「シヴァ・サンヒター」(シャクティ教のクリヤ・ヨガ) [中世インド]

「ハタ・ヨガ」を生み出したのはナータ派ですが、このページでは、その影響を受けた他派の「ハタ・ヨガ」系経典である、「シヴァ・サンヒター」についてまとめます。

「シヴァ・サンヒター」は、シャクティ教シュリー・クラ派の経典であると推測されます。
この経典は「ハタ・ヨガ」という言葉は使いません。
一般に、シヴァ教、シャクティ教では「クリヤ・ヨガ」という言葉が良く使われます。

*「ハタ・ヨガ」を理解する前提としての「タントラの身体論」もご覧ください。
*ナータ派のハタ・ヨガについては、「ハタ・ヨガ・プラディーピカー(ナータ派のハタ・ヨガ)」をご覧ください。
*ヴィシュヌ教のハタ・ヨガについては、「ゲーランダ・サンヒター(ヴィシュヌ教のガタ・ヨガ)」をご覧ください。


<シヴァ・サンヒター>

「シヴァ・サンヒター」は、シャクティ教シュリー・クラ派が作成したと思われる経典です。

この経典は、シュリー・クラ派が重視する「シヴァ・スートラ」の影響下で、「ハタ・ヨガ・プラディーピカー」のハタ・ヨガをシュリー・クラ派として取り入れたものです。

ちなみに、「シヴァ・スートラ」では、意志の力で三昧に入るヨガを「シヴァの道」と呼び、これを非常に優れた人のための道であるとします。
そして、観想やマントラを使うヨガを「シャクティの道」と呼び、優れた人のための道であるとします。 
また、アーサナやプラーナヤーマ、ムドラーなどの体を使うヨガを「アヌの道」と呼び、一般の人のための道であるとします。      
「シヴァ・サンヒター」は、ベーシックには、アーサナ、プラーナヤーマ、ムドラーの3つを語りますが、プラーナヤーマの段階として、プラティヤーハーラ、ダラーナ、サマディが存在します。
また、補遺で、実践者の種別で、「マントラ・ヨガ」、「ラヤ・ヨガ」、「ハタ・ヨガ」、「ラージャ・ヨガ」、「ラージャ・アディ・ラージャ・ヨガ(出家のヨガ)」、「マントラ・サーダナ(在家のヨガ)」を説きます。


「シヴァ・サンヒター」は、最初の章で、この世界は、唯一なる智が顕現したものであると説かれます。
そして、イーシュヴァラ(シヴァ神)が説くこのヨガ経典が最高の見解なのだと。

また、一なる智から、マーヤーによって多様な世界が創造されたが、それらをアートマンに帰滅させろ。
そして、シヴァである精子とシャクティである経血の結合から5大元素が生まれ、カルマによってジーヴァ(個我)が身体の中に住するのようになったが、カルマが尽きればシヴァに帰入すると説きます。


次の章では、人間の肉体がミクロコスモスであると説きます。

例えば、月がアムリタを垂らし、イダーを通して全身を滋養する一方で、太陽はピンガラから登り、アムリタを消費すると説きます。

ナーディは35万本あり、その中の主要なもの14本について言及します。
そして、スシュムナーの中心にはチトラー管(チトラー女神)があり、そこにブラフマ・ランドラが輝きます。
また、アーダーラ・パドマ(ムーラーダーラ・チャクラ)のヨーニの中に宇宙創造者のクンダリーがいて、スシュムナーの入り口をふさいでいます。
「シヴァ・サンヒター」はチャクラを「蓮華(パドマ)」と呼び、6つを数え、サハスラーラは別扱いにします。
そして、イダーとピンガラは、スシュムナーを螺旋状に巻いています。
また、腹には火の神のアグニがいます。


次の実践の章では、最初に、プラーナヤーマが説かれます。
プラーナヤーマは、「ハタ・ヨガ・プラプラディーピカー」でも説かれた、開始(アーランバ)、壺(ガタ)、蓄積(パリチャヤ)、完成(ニシュパティ)の4段階となっていて、サマディ段階まで至ります。
これを「ヴァーユ・シッダイェ(風の成就法)」と表現します。

各段階の内容は下記の通りです。

 (段階)    (支則)      (具体的方法)
・アーランバ :プラーナヤーマ  :スカ・プールヴァカ
・ガタ    :プラティヤーハーラ:ケーヴァラ・クンバカ
・パリチャヤ :ダラーナ     :パンチャ・ダラーナ
・ニシュパティ:サマディ     :ケーチャリー・ムドラー

アーランバ段階での具体的なプラーナヤーマの方法は、「ハタ・ヨガ・プラディーピカー」と同じで、以下の流れです。

 イダーから吸息→クンバカ→ピンガラから呼息→
 →ピンガラから吸息→クンバカ→イダーから呼息→

ガタ段階の具体的な方法は、プラーナとアパーナの合流させ、3時間、息を止めるこれによってプラティヤーハーラが達成されるとします。

パリチャヤ段階の具体的な方法は、クンダリニーの上昇と5元素に集中する「パンチャ・ダラーナ(5つのダラーナ)」です。
「パンチャ・ダラーナ」の具体的な方法は語られませんが、「ゴーラクシャ・シャタカ」に書かれた方法と同様な方法でしょう。
ただ、会陰から眉間までの6つのパドマで、2時間づつ集中するように説きます。
「ゴーラクシャ・シャタカ」とは、部位が異なりますし、元素が5つ、パドマが6つなので合いません。


アーサナは、シッダ、パドマ、ウグラ、スヴァスティカの4種が言及されます。
明言はされませんが、それぞれは上記の4段階と関係付けられているのでしょう。


次のムドラーの章では、10のムドラーを数えますが、実際には、13が言及されます。

10のムドラーは、少し整理して順番を変えているだけで、ナータ派の「ハタ・ヨガ・プラディーピカー」で語られる10ムドラーと同じです。
そのためか、最初に、「ヨーニ・ムドラー」を10のムドラーと別扱いで詳細に語り、これが本経典が核とするムドラーであると打ち出しているのでしょう。
そして、10ムドラーは、「ヨーニ・ムドラー」の部分的、補足的名4ムドラーという位置づけにしたのでしょう。

「ヨーニ・ムドラー」は、具体的には、会陰部にカーマ神と観想して収縮させ、クンダリーの上昇・下降を観想しながら、実際に実践します。

次に、10ムドラーは次の通りです。

「マハー・ムドラー」は、風のめぐりを活性化、消化の火を強化、クンダリーの加熱・上昇をします。
「マハー・バンダ」は、プラーナとアパーナを合流させ、風を中央管に入れます。
「マハー・ヴェーダ」は、風が中央管を上昇し、クンダリーが頭上まで至ります。

ナータ派はクンダリーが臍下部に眠ると考えましたが、「シヴァ・サンヒター」では会陰部に眠ると考えるので、同じムドラーでも若干、その意味が変わります。

「ケーチャリー・ムドラー」は、アムリタを飲みます。
「ジャーランダラ・ムドラー」は、アムリタが滴り落ちるのを防ぎ、臍下の火がそれを消費しないようにします。
「ムーラ・バンダ」は、アパーナを引き上げて、プラーナと合一させます。

「ヴィパリータ・クリティ」では、アムリタを飲みますが、秘伝とされます。
「ウディヤーナ・バンダ」は、腹の火を点火し、アムリタが増加します。

「ヴァジローリー・ムドラー」は、精液(ビンドゥ)を放出せずに、精液を上昇させたり、経血を吸い上げて精液と混合します。
ビンドゥは月から作られ、ラジャスは太陽から作られるとします。
また、出した精液を吸い戻すのが「アマローリー・ムドラー」です。
それをヨーニ・ムドラーで結ぶことが「サハジョーリー・ムドラー」です。

後者の2つは「ヴァジローリー・ムドラー」としてまとめられ、全部で10ムドラーと数えされています。

「シャクティ・チャーラナ・ムドラー」は、アパーナに乗せてクンダリーを覚醒させます。


最後の章は補遺ですが、4種のヨガと、出家のヨガ、在家のヨガを説きます。

「マントラ・ヨガ」は、「我はシヴァ」というマントラを唱えながら、開眼で太陽の中にシヴァ神の姿を観想し、シヴァ神の顔を自分の顔に変え、次に、心臓にその同じ姿を観想します。

「ラヤ・ヨガ」は、「ヨーニ・ムドラー」で両目・鼻・耳・口を手でふさいで、保息の時にアナーハタ・パドマの発する音を聴き、サマディになります。

「ハタ・ヨガ」では、6つの蓮華について説きます。
サハスラーラ・パドマは別扱いです。

「ラージャ・ヨガ」は、霊的身体の諸器官を聖地と見て、内的巡礼のように巡ります。

イダーはヴァルナー川(ガンガー川)、ピンガラーはアシー川で、アージュニャー・パドマは、両川の間の聖地ヴァーラーナシーで、そこにはシヴァ神がいます。
そして、スシュムナーはメール山を登ります。

その上にあるサハスラーラ・パドマは、「ビンドゥ・パドマ」、「ナーダ・パドマ」、「シャクティ・パドマ」の3つから構成されます。

頭上の「ビンドゥ・パドマ」は、聖地のカイラーサ山に当たります。
頭頂のアムリタの源である「ナーダ・パドマ」は、聖地のマーナサ湖に当たります。
ここには、カンダがあり、その中にヨーニとチャンドラと最高女神トリプラー女神がいます。
額の「シャクティ・パドマ」は、聖地のプラヤーガ(ガンガー、サラスワティー、ヤムナーの三川の合流点)に当たります。
ここは、梵孔(アーダーラ)とも呼ばれ、、チトラー女神(トリプラー女神の最微細相)がいます。


「出家のヨガ」は、「ラージャ・アディ・ラージャ・ヨガ(ラージャ・ヨガを超えるラージャ・ヨガ)」と表現されます。

「我」と「我あり」の関係を、「ジーヴァ・アートマン」と「パラ・アートマン」の関係のごとく念じ、「我」と「汝」の二元論を越えて完全なるものに専心します。
すると、自らを照らす光(シヴァの恩寵の光)が輝き、一なる智が得られます。


「在家のヨガ」では、「マントラ・サーダナ」と「火の作法(護摩行)」が説かれます。

「マントラ・サーダナ」は、3つのパドマに対して、下から順に2-3秒ごとに移動して、それぞれのマントラを唱えながら集中します。

(部位)    (マントラ)
1 会陰 :アイン(サラスヴァティーの種字)
2 心臓 :クリーン(カーマの種字)
3 眉間 :フリーン(シャクティの種字)
4 頭頂 :スヴァーハー

「火の作法」では火壇(護摩壇)にバター油を献供しながら、炎をトリプラバイラヴィー女神と観想して、上記の「マントラ・ヨガ」を行い、眉間への集中の後に、頭頂に集中して「スワーハー」と唱えます。
つまり、外的儀礼における火壇の炎を、内的儀礼におけるクンダリーの上昇と象徴的に重ねています。


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