ヘレニズム・ローマ ブログトップ
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新プラトン主義 [ヘレニズム・ローマ]

「新プラトン主義」は古代哲学の最後を飾る哲学で、ギリシャの神秘主義的な哲学の大成された形を示しています。
そして、中世以降のイスラム世界や西欧世界の神智学、神学、哲学に大きな影響を残しました。

「新プラトン主義」という呼び名は後世の学者によるもので、アレキサンドリア、シリア、ローマ、アテナイなど各地で約300年に渡る活動を総称したものなので、その思想内容は様々です。

新プラトン主義は、異教哲学を否定する529年のユスティニアヌス帝の勅令を機に、衰退しました。

新プラトン主義は、アレキサンドリアの神智学者アンモニオス・サッカス(175年頃243年頃)に始まります。
「サッカス」という名前は、5Cの文献に初めて現れるもので、「粗衣をまとう」という意味だとされますが、サカ族の出身者ということを示しているという説もあります。
サカはペルシャ系の遊牧民族で、2-5Cには西北インドに王朝を立てました。
ですから、彼のバックボーンにはペルシャやインド思想があったかもしれません。
彼は著書を残しませんでしたが、プラトンとエジプト神学の影響を受けたようです。
先に書いたように、「神智学」という言葉を使い始めたのは、アンモニオス・サッカスの一派です。

新プラトン主義を代表する神智学的な哲学者のプロティノスは、エジプト内陸部に生まれ、アレキサンドリアでアンモニオスの弟子となり、ペルシャとインドに行こうとしてペルシャヘの遠征軍に参加しましたが、これを果たせず、その後ローマで活動しました。
もしペルシャに渡っていると、マニとの歴史的な出会いを果たしていたかもしれません。
抽象的思考に長けた哲学的神智学の天才プロティノスと、神話的思考に長けた啓示宗教的神智学の天才マニが出会っていると、神智学の歴史は大きく変わっていたでしょう。

プロティノスの弟子のポリピュリオスはシリアで生まれ、ローマでプロティノスの弟子となりました。
また、ポリピュリオスの弟子イアンブリコスはシリアで活動しました。
新プラトン主義の最後の大哲学者プロクロスはビザンティンで生まれ、アテナイで活動しました。
そして、アテナイのアカデメイア最後の学長のダマキオスは、シリアで生まれ、アレキサンドリアを経て、アテナイに移りました。

プロティノスは純粋な哲学者で、プラトン的な観照と抽象的な思考を重視しました。
ですが、他の多くの新プラトン主義者、特にイアンブリコス以降はズルワン主義やヘルメス主義の影響を強く受けて、プラトンの著作と共に『カルデア人の神託』を聖典していました。
彼ら自身は自分達の思想をプラトン神学というよりもカルデア神学だと考えていたかもしれません。
彼らは秘儀の伝授を受け、降神術(高等魔術)も重視していました。


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マニ教 [ヘレニズム・ローマ]

マニ教は、バビロニア生まれのマニが3Cに興した宗教で、ズルワン主義=ミスラ教のヘレニズム・ローマ的な習合的形態です。
マニ教については、姉妹サイト「神話と秘儀」の「マニ教とオフルマズドの犠牲」も参照してください。

「マニ」という言葉もミスラに由来します。
マニ教は、グノーシス主義のイラン的形態とも言われていますが、マニ教は世界を悪神によって創造とされたと考えませんので、この点ではグノーシス主義とは言えません。
ですが、世界が悪魔の死体から作られたという点では、現世否定的で、この点ではグノーシス主義的傾向があるとは言えるでしょう。

また、マニ教にはミトラ教、キリスト教、仏教、グノーシス主義などを取り入てた折衷的な宗教で、神格を固有名詞ではなく普通名詞で表現して世界各地で布教しました。
後の節、章でも触れるように、マニ教はユーラシア的規模で、特に中央アジアから中国まで、東方世界で大きな影響を残しました。

マニ教の神話については、姉妹サイト「神話と秘儀」の「マニ教とオフルマズドの犠牲」をお読みください。
この項ではそれとは別に、神智学的観点から紹介しましょう。

まず、マニ教はズルワン主義やマズダ教とは違って、原初に善悪の2つの原理「偉大な父/闇の王」を立てるので、「絶対的2元論」だと言えます。

ズルワンに相当する光の国の「偉大な父」の回りには、5つのシェキナー(光輝・住居)である「知性/知識/思考/思慮/決心(あるいは柔和/奥義/洞察)」がいます。
これらはゾロアスター教のアムシャ・スプンタの相当する大天使的存在で、これらは光の国の大気を形成しています。そして、光の国の大地は光の5元素である「空気/風/光/水/火」で構成されています。

一方、アーリマンに相当する闇の国の「闇の王」の回りには、5つのアイオーン(悪霊)であり闇の大地を構成するや闇の5元素である「煙/火/風/水/闇(あるいは霜/熱風)」がいます。
その後生まれる宇宙はこの光と闇の5元素の混合体です。
このように、ロゴスやイデアの有無ではなく、元素まですべてを善悪の2つの原理で考える点がマニ教の絶対的2元論の特徴です。

「偉大なる父」は、アナーヒターやソフィアに相当する「生命の母」と、息子でアフラ・マズダに相当する「原人間」を、次に5大元素の大天使に相当する「5人の息子」を生み出します。

「原人間」は「5人の息子」をにして、「闇の王」とその「5人の息子」と戦い、まるで毒を盛るように、自ら彼らに食われます。
つまり、「原人間」やそれから生まれる霊魂は、堕落によるのではなく、自ら悪を克服するために悪の中に身を落としたとする点がマニ教の大きな特徴です。

「偉大なる父」は、「原人間」達を救済する「光の友」、「偉大な建築者」、「生ける霊」を生みます。この3者にはほぼ共に働くので、一体の存在でありミスラに相当すると考えられます。
宇宙は闇の中に残った光を分離するための機械として、悪のアルコーン達の遺体から作られます。
宇宙はゾロアスター教のように悪を閉じ込めて撃退する「牢獄」ではなく、光の「分離器」なのです。太陽と月は分離した光の集積所です。

また、12宮の霊である「12人の処女」は抽象的に「王権/知恵/勝利/確信/廉直/真理/信心/寛容/正直/善行/正義/光」と呼ばれます。
そして、宇宙には10天と8地があります。

次にやはりミスラに相当する「第3の使者」が生み出され、彼が宇宙を働かしま悪魔達の情欲を刺激して光を回収しますが、悪達は光の回収を防ぐために光を人間に集めて欲を植え付けます。
つまり、人間が生殖によって子孫を残すことは、光を奪われないための悪魔の陰謀なのです。
この考え方にも徹底的な現世否定主義的な絶対的2元論があります。

次に「輝くイエス」が人間に対する啓示者として現れます。
彼は、「偉大なる父」からの使者であると同時に、「闇」の中に堕ちた「光」の人格化でもあって、「原人間」の受苦の象徴でもあるのです。
その後に現れたマニ自身は、キリスト教のヨハネ福音書に語られる「救いの霊」、「真理の霊」だと考えました。そして、終末には「光の狩人(大いなる思考)」が最終的な救済者としてやってきます。

(マニ教の神格の展開)
偉大なる父
生命の母/原人間/5人の息子
光の友/偉大なる建築者/生ける霊
第3の使者/12の処女
輝くイエス
真理の霊・救いの霊
光の狩人(大いなる思考)

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カルデア人の神託 [ヘレニズム・ローマ]

ズルワン主義のヘレニズム的形態として、2C後半にトルコで生まれたのが『カルデア人の神託(カルデアン・オラクル)』です。
この書はゾロアスターがミスラから得た知識という形式で、ユリアノスが降神術による啓示によって書きました。
原本自体は失われてしまいましたが、後期の新プラトン主義者によって聖典とされたために、彼らの解説などによってその内容が伝えられています。

その内容はヘレニズム独特の折衷主義的なもので、ズルワン主義の他にプラトン主義、グノーシス主義、ヘルメス主義などの影響を感じさせます。
そして特徴的なのは、降神術/高等魔術に関して体系的に述べた最古の書であることです。

『カルデア人の神託』によれば、至高存在は「父=深淵=始原=知=一者=善」と呼ばれ、これが「父/力/知性」という3つの存在に展開して現れます。
「力」は女性的存在で「父」と「知性」を媒介します。
「知性」は「父=知」に対する第2の知性で、イデアに基づいて世界を形成する創造神(デミウルゴス)です。
これらはぞれぞれズルワン主義の「両性具有のズルワン」/「父ズルワン/アナーヒター/ミスラ」に相当します。

世界は直観的知性による「浄火界」、天球に相当する「アイテール界」、物質的世界である「月下界」の3つから構成されています。
そして、それぞれは「超宇宙的太陽」、「太陽」、「月」によって支配されています。知的諸階層のそれぞれにはその階層を統合する「結合者」がいます。
また、3つの世界のそれぞれにも「秘儀支配者」がいます。
後者は「超宇宙的太陽」、「太陽」、「月」と同じかその霊的実体です。
そして、「天使」、「ダイモン」、「英雄」が神と普通の人間の間に階層をなして存在して、人間を天上に引き上げる働きをします。

また、「イウンクス」なる道具が魔術に重要な働きをします。
これはうなり音を発するコマのようなもので、そのうなり音を変化させることによって、魔術の目的に合った天上の様々な霊的な力に共鳴してそれを働かせるのです。
「イウンクス」はこの地上の道具であると同時に、天上の存在でもあります。
この天上の「イウンクス」はイデアに相当し、神と地上世界を媒介する存在なのです。

『カルデア人の神託』が述べる魔術は主に神像や人間に神を降ろして、聖化したり質問をしたりすること、つまり、降神術です。
その方法論は照応の理論によるもので、特定の神格と同調する動・植・鉱物を利用したり、「イウンクス」同様に神格と同調する波動を発する呪文や神名を発することです。

(カルデアン・オラクルの存在の階層)
父=深淵=一者
 
 
 
知性=デミウルゴス
 
浄火界
超宇宙的太陽
─ 結合者 ─ 
大天使
アイテール界
太陽
─ 結合者 ─ 
天使
月下界
─ 結合者 ─
ダイモン
 
英雄
 
人間
 
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プトレマイオス派グノーシス主義 [ヘレニズム・ローマ]

プトレマイオス派グノーシス主義


グノーシス主義の中でも、最も完成され、体系化された神話・思想を持つプトレマイオス派を紹介します。

プトレマイオスは、ヴァレンティノス派のイタリア派に属していた人物です。
ヴァレンティノス派はプラトン主義の影響を取り込んでいましたが、プトレマイオスはそれをさらに発展させました。

*グノーシス主義の特徴と思想については「グノーシス主義の思想」をご参照ください。
*ヴァレンティノス派については「グノーシス主義の潮流と諸派」をご参照ください。


<プロレーマの流出>

プトレマイオス派の神話によれば、原初に名づけることができない高みに、根源的な男性的原理の「プロパテール(原父)」、あるいは「ビュトス(深淵)」がありました。
これは、完全で、把握できない存在でした。

彼と共に女性的原理の「エンノイア(思考)」、あるいは「シゲー(沈黙)」が存在しました。

「原父」は流出(創造)をしようと思い、これが種子のように「思考」の中に置かれ、「叡智(ヌース)」が生まれました。
これは「プロパテール」に似た「モノゲネース(独り子)」であり、彼だけが「原父」を把握できました。

「ヌース」と共に「アレーテイア(真理)」が生まれました。

さらに「ヌース」らによって「ロゴス(言葉)/ゾーエー(生命)」、「アントロポス(原人間)/エクレーシア(教会)」が生まれ、合計で8つのアイオーン(オグドアス)となりました。
それらは、両性具有でありますが、同時にカップルの状態になりました。

至高存在を「把握できない」とし、また、2神を「深淵/沈黙」と否定的な表現をすることには、至高存在を「語り得ぬもの」としたプラトン主義のアルビノスの影響があるのでしょう。
また、「独り子」は、「ヌース」とするのもアルビノスと同じです。


さらに、「ロゴス」らから10のアイオーンが、「アントロポス」らから12のアイオーンが生まれ、合計で30のアイオーンが、カップルになって充足(プレローマ)していました。

プトレマイオス派の30アイオーンは、次の通りです。

・8アイオーン:原父/思考、知性/真理、言葉/生命、原人間/教会
・10アイオーン:深み/交合、不壊/配慮・反省、成長/喜び、不動/混合、独り子/幸福
・12アイオーン:仲介者/信仰、誠実/父性、希望/母性、愛/理法、結合/伝道、幸福/意欲、欲求/知恵


<ソフィアの過失とデミウルゴスの宇宙創造>

「原父」を認識できるのは「ヌース」だけでしたので、「ヌース」は他の存在にも「原父」の偉大さと見えざることを伝えようとしました。
ですが、「エンノイア」が「プロパテール」の望みも組んでこれを制し、皆に「原父」を探求させようと欲しました。
それで、皆は「原父」を見たいと憧れました。

最後に生まれた「ソフィア(知恵)」は、伴侶の「欲求」と交わることなしに、「原父」を知ろうと「エンテュメーシス(意図)」し、その「パトス(情念)」にとりつかれて、苦難に陥り、形を失い(質料の中に消え)かけました。

そのため、プレローマの外にあった「力」である「境界(ホロス)」が彼女を守って固くし、浄化しました。
「境界」は、「十字架」とも「贖い主」とも呼ばれます。

それで、彼女は、自分の「意図」と「情念」をプレローマの外に捨てて、プレローマでカップルの状態に戻りました。

「ヌース」は「キリスト/聖霊」を生み、「キリスト」は「原父」は把握しえないという認識を皆に伝えてプレローマの秩序を強化しました。
こうして「形」と「認識(グノーシス)」を持つことで、充足した秩序が得られたのです。


「ソフィア」の分身である「意図」と「情念」は、「アカモート」、「下なるソフィア」とも呼ばれます。
「キリスト」は、彼女のもと下って彼女を形づくりましたが、「認識」は与えられませんでした。

それで、「キリスト」は、「救い主(ソーテール)」と天使達を生み出して、彼女の元に送りました。

彼女は天使達を眺めて、その像に似せて「霊(霊的な胎児)」を生みました。
また、彼女の「帰ろうとする性質」から「デミウルゴス」と「魂」が生まれました。
一方、彼女から切り離された「情念」は「物質」になり、4つの感情は4大元素になりました。

こうして、「霊」、「魂」、「物質」という3つのものと「デミウルゴス」が生まれました。


また、「デミウルゴス」は7つの惑星天と地上を創造しました。
「アカモート」は、この世界とプレローマの間、第8天の「中間の世界」にいます。

ですが、「デミウルゴス」は母「ソフィア」の存在も、創造に至るいきさつも知らず、自分がすべてだと思っていました。


<人間の創造と救済>

また、「デミウルゴス」は、人間の「肉体」を作ってそこに「魂」を吹き込みました。
「肉体」は「アントロポス」の「像」を基に、「魂」は「類似性」に基づいて作りました。

ですが、「アカモート」は、秘かに「デミウルゴス」の中に「霊的な胎児」を入れていたので、彼を通して人間の中にも「霊的な胎児」が蒔かれていました。
これは、「霊の胎児」が、人間の中で成長して「ロゴス」を受け取る必要があるからです。

このように、人間の中に「霊」が入ることの積極的な意味を語ることは、反宇宙論のグノーシス主義では珍しいことです。

人間には霊・魂・体の3つの要素がありますが、カイン、アベル、セツは、肉体的人間、心魂的人間、霊的人間を象徴します。

・霊:アカモートが天使達を眺めて :セツ
・魂:アカモートの帰ろうとする性質:アベル
・体:アカモートの情念      :カイン


「ソーテール」は人間を救うために、「魂」と「物質の体」をまとって「イエス(下のキリスト)」として現われました。
「キリスト」が「アカモート」を形づくった行為を模範として人間に示すためです。

「イエス」の教えによって人間は教育されて、「霊的な胎児」を見つけ、成長させることで、形づくります。

そして、これが成熟して「認識(グノーシス)」を得ると、その母である「アカモート」は「ソーテール」を新郎として向かえてプレローマに復帰します。
そして、人間の「霊」は、「魂」を脱ぎ捨ててプレローマに復帰して「天使達」にゆだねられます。
さらに、「デミウルゴス」と良き「魂」は中間界に上昇して、悪しき「魂」と物質界は火によって焼き滅びます。


<堕落と救済の構造>

プトレマイオス派では、この「原父」が「ヌース」以外には「認識できないという認識」が「グノーシス」とされ重視されます。

ヴァレンティノス派の神話は詳細が不明なのですが、「ソフィア」の堕落の原因は、「認識できない原父を認識しようとした」ことです。
ですが、このプトレマイオス派の神話では、これは「原父」と「エンノイア」が皆に促したことです。
そして、「ソフィア」としての過失は、カップルを無視したことと語られています。
これは「ヨハネのアポクリュフォン」と同じです。

結果として、「ソフィア」は「形」を失います。
そして、個々の存在は、「存在としての形」と「認識(グノーシス)としての形」の2つで成り立っています。
これは、プトレマイオスのオリジナルな考えでしょう。

「存在における形成」とは違って、「認識における形成」は自力という側面があるのではないでしょうか。

そのため、救済は、「存在において形成される」、次に「認識において形成される」、その結果、「カップルになる」で完了します。


プラトン主義には3階層論(イデア・ヌース界/魂/物質界)があります。
ヴァレンティノス派も、宇宙論では「プレローマ/中間世界/物質世界」で、人間の構成要素では「霊/魂/肉体」で考えました。
また、堕落者についても、「ソフィア/アカモート/パトス」として区別しました。

プトレマイオスは、これに救済者にも当てはめて、「キリスト/ソーテール/イエス(下なるキリスト)」の3階層化を明確化しました。

そのため、救済も、まず、プレローマで起こり、次に中間世界で起こり、最後に物質世界で起こり、最終的に上の世界にも及んで終わります。

その結果、「ソフィア」は「テレートス」と、「アカモート」は「ソーテール」と、人間は天使とカップルになります。

・プレローマ:キリスト :ソフィア=テレートス
・中間世界 :ソーテール:アカモート=ソーテール
・物質世界 :イエス  :人間=天使

 


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アレキサンドリア錬金術 [ヘレニズム・ローマ]

大地(母神)が金属が育み、人がそれを助けるという基本的観念としての錬金術の源流は、有史以前にまで遡ると思われます。

ですが、具体的な文献としてそれが初めて確認できるのは、ローマ帝政期のアレキサンドリアにおいてです。
そのため、錬金術はヘルメス・トリスメギストスによって始められたという伝説も生まれました。

1C頃には、最初の化学的文献が見出され、非金属を金・銀のように見せかける技術が記載されています。
「ライデン・パピルス」、「ストック・ホルム・パピルス」や、後の時代にビザンツで編集された「ギリシャ錬金術文書」中の「自然なものと隠されたもの」が、この頃の文献です。

3C頃には、実際の金属の変性によって金を作るという発想が見られるようになり、この錬金術は「ケイメイア」と呼ばれるようになります。
そして、単なる金属職人ではなく、錬金術師というアイデンティティが生まれました。
と言っても、「化学」と「錬金術」の概念はまだ分離されていません。


<ゾシモス>

最も重要な錬金術師は、3C頃の人物であるゾシモスです。
彼は28の書を著したとされていますが、書としてはすべて失われており、断片的にしか残っていません。
彼は、錬金術師の先駆者として別格的なヘルメス以外に、ユダヤのマリアをあげており、また、弟子にもテオゼベイアという女性がおり、当時の錬金術師には女性が当たり前のようにいたようです。

ゾシモスは、金属は「身体」と「精気(プネウマ)」からなるとしました。
「身体」とは、すべての金属に共通する基体であり、水銀です。
「精気」は、個々の金属の性質を決める要素です。

錬金術は、金属から「精気」を分離し、他の金属に結びつけます。
これによって金属は変性しますが、ゾシモスはこれを「染色」と呼びました。
また、金属変性を与える物質を総称して「硫黄の水」と呼びました。
硫黄の蒸気が様々な物質を白くすることに由来します。

「硫黄の水」の中でも最高のものは、「クセリオン」と呼ばれます。
これは医薬のことで、「クセリオン」は金属にとっての医薬なのです。
この変性剤である「クセリオン」は、アラブ世界では「アル・イクシール」、ヨーロッパ世界では「エクリシル」になり、やがて「賢者の石」にも結びつきます。

錬金術は秘密の教えであるため、ゾシモスは、金属を暗号名で記載したり、化学的作業を寓話で表現しました。


<錬金術と秘儀>

アレキサンドリアで生まれた錬金術は、その後、イスラム世界に継承されて発展し(ここでインド、中国の錬金術の影響も受けたかもしれません)、さらに、ヨーロッパ世界に継承されて発展していきます。

こうして発展した錬金術のプロセスは、ヘレニズム・ローマ期の「秘儀」とも類似しています。
錬金術は、金属が金にまで成長することを手助けして促進させるものですが、そのプロセスは物質を再生・浄化するものと考えられたためです。
ですから、人間の心を再生・浄化する秘儀と類似するのです。

ヘレニズム期・ローマ期の秘儀も錬金術もヘルメス主義の世界観を共有し、宇宙(物質)と人間は照応するものですから、これは当然なのです。
ゾシモスも、錬金術がミトラスの密議と本質的に同じであると述べています。

以下、ルネサンス期の錬金術の資料(ローマ期以降の思想も含まれている)を元に、秘儀との類似性を見てみましょう。

・準備段階

錬金術では、まず、素材である物質から、根源的な女性的要素と根源的な男性的要素を抽出します。
女性的要素は象徴的に「水銀」と呼ばれ、月や王妃、有翼の龍として表現されます。
代表的な物質には銀があります。
男性的要素は象徴的に「硫黄」と呼ばれ、太陽や王、無翼の龍として表現されます。
代表的な物質には金があります。
この段階は秘儀で言えば、禁欲などの準備段階に相当します。

・黒化・腐敗ー死

そして次に、抽出された男性的要素と女性的要素を結合させます。
すると、物質は根源的な元素(これはアリストテレスが「第1質料」と呼んだものです)にまで分解されて黒くなります。
この時、その物質が持っていた魂が出ていってしまいます。
このプロセスは「黒化」、「腐敗」と呼ばれていますが、秘儀での「死」、「冥界下り」に相当します。

・白化ー再生

次に、これを加熱すると物質は白くなります。
この時、物質に純粋で神的な霊魂(これは宇宙そのものの魂である「世界霊魂」の一部です)が入ってきて物質は生き返るのです。
この物質は「両性具有」として表現されます。このプロセスは「白化」と呼ばれます。
これは秘儀では「真夜中の太陽」を見い出した後の純粋な魂としての再生に相当します。  

・赤化ー完成

さらに加熱していくと、物質は様々に変色して最後に赤くなります。
この時、物質は成長して、「世界霊魂」を凝縮した自然の完成した姿になるのです。
これは「哲学者の石」と呼ばれ、「王冠をかぶった子供」として表現されます。このプロセスは「赤化」と呼ばれますが、これは秘儀での神の「見神」や「児童神の誕生」に相当します。

・発酵

「哲学者の石」はこの後、「発酵」と呼ばれる加工をほどこしてから実用します。
「哲学者の石」は固体状にも液体状にもなる物質ですが、これは一種の万能薬で、非金属を貴金属に変えたり、人間の病気を直したりすることができます。
つまり、神話における「生命の樹の実」や「生命の水」のような存在です。

このように、錬金術は人と同じように自然の物質を扱うという観点があります。
人が死と再生の秘儀によって霊魂を高めるように、物質に化学的に死と再生を与えて高めていくのです。
そのため、錬金作業は秘儀でもあるのです。

ただ、上に紹介した中で、物質を4大元素ではなく男性原理・女性原理(水銀・硫黄)の2元論を強調して捉えたり、浄化された肉体の獲得を目指すといった思想は、アラビアの錬金術以降に現われたものです。

alchemy.jpg 

左上:男性的要素と女性的要素を結合(結婚) 右上:両原理の物質からの脱魂(腐敗)
左下:霊魂の降下と復活(両性具有の誕生)  右下:哲学者の石(王冠を冠った子供)の誕生

*私は未読ですが、エリアーデも錬金術と秘儀の類似を指摘しています。


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ヘルメス主義 [ヘレニズム・ローマ]

ヘレニズム~ローマ期の地中海世界最大の文化都市だったエジプトのアレキサンドリアでは、ヘルメス・トリスメギストス(ギリシャとエジプトの言葉と学問の神が習合したヘルメス=トート神)による啓示という形で、『ヘルメス文書』と総称される多数の書が書かれました。
「ヘルメス選集」の「ポイマンドレース」や、「アスクレピオス」などが代表書で、ナグ・ハマディ文書の一部も含みます。

ヘルメス文書の多くは、アレキサンドリアを代表するセラピス神殿の神官達によって書かれたのではないかという可能性が指摘されています。

ヘルメス文書で語られる思想には雑多なものが含まれていますが、総称して「ヘルメス主義」と呼ばれます。
ヘルメス主義はプラトン主義、グノーシス主義、ズルワン主義など様々な思想の影響を受けたハイブリッドな思想です。
ヘルメス文書の半数近くは、グノーシス主義的な反宇宙論、つまり、宇宙の創造神(デミウルゴス)を悪神とします。

ヘルメス文書には「占星術」、「魔術(降神術)」、「錬金術」を内容としたものも含まれます。
これらはいずれもこのヘレニズムの普遍的な万物照応の宇宙論を共有した不可分な存在です。
「占星術」は上位の世界である星の世界の影響が、いかに地上に現われるかを扱っています。
「魔術」はより積極的に、天上的な力をコントロールして地上に降ろして作用させることを扱います。
そして、「錬金術」は自然の物質を成長させて高めるためのものです。


<ポイマンドレース>

姉妹サイトで紹介した『ポイマンドレース』の神話をお読みください。

「ポイマンドレース」は、宇宙は至高神とは異なるデミウルゴス(創造神)から作られ、惑星の霊は「アルコーン(支配者)」、その支配は「宿命」と呼ばれる点が反宇宙論的で、グノーシス主義的傾向がややあります。
そして、人間は神に等しいアントロポス(原人間)として作られたものの堕落したため、星辰界を超えて至高神のもとにまで還ることを目指します。

この項では神智学的観点から解説を加えます。

「ポイマンドレース」では、至高存存「ポイマンドレース(絶対の叡智)」を、父であり光である「霊的知性(ヌース)」と考えます。
これを「光が無数の力からなり、世界が無際限に広がり、火が甚だ強い力によって包まれ、力を受けつつ序列を保っている様」と表現しています。
ここには、至高存在を、光の強度、力のやり取り、様々な度合の微細な生成運動として捉えるような発想があると思います。

原人間の「アントロポス」は、至高の父に等しいような神的存在で、その「似像」と表現されます。
至高の父はこの「似像」を愛します。

そして、そのアントロポスは地上の水に映った自分の「像」に愛着を抱いて堕落した結果、地上の人間の霊魂の運命が始まります。
アントロポスという「似像」にはヌース(ロゴス)が存在するのですが、地上の水の「似像」にはロゴスが存在しないのです。
ポイマンドレースの神話には、自分自身と自分のイメージ(自我)を取り違えるというテーマがありますが、そこには善悪2つの段階が区別されているのです。

このヌース=神の息子が「ロゴス」であるのに対して、神の「プーレー(意図)」という女性的存在(娘)が存在します。
「プーレー」は「知的」な存在と、盲目的な存在の中間の存在ではないでしょうか?
この「プーレー」から闇であり素材的存在である「フュシス(自然・本性)」が生まれます。
これも女性的存在で、「ロゴス」を受け入れて、「火・空気」の元素を生みますが、「水・土」の元素はロゴスを失って「質料」となります。

「水・土」にロゴス(形・性質)がないというのはプラトン/アリストテレスとは異なる考え方です。
「フュシス」と「質料」はともに「ロゴス=イデア」という形・性質を欠いたものであるにもかかわらず、2つを別の存在としています。
このように女性的・素材的原理に対する独自な考え方が「ポイマンドレース」の特徴の一つです。

poimandres.jpg

<アスクレピオス>

「アスクレピオス」は、「ポイマンドレース」と類似したテーマを扱った書ですが、「ポイマンドレース」がグノーシス主義的であるのと反対に、宇宙には神性があると主張します。
星辰は善なる神々であり、人間は至高神ではなく、星辰の世界に還ることを目指します。
人間は神的な本質を持ってはいますが、至高神から直接作られた存在とは表現されず、星辰の出とされます。
そして、人間を賛美し、生殖行為も肯定するような現世肯定的思想を持っています。

また、降神術的魔術を使った神像の作成法が書かれており、この点で後世に影響を与えました。
特別な植物や鉱物によって像に神的な力を付与し、儀式と共に神霊(ダイモン、天使)に祈念して像の中に神々の霊魂を注入するのです。

他の特徴としては、太陽を可視の神として重視すること、輪廻思想を持っていること、エジプトの宗教や法律が復活することを予言していること、などがあります。


<タトと語らった秘密の対話>

「ヘルメス選集」の中の「ヘルメス・トリスメギストスが山上で彼の子タトと語らった秘密の対話」には、人間の浄化・復活の際に、10の諸力(知識・喜び・堅実・忍耐・正義・寛大・真理・善・生命・光)が、12宮に由来する12の懲罰(悪徳)を追放すると主張されており、興味深いものです。

「ポイマンドレース」では、天球の上昇によって、7惑星に由来する7つの悪徳を捨てるのに似ています。


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中期プラトン主義 [ヘレニズム・ローマ]

ローマ時代のプラトン主義思想家達は総称して中期プラトン主義と呼ばれます。
中期プラトン主義の特徴は、アカデメイアのプラトン主義を受け継ぎながら、ストア派、ピタゴラス主義、そして、オリエントの
様々な宗教・神智学の影響を受けて、それらをプラトン主義によって解釈、統合しようとしたことです。

1-2Cのプルタルコスはデルフォイのアポロン神殿の司祭になったプラトン主義者です。
彼はエジプト神話(オシリス/イシス神話)やペルシャ思想、グノーシス主義などをプラトン主義的に解釈しました。

他えば、オシリスの魂をイデア、イシスを場所=乳母である質料であり、同時にプラトンのエロスのような善をあこがれる存在、そして、ホルスを両者から生まれた自然と解釈しました。

また、宇宙論的には、世界霊魂が生まれる前の存在として「原霊魂」を考えました。
「原霊魂」はイシスと悪神のセトを合わせた存在で、無秩序な存在ですが、イデアを受けて秩序的な存在となります。
つまり、彼は善悪を2元論的に考えず、素材的存在を無秩序ながら秩序を指向する存在と考えたのです。


2Cのアルビノス(アルキノス)は中期プラトン主義の代表的存在で、彼に至る様々な思想を総合しました。
そして、おそらくグノーシス主義や新プラトン主義のプロティノスに大きな影響を与えました。

彼はスペウシッポス同様に、至高存在(最高神)と霊的知性(ヌース)を区別しました。
そして、最高神を「善」、「完全性」、「不動」などとプラトン、アリストテレスを受け継いで肯定的に表現しながら、一方で、「語りえぬもの」としてすべての属性を否定しました。
そして、「善でもなく」、「無性質でもなく」、「動かしもせず、動かされもせず」…と否定をつなげました。
ただ、霊的知性だけがそれを認識できるのです。

彼は最高神に至る方法として、肯定的な表現をしながらそれらを超えていく「上昇の道」、すべての属性を否定していく「否定の道」、象徴を使って表現する「類比の道」の3つの方法を提唱しました。
これは後にキリスト教神秘主義者の偽ディオニュシオスに影響を与えました。
「否定の道」は後に「否定神学」と呼ばれるようになります。

アルビノスは、霊的知性(ヌース)とイデアをクセノクラテス同様に最高神の思考活動と考えました。
そして、これはアリストテレス同様に自らを対象として思考する思考で、最高の段階の現実態ではすべてを同時に永遠に認識(アリストテレスの「一切をなす知性」)するのです。

また、彼は、世界霊魂を「眠れる魂」と「覚醒する魂」に分けて考えました。
これはプロタルコスに由来する考え方です。
「眠れる魂」はプラトンの洞窟の比喩のように、神の方向に向き直って眺めること(イデアを受けて秩序づけられること)によって「覚醒する魂」となるのです。
これは「復活する神」の神話の哲学的解釈でもあります。
つまり、世界をイデアの方向を向いたものと向かないものの2つに分けたのです。

また、アルビノスは、宇宙を12面体と考え、獣帯を数学的に30度づつに12分割しました。

そして、ダイモンの役割を存在の階の中ではっきりと位置付けました。
ダイモンは月下の神霊的存存在ですが、最高神の命令で月下の生物達を導く存在です。

また、輪廻や人間の運命についてはっきりとした思想を展開しました。
人間は過った判断によって地上に受肉し、輪廻する存在です。
そして、自由意志によって行動しますが、その行為の結果は運命的に決定されます。
この考え方はインドの輪廻思想とほとんど同じですが、ストア派の摂理に従う運命論に対して主張されたものです。

(アルビノスの存在の階層)
最高神(父)
霊的知性(ヌース)
現実態
可能態
覚醒し魂
眠れる魂
自然
質料=乳母


中期プラトン主義の折衷的総合主義は、北シリアの2Cのヌメニオスにも表れています。
ピタゴラス主義、ヘルメス主義の影響を受けながら、インド、バビロニア、エジプトの神智学を総合的に解釈しようとしました。

 


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ミトラス秘儀と12星座神話 [ヘレニズム・ローマ]

シリアのマクシムスらマギ達は7光線理論だけでなく、姉妹ブログの ミスラ教と原人の殺害 で紹介した通り、ミスラ教の秘教的な神話を12星座に対応させて新たに編集しました。
ここには12星座の秘教的な意味が込められています。
もともとこれにはヘレニズム的な折衷性がありましたが、これがさらにギリシャ・ローマ神話やオリエントの様々な神話を吸収して秘儀宗教化されて、トルコ経由でローマ世界を越えて全ヨーロッパに広がり、独自な宗教になりました。
これは「ミトラス教(ミトラス秘儀)」と呼ばれます。ですが、この12星座の神話(『ゾディアックの書』)とその意味は西洋の占星学には伝わりませんでした。

12星座の神話の中で注目すべきは、マズダと兄弟で堕落天使的な存在のアーリマンが、天使に復帰していることです。
堕落天使の神話はユダヤ、キリスト教にも伝わっていますが、この秘密教義はもちろん伝わっていません。
人間にはマズダと原人、原人の光のかけらの要素と、アーリマンの要素があるのです。

この秘密教義に関しては、近代神智学のブラヴァツキー夫人が新たな解釈を行います。
また、アーリマンの意味については、ルドルフ・シュタイナーが新たな解釈を行います。


以上は、ペルシャの神名で神話を書きましたが、ミトラ教の神々はヘレニズム的状況の中で必然的にギリシャ・ローマの神々に対応づけられていました。
それは以下のような対応でした。

(ミスラ教神話とギリシ・ローマ神話の対応)
至高の父
ズルワン
クロノス、サトゥルヌス、アイオーン
至高の毋
アナーヒター
ソフィア
至高の子
ミスラ
若クロノス、若サトゥルヌス 、若アイオーン
海神
アパム・ナパート
オケアノス、ネプチューン
木星
マズダ
ゼウス、ジュピター
原人
イマ
ディオニュソス
太陽
ミスラ
アポロ、ヘリオス
金星
アナーヒター
アフロディテ
地下
アーリマン
プルートー


一方、ローマ世界で広がったミトラス教は、一時、何人かの皇帝の支持を得て国教的存在にまでなるなど、キリスト教の最大のライバルになりました。

その神話は、ミスラ教の神話をベースにしていましたが、細部に関しては分かりません。
神名の翻訳などの部分では、数世紀以前にズルワン主義をギリシャ化して取り入れていたオルペウス派の発想を継承している部分があるでしょう。

Mithras.jpg

秘儀宗教としては、ミトラス秘儀は「死して復活する神」を持ちません。
アフラマズダや原人間がこれに当たるとも言えますが、ミトラス秘儀ではあくまでもミトラスが主人公で、その最大のテーマは聖牛の供犠でした。
その意味では、生命の水、霊性としての血を流す聖牛が死して復活する神に相当するのでしょう。

ミトラス秘儀には7つの位階があって、それぞれが7惑星に対応していました。上から「父」/「太陽の使者」/「ペルシャ人」/「獅子」/「兵士」/「花嫁」/「大烏」です。
上位の4階位が参入者で、下位の3位階は奉仕者です。それぞれの位階には以下のような性質がありました。

(ミトラス秘犠の7位階の性質)
 
 
土星
ミトラスの代行者
太陽の使者
 
太陽
太陽神の代行者、、饗宴?
ペルシャ人
 
麦穂の刈り取り?
獅子
木星
蜂蜜にと火よる浄め、狩りに同行?
兵士
火星
花輪の儀礼
花嫁
金星
ヴェールを取りミトラス神と聖婚?
大烏
空気
水星
神々の使者、常に大烏の仮面をつける


秘儀の内容に関してはほとんど知られていませんが、饗宴、供犠、水壷による洗礼・浄化、目隠し、などなど、他の秘儀と同様な行事があったようです。
ミトラスの神殿は洞窟にあったので、秘儀は洞窟内で行われました。
また、秘儀参入者は死後、7惑星天を越えて恒星天にまで導かれると考えられたという説もあります。


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ストア派 [ヘレニズム・ローマ]

ストア派はヘレニズム期を代表する哲学です。
ストア派の哲学者の多くはオリエントの出身者で、多分ズルワン主義の影響を受けてギリシャ哲学の延長線上で表現を行いました。


ストア派を始めたのは、キプロス島出身でフェニキア系のゼノン(紀元前4-3世紀)で、彼はアテナイで活動しました。
その後トルコのタルソス出身のクリュシッポスによってストア派哲学は体系化されました。
さらにバビロニア出身のディオゲネス、ローマ最高の占星学者と呼ばれ、シリア出身でロードス島で活動したポセイドニオスらによって様々に発展させられました。

よくストア派は禁欲主義、エピクロ派は快楽主義として対比されますが、どちらも、間違った思い込みによって煩わされず、自然(神の摂理)と調和した精神的な平安を求める点で共通しています。

ストア派の宇宙論はヘラクレイトスと似て、至高存在を「技術的(創造的)な火」と呼び、同時にそれを「ロゴス」と考えました。
これらは神的で知性的で、諸元素に変化して、やがてまた「技術的な火」に戻るのです。
宇宙は収縮によって生まれ、やがて空虚に広がりながら燃焼して消滅して「技術的な火」に帰します。
宇宙はプラトン年(2万6千年)かかってこの生滅を繰り返します。

宇宙の構造は、月下の世界は4大元素が層状をなしていますが、その上の恒星天にはアイテールがあります。
恒星天には世界霊魂の指導的部分が存在します。
ストア派はこのアイテールをほぼ「技術的な火」と同じものと考えました。

ですが、ストア派の特徴は、「技術的な火」と「ロゴス」を世界に超越せず、内在するものと考えたことです。
「技術的な火」、「ロゴス」は能動的な原理として、受動的な素材の中に胎児・精子として内在して成長する創造的な存在です。
そのため、「ロゴス」は「種子的ロゴス」とも表現されます。

そして、世界の存在はそれぞれに内的な「緊張(トノス)」を持っています。
つまり、静的な形・性質ではなくて、生きた運動性を持っていると考えたのです。

ストア派は、鉱物は構造、植物には成長、動物には霊魂、人間には知性という階層性の本質の違いがあると考えます。
そして、この違いは、形・性質のレベルの違いではなく、「緊張」の度合いの違いなのです。

また、存在は「プネウマ」によって統一体として存在します。
「プネウマ」はほぼ「霊魂」と等しい存在で、火と空気の中間的な存在です。

アリストテレスにとって重要なのは、個物の中にある普遍的な本質である形・性質であって、認識とはその本質を感覚を通じて理解することです。
ですが、ストア派にとっては、個物はそれ自身の固有性と個性を持ったもので、普遍とは単に言葉でしかありません。
そして、認識とは、内的緊張を持った霊魂が、内的緊張を持った対象の個物と交流を持って、影響を受けながら発展し、対象と調和し、「共感」するとなのです。

つまり、ストア派は、認識を相互生成的な運動として考えたのです。
宇宙ではすべてがすべての中にあり相互作用する連続して一体の存在なのです。
この発想は、ほぼ同時代の仏教の『華厳経』やプロティノスの思想と共通しています。

アリストテレスは、「AはBである」という命題を重視して、述語の中で、最低種概念だけを実在的なものとして重視し、それ以外の一切の様々な性質を軽視しました。
これに対して、ストア派は、「AはBした」という出来事を重視しました。

まり、世界は最低種概念に枠づけられた存在としてではなくて、無限に多様化する出来事として捉えられるのです。
現代の哲学者ドゥルーズはこの点で、ストア派が静的なプラトン、アリストテレス哲学を否定するものだとして評価しました。

ストア派は自然の運動には神の摂理(運命)があると考えました。
そして、この自然の摂理を認識して、これに従って生きることを理想と考えました。

の摂理は「ロゴス」でもあります。
ロゴスは知性的な存在ですが、ストア派は感情などの肉体的な要素をプラトンのように非知性的な存在として否定しません。
病的・倒錯的な状態になって知性やロゴスに反するようになった感情だけを否定しました。

また、ストア派は、プラトン同様に、天の星の世界は秩序に満ちた世界で社会や人間のモデルとなるべき存在と考えました。

プラトン、アリストテレスといったギリシャ本土の哲学が形・性質を重視したのに対して、ペルシャ、バビロニアなどのオリエント色の強かったストア派とソクラテス以前の哲学がともに「生成」を重視したことは興味深く思えます。
生成と肯定の哲学を展開したニーチェが、ゾロアスターを主人公にした書を著わしたことも不思議ではありません。

(ストア派の存在の階層)
技術的な火=ロゴス=摂理(運命)
内在的・種子的
アイテール
プネウマ=魂
 人間 
 動物 
 植物 
 鉱物 
空気

 


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7光線占星学理論とマグサイオイ文書 [ヘレニズム・ローマ]

-2Cにシリアで司祭(マギ)のマクシムスらによってズルワン主義=ミトラ教の占星学理論の基礎になった7光線理論が生まれました。
これは宇宙創造・進化を司る根源的な7つの原理である7光線の理論です。
ミスラ(ミトラ)が大熊座7星(北斗七星)に象徴される7つの光線を宇宙に発して、その組み合わせによって12星座や7惑星を経由して宇宙をコントロールするというものです。

ちなみに、大熊座7星が12星座よりも重視されるのには理由があります。
12星座や7惑星はすべて獣帯上を運動しますが、これらはすべて毎日地平線の下に沈む星々です。
ですが、小熊座7星(北極星を含む)や大熊座7星(北斗七星)はほとんど、あるいはまったく沈まない星々なので、世界的に12星座よりも上位の存在として重視される傾向がありました。
北極星は現在は全天の中心の不動の星なので最重要な星と考えられることが多いのですが、歳差運動を引き起こす地軸の回転があるので、現在の北極星が全天の中心にあるのはごく一時的なものでしかないのです。

7光線の中でも、第1から第3光線は最も根源的な光線でミスラへと戻ろうとする傾向を持っています。
これに対して、第4から第7光線は第3光線から派生したもので、宇宙に積極的に働こうとします。
そして、第4光線には1から3と5から7の間を取り持つ性質があります。
また、第1、3、7光線には形態の形成を促す性質、第5光線には知性の発達を促す性質、第2、4、6光線は内面的なものの発達を促す性質があります。

ズルワン主義では宇宙の創造・進化を5段階で考えます。
それは、宇宙の根源的な素材である卵の形成段階、惑星の形成段階、原人の形成段階、地球の生命の形成段階(生物の進化という発想は、ダーウィンの時代にはるかに先立って、紀元後のバビロニアに芽生えました)、人間の知的な進化の段階です。
このそれぞれの段階に働く主要な7光線があります。
それぞれ、第6光線、第3&7光線、第2&6光線、第2&4光線、第4&5光線です。7光線のそれぞれの簡単な役割については以下の表の通りです。

12星座は12の知性体であり、宇宙を取り囲んで守護する役割を与えられた存在です。
それぞれが特定のいくつかの7光線を吸収し宇宙内に発します。その対応は以下の表の通りです。
また、アフリマンが送り込んだ12の悪霊が存在し、これらはミスラによって退治され、地球の回りに張り付けられています。
ですから、地球には12星座の発する清浄な光線だけでなく、12悪霊を経過した不浄な光線も達すると考えられました。

また、7惑星も知性体(神々)ですが、これらもそれぞれに7光線を吸収し地球に発します。

カルデアの占星学の代表的な書は『アステロスコピカ』、『アポテレマティカ』、『ザラスシュトラの教え』、『ヒュスタスペスの神託』などで、ゾロアスター、オスタネス、ヒュスタスペスの名によってギリシャ語で書かれました。
また、マギ達によって書かれた書は総称して『マグサイオイ文書』と呼ばれ、内容は占星学に限らず、主にゾロアスターは占星術の師、オスタネスとヒュスタスペスは魔術と瞑想の師とされています。

カルデアの占星学、『マグサイオイ文書』は東西に伝えられて大きな影響を与えました。
西方へはエジプトのアレキサンドリア経由でギリシャ、ローマ世界に伝わりましたが、7光線理論は占星学の基礎であるにも関わらず、ほとんど伝えられませんでした。
ただし、中東、中央アジアではマニ教、サビアン教の中で生き続け、現在ではサビアン占星学としてより発達した形になっています。
ちなみに、曜日もカルデアの占星学に由来するもので、日本にも平安時代には伝えられました。
例えば日曜日は中国・日本では「蜜日」と表現されましたが、これはミスラが訛ったものです。

光線
12星座
7惑星
役割
1
牡羊座・獅子座・羊座
水星
計画のために創造的な破壊をして
組織的にエネルギーを集中する
2
双子座・乙女座・魚座
木星
包括的で内的な知恵をもって
賢明な建設を進める
3
蟹座・天秤座・羊座
土星
明晰な思考力と行動力によって
目的の達成のために行動する
4
牡牛座・蠍座・射手座
内的な葛藤を通して成長し
想像力を豊かに働かせる
5
獅子座・射手座・水瓶座
金星
独立心によって正義や物事を
正確に判断する
6
乙女座・射手座・魚座
火星
献身的で愛に溢れ
全体的な理想のために行動する
7
牡羊座・蟹座・羊座
太陽
形式や礼節を重視し、
プライドを持って行動する


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