中世~ルネサンスの錬金術 [ルネサンス~近世ヨーロッパ]

<中世の錬金術>

アレキサンドリアで生まれアラブ世界で継承された錬金術は、12Cに、チェスターのロバートがスペインで「錬金術の後世について」を翻訳したことを1つのきっかけに、ヨーロッパ世界に到来・復興しました。
彼は、錬金術を「アルケミア」と訳しました。

ヨーロッパの錬金術は、アレキサンドリアやイスラム世界とは異なり、秘密主義はなく、大学の教程にも採用されました。

ヨーロッパの錬金術は、ジャービルの「水銀・硫黄理論」を継承しましたが、13Cイタリアのフランチェスコ会修道士、タラントのパオロが唱えた新しい理論が主流となりました。
彼は、ジャービルをラテン語化した「ゲベル」の名で、錬金術の包括的な教科書「完成大全」などを著しました。

彼は、2原質の微小部分が結びついて金属が生成されると考えました。
各金属は粒子の大きさが異なり、金は微小で精密に充填されていますが、非金属は土性の粒子が混入しているのです。

また、14Cに、ルペシッサのヨハネスや偽ルルス文書などで「第5精髄(クィンタ・エッセンチア)」が重視されるようになりました。
これは生命力の元となるもので、錬金術はこれを扱うのです。

「第5精髄」は、天上の「第5元素(アイテール)」が下降して、月下の自然物に入ったものと考えられました。
あるいは、「第一質料」(=「生きた銀」、「水銀」とも考えられました)が地上で「4大元素」に変化した時に、どれにもならずに「第5精髄」になったものとも考えられました。

また、当時、アルコールが「燃える火」、「生命の水」とされ、医療でも消毒剤などで、錬金術でも油脂の溶解剤などとして重視されました。
アルコールには、「第5精髄」を抽出した液と考えられました。

14Cの偽アルナウによる「比喩的考察」は、キリストと水銀が似た存在であるとして、錬金術とキリスト教を結びつけました。
彼は、キリストの4段階の苦悩、人類を救済して救世主になることが、水銀が非金属を癒やして「賢者の石」になるプロセスと同様であると考えたのです。
また、物質が蒸留器の頭部の十字まで上昇して結晶化することが、キリストが十字架に昇ることと類似しているとも主張しました。

中世の有名な錬金術師には、フランス生まれのニコラ・フラメル(1330-1418)や、ドイツ生まれで15C初頭の人物とされるヴァシリウス・ヴァレンティヌスなどがいますが、両者ともにその名で偽書が書かれました。
特に、後者は実在が怪しまれています。


<ルネサンス期の錬金術>

ルネサンス期には、次のような金属と惑星の対応が定着し、金属学(錬金術)は地上の星学(占星術)となります。
金属はこの順で成長して最終的に金になります。

鉄=火星 →銅=金星 →鉛=土星 →錫=木星 →水銀=水星 →銀=月 →金=太陽

また、「賢者の石」を作るプロセスが次のように定式化されます。

1 黒化:材料を30-40日加熱すると黒くなる
2 白化:さらに数週間加熱すると、短期間に色彩変化(孔雀の尾)をした後、「白色の賢者の石」ができ、これに銀を加えると、すべての金属を銀にする変性剤になる 
3 赤化:さらに強く加熱すると黄色を経て濃い赤色の「赤色の賢者の石」になる
4 発酵:これに金、水銀を加えると完成した「賢者の石」になり、すべての金属を金にする変性剤になる

2までが「小作業」と呼ばれ「月の木」で象徴され、白化は「白鳥」で象徴されました。
4までが「大作業」と呼ばれ、「太陽の木」で象徴され、赤化は「不死鳥」「ペリカン」で象徴されました。

「賢者の石」が普遍的な金の変性剤である理由としては、金の「形相」を過剰に持つ金以上の金であり、あるいは、金の「種子」を持っていて、それを他の金属に与えるからと考えられました。
また、水銀派の錬金術師は、水銀に霊魂を注入して「賢者の水銀」にすると、それが金の「種子」を開放する、と考えました。

また、パラケルススは医師であり実際に錬金を行う錬金術師ではありませんが、医薬の精製を錬金術と同様の作業であると考えました。
そして、「水銀・硫黄理論」に「塩」を加えてた3原質を理論化するなど、独自の錬金術理論を作りました。
彼は、「3原質」を金属だけではなく、すべての事物を構成する「原理」であると考えました。
また、彼は、自然・人間の成長全体を、錬金過程と考えました。
詳細は、「パラケルススと錬金術」をご参照ください。


<種子>

錬金術で使われる「種子」の概念は、遠くはストア派の「種子的ロゴス」に由来します。
これは事物に内在する形相因です。

これを受けて、アラビア錬金術では、硫黄・水銀の「2原質」が金属の「種子」とされました。

一方、ヨーロッパでは、アウグスティヌスが「種子的理性」と言い換え、神が「種子的理性」によって世界を種子の形で創造したと考えました。

ルネサンス期にはフィチーノが、「種子的理性」を新プラトン主義化して受け継ぎ、「世界霊魂」が「世界霊気」を通して自然に「種子的理性」を「第5精髄」とともに与えるとしました。

また、パラケルススは、4大元素を「大地(母)」と表現し、「3原質」を「種子」と考えました。
特に、3原質の結合体である「第一質料」を「種子」であると表現しました。
「種子」は1つの原質として発現します。
「種子」の成長を加速させるのが錬金術です。

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