カーラチャクラ・タントラの二次第 [中世インド]

「カーラチャクラ・タントラ」で「別のカーラチャクラ」に対応するのが、灌頂と行法である二次第です。

「カーラチャクラ・タントラ」の灌頂体系は、「無上ヨガ・タントラ」以前の灌頂と「無上ヨガ・タントラ」の四灌頂を統合して、下記のように11段階で行なわれます。
このような構成は、「ヴァジュラパンジャラ・タントラ」を継承したものです。

・世間の灌頂:「生起次第」を許す、従来の灌頂を7段階化

1 水
2 宝冠
3 絹リボン
4 金剛杵と金剛鈴
5 行動
6 名前
7 許可

・出世間の灌頂:「究竟次第」を許す、「無上ヨガ・タントラ」の4灌頂

1 瓶
2 秘密
3 般若智
4 第四

従来の瓶から水をかける灌頂は、「世間の灌頂」の1「水灌頂」で済んでいるため、「出世間の灌頂」の1「瓶灌頂」は、ヨーギニー(明妃)の乳に触れることとしています。

「カーラチャクラ・タントラ」の灌頂は、ダライ・ラマもパンチェン・ラマも、ヤシャス王の例にならって、一般信徒に公開された形で「大灌頂」として行います。
これは、「世間の灌頂」の部分で、「結縁灌頂」に当たり、「前灌頂」とも呼ばれます。
各段階では、師がそれぞれに対応する小物で弟子の体に触れて加持を行うなどします。

これに対して、「出世間の灌頂」は「伝法灌頂」に当たり、「後灌頂」とも呼ばれます。
ですが、阿闍梨になる時に、再度、「出世間の灌頂」が行われ、これは「後後灌頂」と呼ばれます。
「第四灌頂」では、「後灌頂」の際には「性ヨガ」の技法が伝えられ、「後後灌頂」の際に、言葉による真理の伝授が行われます。


「生起次第」は、次の4段階で行なわれますが、全体が、人間の受胎から成人までのプロセスと対応付けられています。

1 最高の勝利のマンダラ :本尊、マンダラ、諸尊の受胎の観想
2 最高の勝利の活動 :諸尊の再出生し、灌頂を受ける観想(誕生・成長に対応)
3 ビンドゥ・ヨガ :チャンダリーの火と菩提心の下降による四歓喜(成人に対応)
4 微細ヨガ  :微細ヨガ、身マンダラ、菩提心が頭頂へ上昇(成人に対応)

本尊の観想には、従来の「五現等覚」とは異なり、生理学を元にした形になっています。
つまり、父からの「白い心滴」と、母からの「赤い心滴」と、意識(阿頼耶識)、意識を運ぶ微細なプラーナの4者が母胎で一体になり、「不滅の心滴」が生まれて受胎することを、下記のように象徴を使って観想します。

・白い心滴 :母音の鬘が乗った白い月輪
・赤い心滴 :子音の鬘が乗った赤い日輪
・意識   :白いフーム字or青い羅喉星
・プラーナ :黒いヒ字
・不滅の心滴:ハム字

1の観想においては、諸尊は、「カーラチャクラ」である行者の男根を通って、明妃「ヴィシュヴァマーター」の胎内に留まって、マンダラに移動します。
これは、人間が受胎して胎内で成長するプロセスに対応します。

2では、4人の女尊が勧請して、諸尊を忿怒の明妃「ヴィシュヴァマーター 」の胎内に生み出します。
「カーラチャクラ」の忿怒形である「ヴァジュラヴェーガ」が、「カーラチャクラ」を捕まえ両手を縛って瞑想者の前に引き連れ、心臓に溶け込ませます。
そして、4つの灌頂で、身語心と智に対応する4仏が現れ、4つの心滴を浄化します。
また、7種の灌頂で、マンダラの諸尊を1と同様にして生み出し、身体に布置します。

その時の象徴的対応づけは、すでに記した以外では次の通りです。

・身 :阿弥陀 :蓮華 :眉間 :目覚め :静寂
・語 :宝生  :宝 :喉 :眠り :歓喜
・心 :不空成就:剣 :心臓 :熟睡 :忿怒
・大楽 :大日  :法輪 :ヘソ :三昧 :恍惚

・水      :5仏母         :五大
・宝冠     :5仏          :五蘊
・絹リボン   :10女神         :10プラーナ
・金剛杵と金剛鈴:カーラチャクラ、ヴィシュヴァマーター:左右管
・行動     :6菩薩、6金剛女     :六根(感覚器官)・六境(感覚対象)
・名前     :12忿怒尊        :6行動器官・6行動
・許可     :金剛薩埵、般若波羅蜜仏母:純粋意識

3、4は、性ヨガによる4歓喜の観想で、人間が成人するプロセスに対応します。


「究竟次第」は、「六支ヨガ」と呼ばれ、次の6段階で行なわれます。

1 抑制:気を収束させて10のヴィジョンを得る
2 禅定:中央管の上部に父母仏を観想して浄化
3 止息:瓶ヨガによってプラーナを中央管に流入
4 總持:中央管にプラーナを保持
5 憶念:上からと下からの四歓喜を得る
6 三昧:菩提心を蓄積して四身を得る

1の「抑制」は、父タントラ系の「死のヨガ」つまり、「風のヨガ」、「聚執」です。
プラーナを中央管から胸のチャクラにある心滴に流入させることでし、臨死の10のヴィジョンを体験します。
10のヴィジョンは、「秘密集会タントラ」の五相と四空を再解釈したもので、4つの「夜のヨガ」と6つの「昼のヨガ」に分けられます。
また、10のヴィジョンは10種のプラーナと女尊に対応しているとされます。

・夜のヨガ(四相:四大の解体)
1 煙
2 陽炎
3 蛍光
4 灯明

・昼のヨガ
1 火焔
2 月
3 太陽
4 羅喉星
5 閃光 :プラーナ:金剛界自在母:本当の光明
6 青い滴:アパーナ:ヴィシュヴァマーター

「夜のヨガ」は暗闇で修行するもので、1の「煙」と2の「陽炎」が「秘密集会タントラ」の「四相」と順序が変わっています。

「昼のヨガ」の6つのヴィジョンは、「秘密集会タントラ」の「四空」をより細かく分けたものですが、「ナーマサンギーティ」を継承しています。
最後の「青い滴」(マハービンドゥ)では、宇宙の森羅万象が現れるとされます。

2の「禅定」以降は、母タントラ系の「性のヨガ」です。
このように、「カーラチャクラ・タントラ」の「究竟次第」は、「死のヨガ」を先に行い、その後に「性のヨガ」を行うので、母タントラが優位と言えます。
ちなみに、「秘密集会タントラ」とは違い、「カーラチャクラ・タントラ」は、「性ヨガ」の時に、生身の女性でなく、観想でも悟れるとします。

5の「憶念」は、「チャンダリーの火」、「ビンドゥ・ヨガ」です。
自分自身を「カーラチャクラ」であると観想し、5仏母、10女尊と交わると観想し、ヘソのチャクラの「チャンダリーの火」を点火します。

これによって、頭頂の「白い菩提心」を下降させ、チャクラの場所で4つの歓喜を体験し、性器の先端に留めます。
これを「上から降りる四歓喜」と呼びます。 
最後の歓喜は「不変の楽」とも呼ばれ、この時の無分別の状態に「空」の認識を加えます。

また、ヘソの「赤い菩提心」を上昇させ、4つの歓喜を体験し、頭頂のチャクラに留めます。
これを「下から堅固になる四歓喜」と呼びます。

4つの「心滴」を設定することは、「秘密集会タントラ」のジュニャーナパーダ流を継承しています。

6の「三昧」では、5の「憶念」を続けることで、「赤白の菩提心」21,600滴を中央管に蓄積して満杯にすると、4つの「心滴」が仏の四身に変化します。
これを「菩提心の積聚」と呼びます。

より具体的には、まず、性器の先端に1800の「白い菩提心」を積み上げ、次に1800の「赤い菩提心」を頭頂に上げます。これを12回繰り返すことで両者が密着した状態になります。

・頭頂:「身の心滴」:対象の現れを生み出す →変化身
・心臓:「心の心滴」:無概念の意識を生み出す→法身
・喉 :「語の心滴」:音の現れを生み出す  →報身
・ヘソ:「智の心滴」:快楽を生み出す    →倶生身

「倶生身」というのは、「自性清浄身」、「理法身」とも呼ばれ、無始の真理そのものです。
一方、「法身」は「智法身」とも呼ばれ、真理を認識してそれと一体化した智です。

21,600というのは、一日の呼吸数に当たり、同時に動くプラーナの数です。
密教ではプラーナも含めてすべては業によって生まれるもので、21,600の心滴によって、すべての業が浄化されると考えるのです。

また、四身の獲得と同時に、「空色身(空の影像、トンスク)」が得られます。
これは「虹身」とも呼ばれ、微細身、極微身を越えた身体のようです。

また、この時に体験する最高に高められた歓喜を「不変の大楽(アクシャラスカ)」と呼びます。

「空色身(倶生身)」と「不変の大楽」の両方の獲得を「双運」と呼び、最高の段階とします。
また、「カーラチャクラ」を「空色身」、妃の「ヴィシュヴァマーター」を「不変の大楽」の象徴とし、その父母仏を「双運」の象徴とします。

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