アンリ・コルバンの想像的世界と創造的想像力 [近代その他]

アンリ・コルバン(1903-1978)は、エラノス会議において、講師として、そして、その思想においても中心的な役割を果たした一人です。
彼は、イスラム神秘主義、特にスフラワルディーの研究で知られる人物です。

コルバンは、「哲学者でもあって、ハイデッカーのフランスへの紹介、翻訳者としても知られています。
彼は、ハイデガーの現象学、解釈学の方法を、スフラワルディーなどのイスラム哲学に応用しながら、イスラムの中にあった現象学的、解釈学的なものによってそれを深めるアプローチを取りました。

コルバンは、エラノス会議や神秘哲学の世界では、「想像的世界」、あるいはそれと関係する「創造的想像力」の概念で知られています。

また、コルバンは、比較哲学を構想していましたが、それをなすことなく、亡くなりました。
その仕事を受け継いだのは、井筒俊彦です。

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<想像的世界(根源的形象界)>

コルバンは、1903年、パリに生まれ、哲学を学び、ベーメなどのドイツ神秘主義に興味を持ちました。
その後、イスラム研究に進み、1929年、師のルイ・マシニョンからスフラワルディー「東方神智学」の石版写本を譲り受け、その研究を行いました。

「想像的世界(根源的形象界)」(mundus imaginalis)は、スフラワルディーの「形象的相似の世界」を学問として分析概念としたものです。
「想像的(イマジナール、imaginal)」という言葉は、「想像上の」という意味になる言葉「イマジネール(imaginaire)」や「イマジナリー(imaginary)」を避けて、ラテン語にまで遡って概念化したものです。

「想像的世界」は、イスラム哲学、特にイラン・シーア派で、叡智界と現象界の間に位置する「中間世界」を意味します。
分かりやすく表現すれば、「神話的・深層意識的な元型の世界、そして元型が吐き出すイマージュの世界」(井筒俊彦)です。

スフラワルディー自身は、この世界を、「質料性を脱した似姿」、「宙に浮く比喩」などと表現しています。

コルバンが「脱質料的な存在次元に現成する実在」と書いているように、「想像的世界」の根源的なイメージは、個人的な想像上の存在ではありません。
また、単に悟性と感性の媒介物でもなく、普遍的な実在なのです。
彼は、「感覚的形象を非質料化し、知性的形象をイマジナールなものとする」と説明します。
それは、霊的感覚器官を通して受け取られる形而上学的イメージです。

そして、この世界は、微細な身体に対応する、霊的次元における感覚界です。
つまり、近代神智学の言う「高位のアストラル界」に対応する世界でしょう。

井筒俊彦は、この世界を、「存在リアリティそのものの象徴的分節」、「全世界がそのまま象徴体系」と表現しています。
そして、この世界は、神話形成的発展性と構造化(曼荼羅やセフィロートの図形配置のように)への傾向を持っていて、また、隠れているが日常的分節にも関与している、と言います。


<創造的想像力>

コルバンは、この世界を認識する力を、5感を統合する「根源的感覚」、及び
「創造的想像力(能動的想像力、知性的想像力)」と呼びました。

この想像力は、人間の個人の想像力ではなく、神の想像力であり、神の創造力であり、それゆえに、「想像的世界」は神の顕現なのです。
コルバンは、この根源的イメージは、感覚界からも叡智界からも知性的想像力を介して出てくると説明します。

コルバンは、イブン・アラビーの一瞬毎に神が顕現するという思想を、「新創造」、「創造不断」と表現します。
「想像的世界」の根源的イメージも、固定的な存在ではなく、一瞬毎に創造され、顕現する「差異のある相次ぐはかない形象」なのです。

コルバンの「想像的世界」の理論は、「集合的無意識」を唱えるユンク派にもその理論的根拠を与え、エラノス会議のメンバー達の思想にも影響を与えました。


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