スウェデンボルグの神論と宇宙論 [ルネサンス~近世ヨーロッパ]

エマニュエル・スエデンボルグは、キリスト教史上最大の霊視者にして、一流の科学技術者、そして神学者です。
彼は、自身の霊視と、聖書の独自解釈によって、普遍的な宗教としての真のキリスト教を回復しようとしました。

彼の思想は、ヘレン・ケラーやバルザックに大きな影響を与え、鈴木大拙も影響を受けて彼の著書の翻訳を行いました。
また、彼の思想には、神智学を近代化へと一歩進め、ブラヴァツキーの神智学やシュタイナーの人智学の先駆となったという側面も持っていました。 

スウェデンボルグの霊界の記述は、宗教が批判されたり、神を世界の原理としてのみ考える理神論が生まれた、啓蒙主義と合理主義が特徴の18Cにしては、あまりにも素朴です。
ボルヘスは、彼の文章を、論争をせず、巧妙な議論はなく、隠喩もなく、シンプルだと論評しています。
彼の文章は、誰にも分かりやすいのが特徴なのです。

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<生涯>

スウェデンボルグ(1688-1772)の父はルター派の牧師で神学者、そして、スウェーデン語初の聖書を刊行し、男爵位を受けた人物です。
ストックホルムに生まれたスウェデンボルグは、科学技術の勉強のためにイギリス、オランダ、フランス、ドイツなどに留学しました。

1716年には、スウェーデン初の科学雑誌を発行し、王立鉱山局の監督官に就任しました。
1721には、「自然的事物の諸原理に関する先駆」、1734年には「哲学的・鉱物学的論文」を出版し、ヨーロッパ中で知られる人物となりました。

スウエデンボルグは、数学、物理学、冶金学、地質学、心理学、解剖学など、当時のあらゆる科学を学び、いくつかの分野では、最先端の研究を行いました。
特に解剖学の分野では、脳下垂体や小脳の機能を解明するなど、当時の学問のレベルを越えた研究を行っていたことが、後世に発見されました。

しかし、彼の興味は徐々に心や魂、哲学や宗教に向かいます。
スウェデンボルグは、50代の中頃からは、一種の内面的危機を迎えます。
1744年、56歳の時に「夢日記」をつけるようになります。
やがて、起きている時にもヴィジョンを視るようになりました。

4月には、ベッドに主が現れ、抱かれるヴィジョンを視ます。
翌年の4月にも再度、主が現れて、聖書の霊的な意味を明らかにするために彼が選ばれたことを告げ、その後、天国と地獄を視ました。
以降、彼は霊界の霊視などに基づく神学に専念するようになります。

スウェデンボルグは、日常のさなかでも、霊たちと交流を持ったり、霊界を訪れたりしましたが、周りの者には気づかれませんでした。
1746年には、「霊界日記」を書き始め、以降19年の間、記録を続けました。

また、ヘブライ語、ギリシャ語を学んで聖書の研究を始めました。
そして、1749から56年にかけて、主著の「天界の秘儀」全8巻(邦訳28巻)をロンドンで出版します。
この書は、創世記と出エジプト記の象徴的な真意を解釈するものです。

その後も、「天国と地獄」、「真のキリスト教」など多数の書を出版しました。
しかし、1770年には、ストックホルムの王立評議院が異端と判断して、その書の輸入を禁止します。
そして、1772年、スウェデンボルグはロンドンで亡くなりました。

スウェデンボルグの活動は、聖書の解釈を元に、真のキリスト教を復元しようとしたものでした。
しかし、彼の中では、「真のキリスト教」のサブタイトルの「新しい教会の普遍的神学」が示すように、それはキリスト教を越えた普遍宗教というべきものでした。

また、彼は千里眼や死者とのコミュニケーションの能力を持っていて、周りの者を驚かせたと言います。  
有名な事例には、ストックホルム大火災を、300マイル離れたところにいながら、周りの者に同時中継的に詳細を知らせたことがあります。
また、スウェーデン女王ユルリカに、彼女の亡くなった兄からの、他人が知るはずのない伝言を伝えたこともあります。


<スウェデンボルグの神学>

スウェデンボルグにとっての神は、あくまでも、人格神です。
神から人格性を取ってしまえば、汎神論になるしかないと考えました。

神の愛は自己投影的で、それは創造において表現されます。
神は常にその「神性」を流出しています。
それは「愛」であり、「知恵」であり、「生命」です。

スウェデンボルグは、三位一体説を否定しました。
イエス(子)はヤーヴェ(父)そのものであると考えました。

イエスの受肉は、神=「神性」が人間に直接接触するために、「人性」をまとったこととされます。
十字架の苦難は「贖罪」のためではなく、「人性」を「神性」に一致させるための試練だと言います。
これによってイエス=神は、「神的人性」を獲得し、救済の働きかけとしての「聖霊」が生まれました。

この時、イエスの中に「神的三一性」が生まれたのであって、正当神学が言うように、最初から「三位」が存在したのではないのです。

イエスが「人性」を「神性」に一致させるために歩んだ道は、人間の成長のモデルでもありました。

最初は、「神性」に由来する愛の要求と、「人性」に由来する利己的要求が衝突している状態ですが、これを「卑下の状態」と呼びます。
順次に「人性」を脱ぎ捨てて、人のままに「人性」を「神性」に一致させた状態、つまり「神的人性」を獲得した状態を、「栄化の状態」と呼びます。


<宇宙論>

スウェデンボルグは、宇宙を大きくは、3層で後世されていると考えました。
「天界」、「霊界」、「自然界」です。
あるいは、「天界」、「霊界」、「地獄」の3層です。

「天界」と「地獄」はそれぞれ3層から構成されます。
ただ、「天界」の3層は、上下の関係ではなく、内外の関係です。
内奥部に位置するのが「第3天界」で、「天的天使」がおり、「神への愛」と「正義」を特徴とします。
中間部に位置するのが「第2天界」で、「霊的天使」がおり、「隣人愛」と「公平」を特徴とします。
最外部に位置するのが「第1天界」で、「自然的天使」がいます。

1 天界
-1 第3天界(内奥部):天的天使、神への愛、正義
-2 第2天界(中間部):霊的天使、隣人愛、公平
-3 第1天界(最外部):自然的天使
2 霊界:死者が一時的に滞在する中間・中継的な場所
3-1 自然界
3-2 地獄

「霊界」は、死んだ人間の霊が一時的に存在する場所です。
そして、天使や悪魔は、死後の人間のその後の姿です。

つまり、「天界」は、死んだ人間の中で良い霊が上昇して入って、天使になる場所です。
反対に、「地獄」は悪い霊が落ちて、悪魔となる場所です。
神によって落とされるのではなく、自ら居心地が良くて行きます。
「天界」は互いに喜び合うこと、「地獄」は自分が上に立つように争うことが特徴です。

天使は神から流入する神性を受け取る存在です。
天使は時空の概念を持ちません。
「天界」における時間は、状態の変化です。
そして、空間的な距離は、物理的にはなく、内的状態の類似性を表します。

天使の言葉は生まれつきのもので、情愛から流れ出る、その配分の形が概念です。
天使には性別があり、男性は理性、女性は意志の現れです。

「霊界」は、「天界」からの神性が下降し、「地獄」からの悪なるものが上昇し、それが均衡しています。
これは、地上も同じです。
この「均衡」があって初めて、人間は「自由意志」を持つことができるのです。


「天界」、天使は、全体で一人の人間の形を持ちます。
スウェデンボルグは、これを「最大の人間」と表現します。
アダムカドモン(原人間)のスウェデンボルグ版です。

「天界」や「地獄」には、似た性質の霊が集まる、各種の社会があります。
各社会も、1つの人間の形を持ちます。
ミカエル、ラファエルなどの天使は、社会全体として天使です。
各天使も、1つの人間の形を持ちます。

そして、全自然は、天界(最大の人間)や霊界と照応します。


<宇宙間の諸地球>

スウェデンボルグは科学者でした。
彼の時代、天文学では、地動説はもちろん、我々の太陽系外の恒星や惑星の存在も常識となっていました。
彼は、その時代に相応しい、宇宙論、霊界観を考えました。

スウェデンボルグは、惑星のことを「地球」と呼びます。
我々の太陽系の諸惑星や、他の太陽系の諸惑星にも、人間がいて、その霊と交流したと、言います。
月などの衛星にも人間がいます。
各人間の外見は似ていますが、性質には違いがあります。

ただし、「天界」は1つであり、全宇宙、全地球の人間が共有しています。
彼は、宇宙も「天界」も無限であると考えました。

また、神が受肉したのは、我々の地球のみであり、その目的は聖言(聖書)を記されたものとすることです。

「天界」=「最大の人間」が照応するのは、全宇宙とその人間です。
我々の地球の人間は、「最大の人間」の自然の外なる感覚と照応します。
他の地球の人間は、それぞれに、照応する部分があります。

例えば、火星の人間は天的人間であり、原古代教会に属した人間に似ています。
土星の人間は、霊的な人間と自然的な人間の中間に相当する人間です。

諸惑星における人間を考えるのは、ブラヴァツキーの神智学やシュタイナーの人智学にも受け継がれます。
ですが、スウェデンボルグは、両者と違って、それらを人間の進化軸での順序や階層としては捉えませんでした。


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