シュタイナーの霊学自由大学の秘教講義 [近代神智学・人智学]

ルドルフ・シュタイナーは、「クリスマス会議」で設立された「霊学のための自由大学」の第一学級の講義を、1924年の2月から8月にかけて、ドルナッハで19回に渡って行いました。
9月には2度目の講義を始めましたが、多分、病に伏して途中で中断になりました。
また、他の場所でも、簡略的、不完全な形で、何度か講義を行ないました。

シュタイナーは、「霊学自由大学」をミカエルの要請で作ったものだと言っており、このクラスも「ミカエル学級」と呼ばれました。
また、講義の際には、何度も、実際にミカエルが臨席していると述べています。

そして、シュタイナーは、この学級の目的を、秘儀を復興することだとも述べています。

第一学級の講義の内容は、「霊界参入(イニシエーション)」の際に「境域の守護霊」から伝えられる警告、助言の言葉であるマントラを、伝授し、それを解説することでした。

シュタイナーは、講義中に、何度も何度も、「愛する皆さん」と語りかけました。
このことも、この講義の特徴です。

「霊学自由大学」には、面接を受けて認められた者だけしか参加できませんでした。
また、受講生がつけたこの講義のノートは、マントラを例外として、8日以内に破棄することが義務付けられました。
そういういきさつがあったため、この講義は、長い間、非公開でした。
ですが、現在は、「秘教講義I、II」として一般に向けて出版もされています。

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<マントラ>

先に書いたように、講義の内容は、「霊界参入」の際に「境域の守護霊」から伝えられる警告の言葉であるマントラを、伝授し、その解説をすることでした。
この「境域の守護霊」はミカエルの代弁者なので、マントラはミカエルから伝えられた言葉でした。

19回に渡った講義では、毎回のように、順次、マントラが伝えられました。
マントラは、数十行の詩の形式をしています。

マントラは、瞑想しながら、それを自分自身と一致させることが求められました。

霊界に参入する前に、霊界を見るためのマントラによって「状況瞑想」を行うことで、あらかじめそれを知っておくのです。

まとまったマントラ全体を掲載することは避けますが、例えば、一番重要で、何度も読まれたマントラの一部を抜き出すと、次のようなものです。

「おお、人間よ、汝自身を知れ!
宇宙からの言葉が響く。

この言葉を創造するのはお前自身なのか。

思考の力を失っているのは、お前自身なのか。」

深淵を越えた向こう側の霊界で、生きた言葉の創造と共に、人間の本源を見出せ、ということでしょう。

以下、どうしても抽象的になりますが、マントラの「内容」を、部分的ではありまますが、順に取り上げて、概略をまとめます。
ですが、マントラは、このように頭だけで理解すべきものではありません。


<3つの獣>

「境域の守護霊」からの最初の警告は、「3つの獣」に関するものです。

この「境域の守護霊」は、シュタイナーの著作「いかにして超感覚的認識を獲得するか」では、「境域の大守護霊」と表現されていた存在です。

一方、「獣」の方は、「境域の小守護霊」と表現された存在に当たります。
境界を越えることを好まず、妨害する内なる自分の心の働きが、宇宙エーテルに刻印されて、醜い獣の姿で現れるのです。

霊界参入の「境域」には、「深淵」が広がっています。
この「深淵」から、「3つの獣」が立ち現れます。
彼らは、認識の敵であり、彼らを克服することで、深淵を飛び越える翼を得ることができます。

この「3つの獣」は、自分自身の悪しき「意志」、悪しき「感情」、悪しき「思考」の現れです。

第1の獣:悪しき意志:汚れた青色:恐怖
第2の獣:悪しき感情:汚れた黄色:憎しみ・嘲笑
第3の獣:悪しき思考:汚れた赤色:疑惑・無気力

汚い青色の第1の獣は、霊の創造力、認識への恐怖が、「意志」の中に生み出したものです。
この獣は、霊的認識への勇気によって克服できます。

薄汚れた黄色い第2の獣は、霊界の開示、認識への憎しみが、「感情」の中に生み出したもので、恐怖を隠す嘲笑の態度へ誘います。
この獣は、認識への正しい情熱によって克服できます。

汚れた赤い第3の獣は、霊の光の力、霊界への懐疑が、「思考」の中に生み出したもので、無気力に誘います。
この獣は、霊的な認識の創造力によって克服できます。


<思考、感情、意志の分離と変容>

人間が、物質世界に降りてくる以前、「思考」、「感情」、「意志」は、独立して働いていました。
物質世界では、肉体によって3つのものが結びつきました。
ですが、「思考」は死体のようになり、「意志」は眠った芽生えのように、「感情」は夢見のような状態になりました。

ですが、霊界に参入すると、これらはまた、バラバラに働くようになります。
それにつれて、人間は宇宙の諸力との結びつきを深めていきます。

「思考」は、宇宙の彼方へ去っていき、宇宙思想に変わってしまったかのように、そして、エーテルが吹く中に漂っているように感じられます。
ですが、「思考」に目を向けて、「思考」はまだ仮象ですが、その中に沈潜して、霊の指導力を敬わなければいけません。

「感情」は、思考に浸透されることがなくなって、時間を遡って、誕生前にいた霊界に戻っているように感じられます。
「感情」の流れに耳を傾けて、「感情」は仮象も実在も混ざり合っていますが、その中に沈潜して、魂の中の生命力を大切にしなければいけません。

「意志」は、前世の中にいるように感じられ、低級な部分に引き寄せられます。
「意志」は生きた燃焼過程です。
「意志」を働かせて、仮象の中から宇宙創造者の作用力を捉えなければいけません。


上方(恒星)を向けば、「思考」の領域には、「光と闇」の戦いを見ることができます。
水平方向(惑星)を向けば、「感情」の領域には、「暖と冷」の力を見ることができます。
下方(大地)を向けば、「意志」の領域には、「生と死」の力を見ることができます。

これらは、ルツィフェルとアーリマンの力であり、両者の均衡を取る必要があります。


<思考、感情、意志の再結合>

私達が肉体から抜けでると、「思考」、「感情」、「意志」は変容してバラバラになります。

肢体の中で、「意志」は「意志の魔術」となって思考が働きます。
4大元素に集中して「体」を実感すると、「意志」は「地球(4大)」の力に自らを組み込みます。

心臓部に位置する「感情」には、宇宙から出入りする「宇宙生命」があります。
「惑星」に集中して「魂」を実感すると、「感情」は「惑星」と共に周期運動を繰り返します。

頭部の死んだ「思考」の背後に、生きた思考があり、「宇宙思考」になります。
「恒星」に集中して「霊」を実感すると、「思考」は「恒星」のもとに安らぎます。

思考:宇宙思考 :恒星
感情:宇宙生命 :惑星
意志:意志の魔術:大地・4大元素

このように、恒星を自分の「思考」であり、惑星が自分の「感情」であり、大地が自分の「意志」であるように感じて、バラバラになります。

ですが、1つにまとめるために、それぞれに他のあり方を伝えて、結びつける必要があります。

「星々」すべてを心の中で運動させ、「星々」に引き寄せられる自分を感じます。
「惑星」は、逆に停止させて、胸部と一体化させます。
「地球」は、運動させて、自分が「地球」を担うようにイメージし、次に、停止させて恒星になるように瞑想します。

こうすることで、私自身の体を宇宙の中に感じるようになり、「思考」、「感情」、「意志」を結びつけます。


<天使との会話>

霊界の中にいると感じるためのマントラの瞑想を行うことによって、私たちは前進することができます。
そのための3つの警告が発せられます。
私たちは、魂を沈黙させて、その、宇宙と守護霊と諸位階の天使たちの声を聞きます。

まず、宇宙が、「思考の分野に耳を傾けよ」、と語ります。

そして、「天使」が、「お前の感覚の輝きに眼を向けよ」、と語ります。
「大天使」が、「お前の思考の働きに眼を向けよ」、と語ります。
「人格霊」が、「思い出の像の姿に眼を向けよ」、と語ります。

次に、宇宙が、「感情の分野に耳を傾けよ」、と語ります。

そして、守護霊が、「思考内容となって宇宙を生きよ」、と語ります。
「形態霊」が、「お前の呼吸の生命の活動を感ぜよ」、と語ります。
私たちの「自我」は、「形態霊」の思考内容なのです。

守護霊が、「星々の生命で宇宙を生きよ」、と語ります。
「運動霊」が、「お前の血液の波打つ流れを感ぜよ」、と語ります。
私たちが霊的でありうるのは、「運動霊」が星々から受け取る生命力を働かせているからなのです。

守護霊が、「土の意志から霊を創造しようと欲している」、と語ります。
「叡智霊」が、「地の強力な反抗を感ぜよ」、と語ります。
私たちの意志が天に引き上げられると、地上の意志が再び与えられるのです。

最後に、宇宙が、「意志の分野に耳を傾けよ」、と語ります。

そして、雲の動きの中から、「トローネ(意志霊・座天使)」が、「お前の衝動の火に眼を向けよ」、と語ります。
「トローネ」は、睡眠中の行動を担ってくれています。

雲から光る稲妻の中から、「ケルビム(調和霊・智天使)」が、「良心による魂の導きに眼を向けよ」、と語ります。
「ケルビム」の働きかけの中に、魂の奥底の良心の声が生きています。

稲妻の熱の中から、「セラフィム(愛の霊・熾天使)」が、「お前の運命の霊の試練に眼を向けよ」、と語ります。
「セラフィム」は、私たちの転生とカルマに力を及ぼしています。


<4大元素に向かい合う>

霊界への正しい道標となる「4大元素」とどう向かい合えば良いのか、「境域の守護霊」が語ります。

物質界での「4大元素」の働きは、「大地」の固い支え、「水」の形成力、「空気」の刺激力、「火」の浄化です。

物質界での「4大元素」のあり方は、霊界では変化します。
肉体を抜け出ると、「4大元素」の区分はなくなります。
私たちはどんどん大きく広がり、同時に「4つの元素」の中にいることになります。

ルツィフェルは、物質界での4大元素の働きが必要ないと、私たちに言います。
一方、アーリマンは、それを霊の領域に持ち込むようにと、私たちに言います。
ですが、キリストは、霊にゆだねている限りは必要ないと、私たちに言います。


<4大元素の変容>

そして、「境域」を飛び越えた私たちが、霊界で「4大元素」に向かい合うことで、何を感じ、知るべきかを、諸天使たちが語ります。

「大地の固い支え」に向かい合うことで、第3ヒエラルキアの天使たちが、私たちの霊の中で生きていることを知ります。

「水の形成力」に向かい合うことで、第2ヒエラルキアの天使たちが、私たちの内部で創造して霊を発達させてくれていることを知ります。

「空気の刺激力」に向かい合うことで、第1ヒエラルキアの天使たちが、私たちに支えを提供して、温め、輝く力をくれることを知ります。

こうして、霊界の暗闇は、少しだけ明るくなってきます。

「火の浄化力」に向かい合うことで、私たちの地上生活のすべてを記した宇宙エーテルを読み取ります。
また、「死の門」を通ったことで、地上の体験を逆に辿ります。
そして、カルマの救済を願います。

こうして、私たちは自分を知るようになります。
そして、私たちにはまだ見えませんが、守護霊と直接向き合っていることを感じます。

守護霊は、これまでに「霊」と「魂」と「体」が理解したことについて、そっと問いかけをします。それに対して、敬虔に向かい合って、次のように答えなければいけません。

「霊」の働きが、「自我」を輝かしますように。
「魂」の調和の響きが、私の「自我」を創造しますように。
人の「行為」を裁く言葉が、私の「自我」を導きますように。


<天使同士の語らい>

私たちは、人間の本性の生命に満ちた光の中にいる自分を感じます。
そして、霊眼に映じる光が立ち現れてきます。

次に、万象の中から「虹」が現れ、消えます。
守護霊は、この「虹」の印象を、感覚世界への思い出として保っているように語ります。
「虹」は、人間が地上で行なった「思考」です。

そして、宇宙の彼方から「虹」を振り返って見ると、それは巨大な「器」になって現れます。
その中には、いろいろな色が入り混じって溢れています。
この「宇宙の器」は、明るくなって「太陽」になります。

私たちは、とうとう、天使同士の語らい合いを聴きます。

第3ヒエラルキアの天使たちは、この色彩を吸い込み、これをもって第2ヒエラルキアの天使に奉仕します。
第3ヒエラルキアの天使たちは、「死んだ思想」を「生きた思想」にして、第2ヒエラルキアの天使たちに供犠するのです。

第2ヒエラルキアの天使たちは、供犠を受け取り、星々のきらめき、太陽の輝きの中で営まれる「愛」を、第1ヒエラルキアの天使たち託します。
第1ヒエラルキアの天使たちは、「愛」、つまり、宇宙の創造力を受容し、新しい宇宙を創造するための「素材」にします。

第1ヒエラルキアの天使たちは、「思考」によって創造し、人間に宇宙の言葉を注ぎます。
私たちは、宇宙創造の「霊言」の中にいて、私自身の内なる本性にもそれが浸透しています。


また、第2ヒエラルキアと第3ヒエラルキアの天使たちの語らい合いを聴きます。

「運動霊」が「天使」に「高みの光(思考の輝きの力)」を与えます。
それが人間の「思考」を明るくします。

また、「叡智霊」と「形態霊」が「魂の熱」を「大天使」に与えます。
「大天使」がその「熱」で人間の「感情」を働かせます。

そして、「叡智霊」、「運動霊」、「形態霊」が「深みの力」を「人格霊」に与えます。
「人格霊」がそれで人間の「意志」を働かせます。


<守護霊の最後の語り>

最後に、守護霊が遠くから語ります。

星々の光輝体が、霊言を語ります。
人間の心は、セラフィムの、創造する霊火の言葉であり、それが私であることを見出します。

霊言の中で、星々の光輝体が考えます。
人間の頭が、ケルビムの、思考する魂の形成作用であり、それが私であることを見出します。

霊言の中で、星々の宇宙体が働きます。
人間の肢体は、トローネの、宇宙の担い手の力であり、それが私であることを見出します。

こうして、私たちは、第1ヒエラルキアの天使たちの中で、真の人間自我を把握できる終着点にまで至ります。

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