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イラン・ペルシャの創造神学 [創造神話と古代神智学]

古代イラン・ペルシャの「創造神話」はゾロアスターによる改革のためか、ほとんど残っていません。
ですが、ゾロアスター教の聖典「アヴェスタ」の中の神々への讃歌を扱った「ヤシュト」にはゾロアスター教以前の神話の跡が残されています。
また、イラン系の王国だったミタンニやメディアの時代の記録も少し残っていて、より進んだ神話・世界観を垣間見ることができます。
古代イラン・ペルシャの神話は古代エジプトやインド・アーリアのものと似ていたものだったと推測できます。

古代ペルシャの原初の宇宙開闢に関する創造神話は残されていません。
しかし、インドと同じく、原初の母神として「アディティ」がいました。
アディティはおそらく原初の海という性質があったのでしょうが、宇宙卵を産んで孵した「霊鳥シームルグ」とも同一視されます。
また、後世に「無限時間の神ズルワン(・アカラナ)」の信仰が盛んになるので、原初の神としてズルワンも考えられていたのかもしれません。

インドのヴァルナ、ミトラに相当する原初神、光の創造神は、水神としての性質を持つ「アパム・ナパート」と、ミトラと同一の神「ミスラ」です。
後に、「アフラ・マズダ」がここに加わり、アパム・ナパートを追いやります。

つまり、アディティ=シームルグが至高神の静的次元、宇宙卵が核的次元、そしてミスラが創造的次元です。

ミスラはインドのミトラ同様、契約の神であって人間の行いを監視します。
また、他に牧畜神・戦争神という性質もあります。
アフラ・マズダは、エジプトのマアト、インドのリタに相当する「正義アシャ」などいくつかの副次的機能の神格を持っています。
インドでは原初神群のアスラは悪神化しましたが、ペルシャでは原初神群「アフラ」は至高神としてとどまりました。

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(写真は、おそらくエジプトから伝わった有翼太陽円盤の象徴に乗るアフラマズダ。下にはえた2本の足のようなものは、エジプトではウラエウスかメニトだった)

インドのヴァーユ、インドラに相当する主神は、「天空神・風神・嵐神ワユ」、「戦争神ウルスラグナ」です。
他にも「雨神・シリウス神・国土守護神ティシャトリア」が主要な神としています。ワユは風によって生と死を運び、「悪霊アンラマンユ」を退治します。
ワユにもヴァーユ同様、原初神的な性質があって、ズルワンと関係します。
ティシャトリアは一番星の神でもあって、白馬の姿で黒馬の姿の「干ばつの悪神アパオシャ」と退治します。ウルスラグナは悪人に罪を与えます。
また、「太陽神フワロ・クシャエータ」はマズダの目とされています。
ちなみに、インドラはペルシャでは悪神となっています。

しかし、ミタンニ・メディア時代の神話では、ミスラが原初創造神であると同時に、主神・太陽神となっています。
また、ミスラによって、世界卵から世界創造が行われます。
卵の上半分は「空気」、下半分は「原初の海」(司るのはアパム・ナパート)となります。
これは、エジプトのシュー/テフヌト、バビロニアのアンシャル/キシャルに相当するもので、天地の素材(神)です。

 
イラン・ペルシャ神話
至高神の静的次元
原母アディティ
霊鳥シームルグ
至高神の核的次元
宇宙卵
至高神の創造的次元
ミスラ/アパム・ナパート
悪神・原母
 
至高神の副次的次元
正義リアシャ
天の素材神/地の素材神
空気/原初の海
天神/地神
クシュスラ/アールマティ
旧主神
風神ワユ
主神
雨神ティシャトリア
太陽神ミスラ
悪神・悪獣
悪馬アパオシャ


 


インド・ヒンドゥー教の創造神話 [創造神話と古代神智学]

アレキサンダー大王の遠征以降の紀元前後に、ギリシャ系の王朝バクトリア、ペルシャ系の王朝マウリア朝、クシャーナ朝が西北インドに進出して以来、その影響でか、アスラ系の光神が復活します。
(インド・ヨーロッパ語族の創造神学インド・ヴェーダの創造神学を参照)

仏教の主神的存在のヴァイローチャナ(大日如来)もそうです。
また、西方世界の「宇宙論」、「救済神話」の影響を受け、インドでもその哲学化が進みます。
これらは別の項目で扱いますので、ここでは、ヒンドゥー教系の神智学的な思考をともなった2つの神話、2Cの「マヌ法典」に書かれた創造神話と、5C頃のヴィシュヌ派の「プラーナ文献」に書かれている創造神話を紹介しましょう。

マヌ法典によれば、最初、「暗黒の混沌」のなかに「宇宙精神」があります。
宇宙精神は「原初の水ナラ」を生み出します。
次にこの水のなかに「種」を蒔くとこれが輝く「金色の卵」となります。
そして、この卵の中に「創造神ブラフマー」が現われ、卵を割って宇宙を創造します。

この神話にも至高存在の3つの次元を認めることができます。
第1の次元である静的母体は「暗黒の混沌」と「宇宙精神」と「原初の水」で、第2の次元である創造の核は「種」と「金色の卵」、そして、第3の次元である創造的存在が「ブラフマー」です。 

ヴィシュヌ派の創造神話によれば、まず、「原初の水ナラ」が存在し、ここに「永遠の蛇アナンタ」がいて、さらにその上にまどろむ「至高神ヴィシュヌ」がいます。
ヴィシュヌが覚醒すると、そのへそから「蓮」が生えて、その花の中から「創造神ブラフマー」が現われます。
そして、ブラフマーが宇宙を創造します。

この神話にも至高存在の3つの次元を認めることができます。
第1の次元が「原初の水」と「永遠の蛇」と「まどろむヴィシュヌ」で、第2の核的次元が「覚醒したヴィシュヌ」と「蓮」、そして、第3の次元が「ブラフマー」です。
ヴィシュヌ派の神学では、これらすべてがヴィシュヌの現われとされます。

これらヒンドゥー教の神話的神学の特徴は、第1に、至高存在の静的次元がさらに3つに分けて表わされていること、そして第2に、その中で意識的男性的原理(宇宙精神、ヴィシュヌ)が重視されていることです。

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ヴィシュヌ派
至高神の静的次元
原初の水ナラ
原初の蛇アナンタ
至高神ヴィシュヌ
至高神の核的次元
宇宙蓮
至高神の創造的次元
創造神ブラフマー

インド・ヴェーダの創造神話 [創造神話と古代神智学]

「ヴェーダ」は-12C頃から様々な時代に書かれたもので、そこには様々な創造神話、創造神が語られます。
原初の宇宙開闢に関する創造神話には次のようなものがあります。
まず、エジプトのプタハ神のような鍛冶的な建築士として世界を創造する「ヴィシュヴァカルマン」や「ブラフマナスパティ」。
次に、原初の水にはらまれた「黄金の胎児ヒラニヤ・ガルバ」から成長する創造神。
そして、解体されて神々や世界を生む「原巨人プルシャ」。
やや時代は下って-9C頃の「ブラフマナ文献」では、黄金の宇宙卵から生まれる創造神「プラジャーパティ」などです。

「ヴェーダ」に登場する神々は数多く、その世代関係ははっきりしません。
ですが、原初の水(海)や深淵に相当する母神は無限の神「アディティ」です。
彼女の子供に当たる神々達は「アーディティア(アーディトア)神群」と呼ばれます。
その代表が、エジプト神話の「アトゥム=ラー」のような原初の創造神に相当すると推測される光神の「ヴァルナ(写真下左)」と「ミトラ」の2神です。
ただ、これらの神々の誕生の物語は不明です。

この2神は対象的なカップルの性質を持っています。
「ヴァルナ」は光の神、天空神の創造神ですが、元来は原初の水に住む「蛇」なのです。
同じ光神でも、「ヴァルナ」の方がより原初的で夜・水の性質を持ち、「ミトラ」が昼・火の性質を持ちます。
「ヴァルナ」は良い創造力(マーヤー)で宇宙を作り、呪力を持ち、エジプトの「マアト女神」に相当する「正義・理法リタ」の守護者で、悪い人々を縛ります。
また、「ヴァルナ」の両目は「太陽神スーリア」と「月神ソーマ=チャンドラ」です。

「ミトラ」は法と契約、友愛の神です。
「ヴァルナ」が他界と関係する恐い存在であるのに対して、「ミトラ」は現世と関係する人間に近い優しい存在です。

また、「ミトラ」の下には、婚礼や給与を司り、死者を守護する祖神の「アリヤマン」がいて、この3神が「アーディティア神群」の代表です。

アーディティア神群らは「アスラ神群(漢字で阿修羅)」とも呼ばれ、やがて次世代の「デーヴァ神群」に主権を奪われ、悪神化していきます。

「デーヴァ神群」は戦争を司る天空神達で、天神「ディアウス」と地神「プリティヴィー」の息子達などです。
その主神は「風神ヴァーユ」と「嵐神インドラ(写真下右)」です。

「ヴァーユ」は棍棒に象徴される荒ぶる暴力を特徴としているのに対して、「インドラ」は弓に象徴されるコントロールされた暴力を特徴としています。
ただ、「ヴァーユ」には「原人プルシャ」の息というような原初神に近い性質もあります。
ヴェーダの後期には「インドラ」が勢力を伸ばして「ヴァーユ」を駆逐してしまいました。
「インドラ」は悪いマーヤーを持つ「悪竜ヴリトラ」を退治します。

他にも「嵐神ルドラ」や「太陽神スーリア」、「火神アグニ」が天界神として有力でした。
太陽神はエジプトと同様、その場所によって様々な名前・神格を持ちます。
昼の太陽は「スーリア」は、昇る太陽は「ヴィヴァスヴァト」、沈む太陽は「サーヴィトリー」と呼ばれます。
後のヒンドゥー教の主神の「ヴィシュヌ」は、本来は「インドラ」を補佐する太陽のエネルギーの神でした。
もう1つの主神「シヴァ」は「ルドラ」や「アグニ」の性質を受け継いています。

生産に関わる豊穣の地界神とされているのが、朝の太陽と関係づけられている双児の「アシュヴィン双神」や「ナサーティア双神」です。
「アシュヴィン双神」は多分、牛と馬をそれぞれ守護する神々だったようです。

また、最後期の「ヴェーダ」では「創造神話」の哲学化が行われます。
そこでは、原初には「有もなく、無もなく」、創造神は「唯一のもの」と呼ばれ、それが「呼吸」を行い、「思考」、「意欲」、そして「男性的能動原理/女性的受動原理」が順に生まれて、その後、神々と宇宙が生み出されます。
これを受けて-6Cの「ウパニシャッド」では、純粋な哲学が生まれます。

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インド・アーリア神話
至高神の静的次元
原初の水
原母アディティ
至高神の核的次元
黄金の胎児ヒラニアガルバ
至高神の創造的次元
原巨人プルシャ
光神ヴァルナ/ミトラ
悪神・原母
 
至高神の副次的次元
意欲マーヤ
正義リタ
天の素材神/地の素材神
 
天神/地神
ディアウス/プリティヴィー
旧主神
風神ヴァーユ
主神
嵐神インドラ
悪神・悪獣
悪竜ヴリトラ

インド・ヨーロッパ語族のパンテオン [創造神話と古代神智学]

ペルシャとインドの支配層となった民族は共にインド・ヨーロッパ語族に属するアーリア人で、かつては同じところに住んでいた一つの民族でした。

古代インド・アーリア人の創造神話はバラモン教の聖典「ヴェーダ」にある程度その跡をとどめています。
その全体像が記録に留められているわけではありませんが、古代エジプトの神話とそっくりな部分があるので、古代エジプト神話や、やはり影響力を持ったであろうメソポタミア神話をモデルに、その古い姿を復元してみましょう。

インド・ヨーロッパ語族には、社会を「主権(宗教)/戦争/生産(豊饒)」という3つの階層に分けて考える世界観があったと言われています。
神々にもこの3つの階層があって、それぞれ「天上/天空/地上」の神々に当たります。
また、それぞれの階層の主要な神は、対象的な性質を持つ対のカップルの2神で構成される傾向があったようです。
そして、3つの階層の外に、3つの階層を貫いて関係する神々もいました。

一貫した創造神話が残されていないので言い切れませんが、この3層の神は、当ブログで言う創造神話の流れで言えば、「原初神/天界神/地界神」に相当するでしょう。
実際、主神は原初神から戦争神へと変化する傾向がありました。

インド・ヨーロッパ語族の古来の神々の構造は、インドで最も古い形が残っています。
イランにもかなり古い形が残っていますが、ゾロアスターやマズダ派の改革によって変形されました。
逆に、ギリシャにはほとんど残っていません。

天上の至高神は、「法的な昼の天神/呪術的な夜の天神」のカップルを形成します。
インドでは「ミトラ/ヴァルナ」、イランでは「ミスラ/アパム・ナパート」、ギリシャではおそらく「クロノス/ウラノス」、ローマでは「ディアウス/ユピテル」、ケルトでは「ルーグ/ダグザ」、北欧・ゲルマンでは「チュール/オーディン」が、天上の至高のカップルに当たります。

天空の戦争神は、「荒々しい風神/洗練された雷神」のカップルを形成します。
インドでは「ヴァーユ/インドラ」、イランでは「ワユ/ウルスラグナ」がこれに当たりますが、他の場所ではカップルは見られません。
ギリシャでは「ゼウス」、ローマでは「マルス」、ケルトでは「オグミオス」、ゲルマンでは「トール」が天空の戦争神です。

地上の豊饒神は家畜の守護神で、男神のカップル、あるいは男女神のカップルを形成します。
インドでは「アシュヴィン双神」や「ナサーティア双神」、イランでは「ドゥルワースパー」と「ガウ」、ローマでは「クイリヌス」、北欧・ゲルマンでは「フレイ」と「ニョルズ」、あるいは女神「フレイヤ」が豊饒神に当たります。

また、悪神や豊饒神は、農業系の被支配民族の神々を習合したかもしれません。

 


ギリシャの創造神話 [創造神話と古代神智学]

ギリシャには様々な「創造神話」があります。
ですが、オルペウス派はギリシャの「創造神話」とゾロアスター教の「救済神話」やズルワン主義の神智学を取り入れながらが、独自の秘教的な創造神学を生み出しました。

まず、ヘシオドスが記した一般的なギリシャの宇宙開闢神話を紹介しましょう。
ただ、ここにもオルペウス派の影響があるかもしれません。

最初に「混沌カオス」から「大地ガイア」、「暗黒・地底タルタロス」、「愛の神エロス」が生まれます。この後、「闇エレボス」、「夜ニュクス」が、次に「光アイテル」、「昼ヘメラ」、「天神ウラノス」、「山海ポントス」が、生まれます。
主神はウラノスから次の世代の「クロノス」に、さらに次の世代の嵐神「ゼウス」に受け継がれます。
ゼウスはガイアの生み出す「テュポン」ら怪物達を退治します。
ガイアは秩序の生成を引き戻す否定的な存在の役割を果たします。

やや順序は異なりますが、ギリシャ神話にも

 「存在の静的母体」=「混沌カオス」
 →「創造の核」=「大地ガイア/地底タルタロス」
 →「創造的存在」=「愛の神エロス」
 →「天/地の素材神」=「光アイテル・昼ヘメラ/闇エレボス・夜ニュクス」
 →「天神/地神」=「天神ウラノス/山海ポントス」
 →「前主神」=「クロノス」
 →「主神」=「嵐神ゼウス」

という要素を見つけることができます。

次に、オルペウス派の神話です。
ただ、これにはズルワン主義などのイラン系の宗教の影響が見られ、時代が少し下るかもしれません。

最初、「夜の女神ニュクス」がいます。
この女神は、「風の神」によって「銀色の卵」を生みます。
この卵から黄金の翼を持った「愛の神エロス」が生まれ出ます。
この神は「ファーネス」、「ディオニュソス」とも呼ばれ、「最初に生まれた神」、「すべてを生み出す神」とも表されます。
そして、このエロスが「天地」を生みます。

また一説では、最初に「無限時間神クロノス(・アゲーラオス)」がいたとも言われます。
「無限時間神クロノス」はウラノスとゼウスの間をつなぐクロノスとは別の存在で、ペルシャの「無限時間神ズルワン」をギリシャ化したものでしょう。

また、オルペウス派は殺害されたディオニュソスの神性が人間の霊魂の本来的な神性となったと考えますが、これも後で紹介するズルワン主義と共通する神話です。

オルペウス派の神話は「至高存在からの創造」として、「夜の女神ニュクス・無限時間神クロノス」→「風の神・宇宙卵」→「エロス・ファーネス」という至高存在が3つの次元で明確に段階化されて表わされています。

 
オルペウス派の神話
至高神の静的次元
夜の女神ニュクス
風の神
至高神の核的次元
銀色の宇宙卵
至高神の創造的次元
愛の神エロス
悪神・原母
大地女神ガイア
至高神の副次的次元
 
天の素材神/地の素材神
昼アイテル/夜エレボス
天神/地神
ウラノス/ポントス
旧主神
クロノス
主神
嵐神ゼウス
悪神・悪獣
悪獣テュポン

メソポタミアの創造神話 [創造神話と古代神智学]

世界で最初に大規模な都市文明を築いたのは、メソポタミアに東方からやってきたシュメール人です。
その後、アッカド人、アッカド系のアモリ(バビロニア)人、アッシリア人、アラム(カルデア)人といったセム語系の諸民族が次々とメソポタミアの支配民族となりました。
ですが、セム語系の民族はシュメールの神話や神殿、文字など様々な文化を受け継ぎました。

エジプトではナイルは定期的におだやかに真水で増水するのに対して、メソポタミアではチグリス・ユーフラテスは不定期に激しく塩水で洪水化しました。
ですから、自然の恵みの大きいエジプトでは、王が神とされ人間の死後生も豊かなものと考えられたのに対して、自然が厳しいメソポタミアでは、人間の地位は低く、王は司祭で、人間は死後生も地下冥界でみじめに暮らすものと考えられました。

冥界は西方の海の彼方にある島の河を渡った先の天を支える山の麓から降ります。
神々は恐れ多い存在で、人間は神々の世話をするために生み出されたのです。
そして、悪魔や悪神は存在しませんでした。そして、メソポタミアではエジプトでのように、神々は本来的には動物の姿をしていませんでした。

メソポタミアでは神像が重視され、その魔術的な扱いはメソポタミアで発展したものです。
神像は神が宿るものであると同時に、神そのもので、盗まれても作り直すことはできず、神そのものが不在となり、社会の秩序は失われると考えられました。

神像は木製で、金属で覆われ、服も着せられました。新像を神々そのもののように扱われました。
例えば、入浴させ、香をふりかけ、身繕いさせ、散策させ、神々を互いに訪問させ、聖婚させたのです。
祭儀は神像の芝居だったのです。

神殿には神像のための生活必需品があり、神の生活する家でした。
メソポタミアでは神像の口を洗うことが重要で、これが開眼や入魂に当たる儀式でした。
また、メソポタミアでは、男神には女性司祭が、女神には男性司祭が、聖婚の相手という性質を持って仕えました。

シュメールの創造神話は残されていません。
ですが、シュメール神話を受け継いだセム語系の民族の神話からある程度は推測できます。

まず最初に、おそらく原初の海の「母神ナンム」がいました。
しかし、エジプトのアトゥム=ラーに相当するような他の原初神は見当たりません。

その後、ウルク市の主神「天神アン」と「地神キ」が生まれます。
次にニップール市の主神「大気・風・嵐神エンリル」、エリドゥ市の主神「地・水・知恵神エンキ」などが生まれます。
多分、主権は原初の神々からアン、そしてエンリルへと移動しました。

ラガシュ市の主神でエンリルと息子の「戦争神ニンギルス」は悪神的存在の「巨鳥アンズー」と戦います。
エンリルの息子には他に「太陽神ウトゥ」、ウル市の主神「月神ナンナル」がいます。
ナンナルの娘の「金星女神イナンナ」は、羊飼神「ドゥムジ」とカップルの存在です。


アッカド系のバビロニアの創造神話は、「エマヌ・エリシュ」に語られます。
この物語の成立は-20C以前にまでさかのぼれます。

まず最初に、「原初の海(塩水)女神ティアマト」がいました。
ここに「地下水(真水)男神アプスー」が生れ、次に「霧状生命ムンム」が生まれます。
この原初神の3神が混じり合うことによってさらに次々と新世代の神々の創造が行われます。

まず、洪水神の「男神ラフム/女神ラハム」が、次に「天の素材神アンシャル/地の素材神キシャル」が、次に「天神アヌ」と多分「地神キ」が、次に「水・知恵神エア」と多分獅子頭鷹身でも現わされる「山地母神ニンフルサグ」が、最後にバビロン市の主神「嵐神マルドゥク」が生まれます。

神々の主権は次々と新しい世代に移っていきながら、秩序が生み出されます。
特に原初の3神は新しい神々を良く思わず、アヌ以下の神々と戦います。

マルドゥクは竜の姿のティアマトと彼女がが生んだ「悪神キング」を退治して、ティアマトの死体から世界を、キングの血から人間を作ります。
また、戦争神は「ニヌルタ」、太陽神は「シュマシュ」、月神は「シン」、金星女神は「イシュタル」、羊飼神は「タンムズ」と呼ばれるようになりました。

バビロニアの創造神話はシュメール神話を受け継いてさらに複雑化させながら、神々の系譜と世代間の覇権抗争による主権の移動をはっきりと語ります。
原初の3神に光神の性質がなく、はっきりと否定的な役割を果たしていることが特徴です。

バビロニアの守護神マルドゥクはシュメールのエンリルに代わって主権の位置を奪ったワケですが、当時すでにマルドゥクは息子の「書記神ナブー(ネボ)」に主権を脅かされるようになっていました。
マルドゥクにはバビロニアで「ベール(主)」と呼ばれた大気・嵐神エンリルの性質と、エンキの息子の「呪術神アサルルヒ」の性質が重ねられています。

また、同じアッカド系でも、南方のバビロニアに対する北方のアッシリアでは、マルドゥクの位置に主都アッシュールの守護神「アッシュール」が置かれていました。
メソポタミアでは太陽神の地位は低いのですが、このアッシュールには光神・太陽神という性質があります。

また、地界の豊穣神としては、生命の樹と関係して「地・蛇女神キ」と「牡牛神ハル」のカップルが(シュメールのウルクを中心に)広く信仰されました。

シュメール/アッカド(バビロニア)の神学の特徴は、神々の多くに数/星/動物が対応づけられたことです。
数による神々の体系化は、何らかの形で後世の数秘術に影響を与えたかもしれません。

シュメールは60進数の発明者なので、最高神としての天神アン(アヌ)が60を与えられました。
以下その妻アントゥが55、大気神エンリルが50、その妻ニンリルが45、水神エンキが40、その妻ニンキが35、月神ナンナル(シン)が30、その妻ニンガルが25、太陽神ウトゥ(シュマシュ)が20、その妻で金星女神のイナンナ(イシュタル)が15、嵐神イシュクルが10、その妻山の女神ニンフルサグが5です。
以上が原初の12柱神です。

また、ハルが4、その妻キが3です。後にマルドゥクには10が与えられました。
また、星ではアンは北極星に、マルドゥクは木星に、ナブーは水星に対応します。
動物では、マルドゥクは竜(蛇頭獣身鳥後足)に対応します。

シュメールに由来する宗教の影響力は絶大で、全ユーラシア大陸を横断して日本にまで伝わっています。
例えば、日本には「五十鈴」など50のつく言葉がたくさんありますし、崇神天皇以下の数人の天皇の名前にも「五十」がついていますが、これらはエンリルに由来します。
「五十嵐」はまさに嵐神エンリルです。
また、九州天草島に多数ある「十五柱神社」の15はイナンナに由来します。他にも多くの言葉がシュメール語に由来します。

*下写真は、象徴図形で描かれたバビロニアの神々。上段左から月神シン、金星女神イシュタル、太陽神シュマシュ、中段左から角冠の姿の天神アヌと嵐神エンリル、山羊と魚の姿の水神エア、子宮の姿の母神ニンフルサグ、下段左が鋤と竜の姿のマルドゥク

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シュメール神話
バンビロニア神話
至高神の静的次元
原初の海ナンム
海水女竜神ティアマト
地下水男神アプスー
至高神の核的次元
 
霧神ムンム
至高神の創造的次元
 
細工男神ラフム
細工女神ハフム
悪神・原母
 
海水女竜神ティアマト
至高神の副次的次元
 
 
天の素材神/地の素材神
 
アンシャル/キシャル
天神/地神
アン/キ(ニントゥ)
アヌ
旧主神
水・知恵神エンキ
水・知恵神エア
主神
風神エンリル
嵐神マルドゥク
悪神・悪獣
 
悪獣キング

エジプトの創造神話 [創造神話と古代神智学]

エジプトは時代によって、また都市ごとに様々な神々が祭られていますが、古王国や中王国の時代の主要な神学は、ヘリオポリス(主神はアトゥム=ラー)、ヘルモポリス(主神はラー、トート)、メンフィス(主神はプタハ)、テーベ(主神はアメン=ラー)の4つの都市の神話的神学です。
これらは紀元前2000年以上も前に、神話が高度に形而上学的に再解釈されたものとして成立していたと思われます。

まず、ヘリオポリスの創造神話を中心にエジプトの創造神話を紹介しましょう。
最初に存在したのは「原初の水ヌン(深淵アビュッソス)」です。
これは宇宙開闢以前の非物質的存在で、あらゆる存在の母体です。
ですが、それと同時に、ヌンは天地創造以降にも地下水や海、洪水として存在しているのです。
ヌンは蛙の頭を持つ男性神として現されることもあります。
また、ヌンの妻に原初の水であって蛇の姿をした女性神の「ナウネト」がいます。
ヘルモポリスではこの2神以外にも、「蛇(女性神)」と「蛙(男性神)」の姿をした原初の神々が4神いると考えられました。
これらは、「無限の空間」の2神、「闇」の2神、「非存在」の2神という消極的、否定的な表現で表わされます。

次に、この原初の水から「原初の丘」が現れます。
これは「存在の創造の核」に相当するものです。
「原初の丘」も宇宙開闢時の非物質的存在であると同時に、天地創造以降にも世界の中心として存在します。
また、「原初の丘」はミイラ、あるいは蛇頭の姿をした男性神「タテネン(ヘンティ・テネント)」として現わされることもあります。
タテネンは冥界の神でもあります。原初の水からの「原初の丘」の出現は、毎年ナイルの洪水が引いて世界が現れて生命が再生することを、宇宙開闢のイメージに高めたものでしょう。
「原初の丘」は四角錐形の聖石「ベンベン」や柱状のオベリスク、ピラミッドとしても現わされます。

次に「原初の丘」に「宇宙卵」が現れ、その中から「創造神(隠れた神)アトゥム」が生まれます。
「アトゥム」は「光の神(太陽神)ラー」と同一視されるようになりました。
「アトゥム=ラー」は宇宙開闢時の光の神であると同時に、天地創造以降の太陽でもあるのです。
「ラー」は「鵞」や「不死鳥」の姿でも現され、「原初の丘」が現れた時にそこに飛来してとまった(つまり、世界に光をもたらした)とも考えられました。

また、ヘルモポリスの神話では、「原初の水」から「原初の蓮(宇宙蓮)」が生えて、その蓮花が開いてそこから「ラー(写真中)」が生まれたと語ります。
「原初の蓮」は宇宙開闢時の存在であると同時に、天地創造以降も地上に存在して、毎日その花を開閉して太陽を生み出すと同時に休ませると考えられました。
「原初の蓮」は羽のついた蓮のかぶりものをした男性神「ネフェルトゥム(写真下左)」として現されることもあります。

neferutomu.jpg 

*写真左:2つの長い羽根のついた蓮華と、2つのメニト(女性器・再生の象徴である輪飾り)のついた冠と杖を持つネフェルトゥム
*写真中:蓮華から生まれる少年のラー=ホルス
*写真右:太陽円盤とウラエウスを乗せた鷹頭のラー=ホルス

ヘリオポリス、ヘルモポリスの創造神話には「原初の水・深淵」→「原初の丘・原初の蓮・宇宙卵」→「光神(太陽)・不死鳥」という、至高存在の3つの次元が表現されています。

ラーが静的な段階として「原初の水」に留まっていた時には「原初の蛇」の姿をしていたとも考えられました。また、ラーを「原初に水」に引き戻すような敵である「悪蛇アペピス(アペプ)」が冥界にいます。
ラーがアペピスと戦う時は、「猫(マングース)」の姿をとることもあります。

太陽神としてのラーは船に乗って昼に天を移動しますが、毎夜、船を乗り換えて地下の冥界を移動します。
大地に沈む太陽神は特に「ホルアハティ(地平線のホルス)」あるいは「アトゥム」と呼ばれます。
そして、地下に隠れた太陽神は「アウス」あるいは「アトゥム」と呼ばれました。
太陽神は自らの神性を犠牲にして冥界に下ってまでも(肉体を持って神的存在としては死ぬとも考えられました)、死者達に光を当てて祝福を与えるために冥界へ下る慈悲深い存在なのです。

冥界には「アペピス」を代表とする蛇や悪霊がいます。
冥界そのものが大蛇であるとも考えられて、ラーはその中を尾から口へと抜け出ます。
この間にスカラベ(フンコロガシ)の成虫に象徴される再生を体験します。

そして、朝に神的な存在として太陽神が復活するのです。
この地平線から昇る太陽神は「ヘプリ」と呼ばれます。
また、太陽神は毎日「生命の野(イアルの野)」で沐浴(水に浸かって浄化)してから再生して天に昇るとも考えられました。 

ラーの働きは何人かの娘として人格神化されました。
それはまず、ラーの「目」/「額」であって、「優しい太陽」/「強すぎる太陽」でもあって、コブラや獅子頭の女神の姿をとる「ウアジェト」と「ウラエウス」です。
この2人は「統治力・炎」という性質を持ちます。そしてもう一人が、「マアト(正義)」です。

また、メンフィスの神話では、例外的に一神教に近い表現が行われます。
「原初の鍛冶の神プタハ」が8神と「原初の丘」を生み出して、さらに心臓である「シア(思考・知恵・知識)」と口である「フウ(言葉)」によってすべてを生み出します。
これらはプタハの働きであり、人格神化されて2つの男性神となりました。
ヘレニズム期の頃にユダヤ教では「ホクマー(知恵)」、キリスト教では「ロゴス(言葉)」が人格神化されましたが、「シア」と「フウ」の存在はこれにはるかに先駆けます。
シアとフウはラーの神話にも取り込まれました。

次に天地創造の段階で、「創造神・光の神アトゥム=ラー」から「空間・空気の神シュー」(写真下)と「水・水蒸気の女神テフヌト」が生まれ、主権がシューに譲られます。
一説では「太陽神ラー」はシューとテフヌトの息子とも考えられました。
次に、一体となった「天の女神ヌト」と「地の男神ゲブ」が生まれ、シューが天地の2神を引き離して世界が作られます。
そして、主権がゲブに譲られます。

そして、また天地2神から「イシス」、「オシリス」、「セト」、「ネフテュス」、さらに「ホルス」の5神が生まれます。
鷹神であるホルス(写真上右)は第2の太陽神(太陽鳥)でもあって、また、エジプト王であったオシリスの子として、不毛神のセトと戦って豊穣をもたらします。
こうして、主権(主神)はラーからシュー、ゲブ、オシリス、ホルスへと次々と新しい世代の神へと移されます。

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*写真:天神ヌトを地神ゲブから切り離すシュー

エジプト神学の特徴は、おそらくトーテムに由来する動物の象徴を残していること、王がその化身とされた太陽神(ラー=ホルス)が強力なこと、主神で豊穣神に相当するのが、強力な嵐神ではなく、本来は地界神だった、冥界神で穀物神の優しいオシリスという点です。

エジプト創造神学の神統譜・階層
至高神の静的次元
原初の水ヌン
深淵・混沌
原初の蛇
至高神の核的次元
原初の丘・蓮
宇宙卵
至高神の創造的次元
太陽神アトゥム
アメン/プタハ(不死鳥)
悪神・原母
悪蛇アペプー
至高神の副次的次元
正義 マアト
力 ウアジャト・ウラエウス
言葉 フウ・至高シア
天の素材神/地の素材神
空気男神シュー
/蒸気女神テフヌト
天神/地神
ヌト/ゲブ
旧主神
(オシリス)
主神
鷹神ホルス
悪神・悪獣
悪神セト

天地創造神話の構造 [創造神話と古代神智学]

「創造神話」(世界神話学で「ローラシア型神話」と呼ばれる、西アジアを中心にユーラシア全体に広がった神話群の)は、「宇宙開闢」の神話において、至高存在の創造的次元である「創造神」が生まれた後、この「創造神」による「天地創造」を物語ります。

「創造神」は物質的な宇宙、つまり天地や神々、生物などを生み出します。
この過程は単に物が形作られるのではなくて、「流出」、つまり、光が光度を落としていく過程であって、存在が凝固していく過程です。

まず、「光/闇」、あるいは「昼/夜」、「空気/水」、「火/土」、「男性性/女性性」などと表現される「天地の根源的な2大素材、2大原理」としての神格が生まれます。
「光」は「光神」の、「闇」は原初の「暗黒」の、「水」は「原初の水」の、「空気」は「原初の風」の次元を落とした限定された現れと考えることもできるでしょう。

 ・ 天の素材神/地の素材神 →

次に「天神」と「地神」が生まれます。

この2神の結合によって、「水神」のような天と地を媒介する神や、「嵐神」や「太陽神」といった「天界神」が生まれます。
「水神」は、天地地下の3界を循環するので、知恵の神とされることが多いようです。

「天神」から「水神」へ、そして「太陽神」あるいは「嵐神」へと主権が交代することが多いようです。

「嵐神・風神」は「原初の風」、「太陽神」は「光神」、「水神」は「原初の水」の次元を落とした限定された現れと考えることもできるでしょう。

 ・ 天神/地神 → 天地の媒介神(水神・知恵神) → 天界の主神(嵐神・太陽神) →

多くの場合、神々の主権が順に新しい世代の神々に移されていきます。
これは社会がより食物などの生産に直接に関係した下位の身近な、豊穣の神々が重視されるようになったからでしょう。

また、諸民族間や都市間の覇権交代が反映した場合もあるでしょう。
例えば、被征服民族の神が悪神となって(悪神に重ねあわされて)征服民族の神によって退治されたり、被征服民族の神の子として征服民族の神が主権を譲り受けたり、被征服民族の豊穣神が地界神として征服民族の天界神の下位のに位置づけられたりしました。

ただ、神智学的には主権交代は、個別的な働きが下位の存在の役割となったという解釈だけで、下位の存在が上位の存在より強力なものになると考えることはありません。

多くの場合、「嵐神」は雨水をもたらす豊穣神であって、「突風」や「雷」のような強力な武器を持つ「主神」となります。
「主神」は息子が「戦争神」であることが多く、「主神」や「戦争神」は「原母・混沌」に由来する「悪神・竜・怪物・巨人」を退治して豊穣と秩序をもたらします。

「太陽神」にも豊穣神という性質がありますが、原初神の「光神」とのつながりのためか、法を守る正義神という性質が強いのです。
「太陽神」も「主神」となる場合があります。

地界や地界神も上位の神の限定した現れと考えることができます。
海(神)や地下水(神)は「原初の水」の、大地(神)は「原初の丘」の現れ、という具合にです。

主要な豊穣神は、その組み合わせは様々ですが男女のカップルの場合が多いようです。
大地母神/植物男神、あるいは植物女神/牡牛神・蛇男神・鳥男神、蛇女神/牛男神、雌牛神/鳥男神などなどです。

また、雨水をもたらす金星女神などが天地を媒介して地界の男性神とカップルになることもあります。
これらは年周期で死と再生を繰り返すことも多いようです。

創造神学の神統譜・階層2
天の素材神/地の素材神
天神/地神
旧主神(生命神・知恵神など)
主神(嵐神・太陽神など)
豊穣神のカップル


宇宙開闢神話の構造 [創造神話と古代神智学]

すでに書いたように、 「創造神話」(世界神話学で「ローラシア型神話」と呼ばれる、西アジアを中心にユーラシア全体に広がった神話群の)は、「混沌からの創造」という構造を持っています。
この「混沌」は、「至高存在」と解釈されるようになりました。

ですから、「至高存在からの創造」として再解釈された、「創造神話」の構造を見てみましょう。
この稿では、まず、「宇宙開闢」神話です。

「宇宙開闢」の神話は「混沌・暗黒・深淵・初原の水」として表現される存在から始まります。
これらは「無秩序な素材」ではなくて、至高存在が創造を始める前の静的な姿、つまり「存在の静的な母体」と解釈できます。この段階では否定的な表現しかできません。

 1 至高存在の静的次元・母体 = 混沌、暗黒、深淵、初原の水 など

次にここから「宇宙卵・原初の丘・宇宙蓮」などと表現される「創造の核」が生まれます。
これは、至高存在がまさに自らを現しながら存在を生み出そうとする瞬間の姿です。
これは、原初の運動性、あるいは創造のきっかけを与えるような「原初の風」として表現されることもあります。

 2 至高存在の創造的次元・核 = 宇宙卵、原初の丘、宇宙蓮 など

さらにここから、創造神に相当するような「創造的な存在」が生まれます。
これは至高存在が次々と創造を行い始める時の姿です。
至高存在はこの時点で光を放ちます。
ですから、この創造神は「光の神」であり、その意味で「太陽神」と表現されることもあります。 

 3 至高存在の創造的次元・創造神 = 光の神、太陽神 など

このように、「創造神話」では至高存在が3つの次元で表わされることが多いようです。
もちろん、すべの神話がが3つの次元を語るわけではなく、より複雑な要素を持つ場合もあれば、より単純な場合もあります。

創造神が深淵の中にいた時の姿は「原初の蛇」と表現されることも多いようです。
「深淵/原初の蛇」のカップルを「原母/原父」と表現できるかもしれません。

本来、この「原初の蛇」には否定的な性質はありません。
ですが、「原母」としての「混沌」が創造を引き戻す力として現れた時、これは「竜」などの否定的存在となります。

 4 至高神の否定的側面 = 原母、竜 など

また、創造神にはその働きである副次的な要素が、息子・娘の神々、あるいは創造神の「目」、「腕」、「武器」などとして付け加えられる場合もあります。

 5 至高神の副次的次元 = 目、腕、武器、息子神、娘神 など


創造神話の中には上に書いたものとは別に、一神教によくある「人格神による無からの創造」の神話があります。
最初に唯一の人格神的な至高神がいて、彼が世界を作りたいと「意図」して、「深淵」ではなく単なる何もない「無」から、「思考」や「言葉」によって世界を創造します。
「混沌からの創造」や神秘主義的な「至高存在からの創造」の神話では、宇宙は神そのものから生まれ、神は宇宙に内在するのに対して、この一神教的な「無からの創造」の神話では、神は宇宙とは別に存在して、神と宇宙の間には断絶があります。
一神教的な「無からの創造」の神話は、抽象性や象徴性のレベルの低い単純な物語ではないでしょうか。

「創造神話」をベースにして、様々な宗教や神智学、神学などが作られました。
「創造神話」で表現された至高存在の3つの次元は、「父」、「母」、「息子」、「娘」、「鬼子(悪神)」などの家族・性別を持った神として、あるいは、「一なるもの」、「無」、「意志」、「言葉」、「思考」、「知恵」、「力」、「素材」、「生命」といった抽象的な原理として語られるようになりました。
また、創造神の副次的な要素は大天使達として、あるいは「正義」、「統治」、「敬虔」といった抽象的な原理として語られるようになりました。

創造神学の神統譜・階層
至高神の静的次元 = 混沌・原初の水
至高神の核的次元 = 宇宙卵
至高神の創造的次元 =太陽神
至高神の否定的側面 = 悪神・原母
至高神の副次的次元 = 目・腕…

創造神話の神智学化 [創造神話と古代神智学]

人間の原初的な部族文化では、神話は口承されるものでした。
また、神話には、職業や氏族に固有なものがありました。

そして、共同体の年齢集団や、職業集団、秘密結社の位階に応じて、教えられるものでした。
つまり、それぞれの集団や位階のイニシエーションを通過する時に、そこに固有の神話が教えらました。

このように、部族の神話は、位階に応じた多層的な秘密の構造を持っていました。

文化が発展した段階では、神官達は、位階に応じた固有の「秘密神話」を所有することが多かったでしょう。
高位者は、そういった「秘密神話」によって、他の神話を解釈(再解釈、秘密解釈)しました。

そのためには、「秘密神話」は抽象的である必要があります。
「秘密神話」は抽象的に解釈され、あるいは、より抽象的な神話に改変されるようになったはずです。

「秘密神話」やその解釈、思想の多くは、一部の神官達などの秘密の教えとして存在していたので、後世に伝わったものはその一部だけでしょう。

神話の中でその形而上学的・哲学的要素が最もよく現われているのは「創造神話」です。
ここで取り上げる創造神話は、世界神話学で「ローラシア型神話」と呼ばれる、西アジアを中心にユーラシア全体に広がった神話群です。

創造神話には、原初の根源的存在から原初の神々が生まれる「宇宙開闢」と、その中から現れた創造神によって現在の天地が作られる「天地創造」の2つの段階があります。
細かく言えば、さらに人間や文化、国家の創造が続きます。

このブログでは「宇宙開闢」に現れる神々は「原初神」、「天地創造」以降、天に属する神々を「天界神」、地に属する神々を「地界神」と呼びましょう。

 ・ 宇宙開闢=原初神
 ・ 天地創造=天界神/地界神

「宇宙開闢」神話には、「混沌からの創造」と表現できる1つのパターンがあります。
これらの神話によれば、初めに、「原初の水」、「混沌」、あるいは「深淵」、「暗黒」としか表現できないものがあります。
そして、これらから宇宙開闢の最初の神々、そして物質的な宇宙や天地が生まれるのです。

まず、「原初の水」から「原初の丘」あるいは「宇宙蓮」が現われてここに「黄金の卵(宇宙卵)」が生まれます。
「夜の女神(暗黒)」が「風」によって「宇宙卵」を生むこともあります。

次に、卵が破れて中から「原初の巨人(胎児)」が現われます。
巨人はどんどんと大きくなり、卵の上の殻は押し上げられて天になり、下の殻は大地になります。
そして、この巨人が犠牲になって、その体の各部分から星々や世界が創られることもあります。
この「原初の巨人」は後世、より積極的な「創造神」や「光の神」、「太陽神」へと変化していきました。

ところで、部族社会で広く語られる創造神話に一見これと似たものがあります。
これは、世界神話学で「ゴンドワ型神話」と呼ばれる、アフリカ、オーストラリア、その他の辺境の先住民に見られる神話群においてです。

それは、水鳥が海底から泥を拾い上げて亀の上に盛るとそれが広がって大地になった、とする神話です。
これは天の神々が生まれた後の話でなので、「宇宙開闢」の神話ではなくて、「(海からの)大地創造神話」です。

これには無意識から意識の誕生やその拡大が投影されています。
ですが、「混沌からの(宇宙)創造」である「宇宙開闢」の神話には、あえて言えば無意識そのものの誕生が投影されています。

 ・ 宇宙開闢神話 : 無形の情動から構造化された無意識の創造
 ・ 大地創造神話 : 無意識から意識の創造

「混沌からの創造」の神話には、流体的で無形の素材から、固定的な秩序と形のある世界が作られたとする発想があります。
ですが、「原初の丘」や「宇宙卵」から現われるのが太陽神などの「光神」とされた時、「創造神話」は「至高存在からの創造」と呼べる階層的な性質の強いものになります。

 ・ 混沌からの創造 ≠ 至高存在からの創造

この神話は遊牧民族がもたらしたものかもしれません。
遊牧民族は太陽に象徴される抽象的な法と、垂直的な階層を重視する傾向があります。

神秘主義的な思想はこの「至高存在からの創造」の考え方を持っています。
最初に抽象的な至高存在があって、そこから自然に存在のレベルの低い神々や世界が、至高存在の限定された現われとして、順に生まれてくるというものです。

これは哲学的には「流出論(発出論、開展説)」と呼ばれます。
至高存在は世界と連続していて世界に内在しています。
こういった神話は、無意識的な神話的思考でも意識的な思考でもなくて、深い瞑想的で直観的な思考をもとにして生まれるものです。

この「至高存在からの創造」の神話は、「混沌からの創造」の神話とは別のことを表しています。

「混沌からの創造」は、「闇から光へ、無秩序から秩序へ、無意識的なものから意識的なものへ、そして、中心から上下へ、深層から表層へ」という創造なのに対して、「至高存在からの創造」は、「光から闇へ、運動から凝固へ、意識的なものから無意識的なものへ、上から下へ」の創造です。

「混沌からの創造神話」は、世界を作る神々や根源的な素材がすでに存在していて、世界は形作られ、秩序作られるのです。
一方、「至高存在からの創造」は、創造の前には一切の存在者も素材もなく、動的な至高の絶対者が凝固・限定されることで、静的な秩序が生まれるのです。

 ・ 混沌存在からの創造 : 闇→光、無秩序→秩序、無意識→意識
 ・ 至高存在からの創造 : 光→闇、運動→凝固、意識的→無意識

「混沌からの創造」の神話は時代を経ると、それが光神・太陽神を重視したものであってもそうでなくても、形而上学的・哲学的に解釈されて神話的な神学に高められました。
創造神話が創造神学となったのです。
この過程の中で、「混沌からの創造」の神話は神秘主義的な「至高存在からの創造」へと再解釈されていきました。
そして、至高存在が宇宙創造にいたるプロセスが段階化されて認識されました。


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