無上ヨガ・タントラの究竟次第 [中世インド]

「究竟次第(完成のプロセス)」は、父タントラ系の「死のヨガ(風のヨガ、聚執)」と、母タントラ系の「性のヨガ(火のヨガ、ビンドゥ・ヨガ)」の2種類があります。

多くの派の次第では、両方の要素が含まれていますが、どちらを中心として、後で行うかによって、父タントラ系か母タントラ系かという傾向が判断できます。

母タントラと分類される「ヘーヴァジュラ・タントラ」のドーンビヘールカ流や、「チャクラサンヴァラ・タントラ」のガンターパ流は、「究竟次第」の観点では、「死のヨガ」が優位のため、父タントラ的です。
一方、不二タントラとされる「カーラチャクラ・タントラ」は「性のヨガ」が優位のため、母タントラ的です。


<父タントラ系の死のヨガ>

「死のヨガ」は、父タントラ系で重視される方法で、胸の「不滅の心滴」にすべてのプラーナを収束させます。
これは、「死」の瞬間に起こる体験をシミュレートするもので、「光明」のヴィジョンに「空」の認識を加えることで、三身を獲得します。

・前行

本行の前に、次のような前行を行います。

体を実体視しないように、体を空虚な壺として観想します。
チベットではこれを「トンラ」と呼びます。

次に、プラーナの通りを良くするための運動を行います。チベットではこれを「トゥンコル」と呼びます。

次に、ナーディとチャクラ、心滴の観想を行います。
ナーディとチャクラは経典や流派によってその数が異なり、3脈4輪~6脈6輪です。
心滴は、頭頂のチャクラの中には「白い心滴」、ヘソのチャクラには「赤い心滴」、胸のチャクラには「不滅の心滴」があります。

・風のヨガ

まず、胸のチャクラの中の「不滅の心滴」の場所に「ア字の読点」を観想し、「オーム(入る音)」、「アーハ(住する音)」、「フーム(出る音)」の3つの種字の「金剛念誦」を唱えながら、胸のチャクラの上下にまきついている左右の脈管をゆるめて、プラーナを上部から中央管へ、そして胸のチャクラに入れたり、出したりします。

中央管にプラーナが入ると、概念的思考が停止し、死に際して身体を構成する「四大」が解体される時のヴィジョンである「四相(五相)」を体験します。
これを「風のヨガ」と呼びます。

・聚執

次に、胸の「不滅の心滴」にすべてのプラーナを収束させます。
この死の瞬間に、意識、末那識、アーラヤ識が解体される時とその後に現れるヴィジョンである「四空」を体験します。
これを「聚執(塊取、ピンダグラーハ)」と呼びます。

「四空」の呼び名、その時に体験する「光明」の呼び名、その時にプラーナの状態は下記の通りです。

1 空  :顕明  :ヘソの赤い心滴が上昇
2 極空 :顕明増輝:頭頂の白い心滴が下降
3 大空 :顕明近得:赤白の心滴が胸の心滴に接触
4 一切空:光明  :赤白の心滴が胸の心滴に融解

最後の段階では、「随滅」の観想を行いながら、清浄な「光明」を体験しますが、この時に、「空」の認識を加えることで、「法身」を獲得することができます。

また、「不滅の心滴」からプラーナを再度、逆に流出させると、微細なプラーナでできた「幻身」と呼ばれる魂の体を創造することができます。
これは、人が死後に「中有」の時に、幽霊の状態でいる体です。
しかし、空の認識を得た後に、これを創造すると、浄化された「報身」を獲得することができます。
死後に希望すれば、变化身を現すことができるとします。

「法身」=「一切空」の認識と、「報身」の両方を獲得することを「双入」と呼びます。
これは、「智恵」と「方便」の一体、「等引智」と「後得智」の獲得に相当します。


<母タントラ系の性のヨガ>

「性のヨガ(火のヨガ、チャンダリーの火、ビンドゥ・ヨガ)」は、母タントラ系で重視される方法で、「白い心滴」と「赤い心滴」を融解して混合させます。
これは、「性行為」と「受胎」の時に起こる体験をシミュレートするもので、「歓喜」の体験に「空」の認識を加えることで、三身を獲得します。


・ビンドゥ・ヨガ、チャンダリーの火

「性のヨガ」は、プラーナを中央管の中に入れるまでは、「死のヨガ」と同じです。
ですが、そこから「不滅の心滴」にプラーナを収束されるのではなく、赤白の心滴に集中し、プラーナを集めることで、融解させ、その融解液を中央管の中を通って上昇、下降させます。
これを「ビンドゥ・ヨガ」、「チャンダリーの火(火のヨガ)」と呼びます。

頭頂の「白い心滴」の融解液を、「菩提心」、「精液」、「甘露」と呼びます。
ヘソのチャクラに中にある「赤い心滴」を発火(融解)させたものを、「チャンダリーの火」、「智恵の火」、「菩提心」、「経血」と呼びます。

・種字の観想

「性のヨガ」でも、「死のヨガ」と同様の前行を行いますが、これに加えて、4つのチャクラに、「種字(象徴的な梵字)」を観想します。

例えば、頭頂に白い逆さの「ハム字」、喉に赤い「オーム字」、心臓に青い逆さの「フーム字」、臍に赤い「ア字」です。
これは、チャクラに集中し、プラーナを導き入れたり、心滴の融解液を生むための準備となります。

本行においても、種字の観想を行いながら、プラーナや融解液のコントロールを行います。
「種字」は、意識とプラーナの集中によって、「心滴」と同様、あるいは、それを先導して発火したり、融解したり、一体になったりします。

・瓶ヨガ

「チャンダリーの火」の前に、まず、呼吸と共にプラーナを左右管に入れます。
次に、中央管内のチャクラに種字を観想して意識を集中し、肛門、尿道からもプラーナを吸い込みつつ、左右管からプラーナを中央管に入れ、ヘソのチャクラの場所に「瓶」があるとイメージし、そこにプラーナを留めます。

「死のヨガ」と同様、プラーナを中央管に入ると、微細なプラーナに融解し、死に向かう時に経験するヴィジョン「5相」を体験します。
最後に、中央管をプラーナがゆっくり上昇すると想像して、プラーナを外に輩出します。
これを「瓶ヨガ」と呼びます。

・四歓喜

ヘソのチャクラの「赤い心滴」を発火(融解)させた「チャンダリーの火」を中央管の中を通って頭頂のチャクラまで上昇させる時、各チャクラで「歓喜」を体験します。
これを「下から堅固になる四歓喜」、「逆観」などと呼びます。

「チャンダリーの火」を上昇された後、ないしは、発火させた後に、頭頂のチャクラの「白い心滴」を融解させた「甘露」を中央管の中を通ってヘソのチャクラ、ないし、男根の先まで下降させる時、各チャクラなどで「歓喜」を体験します。
これを「上から降りる四歓喜」「循観」などと呼びます。

どちらの場合も、順に、「歓喜」→「最勝歓喜」→「離喜歓喜」→「倶生歓喜」という「四歓喜」を体験します。

「倶生歓喜」の時、赤・白の「心滴」の融解液は混合したものになりますが、これを、主尊ヘールカと妃(ダーキニー、ヴァジュラヴァーラーヒーなど)の交会と表現します。
融解液は、最後に、妃がいるヘソのチャクラに留めることが多いのですが、これは、子宮での受胎の象徴でもあるのでしょう。

歓喜を体験する時、言葉のない意識状態になるので、「空」の認識と結びつけて、「楽空無別の智恵」と呼ばれる知恵を得ます。
これによって三身を獲得します。

「カーラチャクラ・タントラ」では、中央管の中に赤・白の「心滴」を蓄積して満杯にすることで、「空色身」と呼ばれる特別な身体を獲得します。

また、ターラ尊を本尊とする母タントラなどでは、胸に観想し虹色のターラ尊から虹光が流出して、中央管、身体全体、世界全体に広がる観想を行うとなどして、「虹身光身」と呼ばれる特別な身体を獲得します。

これら「空色身」、「虹身光身」は、法身でも報身でもなく、「微細身」も「極微身」も尽きた時に現れる身体です。

・一切如来の「火」「甘露」との一体化

「チャクラサンヴァラ・タントラ」系の「究竟次第」では、「火」を上昇させた後、体外に排出し、それが一切如来の体内の中央管を通って、一切如来の「火」や「甘露」と一体化させ、それを再度、行者に流入させると観想します。
「火」の体外排出に関しては、実際に行うのでしょう。

・感覚の浄化

「チャクラサンヴァラ・タントラ」系の流派によっては、「チャンダリーの火」の前に、「風のヨガ」の一種によって、感覚器官の浄化を行います。
まず、5感覚器官(目、耳、舌、鼻、性器)に観想した「心滴」と共にプラーナを胸の心滴に流入させます。
その後、観想した金剛杵(法源の中にある)と共にプラーナを逆流させ、胸の「心滴」から感覚器官へと送ります。

この行法は、「風のヨガ」、「聚執」に類した方法なので、「死のヨガ」に近く、父タントラ的ですが、胸の「心滴」を融解させたり、「チャンダリーの火」を利用することもあるので、母タントラ的な側面もあります。
感覚に「空」=「楽」を一体化することで、感覚を浄化すると共に、活性化させることができます。


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