フィチーノの新々プラトン主義 [ルネサンス~近世ヨーロッパ]

マルシリオ・フィチーノ(1433-1499)は、フィレンツェの「アカデミカ・プラトニカ(1463年設立)」の中心人物として、ルネサンスの神智学的思想運動の起点となりました。

彼は、プラトン、新プラトン主義、ヘルメス文書などを翻訳し、ヘルメス・トリスメギストスに始まるこれら「古代神学(プリスカ・テオロギア、始源の神学)」が、キリスト教の真理を先取って部分的に表現していると考えました。

彼に由来するプラトン主義は、イアンブリコス以降の新プラトン主義と同様、ヘルメス主義的な魔術(降神術)を重視します。
そして、「新々プラトン主義」、「フィレンツェ・プラトン主義」、「ルネサンス・プラトン主義」などと呼ばれます。


<プレトンと古代神学>

「アカデミカ・プラトニカ」設立のきっかけは、1438-9年に行われた東西の合同宗教会議のためにフィレンツェ訪問を訪問した、ペロポネソス生まれのプレトンことゲルギオス・ゲミストス(1355-1452)です。
彼が、フィレンツェの最高実力者で富豪のコジモ・デ・メディチに、プラトンや古代神学の研究機関の設立を勧めました。

プレトンは、熱烈なプラトニストであり、「古代神学」がプラトンに結実したと考えていました。
プレトンには、「ゾロアスターとプラトンの教説要約」、「プラトンとアリストテレスの相違について」などの著作があります。

プレトンは、「古代神学」を高く評価し、単にキリスト教の真理を部分的に先取りするということではなく、「古代神学」がキリスト教に変わるべきものだと考えていました。

プレトンは、ユリアノスによって編纂された「カルデア人の神託」の著者をゾロアスターであるとして、これを重視し、「古代神学」はゾロアスターに始まるとしました。
ゾロアスターは、魔術の創始者であり、占星術の確立者なのです。
一方、プレトンは、ヘルメス・トリスメギストスを重視しません。

プレトンは、「カルデア人の神託」が述べる「イユンクス」を魔術の呪力と考えました。
彼はそれを「第二の神」、「父の力」、「父の知性」、「第二の知性」とも表現し、性愛的に引き寄せるものであるとも表現しています。

そして、スコラ学が基礎をおいているアリストテレスは、無からの創造を受容していないなどの点から、プラトンの方がキリスト教に適合すると主張しました。
プレトンはこうして、キリスト教の神学にプラトンvsアリストテレスの論争を持ち込みました。

また彼は、新プラトン主義的に解釈されたギリシャの神々の世界を信仰していました。
至上神はゼウスであり、第2の神はポセイドンであり、これが「ヌース(知性)」であるとしました。


<フィチーノと古代神学>

フィチーノはコジモの侍医の息子であり、生涯、自分自身を医師であると考えましたが、カトリック教会の司祭でもありました。
彼はコジモに認められて、「アカデミカ・プラトニカ」の中心人物として抜擢されました。

フィチーノは、コジモに依頼に応じて、数々の古代神学の書を翻訳しました。
その順番は、「ヘスメス選集(ピマンデル)」→プラトン全作品→プロティノス→その他の新プラトン主義、偽ディオニュシオス文書、でした。 

また、翻訳と平行して、「プラトン神学―魂の不滅について」、「キリスト教について」、「三重の生について」などの著作を発表しました。

フィチーノは、古代神学の系譜を、

ヘルメス・トリスメギストス→ゾロアスター→オルフェウス→アグラオファモス→ピタゴラス→プラトン→ヨハネ→パウロ→ディオニュシオス→新プラトン主義

と考えました。

ただし、フィチーノの中で、ヘルメスとゾロアスターの順番には揺れがあります。
彼は、ヘルメスをモーゼの同時代人、あるいは先立つかもしれず、モーゼもエジプトにいた人物であって、同一人物かもしれないと考えました。

また、プラトンはモーゼの知恵も継承している、そして、新プラトン主義はキリスト教を受け継いでいると考えました。
実際は、新プラトン主義はプラトンとヘルメス主義をつなげ、偽ディオニュソスがそれをキリスト教とつなげたのですが。

フィチーノは、プラトン主義者なので、ヘルメス文書を評価してはいても、その中にあるグノーシス主義的な2元論や宇宙を悪とする反宇宙論には与しませんでした。

また、キリスト教と相違するピタゴラスの輪廻思想に関しては、フィチーノは、魂の様々な性向の移行の表現と解釈しました。

フィチーノ.png


<存在の階層と愛の道>

フィチーノは存在を次の5階層で考えました。

一者(神)→ヌース(天使)→霊魂→物質(形成力を持つ)→物体(形成力を持たない)

です。
プロティノスが言うように、「一者」以下の存在は、「一者」に向かう自然的欲求を持っています。

「霊魂」としての人間は、中間にあって、上位、下位を自由に行き来して両者を一に結合する「結び目(紐帯)」である存在です。
また、人間は、ヘルメス主義的な万物照応に基づくミクロコスモスでもあります。

プラトンは彼の神でもある「美のイデア」に至るための「愛の道」を語りました。
神話的には、美の神「アフロディテ」とその子で愛の神「エロス」が、主役となります。
フィチーノは、神的美に到達すると、神と合一し、神を愛すことが自分を愛することになると言います。

彼は、プロティノス同様、天上的愛と世俗的愛があるとし、「ヴィーナス(=アフロディテ)」にも、「天上のヴィーナス」と「世俗のヴィーナス」がいるとします。
「エロス」は現象界から叡智界に上昇するための、2世界の媒介者です。

彼のこの思想は、ボッティチェリなどによって絵画として多数表現されました。
「ヴィーナス」はルネサンス的な「ヒューマニズム」の象徴となりました。

また、神への愛を共有する人間同士の友愛が、プラトンの愛の本質だと考えました。
「プラトニック・ラブ」という言葉が広まったのは、フィチーノのこの解釈に始まります。



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