ヴィシュヌ教パーンチャラートラ派 [中世インド]

ヴィシュヌ教の中でタントラ色のある「パーンチャラートラ派」は、北インドで生まれ、南インドに伝播・普及しました。
この派の名前の意味は「五夜」であり、「五夜かけて行われる五の談義」などと解釈されています。
同じヴィシュヌ教の「バーガヴァタ派」との関係がはっきりしませんが、「バーガヴァタ派」の中でもタントラ的性質を持った一分派が「パーンチャラートラ派」のようです。
パーンチャラートラ派には、バラモン的要素とタントラ的要素があります。

基本的な聖典は、「パンチャラートラ・サンヒター」と総称されますが、その三宝とされるのは、6-7Cに書かれた「サートヴァタ・サンヒター」、「パウシュカラ・サンヒター」、「ジャヤーキヤ・サンヒター」です。
また、「ヴィシュヌ・プラーナ」もパンチャラートラ派の文献とされています。

パーンチャラートラ派に限りませんが、ヒンドゥー系の聖典(アーガマ)には、「知識(ジュニャーナ)」、「瞑想(ヨガ)」、「勤行(チャリヤー)」、「儀式(クリヤー)」という4つのテーマがあります。


「知識」に属するものですが、パーンチャラートラ派には、次のような宇宙創造論があります。


・第一の創造

最初に、最高神「ヴァースデーヴァ(=静寂なブラフマン)」が自身を目覚めさせて宇宙の展開が始まります。
活動エネルギーの「ラクシュミー(シャクティ)」が生まれ、質料因「ブーティ(ソーマ)」と手段因「クリヤー(アグニ)」に分かれ、さらに、6つの属性「全知・支配力・能力(シャクティ)・力・勇猛・威光」となります。

次に、これら属性の2つずつを持つ3つの顕現神である「ヴューハ神(サンカルシャナ、プラデュムナ、アニルッダ)」とその妃が生まれます。
これら3神は、クリシュナの長兄、息子、孫でもあります。
「ヴァースデーヴァ」と「ヴューハ神」の4神は、第四位・熟睡・夢睡眠・覚醒という四段階の意識状態を司ります。

「ブラフマン」から「アルニッダ」までは、宇宙軸の一本の光の束「ヴィシャーカユーパ」と呼ばれます。

さらに、12の副次的「ヴューハ神」と、12の「ヴィディヤー・イーシュヴァラ」神が生まれます。
さらに、39の顕示神(化身)が生まれます。

そして、ヴィシュヌの最高天ヴァクンタが生まれますが、これはヴィシュヌの3/4の顕現であり、残り1/4が俗なる世界となります。

・第二の創造

次に、「プラドゥユナム」が生まれます。
そこから、個我の集合体である「クータスタ・プルシャ」と原材料の「マーヤー・シャクティ」が生まれます。
らさに、万物の運動を制御する原理の「ニヤティ」と、3種の「グナ」が生まれます。

・第三第の創造

これ以降は、微細と粗大な物質的な宇宙の創造ですが、ほぼ、サーンキヤ哲学の25原理と同じです。
しかし、質料因としての「プラクリティ」に、時間の「カーラ」が付け加えられます。

・第四の創造

粗大な五元素から、「宇宙卵」が生まれ、そこから「梵天」が生まれ、「世界」が作られます。

このように、宇宙創造論で、サーンキヤ哲学の25原理の上に、人格神と抽象原理を一体化した様々な存在を置くことは、パーンチャラートラ派に限らない、ヒンドゥー系のタントラの宇宙論の特徴です。
そのため、サーンキヤ哲学のプルシャ、プラクリティを、限定された存在として矮小化しています。

上記の宇宙創造論には、神格の位格(階層)があります。
パーンチャラートラ派では、身分によって、拝むべき神格が決められています。

1 八支ヨガに長けた者 :胸に蓮華の中のマントラとしての最高神ヴァースデーヴァ
2 バラモンの祭祀者  :形を備えた最高神ヴァースデーヴァ
3 儀礼をおこなう祭祀者:マントラを伴うヴューハ神
4 下位3カーストの者 :マントラを伴わないヴューハ神
5 知識はないがバクティを捧げる4カーストの者:39の顕示神


観想やプラーナの操作する「ヨガ」は、「内的崇拝」と呼ばれ、外的な儀礼と対応関係にあります。
例えば、儀式のおける「火」は、「ヨガ」における「クンダリニー」が対応します。
これは、パーンチャラートラ派に限らない、ヒンドゥー系のタントラの特徴です。


パーンチャラートラ派に限りませんが、タントラでは「三密」、特に、「マントラ」が重視されます。
マントラは長さから4分類されます。
・ヴィージャ(種子)  :一音節の母音のみもしくはプラス子音
・ピンダ(団塊)    :複数の母音、子音の結合したもの
・サンジュニャー(名称):神の名前
・パダ(句)      :神の属性を含む句

マントラの「オーム」は、最初に顕現したブラフマンと同一とされます。
また、字母である音素を配列した車輪の形をした「チャクラ」というものがあり、そこから一定の規則で各神のマントラが抽出されます。
ヴァースデーヴァの6つの属性は、神の6つの肢体と、6つの「肢体マントラ」に対応します。


宇宙論の階層
ヴァースデーヴァ(ブラフマン)
 ↓
ラクシュミー(シャクティ)
 ↓
質料因ブーティ、手段因クリヤー
 ↓
6の属性
 ↓
3人のヴューハ神
 ↓
12人の副次的ヴューハ神
12人のヴィディヤー・イーシュヴァラ神
 ↓
39の顕示神(化身)
プラドゥユナム
 ↓
クータスタ・プルシャマーヤー・シャクティ
 ↓
ニヤティ、3グナ
プラクリティ、カーラ
 ↓
ブッディ以下18原理
 ↓
粗大な5元素
 ↓
宇宙卵
 ↓
梵天
 ↓
世界

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