秘密集会タントラの二次第 [中世インド]

「秘密集会タントラ」は、経典が未整理ということもあって、その解釈から2大流派が生まれました。
インドで優勢だったのが「ジュニャーナパーダ流」で、チベットで優勢なのが「聖者流」です。
聖者流は中観派を重視したため、チベットのゲルグ派で支持されました。

「ジュニャーナパーダ流」は、8C後半から9Cに興隆した、ヴィクラマシーラ大寺院の金剛阿闍梨だったブッダジュニャナパーダに始まる流派です。
様々な行法が行われ、一つの体系にはまとめられませんでした。

「聖者流」は、9Cに以降に興隆し、その行法は、一つの体系に整理されました。


<生起次第>

「秘密集会タントラ」の「生起次第」は、「本尊ヨガ」を本質とするマンダラ観想の「成就法(サーダナ)」で、仏の輪廻転生のプロセスを観想することによって、三身を浄化しようとします。

チベットのゲルグ派で行われている「聖者流」の「生起次第」である「秘密集会成就法清浄ヨガ次第」を紹介します。

全体の構成は、「自利円満」の「初加行三摩地」と、「他利円満」の2つの観想、身による他利の「曼陀羅最勝王三摩地」と、言葉による他利の「羯摩最勝王三摩地」からなります。

「初加行三摩地」は、自利として、仏の三身を獲得する観想(三身修道)の後、主尊阿閦金剛と一体化する「本尊ヨガ」で、次の6段階で構成されます。

1-1 前行      :準備としての本尊ヨガ
1-2 根本ヨガ    :「死」の浄化
1-3 アヌ・ヨガ   :「中有」の浄化
1-4 アティ・ヨガ  :「受胎」の浄化
1-5 マハー・ヨガ  :三重薩埵の本尊ヨガ
1-6 マハー・サーダナ:性ヨガによる大楽の供養

「前行」では、本行の予告編的な準備として、本尊ヨガとマンダラ観想を行います。
この段階で、すでに、三重薩埵、身語心の3金剛如来、尊格の出生、マンダラの身体付置などの観想を行います。

この時、「空」からの曼荼羅の構造を観想しますが、その中で、下向きの三角形で表現される宇宙的な女性器「法源(ダルモーダヤ)」と呼ばれる存在からの4大(=明妃)の生成を観想します。
また、「劫初人」と呼ばれるの誕生、堕落、死を、自分自身として観想します。
「法源」はオリエント神智学の「第一質料」、「劫初人」は「原人間」に相当します。
少なくとも後者は、間違いなく、ゾロアスター教、マニ教、ミトラ教といったイラン系救済神話の影響を受けているのでしょう。
曼荼羅観想は、宇宙生成論~救済論そのものなので、オリエントのそれの影響を受けるのは、当然です。

「本行」の「三身修道」の観想は、「四ヨガ」と呼ばれます。

尊格を光明に融解して、「死を浄化」するのが「根本ヨガ」。
五現等覚で尊格を現わして、「中有を浄化」するのが「アヌ・ヨガ」。
本尊の性ヨガを通して自身を金剛薩埵の変化身として現わし、身体に付置された諸尊を観想することで、「受胎を浄化」するのが「アティ・ヨガ」です。

そして、身語心の三種の金剛如来と一体化する本尊ヨガが「マハー・ヨガ」呼ばれます。
三金剛を、順に、それぞれの種字を置いた自分の身体の3部位から招き入れる観想を行います。

これは、如来と身語心、チャクラの対応付けが行われていることから生まれた観想法ですが、「大日経」の「五字厳身観」と、「三密加持」を組み合わせて発展させたものと考えることもできるでしょう。

次に、まず、自分を「三昧耶薩埵(意識的に思い描くイメージ)」で持金剛として観想。
次に、その胸に持金剛の性ヨガを観想して、それを「智恵薩埵(無意識的に現れて動くイメージ)」にします。
最後に、その胸にフーム字を観想して、それを「三摩地薩埵(直感?)」にします。
つまり、「三重薩埵」の観想法です。

その後に、性ヨガによって大楽を経験することを観想し、大楽を諸仏に供養する観想が「マハー・サーダナ」と呼ばれます。

「曼陀羅最勝王三摩地」は、改めてマンダラの諸尊を性ヨガで生み出して「利他」を行う観想をします。

「羯摩最勝王三摩地」は、まず、鼻先や男根の先に、心滴や三昧耶を観想する「微細ヨガ」、それを空間に遍満させ戻す「広観・斂観」を行います。
そして、文字鬘を女尊との間で循環させる「金剛念誦」を、言葉による利他の象徴として行います。
その後、一旦、光明へ融解した後、他の仏国土へ再顕現して「利他」を行うと観想します。

詳細は、姉妹サイトの「秘密集会聖者流生起次第」をご覧ください。

ジュニャーナパーダ流でも、類似した曼荼羅の観想を行いますが、それを「十二縁起」に対応させて解釈したのが特徴です。


<究竟次第>

「究竟次第」も、まず、しっかりと体系化された「聖者流」の「究竟次第」である「五次第」を紹介します。

聖者流の「究竟次第」は、人が死ぬ時のプラーナの動きと同じように、全身のプラーナを胸の「心滴」に収束して、「空」を「光明」の体験を重ねて認識します。
その後、新しく報身に相当する浄化された微細なプラーナによる魂の身体を生み出します。

「五次第」は、実際には、6-7段階で構成される瞑想法で、概略は下記の通りです。

0 定寂身次第:中央管にプラーナを入れて、臍のチャクラなどを発火させ、「四歓喜」を体験
1 定寂語次第(金剛念誦次第):念誦を唱える「風のヨガ」で「四相」を体験
2 定寂心次第(心清浄次第):「不滅の心滴」にプラーナを流入させる「聚執」で「三空」を得る
3 自加持次第(幻身):プラーナを流出して「幻身」を作る
4 楽現覚次第(光明):完全な「聚執」で「光明」=「一切空」=「法身」を得る
5 双入次第:プラーナを「不滅の心滴」から流出して「報身」を得る

最初の準備的次第である「定寂身次第」で、すでに、母タントラが重視する「チャンダリーの火」に相当するヨガを行なってしまいます。
このように、「死のヨガ」を「性のヨガ」の上位に置くことは、聖者流における父タントラらしさであると言えます。

この次第ではチャクラの観想も行いますが、下記の通りです。

・頭頂 :大楽輪 :32弁
・喉  :受用輪 :16弁
・心臓 :法輪  :8弁
・ヘソ :変化輪 :64弁
・会陰 :守護輪 :32弁

詳細は、姉妹サイトの「秘密集会聖者流究竟次第」をご覧くださし。

ジュニャーナパーダ流では、脈管(ナーディ)に関して、下記の対応を考えます。

・右の脈管 :宝生・水の精髄
・左の脈管 :阿弥陀・火の精髄
・中央の脈管:不空成就・風の精髄

「究竟次第」は、4歓喜に対応させた、4つの心滴の修習が行われます。

1 胸 :不滅の心滴   :歓喜
2 男根:秘密の心滴   :最勝歓喜
3 鼻先:変化の心滴   :離喜歓喜 
4 胸 :殊勝な不滅の心滴:倶生歓喜

1は、胸でマンダラの「広観・斂観」、「随滅・流出」の観想を行いながらの「ビンドゥ・ヨガ」です。
2は、胸の心滴を男根に下降させ、そこにマンダラの観想を行いながらの「ビンドゥ・ヨガ」です。
3は、金剛念誦を行いながらの「風のヨガ」です。
4は、胸でマンダラの「広観・斂観」、「随滅・流出」の観想を行いながらの「聚執」です。

ジュニャーナパーダ流では、3つの心滴が融解した心滴を、「真実の心滴(テニー・ティクレ)」と呼びます。

4歓喜が4つのチャクラの場所ではなく、心滴、及び、心滴を観想した場所であるのが特徴です。
また、最後に「随滅」を行っている点で、「父タントラ」傾向が認められます。

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