン、ウェイト

こうして、GDは、マサース夫妻の「A∴O∴(アルファ・オメガ)」、フェルキンの「暁の星」、ウェイトの「聖黄金の夜明け」に分裂しました。
あえて正当な後継団体を一つ選ぶとすれば、「A∴O∴」になるでしょう。

一方、クロウリーはセイロンでベネットにヨガなどを教わり、1902年、パリでこれをマサースに伝えますが、マサースは評価しませんでした。

その後、クロウリーは妻のケリーを霊媒として、守護霊エイワスから「法の書」となる教えを受けます。
そして、マサースに「A∴O∴」の首領の地位を要求するという暴挙に出ますが、もちろん、相手にされませんでした。

1907年、クロウリーは、自身の結社「A∴A∴No.1(銀の星)」を設立し、機関誌「春秋分点」を発行して団員を公募します。
そして、この機関誌で、GDの儀礼の要約を、一部改竄して公開してしまいます。

これに対して、マサースは著作権と発行差し止めを求めて告訴しました。

*クロウリーに関して別ページ(予定)を参照

また、ベネットはイギリスに帰国しましたが、すでに魔術は捨てており、神智学協会の支部として仏教ロッジを創立し、これは後に独立して英国仏教協会となりました。

ちなみに、ファーも尼僧になりました。


<終焉と公開>

「暁の星」のフェルキンは、「秘密の首領」探しを継続し、1910年、ドイツでルドルフ・
シュタイナーが「秘密の首領」だと確信し、彼の思想に傾倒しました。
ちょうど、シュタイナーの秘書にA・シュプレンゲルという人物もいたのです。

こうして、「暁の星」は、フェルキン=シュタイナー派と反シュタイナー派に分裂しました。

フェルキンは、その後、セカンド・オーダーの真の首領はローゼンクロイツであり、彼が近年中に最誕すると予言するに至ります。
ですが、ドイツのシュタイナー派が、フェルキンの権威が否定したため、彼の面目は潰れてしまいました。

イネスはフェルキンに愛想をつかしてか、1908年にマサースと面会して「A∴O∴」に移籍し、イネスがエジンバラで設立していた支部「アメン・ラーテンプルNo.6」も、「A∴O∴No.2」に改名しました。

イネスの弟子で本格派だったW・E・カーネギー・ディックソンは、最初、「アメン・ラーテンプル」に加入したのですが、その後、ロンドンの「イシス・ウラニア」を経て、「暁の星」のブリストル支部「ヘルメス・ロッジ」に至りました。
そのため、「ヘルメス・ロッジ」は比較的まともなGD系魔術を継承していました。

「聖黄金の夜明け」のウェイトは、儀式魔術に興味がなく、キリスト教の儀礼を導入しました。
そして、その後、彼もシュタイナーに傾倒し、団は1914年に消滅してしまいます。

1918年、マサースが亡くなり、翌年、モイナはロンドンに戻って「A∴O∴No.3」を設立しました。
ですが、モイナの元からは、2人の重要な人物、ダイアン・フォーチュンとポール・フォスター・ケースが独立しました。

ダイアン・フォーチュンことヴァイオレット・メアリー・フォース(1891-1946)は、イネスの「A∴O∴No.2」が加入して、モイナの「A∴O∴No.3」に移籍しました。
フォーチュンは、「オカルト・レビュー」誌などに「A∴O∴」の秘密にふれる内容に公開してしまいました。

そして、モイナと決別し、1922年に「内光協会(当初は、内光の友愛)」を設立しました。
「内光協会」は魔術結社として初めて、通信教育制度を取り入れて、魔術の新しい時代を切り開きました。

また、「A∴O∴」のNY支部「トート・ヘルメス・テンプルNo.9」からは、同年に、ポール・フォスター・ケース(1884-1954)が脱退し、「神殿の建築者(B.O.T.A.)」を設立しました。
彼は、パリの「アハトゥール・テンプル」やイギリスの「A∴O∴」にも顔を出していた、タロットの一級の研究者です。
「B.O.T.A.」も通信教育制度を取り入れて、多数の会員を獲得しました。

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*フォーチュン、リガルディー

イスラエル・リガルディー(1907-1985)は、1928年にパリでクロウリーの秘書になり、彼のもとで魔術の勉強を行いました。

リガルディーは、「柘榴の園」(1932)、続いて、魔術の技法の紹介を含む「生命の樹」(1932)を出版しましたが、この書の件でクロウリーと喧嘩別れすることになりました。

ですが、フォーチュンはリガルディーを擁護しました。
そして、1934年に、リガルディーは、フォーチュンの紹介で「暁の星」の支部「ヘルメス・ロッジ」に招待されて加入し、ここでGD流の魔術を学びました。

その後、「我が薔薇十字団の冒険」(1936)を出版すると、秘密を漏らしたとしてクロウリーや「A∴O∴」から攻撃を受けました。

ですが、1937-40年にかけて、リガルディーは、「ヘルメス・ロッジ」で入手した文書などを元に、「黄金の夜明け」4巻本をシカゴ・アリーズ・プレスから出版し、GDの教義、儀礼体系を公開してしまいました。
これによって、GD系の結社は壊滅的な打撃を受けました。

彼は、公開に際して、「体系全体を世間一般に公表し、人類がこれを失うという事態を回避することが重要だった…またすでに団の教義は部分的かつ無責任な状態で公開されてきたという経緯もある」と書いています。

その後、リガルディーは、GDの文書の蒐集を続け、上記「全書」の増補改訂版を、69年、86年にルロウリン社から、84年にファルコンプレス社から出版し続けました。

また、1987年には、「全書」に収録されなかった、セカンド・オーダーの準公式文書の「飛翔する巻物」が、フランシス・キングによって出版されました。

また、1989年には、「暁の星」系で正当なGD系魔術を継承していた、ニュージーランドのパット・ザレウスキー夫妻が、リガルディーの勧めによって、高位位階(6=5アデプタス・メジャー以降)の文書を、「黄金の夜明け団の内陣秘密教義」として公開しました。

こうして、GD系の魔術は公開され、通信教育や書籍を通した教育によって、継承される時代になりました。
それらを担ったのは、一つには、フォーチュン、ケース、リガルディーや、その弟子たちです。
中でも、リガルディーの系統は、チック・キケロ夫妻の「黄金の夜明けヘルメス団(The Hermetic Order of the Golden Dawn)」、クリス・モナスター、デヴィッド・ジョン・グリフィンらの「黄金の夜明けヘルメス団(Hermetic Order of the Golden Dawn、「The」なし)」などが、「黄金の夜明け団」という名前を継承しています。

*フォーチュン、リガルディーとその弟子たちについては別ページ(予定)を参照

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