グルジェフのワークとムーヴメンツ [近代その他]

このページでは、「グルジェフの生涯と思想」、「グルジェフの宇宙論と人間論」に続いて、開放を目的とした「自己想起」などの実践的なワークについてまとめます。


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<グループとワーク>

グルジェフが教えた、修練の実践法は、「ワーク」と呼ばれます。
「ワーク」の中でも、舞踏(体操)に当たるものがあって、これは「ムーヴメンツ」と呼ばれます。

ワークは、師が指導し、グループで互いに助け合うスクールで行うことが望まれます。

グルジェフは、「自己想起や注意を促すためにありとあらゆるものを身につけてもみた。…(しかし)慣れてしまうと、すべては元のもくあみになってしまうのだった。…解決作は…一つだけあった。私の外部に、いわば「決して眠ることのない監視人」を置くことである」
と「私が存在する時にのみ生は真実である」で書いています。

つまり、常に自分を自覚し続ける「自己想起」を行うために、他者の助けとしてグループ・ワークが必要となるのです。

ワーク・グループは、互いに観察をして、「自己想起」を思い出させる役目を果たします。
メンバーは、成長するほど、他人が「自己想起」を行っているかどうかを判断できるようになるので、他人を見ると「自己想起」を思い出すことができるのようになるのです。

グルジェフは、人間は3つの世界(機能統合体)を持っていると言います。
外界の印象からなる「外なる世界」、それに対する反射運動からなる「内なる世界」、そして、その2つの要因を意図的に融合させる「人間の世界」です。
「自己想起」は、「外なる世界」と「内なる世界」を同時に意識することで、第3の「人間の世界」を生み出すのです。

ワークでは、まず、「自己想起」を行うために、エネルギーの無駄使いをやめる必要があります。
人間は、緊張、否定的感情、空想、センターの誤用などによってエネルギーの無駄使いをしているのです。
肉体的ワークの最初に必要なのも、筋肉の緊張を観察し、弛緩させることです。
無駄使いをやめることによって、余ったエネルギーを自己想起に振り分けることができるようになります。


<ワークの3種類>

ワークは大きく3つに分けることができます。

第一の系列のワークは、自分自身に関するワークです。
これは「第1のショック」を生み出すためのものだと言いです。

まず、「自己観察」を行うのですが、観察対象が動作から感情、思考に進むにつれて、「自己想起」になります。
「自己観察」、「自己想起」には、3センターすべてが関与します。
最初はその3機能を人為的に喚起して行います。

また、「自己観察」、「自己想起」と並行して、自分の習慣的な行動を変えていくことも試みます。

第二の系列のワークは、他人とのワーク、他人のためのワークです。
これは「第2のショック」を生み出すためのものだと言いです。

これは、他人との関係の中で、否定的な感情を抑制し、表現しないように心掛けます。
すると、感情の質が変化していきます。

第三の系列のワークは、ワーク自身のためのワークです。

これは、グループに対して無私の奉仕を行うもので、ある程度「人格」が縮小された後で行います。


<自己観察と自己想起>

「ワーク」の基本となるのは「自己観察」と「自己想起」です。

「自己観察」は、まず、自分を内省して、各センターの機能の区分の分析から始めます。

次に、それぞれの印象はどのセンターの働きに当たるか、そして、一つのセンターが他のセンターに代わって働こうとすることを分析します。
この時、空想と白昼夢をしっかり観察することも必要となります。

その次には、様々な習慣に気づくことが求められます。


「自己想起」は、自分の全体、真の自己を、意識することであり、常に継続して行うことが望まれます。

「自己想起」は難しいため、最初は、「自分観察」の時に、「自己想起」をしていると想像することから始めます。
この詳細については、後述します。

「自己想起」のための基本的な方法には、「注意力の分割」があります。
外部の対象への注意と、内部(反応)への注意を同時に行うのです。
そして、内外に意識を同一化しないようにすければ、「第三の世界(人間の世界)」として、「存在」、「真の自己」が現れます。


常に「自己想起」を継続することは困難で、すぐに気が散って忘れてしまうため、それを思い出したり、継続するための様々な方法があります。

「目覚まし時計」と呼ばれる方法は、何かをする時に想起を思い出すことです。
例えば、鏡を見てひげを剃る時には自分の存在を意識するとか、コーヒーカップ手に持つ時はそれを感じるようにするとか、怒りを覚えた時はそれを意識する、といった課題、ルールを決めるのです。

また、「小目標」と呼ばれる方法は、まず、簡単な目標を設定してそれをクリアするように努力するものです。
例えば、歩いてる時に、この信号からあの信号までは気を散らさないようにするといったルールを決めて、自己想起の継続の努力をします。

また、「自己想起」に関わる、基礎的なワークに、「朝のエクササイズ」があります。
これは、いわゆるボディ・スキャンで、まず、順に身体の諸部分の感覚に集中し、次に、全体に集中し、次に、聞こえるものに集中し、最後に、見えるものに集中します。

また、「就寝前のエクササイズ」もあります。
これは、その日の行動を、分単位で時間をさかのぼって思い出すものです。
覚えていない時間帯があれば、その時、自己観察、自己想起がおろそかだったことが分かります。
寝る前には、朝と同様に、ボディ・スキャンも行ってから寝付きます。


<「私が存在する時にのみ生は真実である」で語られるエクササイズ>

「私が存在する時にのみ生は真実である」に収録された講和では、いくつかの基本的なエクササイズが語られます。

最初に語られるのは、「土壌整備」と名付けられた、一連のエクササイズの最初に行うべきもので、それは次のようなものです。

まず、注意力を3つに分けて、左右のどちらかの手の人差し指、中指、薬指に集中します。
そして、その一本の中で、「感覚的に感じる」と呼ばれる身体的なプロセスから生じる結果が進行するのを体験します。
次の指では、「感情的に感じる」と呼ばれるプロセスから生じる結果が進行するのを体験します。
三本目の指では、指をリズミカルに動かしながら、同時に、連想の流れに従って数を数えます。


また、上記のエクササイズとの関係は分かりませんが、「私(真の自己)」を獲得するための「準備的エクササイズ」が2つ書かれています。

その最初のものは、次の通りです。

「私は存在する」という言葉を発して、太陽神経叢に反響が生じていると想像する。
「私は存在する」、「私はできる」、「私は望む」という言葉を発し、まだ存在していないその「味わい」を知る。

具体的に唱える言葉は、次の通りです。
「私は存在する、私はできる、私は存在する・できる」
「私は存在する、私は望む、私は存在する・望む」

「私が存在する」なら、その時初めて「私はできる」、そして、「私ができる」なら、その時初めて私は何かを望むに値する人間になる、のです。
ですが、この「存在する」、「できる」、「望む」は、人間だけが持つ7つの心的要因のうちの3つに過ぎないとされます。

第2の「準備的エクササイズ」は、次の通りです。

注意力を2つの均等な部分に分けます。
そして、まず、その一つを、呼吸のプロセスに注意し、呼吸が有機体全体に広がるまで意識します。
次に、注意力の第2の部分を脳に向けて、自動的な連想(雑念)の流れ全体から生じる微妙な「あるもの」を意識します。
次に、自己全体を想起しながら、その「あるもの」が太陽神経叢に流れ込むのを助け、その流れを感じるようにします。
すると、もはや自動的な連想が進行しなくなり、そのことに気づけます。


<ストップ・エクササイズ>

指導者が前もって決めた言葉、ないしは合図を聞いた時、その時点に行っていた動作を止め、「それまで」と言われるまで、自身を想起するのが、「ストップ・エクササイズ」です。
このエクササイズでは、意志、注意力、すべてのセンターの機能に同時に働きかける必要があります。

スクールでは、指導者に相当する者だけが、ストップをかける資格を持っています。
この停止は、普通の生活では止めない動作で止められます。

このエクササイズを行う場合、絶えず、油断なく、準備をしておく必要があるため、常に「自己想起」を継続することを促がします。

グルジェフがそう語ったわけではありませんが、この「ストップ・エクササイズ」は、スーフィーの行に由来します。
一般に、スーフィーの中では、聖者のアッタールに結び付けられているエクササイズです。


<ムーヴメンツ>

「ムーヴメンツ」は、体操であり、舞踏です。
「ワーク」は、「ムーヴメンツ」はその中心となるものです。

「ムーヴメンツ」のレパートリーは200を超え、様々なタイプがあります。
中央アジアの秘教的スクールで行われていたものがもとになっているとされますが、その起源は不明です。

「ムーヴメンツ」では、手・足・頭などの身体の各部分を、別々のリズム、パタンで動かすことが一つの大きな特徴です。
その動きは、日常にはない動きでなので、思考・感情・動作の習慣的なつながりを立ち切ることになりますし、常に全体を意識する必要があります。

そして、肉体だけでなく、思考、感情、肉体を同時に意図的に働かせるものです。
体の感覚、そして、感情、頭によるリズムのカウントの3つを同時に意識します。

また、「ムーヴメンツ」は、様々に対立する力があり、その両方を意識して、緊張を手放し、動的な均衡状態でいる必要があります。

つまり、「ムーヴメンツ」は、「自己想起」が必要となり、それを促すものです。

「ムーヴメンツ」には、「エニアグラム(別ページ参照)」の幾何学的パタンを反映しているものもあります。
また、「オクターブの法則」からの意図的な「逸脱」が挿入されていて、それによって覚醒させる作用があります。
「エニアグラム」のソの「インターヴァル」は、この意図的な逸脱であると、解釈する者もいます。



*ムーヴメンツの例

 
*映画「注目すべき人々との出会い」の中のムーヴメンツ

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