神秘主義とは [序:神智学とは]

最初に、「神秘主義」とはどういうものなのか、簡単に説明しておきましょう。

人間の意識や世界にはいくつもの層(階層性)があるというのが、基本的な考え方です。
意識と世界の層は対応していて、意識が深い層(高い層)に入るに従って、それに対応した世界が見えてきます。

そして、表面的な層(低い層)の心や存在は、より深い層(高い層)が原因になって作られていると考えます。
つまり、日常意識や日常世界とは別の次元に、より本質的な価値創造性がある、というのが神秘主義の基本的な世界観です。
非日常的な世界の方に、日常世界を生み出してそれを成立させている力があるし、また、変化を求める力もあるのです。

その非日常的な意識や世界の価値創造性を、信じるというのではなく、直接的に体験することで意識を広げるのが神秘主義です。

神秘主義思想はその別の次元の意識や世界に入るための具体的な「方法論(修行法)」と、その存在世界の「地図(宇宙論)」を持っています。
神秘主義では、何かを信じるということではなてく、修行法に従ってその地図を確かめていくという経験主義的、実証的な発想が要求されます。
そして、その体験を通じて引き起こされる人格と価値観の変容が、人生にどのような意味をもたらすのかを探究していくことが求められます。

表面的な意識の世界では、言葉やイメージは、意味や形がはっきりと固定しています。
深層の意識の世界になると、意味や形が動的になって、象徴的、多義的になります。
あるいは、言葉は具体性を失って「直観的」にしか理解できなくなり、イメージも形象性を失って「直感的」にしか理解できなくなります。
また、外界を映したものではなく、内側から現れるような、根源的・原型的な特殊なイメージが現れ、自然に象徴的な物語を展開します。

表面的な意識の世界では、主体と客体(認識の主体と対象)ははっきり分かれています。
深層の意識の世界になると、境界が曖昧になり、最終的には一体になります。

表面的な意識の世界では、個々の存在は区別され、分離されています。
深層の意識の世界になると、区別は曖昧になり、個々の中に他のものがあったりして、最終的には一体となります。
一体となったものは、一切の性質や区別がなくなると同時に、すべての性質や区別があるようなあり方になります。

神秘主義思想、神秘主義哲学、東洋哲学の普遍的な構造に関しては、井筒俊彦「意識と本質」(岩波書店)が最もまとまった論考がなされています。


「神秘主義」という言葉は「隠された」、「秘密の」という意味を持っています。
これには2つの意味があるのですが、どちらも、神秘主義について語ることの難しさと結びついています。

その一つは、神秘主義の教義や修行法は秘密にされているということです。
特に奥義に属するものは、秘伝として厳しく守られています。
それらは、少数の者達によって厳重に管理され、長年の修行によって準備ができたとその資格を認められた者にだけ伝授されます。
しかも奥義であればあるほど、それは言葉より象徴、あるいは体験そのものによってしか伝達できないものになります。

これは、人間の原初的な部族文化からの伝統です。
部族文化の多くは、共同体として、あるいは、秘密結社として、複数の「位階」構造を持っていました。
そして、それぞれの位階のイニシエーションを通過する時に、その位階に固有の秘密が教えられました。
この秘密の多くは、単なる知識ではなく、特別な意識での体験や、獲得すべき職業上の技術と一体のものでした。

もう一つの意味は、秘密にせずに目の前に明かされていても、理解力のない普通の人には理解できないので、それが隠されているように見えるということです。
神秘主義は一般の人間がまったく体験したことのない意識状態、知覚、対象などを問題としているので、その人の理解力が高まるのに応じて、それらが自然に現われてくるように体験されるのです。

神秘主義思想は宗教や哲学の奥義、つまり、一般向けの教え(公教)に対する専門少数者向けの教え(秘教)だと言えます。
ただ、宗教や哲学によって、神秘主義的な性質の強い宗教と弱い宗教、あるいは神秘主義を否定する宗教があります。
様々な宗教の公教の部分には大きな差があっても、その秘教の部分では似ていることが多いようです。
  


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