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一神教における理性と信仰の対立 [イスラム教]

イスラム教には本来、理性を重視するような性質はありませんでしたが、やがて理性によって法的な問題を解決したり、神学的な問題を扱ったりする傾向が現われました。
12世紀以降はイスラム世界では理性を重視する立場は衰退しましたが、イスラムの理性主義的思想はキリスト教世界に受け継がれました。
イスラム哲学について紹介する前に、哲学と宗教をめぐる問題について書いてみましょう。

ユダヤ、キリスト、イスラム教の神学や哲学には、理性(その代表であるアリストテレス哲学)と信仰(啓示された聖典である聖書や『クルアーン』など)のどちらを重視するかという大問題があります。
それは、この2つの世界観には矛盾があるからです。

この矛盾が最も現われる問題は、宇宙は時間的に無限か、人間に神的な知性があるか、終末の復活はあるかという3つの問題です。

聖典では世界は神によって無から作られたもので時間的に始まりがあります。
一方、アリストテレスの自然学では世界に始まりや終わりはなく無限です。

また、一般のユダヤ、キリスト、イスラム教の考えでは人間と神には隔たりがありますが、アリストテレスは「能動的知性」という神的な知性が人間にも可能だと考えました。

また、聖典では終末に魂は肉体を得て復活しますが、アリストテレスによれば死後、魂と肉体は分離してその後は結びつくことはありません。

理性と信仰の矛盾に対する立場には大きくわけて3つの立場があります。
一つは、理性と信仰が一致すると考える立場です。
この立場はアリストテレス哲学と聖典は矛盾しないと無理やり解釈します。
もう一つは信仰を重視して、理性は形而上学的な問題には立ち入ることができないとする立場です。
最後は理性を重視して、啓示は間違いであって、民衆向きの教えであると考える立場です。

実際には、理性と信仰に加えて神秘主義的な直観的知性や想像的知性をどう考えるかという問題が加わってさらに複雑になります。
こういった問題に対してユダヤ、キリスト、イスラム教の神学者や哲学者は、異端宣告による処刑を恐れながら様々な立場をとってきました。
 
 


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スーパー・シーア派と7大天使 [イスラム教]

イスラム教の宗派の中でも、秘教的でミスラ・マニ教の影響の濃く、アリーの教えよりも秘教の伝統を重視するような様々な宗派は総称して「スーパー・シーア派(ウルトラ・シーア派)」と呼ばれます。
その中でも思想的・政治的に過激な宗派は、ペルシャ語では「グラート」と総称されます。
また、スーパー・シーア諸派は7大天使を重視するので「ヤザダ教(ヤズダン教、天使教)」と呼ばれることもあります。

スーパー・シーア派には、先の図表で紹介した以外にも、「ヤザダ教」(クルディスタン)、「アハレハック派」(クルディスタン)、そして、スーフィー教団の「ベクターシュ教団」(トルコ)、「ナクシュバンディー教団」(中央アジア)、「キジルバシ教団」などがあり、現代まで活動しています。

「ヤザダ教」の7大天使論、グラートの「ドゥルーズ派」、「アラウィ派」、「純正同胞会」の世界観を紹介します。


<ヤザダ教の7大天使論> 

「初期イスマーイール派の神話」で紹介したアブー・イーサーの文字宇宙創造神話に見られる「7文字」は、いくつかのスーパー・シーア派においては、「7大天使」やミトラ教の神格に対応付けられました。

スーパー・シーア派のいくつかの派は、ミスラ教の創造神話・7光線論と、アブー・イーサーの文字宇宙創造神話に見られる「7文字」、そして7大天使を結びつけ、対応づけました。

神イェッラー・ミール(ミスラ神=白髪の老人神のズルワン)が無限光(大女神のソフィア)を作り、その中から太陽神(美少年神のミスラ)が生まれます。
太陽神は聖7文字を宿した黄金の蛇(孔雀の第1天使アザゼル=アーリマン)を巻きつけています。

また、異説では、神が光に息を吹きかけてアザゼルを生み出し、アザゼルから7つの霊的な文字を生み出します。
まず、カーフ(K)とヌーン(N)、そしてワウ(W)とヤー(Y)を、次にこれらから女神クーニー(KWNY)を作りました。
そして、4文字からは4大元素を監督する天使のダルダーイル、ヌラーイル、アズラーイル、イスラーフィールを、クーニーからは4大元素を生みました。

さらに、アザゼルは神カダル(QDR)を生み、そこから3文字クァーフ(Q)、ダル(D)、ラー(R)を生み出します。
そして、3文字から3大天使のアザゼル、ジブリール、シェムナーイルを、カダルから(?)3つの霊的な力ジャッド、ファトハ、ハヤールを生み出しました。
7大天使は以下のような対応関係にまとめられるようになりました。

(7大天使とその対応)
天使
文字
聖者
ミスラ教とギリシャの神
--------------------------------
アザゼル
クァーフ(Q)
アディー
ズルワン
ジブリール(ガブリエル)
ダル(D)
アブー・ベクル
ミスラ
シェムナーイル
ラー(R)
ナシルッディーン
ソフィア
ダルダーイル(ラファエル)
カーフ(K)
バスラのハサン
ヘルメス
ヌラーイル
ワウ(W)
フェクルディーン
アナーヒター
アズラーイル
ヌーン(N)
サジャディーン
ヘラクレス
イスラーフィール
ヤー(Y)
イエス
アフラ・マズダ



<ドゥルーズ派> 

「ドゥルーズ派」はファーティマ朝の第6代イマームのハーキムが神であるとして、イスマーイール派から分離しました。
彼らは入信者を認めずに、レバノンの山岳部に籠りました。

ドゥルーズ派の宇宙論では、「ハーキム」を宇宙の第一原理とし、その後、「普遍的知性」→「普遍的霊魂」→「言葉」→「先行者」→「後続者」という宇宙の5位階が生まれます。
そして、さらにその後、「信者」に至る4つ位階が生まれます。
共同体は秘儀に参与する「知者」と一般の「無知者」に分かれます。

ドゥルーズ派の特徴の一つは、「輪廻」を認めることです。
これはマニ教の影響を受けたもので、人間の間だけでの転生を考えます。


<アラウィー派> 

シリアで活動する「アラウィー派」(ヌサイリー派とも呼ばれます)の宇宙論は、光と闇の2世界があるとする2元論を特徴としています。
それぞれの世界は、7つの階層と7つの周期を持っています。

また、神が「意味」、「名前・住居」、「門」の三位一体として現れます。
そして、「門」から5つの「無比なるもの」が現れます。

人間は光の世界の星でしたが、不服従によって肉体へと堕落し、光の救いによって7つの天国と地獄を輪廻した後、光の世界に復帰すると考えます。
アラウィー派の輪廻観は、ドゥルーズ派とは異なり、人間以外にも輪廻するというもので、ギリシャ・インド的です。


<純正同胞会> 

イスマーイール派の秘密結社「純正同胞会」もスーパー・シーア派的存在です。
これはイスマーイール派が政治的弾圧をのがれるために結成した結社で、ミスラ・マニ教以外に新プラトン主義、新ピタゴラス主義、ヘルメス主義を取り入れました。

独自の宇宙論とヘルメス主義的な万物照応の世界観を持ち、禁欲・苦行と象徴的な認識を中心に、霊魂救済を目的としていました。
真の自分を認識して階層を上昇しながら、普遍的霊魂に合一することを目的としました。

純正同胞会は以下のような階層的な宇宙論を持っていて、人間はその9層を合わせ持つミクロコスモスだと考えました。
純正同胞会を率いていたのは、神の世界の真理を認識したという天使的な大使達です。
中でもムカッディスィーという人物の影響が強かったようです。
純正同胞会の影響は11世紀には一大勢力となって全イスラム世界に広がりました。

(ドゥルーズ派の階層)
(アレウィー派の階層)
(純正同胞会の階層)
ハーキム
マーナー(意味)
第1層:一なる神
普遍的知性
イスム(名前)
第2層:霊的知性
普遍的霊魂
バーブ(門)
第3層:普遍的霊魂
言葉
5つのアイターム(無比のもの)
第4層:第一質料
先行者
光世界の7層
第5層:第二質料
後続者
 
第6層:原型世界
ダーイ
 
第7層:7惑星天
マーズーン
 
第8層:月下界
ムカースィル
 
第9層:鉱物・植物・動物
信者
 
 

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イスマーイール派とアダムの復帰 [イスラム教]

ファーティマ朝のイスマーイール・ムスターリー派(西方派)の思想は、その後、イエメンのスライフ朝のイスマーイール・タイイブ派に受け継がれました。

タイイブ派はキルマーニーの思想を受け継ぎましたが、ハーミディーの頃からタイイブ派独自の世界観が作られ始めました。
タイイブ派は、キルマーニーが神話的要素を排除したのに対して、再度、神話的要素、特にアダム堕落神話を結合させました。
そして、イスマーイール派の神智学を完成させました。

ハーミディー及びその後に作られたタイイブ派の世界観を紹介しましょう。

まず、神は「不可知」の存在であり、「存在するもの」ではなく「存在させるもの」と考えます。

神に「あれ!」と言われて存在するのが、「第一知性体」です。
これは、啓示されたイスラム教の神「アッラー」でもあります。
この「第一知性体」は、神を愛しながらこれを知りえないために嘆く存在です。
これはキリスト教やグノーシス主義に近い発想です。

「第一知性体」は、「普遍的霊魂(新プラトン主義の言う「純粋霊魂」に相当するもの)」である「第二知性体」を流出します。
「第一知性体」は自らの中に「限界(グノーシス主義で言う「境界」)」を持つため、「第二知性体」との間に断絶が存在します。

「第一知性体」は「召集」を行なって霊的な諸存在を組織しようとします。
これはグノーシス主義で言うアイオーン界のプロレーマです。
「第二知性体」はこの呼びかけに答えて、8つの知性体を流出し、プロレーマを形成します。

しかし、「天上のアダム」である「第三知性体」はこれを拒否します。
「第三知性体」は過信と忘却のため、「第一知性」を神と誤解し、「第二知性」の自分に対する優越性も認めませんでした。
あるいは、「限界」を拒否して、イブリース(おごり)の悪魔的な陰を低い世界に投げかけた、とも言われます。

こうして、「第三知性体」は堕落して「第十知性体」となります。
これは「堕落したアダム」、「霊的アダム」と呼ばれます。

この「堕落したアダム」は霊的世界にとどまる限りこの闇から逃れられないことを知って、物質世界を作ります。
堕落から復帰するために物質世界を作ったという考えは、ユニークで興味深いものです。
「堕落したアダム」は、「能動的知性」であり、啓示の天使ジブリール(ガブリエル)であり、キリスト教の聖霊でもあります。
そして、地上の自然や聖職者組織を導く存在となります。

(イスマーイール西方派の救済神話)
<天上の位階>
<7人の預言者>
<地上の位階>
存在させるもの
(不可知の神)
 
 
第1知性体(アッラー)
 
預言者
第2知性体(普遍的霊魂)
 
イマーム
第3知性体(天上のアダム)
 
7人のイマーム
第4知性体
復活のイマーム
第5知性体
ムハンマド
保証人
第6知性体
イエス
布教師
第7知性体
モーゼ
布教師
第8知性体
アブラハム
布教師
第9知性体
ノア
上級資格者
第10知性体(堕落したアダム)
地上のアダム
下級資格者 


物質世界には「地上のアダム(普遍的アダム)」に始まる人間が生まれます。
「地上のアダム」は霊的世界の組織に対応するように27人の階層的な組織(召集)を作ると、「第十知性体(堕落したアダム)」のところに上昇します。
その後、「地上のアダム」の7人のイマームが順にここに上昇し、「第十知性体」とそれ以上のすべての階層の知性体は1段階層を上昇(第9知性体のレベル)します。

その後、隠れイマームの時期を経て新たな預言者(告知者)とそのイマームの時期が繰り返されます。
預言者は「普遍的霊魂」の7つの部分の一つであり、「部分的アダム」とも呼ばれます。

預言者はアダムに始まり、ノア、アブラハム、モーゼ、イエス、ムハンマド、最後に「カーイム(時の主、復活のイマーム)」と呼ばれる存在と全部で7人が続きます。
つまり、7つの周期があり、ムハンマドは6回目を開く預言者なのです。

1つの周期が終わるごとに、「堕落したアダム」は1段1段と位階を上昇します。
そして、最後の「復活のイマーム」の上昇をまって、「堕落したアダム」は第2知性体のそばにまで復帰するのです。

この大復活には36万年の36万倍かかります。
つまり、宇宙創造の目的は、人類の天使である天上のアダムが失った地位を回復するための機構を作ることだったのです。

地上の位階組織は天上のそれに対応したもので、10段階からなっています。
まず、「第一知性体」に対応するのが「預言者(告知者)」、「第二知性体」に対応するのが「イマーム(霊的なイマーム)」、「第三知性体」に対応するのが地上に現れる7人1組としてのイマームです。

一般の信者は信仰によって一条の光が信者の魂と結びつきます。
この光は信者の行動によって「光の形・性質」として育ちます。
この「光の形・性質」は信者を1つ上の位階の存在と結びつけます。

そして、位階の上層部には1人のイマームと多数の「光の形・性質」を中心とする「光の寺院」が存在して、信者はそこに結びつきます。
この「光の寺院」はイマームと共に「第十知性体」のところに上昇します。
そして、やがて7人のイマームによる「光の寺院」が結びつき、「至高の光の寺院」が生まれます。

このミスラ教・シーア派系の霊的世界に存在する導師達の組織という発想は、仏教の仏や菩薩達の階層的な組織の発想と似ているので、互いに影響を与えあったのかもしれません。

ただ、二ザール派(東方派)では、イマームを「第一知性体」に対応するもの、預言者を「第三知性体」に対応するものと考えました。
ですから、第6の周期を開くために現れたのもムハンマドではなく、イマームのアリーで、アリーが小化身であるイマーム達を送るのです。


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12イマーム派と隠れイマーム [イスラム教]

シーア派もイマームの後継者争いなどによって多数の分派を生み出しました。
シーア派はイスラム教の秘教ですが、中でもより神秘主義的な傾向のある分派は「スーパー・シーア派」と呼ばれます。
その中でも思想的・政治的に過激な分派は「グラート」と呼ばれます。

(イスラム教の諸派)
 スンニ派
シーア派
 ザイード派
 12イマーム(イマーム)派
 スーパー・シーア諸派
 イスマーイール
 (7イマーム)諸派
 ムスターリ派(ホジャ派・西方派)
 タイイブ派(ボフラ派・西方派)
 ニザール派(東方派)
 グラート諸派
 ドゥルーズ派
 アラウィー派(ヌサイリー派)


シーア派の中でも最大の分派は、7代目の後継者争いによって生まれた「12イマーム派」と「イスマーイール派(7イマーム派)」です。
もちろん、「12」は12星座と、「7」は7惑星と対応しています。

12イマーム派はかつては少数派でしたが、ブワイフ朝、サファビー朝を興し、現在はイランの国教になっている他、イラク、レバノンにも勢力を持っています。
より秘教的なイスマーイール派は10世紀エジプトのファーティマ朝を興し、現在はイラン、インドで少数派として存在します。

12イマーム派では、3代イマームのフサインの殉教を、信者の罪をつぐなう贖罪死であると考えました。
原罪をつぐなうイエスの贖罪死とは異なりますが、贖罪死のイスラム教版神話です。

また、12イマーム派ではイマームは地上では12代で跡絶えてしまいます。
この12人のイマームは単に歴史的な存在ではなくて、神的次元に原初から存在するものと考えられました。
12人のイマームはムハンマドだけでなく、すべての預言者に存在します。
イエスの12使徒などがこれに当たります。

12代目のイマーム以降、イマームは霊的な次元に留まり、そこから地上にいる霊的指導者たちに霊感を与え、終末に「時の主」、アフ・マフディーとして地上に戻ってくると考えられました。
この霊的な次元に留まるイマームを「隠れイマーム」と呼びます。
ムハンマドが預言者の系譜を封印したように、12代イマームがイマームの系譜を封印したのです。

「隠れイマーム」に至って、イマームは物質的には存在しない純粋に霊的な存在となりました。
「隠れイマーム」あるいは本来の霊的な次元のイマームという考え方には、マズダ教でゾロアスターが死後に霊的な世界で救世主を準備するという考え方や、ミスラ教でミスラが太陽から指導するという考え、そして、グノーシス主義の霊的なキリスト論の影響があると思います。
また、イマームは人間を真理に導く「門(バーブ)」だと考えられました。

12イマーム派は肉体的な感性や、精神的な理性とその延長である霊的な知性とは別の、魂に属する「想像的知覚(想像的知性)」を重視しました。
ですが、これは単に物質世界を写したイメージや個人的な幻想ではなくて、預言的なヴィジョンの奥義に関わる霊的で象徴的な実在です。
肉体的な5感から切り離された霊的な5感によって認識されるものなのです。

そして、この認識によって秘儀伝授に関わる象徴的物語が生まれるのです。
啓示宗教のイスラム教が預言に関わる想像的知覚(霊的表象能力)を重視するのは当然です。
プラトンからイアンブリコスに至るまでのギリシャ系哲学でも予言に関わる想像力を重視します。
シーア派では預言者の預言に対するイマームの預言の内実として、この想像力を深く理解しようとする点で興味深いものです。
現代ではこの原型的で自由な想像力は「創造的創造力」と呼ばれますが、本ブログでは「根源的イメージ」と呼びます。
 


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シーア派のミスラ神話 [イスラム教]

イスラムによってマズダ教が衰退させられ、ミスラ教がイスラムと習合したことで、シーア派の中で新たなミスラに関する神話が生まれました。
それは以下のような神話です。

長い年月の間、人々は唯一なる至高神ミトラを崇めてきましたが、ゾロアスター、すなわち「黄金の星」と名乗る者が現れて、風変わりな教えを説き始めました。
永遠時間の神ズルワン(母ズルワーン)は無限光(父ズルワーン)を作り、無限光はアフラ=マズダ(原人アダム)を生もうとしました。
それには火が必要だったので、無限光はミスラの火を使ってしまいました。

火を失ったミスラは主宰神として天地を治めることができず、アーリマンにアフラ・マズダと戦うように命じ、いつか必ず戻ると言い残して、しばらくの間、身を隠すことにした。
アフラ・マズダを崇拝する者たちは、ミトラは二度と戻らないと言って、アーリマンとミスラの勢力を攻撃しました。
ですが、アラビアの地に預言者ムハンマドが現れて、聖剣とコーランのただの一撃でマズダ教を打ち滅ぼしました。

こうしてミスラは帰って来ました。
ミスラは「時の主」と名乗り、新しい周期が始まったのだと告げて、新しい教え(イスラーム・シーア派)を説きました。
マズダ教徒から悪魔視されたアーリマンは、神の第一の天使として、孔雀の羽のような光につつまれて誇らしげに光り輝きました。

また、異説を説く神話もいくつかあります。
それは以下のような神話です。
至高神ミトラは自らの内にアフラ・マズダとアーリマンの両方の性質を持った、善と悪、光と闇のすべてを内に秘めた偉大な神だったのに、ゾロアスターの教えで光と闇が分離し、アフラ・マズダとアーリマンに分かれてしまったというものです。

アーリマンは本来、両義的な性質を持つ文化英雄的な部族神だったのを、マズダ教によって悪神化されたのです。
ですが、ミスラ派はアーリマンの本来の両義的な性質を受け継いでいます。
また、ミスラがマズダとアーリマンの2元性を合わせ持って調停するという点は、 ズルワン主義の初期からの教説を忠実に受け継いでいます。
 


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シーア派とイマーム [イスラム教]

イスラム教は教祖ムハンマド(マホメット)の後継者争いによって様々な教派に分かれていきました。
そして、イスラム教のイラン文化圏への拡大は、ペルシャの民族宗教としてのマズダ教の衰退と、世界宗教としてのミスラ教・マニ教のイスラム化、逆に言えばイスラム教のカルデア・ペルシャ化という結果を導きました。
そのため、イランの国教となったイスラム教の「シーア派」には、ミスラ・マニ教の影響を見ることができます。

ムハンマドはキリスト教のイエスのような神ではなく預言者です。
また、ムハンマドは自分が最後の預言者であると宣言していたので、イスラム教の中では誰も彼の後で預言者を自称することができません。
「イスラム」とはムハンマドによって開かれた、預言者単位での最後の周期なのです。

初めのうちは、ムハンマドの出身部族であるクライシュ族の中で選挙によってムハンマドの後継者が選ばれました。
この後継者は「カリフ」と呼ばれ、政治的な性質を持っていました。カリフを中心にした律法主義的な多数派がスンニ派です。
スンニ派はシリアを拠点にしたウマイア朝を起こし、その後も多くのイスラム王朝を支配してきました。

ですが、ムハンマドの娘婿アリーを支持して、後継者をより霊的な系統や血統によって選ぶことを主張する一派が現われました。
この一派と、ミスラ教・マニ教をベースにして秘教的なイスラム教の教義「グルウウ」が結びついて、バニロニア、南イラクを拠点にしたシーア派が生まれました。
シーア派はファーティマ朝、ブワイフ朝から、16世紀ペルシャのサファビー朝や現在のイランの国教となっています。

シーア派はミスラ・マニ教だけでなく、マンダ教、ユダヤ教メタトロン派、キリスト教ネストリウス派など様々な秘教を結集しました。
そして、当然ながら、ミスラ教・マニ教が盛んだったクルド地方に伝教を行いましたが、この時、シーア派は「サビアン教」という名前で、つまり、カルデアの一神教として伝教を行いました。

シーア派の最大の特徴は、「イマーム=アル・マフディー信仰」です。
アリーの後継者は外的な啓示を受ける預言者ではなく、内的な啓示を受けて預言者の系譜を受け継ぐ者=「イマーム」(本来的には先導者・指導者の意味)であると考えられました。
シーア派では『クルアーン(コーラン)』や啓示、宗教儀式には表面的な意味とは別に内面的な秘密の意味、奥義あると考えてこれを重視しました。
シーア派は自らイスラム教の秘教(仏教における密教)であると考えているのです。

イマームは預言者がもたらした啓示の真の意味を解き明かす存在なのです。
秘教的な智恵を体現するイマームは、外面的な啓示を伝える預言者よりも実質的に重要な存在であるとも考えられたのです。
スンニ派ではムハンマンドを含めて預言者があくまでも人間でしかないのに対して、シーア派はイマームや預言者の概念を神的なものに高めていきました。

シーア派では次のように考えます。
宇宙創造の原初、神の光のみが存在し、それがまずムハンマドの姿に凝縮します。
これを「ムハンマンド的光(ムハンマド的真理)」と呼びます。
これは原人間、神的人間、「真のアダム」であって、永遠の預言でもあり、また、『ヨハネ福音書』の「ロゴス」であり、第1知性体なのです。
神はこの人間に神の秘密を委託したのです。

この「ムハンマド的光」が外的光と内的光に分かれます。
外的光から預言者と預言が、内的光からイマームと預言の内的意味が現われます。
この本来のイマームや預言者は霊的な次元の存在です。
この霊的な次元のイマームが受肉して地上の人間として現われるのです。

ですから、イマームの本質は霊的な次元(光の粒子の世界)にあって、原人間であると同時に預言の内的な意味を理解する存在なのです。
ミスラ教の伝統に照らすと、最初の神の光が両性具有のズルワン、ムハンマド的光がミスラ、イマームがミスラの分霊・化身です。
シーア派では神ではなく、このイマーム=アル・マフディーと合一することを目指します。

神の光
ムハンマド的光=真のアダム=第1知性体
外的光
内的光
預言者・預言
イマーム・預言の奥義
  
アル・マフディー=カーイム(救世主・聖霊)


イマームは一つの周期の中で何人か現れます。
最初にあらわれるイマームは「アサース」と呼ばれ、新しい時代の秘儀を体系化する存在です。
アリーはアサースであって、新しい秘儀を作った存在とされたのです。

『クルアーン』では終末に白馬に乗ってイエスとともに現れる救世主を「アル・マフディー」と呼びます。
もちろんアル・マフディーはミスラのイスラム・ヴァージョンですが、シーア派ではこれは最後のイマーム(1つの周期の最後ではなく、最後の周期のイマーム)なのです。
この終末に現れるイマームを「時の主(カーイム・ッザマーン)」と言います。ザマーンは古代ペルシャ語のズルワンが訛ったもので、「時の主」はミスラを意味します。

「時の主」はアリーの再臨であると言われています。
 
 


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ムハンマドの夜の旅 [イスラム教]

もともと、アラビア半島にはメソポタミア的な宗教的伝統が存在しました。
中央アラビアではメッカのカーバ神殿の神や、3女神が主要な神々でした。

一方、紀元後70年にユダヤの第二神殿が破壊されて以来、ユダヤ人が移民していました。
また、キリスト教のネストリウス派と単性論派が4Cに異端宣告を受けて以来、布教を行っていました。
それらの影響でか、メッカでは一神教化が進んでいました。

そんな背景のもと、ユダヤ、キリスト教の一連の預言者達を認め、その最後の預言者として、すべての人々に布教を行うというムハンマドがイスラム教を始めました。

イスラム教ではイエスは預言者の一人でしかありません。
また、イスラム教がユダヤ、キリスト教と異なる大きな特徴の1つは人間の「原罪」を認めないことです。
ですから、イエスの贖罪も認めないのです。

ミトラス秘儀やユダヤ教のメルカーバー神秘主義のようにカルデアの宇宙論の影響を受けた様々な神秘的伝統では、階層的な天球を抜けて上昇して神に会うという体験(天球上昇の秘儀)を語ります。
イスラム教でもムハンマドがこれを体験したとする神話が生まれました。

神がムハンマドをつれて、夜空を飛び、聖なる礼拝堂(メッカ)から、神がきよめた遠方の礼拝堂(エルサレム)にまで旅をしたとする『クルアーン』の記述を元にして生まれたものですが、この神話には当然、宇宙論が反映されます。
この神話にはイスラム圏全体に広く知られていて様々な異説がありますが、普及版によれは以下のような話です。

天から金と銀でつくられた梯子〔はしご〕が降りてきて、ムハンマドはジブリール(ガブリエル)に導かれて梯子を上って天界に昇っていきました。
各々の天球でムハンマドは預言者(祖先の聖者)達に出会います。
これは以下の通りです。

(ムハンマドが夜の旅で出会う者)
第8天(恒星天)
第7天(土星)
イブラヒーム(アブラハム)
ミカエルの栄光の家、至福の宮殿
第6天(木星)
ムーサー(モーゼ)
第5天(火星)
ハールーン(アーロン)
第4天(太陽)
イドリース(エノク)
第3天(金星)
ユースフ(ヨセフ)
第2天(水星)
イーサー(イエス)とヤフヤー(ヨハネ)
第1天(月)
アーダム(アダム)


第7天にはミーカーイル(ミカエル)が導師を務める「栄光の家」があります。
ここから階段を昇ると上にはルートの木(生死の木)があります。
さらに水の川、ミルクの川、蜂蜜の川、ワインの川という4つの川を越えて進むと、不思議な生き物達がいる「至福の宮殿」があります。
さらに業火を越えて進み、8段の階段を昇ると神の玉座があります。

ムハンマドはかごに乗せられたくさんの垂れ幕をくぐり抜けて、神の御前に着きます。
そして、ムハンマドはとうとう両目ではっきりと神を見ます。
ムハンマドは神から祈りの言葉をもらって戻りました。

ちなみに、後の項で紹介するイスマーイール派の哲学者のイブン・スィーナーが書いた『マホメットの天球層上昇の書』の版では、ムハンマドは7つの天球で7大天使に会います。
また、 第7天には四つの海があって、海の底に谷にミーカーイルがいます。
そして、ムハンマドは神を見た時、忘我の境地に陥りました。
イブン・スィーナーは、神をアッラーではなく、ミスラを指す「フダウェンデ」と呼んでいます。


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古代思想の継承と東西交流 [イスラム教]

<イスラム教神智学編 序>

ギリシャ哲学、神秘主義思想をはじめ古代のほとんど学問はキリスト教による弾圧によってほとんどヨーロッパ世界(東西ローマ世界)では跡絶えて、かろうじてキリスト教神学の中にのみ受け継がれました。
ですが、これらはペルシャ、イスラム世界ではさほど弾圧されることなく継承され、発展させられました。
そして、15Cにいたるいくつかのルネサンス(文芸復興)によってギリシャ哲学と初期のイスラムの哲学がヨーロッパに輸入されました。

イスラム教はユダヤ・キリスト教の伝統を中心的に受け継いで生まれました。
公のイスラム教はキリスト教と同様に神秘主義を抑圧しました。
しかし、イスラム教は、啓示・救済宗教の本流であるミスラ・マニ教とも習合して、イスラム教の密教と言えるシーア派を生み出しました。
シーア派の中からは、より秘教的なスーパー・シーア派(グラート)と呼ばれる諸派も生まれました。
また、一部にスーフィーと呼ばれる神秘主義者もいました。

12世紀以降は、ギリシャ系の哲学的思考と神秘主義的傾向が統合されて、独自の神智学が生み出されました。
そして、これは現代に至るまで生きています。
中世イスラムの神智学の代表者は、アラビアのイブン・アラビーとペルシャのスフラワルディーです。

<継承と交流> 

イスラム教誕生以前に、古代思想の中でアレキサンドリアなどのギリシャ語系の思想は、シリア語に訳されてシリアのアンティオキアからエデッサ、ニシビスなどのペルシャ帝国西南部の都市に移されました。
これには異端とされてローマ帝国、ローマ・カトリックから弾圧され追い出されたキリスト教のネストリウス派や単性論者などが大きな役割を果たしました。
彼らはササン朝ペルシャの王に優遇されて帝国内の各地に広がり、シリア語を母体としたために、彼らがギリシャ系哲学などの思想を伝える結果になったのです。
また、ペルシャ王は6世紀にジュディーシャープールにシリア人を中心にインド人やユダヤ人などの様々な民族の学者を集めた学校を作って学問の中心地とし、東西の文化を交流させました。

一方、アテナイの哲学者達は529年のアカデメイア閉鎖を期にペルシャ帝国内のシリアのハッラーンに亡命しました。
ハッラーンは一種の哲学都市、カルデア系星辰信仰都市で、ギリシャ哲学以外にもヘルメス主義やマンダ教グノーシス主義、ミスラ・マニ教ズルワン主義、占星学の一大中心地でした。
ハッラーンのヘルメス主義者は「シバ教」、また、ミスラ・マニ教徒はイスラム教下では「サビアン教(サビーア教)」と名乗りました。
また、イスラム神秘主義のスーフィズムの中に吸収されたものもあって、これらは「ザンダカ主義」と呼ばれました。

ペルシャ帝国ではマズダ教とミスラ・マニ教は敵対関係にありました。
ミスラ・マニ教はバビロニア、シリアからクルディスタン(ペルシャ系のメディア人の血を引くクルド人が住むアルメニアからトルコにかけて西北アジア)、そして北東イラン、ソグディアナ(同じくペルシャ系のソグド人=現在のタジク人の住むサマルカンド周辺の東中央アジア=現在のタジキスタン)に展開しました。
ソグド人はシルクロード交易を仕切って東西交流に大きな影響力を持ち、パミールを経てシルクロード諸都市(ウイグル、トルクメニスタン)や中国へミスラ・マニ教を伝導しました。
東北インド・パキスタンのパミール、カシミール地方は古くバクトリア時代からミスラ教が盛んで、イスラム化以降もカシミールを経てインドへ展開しました。
「パミール」と「カシミール」の「ミール」はクルド語で「ミスラ」のことです。東北イランやこれらの地にはズルワン主義・カルデア神学がパフラヴィー語に訳されて伝わりました。

そして、イスラム教誕生後、トルコのアンティコアがイスラム帝国に占領された時、弾圧されていたキリスト教のネストリウス派や単性論者は喜んでイスラムを迎えました。
また、ミスラ・マニ教徒もマズダ教を殲滅したイスラムを喜んで迎えました。
マズダ教がペルシャの民族宗教にこだわり2元論と考えられたのに対して、ミスラ・マニ教は普遍主義で1元論と考えられたからです。

イスラム世界では8~9世紀には、ユダヤ、キリスト教徒との論争の理論武装のために、ギリシャ思想がシリア語から、カルデア・ペルシャ思想がパフラヴィー語からアラビア語へと翻訳が進められ、バグダッド、バスラ、クーファといった都市で学問が栄えました。
特に教皇マアムーンは832年にバグダッドに「叡智の家」という哲学の研究組織を設立して、哲学の受容を奨励しました。

一方、ミスラ・マニ教とイスラム教は習合して秘教的なシーア派、さらに秘教的なスーパー・シーア派となりました。

9世紀にはインド思想がイスラム世界に紹介されるようになりました。
そして、モンゴル軍のイスラム世界侵入後の16世紀には、モンゴル王アクバルがインドとペルシャの文化交流を奨励して、多くのサンスクリット文献がペルシャ訳されました。
また、ミスラ・マニ教系の一派がカシミールなどの北インドに展開したり、ゾロアスター教徒の一団がインドに移住したり、スーフィーとインドの聖者が互いに往来をしました。


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