カーラチャクラ・タントラの思想 [中世インド]

「カーラチャクラ・タントラ」は、「時のサイクル」を根本概念とし、「外/内/別」の3つの「時輪」の照応関係を基本構造としています。
マクロコスモスとして宇宙の生滅と、ミクロコスモスとしての生物の輪廻(身体)と、それらをシミュレートする行法(二次第)3つです。

・外:器世間(宇宙構造) :宇宙生滅
・内:衆生世間(身体構造):輪廻
・別:マンダラ・二次第  :行法

主尊の「カーラチャクラ」は、ヤマーンタカとヘールカを受け継ぐ存在です。
イスラム教の神は偶像がないため、シヴァとカーマを踏んでいますが、実際にはイスラム教の調伏を中心とする存在です。

「カーラチャクラ」が「時(カーラ)」を司る存在とされたのは、シヴァの別名「マハーカーラ」、シヴァの忿怒の妃「カーリー」(カーラには「黒」の意味もあります)を意識しているのでしょう。
しかし、同時に、「カーラチャクラ・タントラ」が生まれた場所や、その占星学的思想を考えると、イラン系の「無限時間」の至高神「ズルワン」や、シーア派、ミール派イスラムの「時の主」の影響も考えるのが妥当でしょう。


「カーラチャクラ・タントラ」は、「金剛薩埵」を含む6如来の6部の体系で、これを徹底しました。
6部の対応は下記の通りに整理されました。

・金剛薩埵:智:中央:緑:智:精液
・阿閦  :空:中央:青:識:風 
・大日  :地:西 :黄:色:便 
・阿弥陀 :水:北 :白:受:精液
・宝生  :火:南 :赤:想:血液
・不空成就:風:東 :黒:行:尿 

「秘密集会タントラ」では、5仏が五蘊、4仏母が四大に対応しますが、「カーラチャクラ・タントラ」では、その対応を維持しつつも、6仏が四大(6大)とも対応します。

マンダラは、中央に阿閦の化身の「カーラチャクラ」と、金剛薩埵の化身の明妃「ヴィシュヴァマーター(ヴィシュヴァマートリ)」を父母仏として描くことで、上下左右の対称性を確保しました。

このように、「カーラチャクラ・タントラ」では、同じ部族の尊格がカップルとなることはなく、対立する原理がマン物を創造するという思想を表現しているのが、これまでにない特徴です。

「カーラチャクラ・タントラ」は、「大日経」系の「五大」、「金剛頂経」系の「五仏」を統合しているのですが、その対応は、「金剛場荘厳タントラ」を継承しています。
また、五仏の色は、「真実摂経」や「秘密集会タントラ」と異なり、むしろ「幻化網タントラ」を継承しています。
色は五大との対応が優先されているようです。
ただし、方位の対応には独自性があります。

チャクラとナーディに関しても、6輪6脈説です。
左右管はヘソで交叉するので、上下で分けて6脈と考えて対応づけました。
各チャクラの観想における種字と光輪も含めた対応は、下記の通りです。

・頭頂:中央管の上半分:金剛薩埵:ハム  :緑の極右の輪
・眉間:左管の上半分 :阿弥陀 :オーム :白い月輪
・喉 :右管の上半分 :宝生  :アーハ :赤い日輪
・心臓:左管の下半分 :不空成就:フーム :黒いラーフの輪
・臍 :右管の下半分 :大日  :ホーホ :黄のカーラーグニの輪
・男根:中央管の下半分:阿閦  :クサーハ:青い深層意識の輪


マンダラの主要な尊格は36尊で、6如来、6仏母、6菩薩、6金剛女、6忿怒、6忿怒妃の構成です。
尊格とその象徴との対応関係は、下記の通りに整理されました。

・主尊父母仏:智と大楽
・5仏   :五蘊
・4仏母  :四大
・6菩薩  :五根(感覚器官)+意識
・6女菩薩 :五境(感覚対象)+その他の現象
・10女尊(シャクティ):10のプラーナ
・6忿怒尊 :6行動器官
・6忿怒女尊:6行動
・12護法尊 :12ヶ月
・28葉女神 :28日

マンダラは、「真実摂経」以来、須弥山宇宙像と関係があるものとされてきましたが、その細かい対応を考えることはしてきませんでした。
ですが、「カーラチャクラ・タントラ」は、マンダラの要素と須弥山宇宙像との対応を細かく設定して、両者を統合しました。

「カーラチャクラ」のマンダラ「身口意具足カーラチャクラ・マンダラ」は、「身口意」の三重構造を持っています。

その中でも中心となる「意密マンダラ」は、ジュニャーナパーダ流の「秘密集会タントラ」や、「幻化網タントラ」、「ヘーヴァジュラ・タントラ」、「サンヴァラ系タントラ」の影響があって、それらを統合しました。

「意密マンダラ」の中心の大楽倫には8人の女神がいます。
四方にはプラーナを象徴する4女神、四隅には「夜のヨガ」で現れる4ヴィジョンを象徴する女神です。

その外側には順次、4仏と4仏母、さらに6菩薩と6金剛ですが、後者はジュニャーナパーダ流と同じです。
4仏と4仏母は、それぞれが父母仏として存在します。

「口密マンダラ」にも、四方四隅に母天(マートリカー)が配置されますが、「理趣経」系の仏教の母天よりもヒンドゥー教の母天に近い尊格です。
また、各母天の回りには8人のヨーギニーがおり、合計64ヨーギニーが配置されます。

「身密マンダラ」には、ヒンドゥー教の12の護方神が、12カ月に対応する神々と解釈されて配置されます。
また、神々は妃を伴っており、男性神は新月の日、女性神は満月の日とされ、その周りには、1カ月の残りの28日に対応する女神が配置されます。

マンダラの外周には、四大輪があり、それぞれが三密のマンダラ、4チャクラ、身体(の距離)と対応しています。

・風輪:黒:身密マンダラ:眉間:手首から指先まで
・火輪:赤:      :喉 :腕の関節から首まで
・水輪:白:口密マンダラ:心臓:肩から腕の関節まで
・地輪:黄:意密マンダラ:ヘソ:脊髄から肩まで


また、「カーラチャクラ・タントラ」は「時」を重視するので、輪廻、一日の意識状態、宇宙の生滅のサイクルを対応させました。
これらは、従来のタントラの教義の延長上にありますが、4局面のサイクルとして、下記の通り、仏身、心滴、尊格の種類などと対応づけて、体系化しました。

・倶生身:受胎:性 :成劫:臍 :カーラチャクラ
・法身 :死 :熟睡:壊劫:心臓:仏・仏母
・報身 :中有:夢 :空劫:喉 :菩薩・金剛女
・応身 :生 :覚醒:住劫:頭頂:忿怒尊・忿怒女尊

「倶生身」というのは「カーラチャクラ・タントラ」独自の言葉ですが、「自性清浄身」、「理法身」のことで、無始の真理そのものです。
一方、「法身」は「智法身」とも呼ばれ、真理を認識してそれと一体化した智です。
四身説は無上ヨガ・タントラで生まれたものです。

nice!(0)  コメント(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。